音楽ナタリー Power Push - 植田真梨恵
寂しい夜のおまじない
植田真梨恵が、12月14日に2ndアルバム「ロンリーナイト マジックスペル」をリリースする。「はなしはそれからだ」以来1年10カ月ぶりのアルバムとなる今作は、彼女が子供の頃から好きな言葉だという“夢”をテーマにした作品。アルバムには彼女が幼い頃に見ていた悪夢やずっと夢見てる景色、将来の夢など、さまざまな夢が描かれている。この夢というキーワードをもとに、彼女が歌を歌う本当の理由に迫った。
取材・文 / 丸澤嘉明 撮影 / 竹中圭樹(D-CORD)
無意識のうちに夢に偏っていた
──10月にリリースしたシングル「夢のパレード」は夢がキーワードだと思ったんですが、今回のアルバムも夢がテーマなんですね(参照:植田真梨恵「夢のパレード」インタビュー)。
ふふふ(笑)。
──なぜ今回のアルバムのテーマを夢に?
アルバムには「わかんないのはいやだ」以降の4枚のシングル曲が入っていて、その合間合間にも日々曲を書いていたんですね。その曲たちを並べてみたところ、無意識のうちに夢というテーマに偏っていて。最初は私自身も、「あれ? もしかして」というくらいだったんですが、具体的にアルバムの方向性を考え始めたときに、夢をコンセプトにしようと決めたんです。
──夢というテーマを設定して書き進めていったわけではなく?
ではないですね。日々の中で生まれた曲たちが、例えば「WHO R U ?」とか「悪い夢」とか、「I was Dreamin' C U Darlin'」も「僕の夢」もたまたま夢について書いていたという感じで。
──では今挙がった曲について聞いていければと思うんですけど、「WHO R U ?」は植田さんが子供の頃に見てた悪夢について歌ってるそうですね。
「わかんないのはいやだ」を作ったあとに、その曲に続くような軽快で楽しい曲を作ろうと思って書き進めているうちに、子供の頃の怖いことって今でも心の中に残ってるよなあとふと思ったんですね。それで、そういうキーワードを入れた曲を作りたいと思って、実際に自分が見ていた、黒いマントの魔女が視界の端に立っていて、どこに行っても全然振り切れないっていう夢の話を書きました。
──子供の頃に見た夢のことをよく覚えてますね。
覚えてますねえ。繰り返し見ていたし、正夢になってほしくない怖い夢を見たら午前中のうちに誰かに話したほうがいいって母がずっと言っていたので、小さい頃は必ず母に報告してたんです。逆に本当になってほしいことは言わないほうがいいんですって。
──だから覚えてるんですね。怖い夢の話ですが、ドラムがリズミカルだし歌い方もキュートで、怖い感じはまったくしないですよね。
悪夢のことを歌ってるんですけど、わりとハッピーな1曲ですね。この曲で歌いたいのは「どうして胸が痛くなるの こんな怖い夢 目覚めたらあなたに聞いてほしい」っていうサビの部分で。今言ったように怖い夢を次の日の朝に母に話していたから、魔女のことを思い出すと母親のことも思い出すというか。
──植田さんの中ではお母さんとのやりとりもセットになっているんですね。
はい、怖くもあり温かくもありっていう、不思議な感覚ですね。
現実で起きてることがすべて悪いとは言い切れない
──「WHO R U ?」に続く「悪い夢」も、タイトルからするとおどろおどろしい感じをイメージしたんですが、メジャー感のある明るいギターポップという感じで。
この曲を書いているときはすごく創作意欲に満ちていたんですよね。楽しみながら歌詞とメロディを作って、それに引っ張られるままにアレンジを進めていきました。淡々とした現実というか日常感を大事にしながら、イントロのクリシェで下降していくカッティングのギターも、どちらかと言うと寂しい感じではなく激しく気持ちを突き動かすようにしたいと思いながら。
──歌詞では「悪い夢で構わないから いつまでもそばにいる 怖くはない」と歌っていますね。
「WHO R U ?」では夢のことを現実の世界で話してるんですけど、「悪い夢」は逆で、現実に起こってることを悪い夢としている歌ですね。現実で起きてることがすべて悪いとは言い切れないということを、なるべく美しさを保ったまま歌いたいと思っている曲です。
──「I was Dreamin' C U Darlin'」は切ない失恋の歌ですね。
友達のカップルがいて、2人共私の友達だったんですけど、別れると聞いて悲しくなってしまって。気の利いたことを言いたいのになんて言えばいいのかわからなくて、曲を作りました。年上の彼女がいつまでも成長しない彼氏に愛想を尽かして別れを決心するんですけど、その別れにも何かしら意味があったはずという気持ちで、温かい紅茶のような優しい曲になればと思いながら作った曲ですね。
──切ないけど前を向いているというか。
そうですね、やっぱり女子のほうがそういうときは大人なのかもしれないですね。なんだかんだで踏ん切りをつけてしまうから、そういう意味では前を向こうとするときの1曲なのかもしれないです。
──郷愁感を誘うようなボーカルも印象的でした。
ヨーロッパあたりの幼い女の子が歌ってるような感じがいいなと思って。サビがすごく高いんですけど、声を張らずにごくごく小さい声で歌って、あとユニゾンが入ってます。郷愁感はアレンジによるところも大きいと思うんですけど、誰もが耳にしたことがあるような温かいサウンドにしたいと思って、The Beatlesとかをイメージしながらアレンジャーさんにお願いしました。アルバムの中でも特に好きな1曲ですね。
歌手として歌い続けることに不安になった
──「僕の夢」では目標だったり叶えたいことという意味での夢について歌ってますね。
これは私の夢、つまり歌手として歌い続けることに不安になったときがあって、今一度自分に確かめるような気持ちで作った曲ですね。なんの疑いもなく夢を追いかけていた幼い頃の自分が、今の私に問いかけてくるような。
──アップテンポな曲調で「夢を追いかけようよ」って歌う曲も多いと思うんですが、これはそういう不安もあるからしっとりとしたバラードなんですね。
夢や希望に満ちあふれた未来を歌ってるというよりは揺れ動いてるというか、少し不安になっているときの歌なので、ただただ言葉を確認するように歌っています。西村(広文)さんのピアノと一緒に録音して、空気感ごと閉じ込めました。
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- 2ndアルバム「ロンリーナイト マジックスペル」 / 2016年12月14日発売 / GIZA Studio
- 初回限定盤[CD+DVD] / 3996円 / GZCA-5278
- 通常盤[CD] / 3240円 / GZCA-5279
CD収録曲
- Intro
- わかんないのはいやだ
- WHO R U ?
- 悪い夢
- ダイニング
- I was Dreamin' C U Darlin'
- パエリア
- 夢のパレード
- 僕の夢
- ふれたら消えてしまう
- スペクタクル
- JOURNEY
- 犬は犬小屋に帰る
初回限定盤DVD収録内容
植田真梨恵 PV collection - 2015 / 2016 -
- 「FRIDAY」<1st album>
- 「hanamoge」<1st album>
- 「さよならのかわりに記憶を消した」<1st album>
- 「クリア」<from "CLEAR" Web CM>
- 「わかんないのはいやだ」<3rd single>
- 「スペクタクル」<4th single>
- 「ふれたら消えてしまう」<5th single>
- 「まわりくるもの」<5th single c/w>
- 「夢のパレード」<6th single>
- ライブDVD「PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -SUMMER 2016-」 / 2017年1月11日発売 / 4320円 / GIZA Studio / GZBA-8030
- 「PALPABLE! BUBBLE! LIVE! -SUMMER 2016-」
収録内容
- 旋回呪文
- ハルシネーション
- メリーゴーランド
- G
- 壊して
- kitsch
- 未完成品
- hanamoge
- アリス
- まわりくるもの
- 吠える虎
- スペクタクル
- 泣いてない
- S・O・S
- ルーキー
- センチメンタリズム
- サファイア!
- 夢のパレード
- ふれたら消えてしまう
- OMAKE MOVIE
植田真梨恵(ウエダマリエ)
1990年生まれ、福岡県出身のシンガーソングライター。中学卒業を機に単身大阪へ移住し音楽活動をスタートさせる。2008年に1stミニアルバム「退屈なコッペリア」をリリースし、以降コンスタントに作品を発表しながらライブ活動を続ける。2012年に初のフルアルバム「センチメンタルなリズム」発売後、東京と大阪でワンマンライブを開催。2014年1月には東阪のCLUB QUATTROでワンマンライブを成功させ、同年8月にシングル「彼に守ってほしい10のこと」でメジャーデビューを果たす。2015年2月にメジャー1stアルバム「はなしはそれからだ」を発表し、東名阪と地元・福岡を回るツアーを実施した。2016年12月に2ndアルバム「ロンリーナイト マジックスペル」をリリース。