音楽ナタリー Power Push - 植田真梨恵

覚悟を決めた「スペクタクル」

気持ち悪いBメロ

──曲調としてはパワーポップで、前回の「わかんないのはいやだ」と比べて落ち着いてるというか、地に足が着いている印象を受けました。

植田真梨恵

私自身がヘコんでいる時期だったからこそ、なるべく振り回すような早いスピードではなくて、ちゃんと手をとって歩けるスピード感で、優しく届くといいなと思いながら作っていきました。

──あとBメロが印象的で。

本当ですか? うふふ。

──流れるような美しいメロディなんですけど、半音階が使われていてちょっと暗さもあるような。でもこの曲に限らず「わかんないのはいやだ」や「ザクロの実」のBメロもそうなんですよね。

いやー私、Bメロというものが好きで。全部の力を注いで、いいBメロを作りたいと思っているので、そう言われるとあからさまにうれしくなってしまうんです(笑)。“Bメロ好きシンガーソングライター植田真梨恵”です。

──そうなんですね。

この曲も、なるべく優しい曲にしたいなっていうのはBメロを考えていたときに特に意識したことでもあります。ほっとするような、懐かしい部分が揺さぶられるような、でも不安定になるような。そういう気持ち悪いBメロになればいいなと思って作りました。

──気持ち悪いBメロですか(笑)。

気が付かないうちに取り憑かれた気分になるようなメロディというか(笑)。先ほどおまじないや呪いという言葉を使いましたけど、音楽はたぶんそこととても近いところにあると思っていて、私の歌でそれが発揮されるのがBメロなんです。

──Bメロでちょっとした呪いを仕込んでおくと。

ちょっとだけ。それで病みつきになるっていう(笑)。

ふとしたときに自分の本音が

──植田さんが曲を作るのはどういうタイミングが多いですか?

溜まっていた家事を全部やって、友達と会って、家で映画をたくさん観て、映画もそろそろ飽きたなーと思う頃に書く……というのが自分が思う理想のタイミングですね。

──だいぶ段階を経てますね(笑)。

植田真梨恵

その間にうまい感じで自分の心をフラットな状態に持っていきたいんです。でも実際にそこまでやるのは難しいとわかっているので、いつでも書けるようにとは思ってます。私、曲を書こうとしてるときに「今けっこう気持ち作ってるな」って思うことがあるんですよ。そういうときはだいたい気持ちを作って1日が終わります(笑)。

──作ろうと思って作るのと、ふと思い付くのと、どちらが多いですか?

ふと思い付くのは、よっぽどそのことを考えたあとですね。「スペクタクル」のときは歩いてるときも電車に乗ってるときも、お買い物中も誰かとお話していても常に考えていたんです。そしたら、あるときふっと降りてきたみたいな感覚はありました。そういうときにできた歌詞のほうが自分の本音が現れている気はしています。

マンガでいう番外編

──カップリングの「カレンダーの13月」は壮大なバラードナンバーですね。この曲は2012年1月から12月まで毎月その月にちなんだ楽曲を書いて、その集大成としてできた楽曲だとか。

はい。毎月1曲、2分弱の短い曲を作ってライブで披露していて。その後12カ月分を全部つなげたものが「カレンダーの12か月たち」っていう20分超えの長い1曲になるんですけど、その曲をワンマンライブで歌うときに、続きの物語というか、マンガでいう番外編みたいな位置付けで作りました。

──それぞれの月の楽曲は何か通しでテーマがあったんですか?

植田真梨恵

テーマとしては「旅」ですね。旅人が地球上のいろいろなところを巡る物語なんです。1月に住み慣れた町を出ていくところから始まって、旅をする中で出会いや別れがあって。

──旅のシーンにあわせて曲調もそれぞれ違って?

そうですね。楽しい曲があれば寂しい曲もあって、四季折々の空気もあって。

──そのエピローグとして、「カレンダーの13月」ではどういうことを書こうと思ったのでしょう?

旅をする12カ月の中で経験した出会いや別れがあって、最後の12月に大きな別れが来てしまうんです。誰かと過ごした12カ月があって、この先も長く続いていくと当たり前のように思っていたものがふとなくなってしまう感覚。カレンダーをめくってもめくってもどこにもない架空の13月。そんなイメージで書きました。この曲は冬に聴いてもらいたいと思うバラードで、できれば1月にリリースしたかったので、ずっとそのタイミングを待っていたんです。

10年後も歌い続けていたい

──「ソロジー」も同じくバラードですが、こちらは植田さんの歌声とピアノだけのシンプルな編成ですね。

今回のCDの中でこの曲だけ過去に録っていた音源をそのまま使ってるんです。録ったのは20歳の頃なんですけど、のびのびと歌っているし、改めて聴いてみてもこの感じはこのときにしか出せないと思ってそのまま収録しました。

──レコーディングしたときのことって覚えてます?

生のグランドピアノと同時にレコーディングするということをそのとき初めてやって、すごく興奮したんですよ。音楽と一体になるというか、溶け込むような感覚で歌いました。

──音源からでも植田さんの息遣いや体温が伝わってくるような楽曲で、これを聴くと1月16日から始まるピアノワンマン「植田真梨恵Live of Lazward Piano "Old-fashioned."」がとても楽しみです。

ありがとうございます。「Lazward Piano」はありのままというか、段取りもカッチリ決めすぎずに皆さんの前に出て、ただただ集中して歌うだけのライブなんです。このライブをやると、「ああ、自分のやってることは間違ってないんだ」と私自身も背中を押してもらえる気がするんですよね。新年早々とても楽しみです。

──では最後に2016年の目標を教えてください。

植田真梨恵

私は福岡から大阪に出てきたのが2006年だったので、ちょうど10年になるんですよ。10年前は自分がこんなに曲を書いて歌う人間になるとは思ってなかったですね。少しずつ手探りで曲を書き始めて、なんとなく楽しくなってきて、高校生の頃は自分の思いをとにかくぶつけるっていう感じで曲を作ってたんです。そこからCDを何枚も作らせていただいて、いろいろ学んで、曲を仕上げる楽しみ方も覚えたので、2016年はその両方を併せ持つ、すっごい曲を書きたいと思います(笑)。

──上京して10年になるんですね。さらに10年後の2026年のことって想像できますか?

えー、何してるんでしょう……。全然想像付かないです。ずっと歌っている人でいるのが私の夢なので、10年後も歌い続けていたらいいなあ。

ニューシングル「スペクタクル」 / 2016年1月20日発売 / GIZA studio
初回限定盤 [CD+DVD] / 2000円 / GZCA-4144
通常盤 [CD] / 1296円 / GZCA-4145
CD収録曲
  1. スペクタクル
  2. カレンダーの13月
  3. ソロジー
  4. スペクタクル -off vo.-
  5. カレンダーの13月 -off vo.-
初回限定盤DVD収録内容
「植田真梨恵LIVE OF LAZWARD PIANO -青い廃墟-」2015.1.18 BIGCAT公演
  1. a girl
  2. 壊して
  3. 心と体
  4. 優しい悪魔
  5. センチメンタリズム
  6. ハルシネーション
  7. 朝焼けの番人
ライブ情報
植田真梨恵Live of Lazward Piano "Old-fashioned."
2016年1月16日(土)福岡県 Gate's 7
2016年1月30日(土)愛知県 THE BOTTOM LINE
2016年2月5日(金)北海道 札幌KRAPS HALL
2016年2月7日(日)宮城県 retro Back Page
2016年2月11日(木・祝)大阪府 大阪市中央公会堂 中集会室
2016年2月13日(土)東京都 東京キネマ倶楽部
植田真梨恵Live of Lazward Piano "Old-fashioned." Special Edition!
2016年2月20日(土)神奈川県 Motion Blue yokohama
植田真梨恵(ウエダマリエ)

植田真梨恵

1990年生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。中学卒業を機に単身大阪へ移住し音楽活動をスタートさせる。2008年に1stミニアルバム「退屈なコッペリア」をリリースし、以降コンスタントに作品を発表しながらライブ活動を続ける。2012年に初のフルアルバム「センチメンタルなリズム」発売後、東京と大阪でワンマンライブを開催。2014年1月には東阪のCLUB QUATTROでワンマンライブを成功させ、同年8月にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューを果たす。2015年2月にメジャー1stアルバム「はなしはそれからだ」を発表し、東名阪と地元・福岡を回るツアーを実施した。2016年1月にメジャー4枚目となるシングル「スペクタクル」をリリース。