toku|女性アーティスト10名の“声”を束ねた多彩な「bouquet」

atsuko(angela)をイメージすると普通の曲にはならない

──鈴木このみさんの「青い薔薇」はシリアスなバラードですが、先ほども言ったようにビートがブレイクビーツなので妙なスピード感がありますね。

このみさんには過去に楽曲提供(鈴木の4thアルバム「Shake Up!」収録曲「My Days」の作曲・編曲)したこともあって。それがロックテイストの速い楽曲だったので、今回はバラードもいいかなと思ったんですけど、やっぱり彼女の歌の瞬発力には速いビートが似合うんじゃないかなと。あと、彼女は年々歌がうまくなっているので、ちょっとメロディで意地悪したくなっちゃうんですよ。でも、そんなハードルも軽々と飛び越えて、レコーディングでも「え? もう(歌わなくて)いいんですか?」みたいな感じで終始元気がよかったのが印象的で。また機会があればぜひお手合わせ願いたいボーカリストですね。

──「青い薔薇」はミュージックビデオも撮られていますね。

実はこの曲、MVを撮るまではそんなにピアノが入っていなかったんです。でも、撮影でグランドピアノを弾かせてもらったら「やっぱ気持ちいいなー」と思ってしまい、あとから「これ、ピアノをメインにした楽曲に変えます」と宣言したうえでリアレンジしまして。歌録りもMV撮影も終わっているので尺は変えられないけど、そういう制約の中で仕上げるのも面白かったです。

──ちなみに鈴木さんの花は、なぜ赤や白ではなく青いバラなんですか?

青いバラは人工的に作られた、自然界にはない花なんですね。もともと僕は「普通じゃない」とか「相反するもの」みたいなイメージを歌詞の中に落とし込みたいという話をLINDENさんにしていて、それなら「不可能」や「存在しないもの」といった花言葉がある青いバラがマッチするんじゃないかと。この曲も中島さんの「Acacia」と同様にSFチックにしたくて、なんなら「誰か『青い薔薇』というSFアニメを作ってくれないかな」とか妄想しながらレコーディングしました(笑)。

──5曲目の「『Radiata』feat. atsuko from angela」は一転してテクニカルなロックナンバーです。曲名は、彼岸花の学名であるLycoris radiata(リリコス・ラジアータ)から取っているんですね。

彼岸花はatsukoさんのアイデアです。変拍子もバリバリ入った曲のデモをお渡ししたら「プログレッシブロック感を私に求めてるんでしょ? ならちょっと影のある花をモチーフにしては?」と、ほぼ完成形の歌詞を送ってくださったので「それ、いただきます!」と。しかも仮歌まで入れてくださったんですけど、これも完全にハマっていて「このビブラートの幅、ヤバいな!」と1人で興奮してました。そうなることは意図して作ったんですけど、想像を超えていて。

──angelaのお2人とは、tokuさんもMARiAさんも仲良しですよね。

いろんなイベントでご一緒するだけでなく、プライベートでもごはんを食べに行ったりして。お互いに「正式な音源でコラボできたらいいですね」みたいな話もしていたので、それが叶いました。

──「Radiata」は、このアルバムの中では異色というか異形というか……。

atsukoさんが異色というわけではないんですけど、やっぱりatsukoさんをイメージすると普通の曲にはならないんですよね。例えば去年の9月に行った「TTMC(Tasty Time at Music Crossing)」という僕のイベントにatsukoさんをお迎えしたときは松田聖子さんの曲をカバーしてもらったりして、それはそれでハマるんだけれども、このアルバムで求められているのはそのatsukoさんではない。よりアクの強い曲の中で存在感を発揮してほしい、曲の鋭さと彼女の歌の鋭さがマッチしたものが作りたいと思っていたので、異色だけど、異色だから愛される花になればいいなと。

竹達彩奈を妖精に見立てたら

──6曲目の「『Lilium』feat. 井口裕香」は、atsukoさんの楽曲とは対照的にメロウなEDMとなっています。

井口さんとも、楽曲提供(井口の6thシングル「変わらない強さ」表題曲の作曲・編曲)だけでなくごはんを一緒に食べたりすることがあって。僕から見た彼女はすごくピュアな女性なんですよ。で、「Lilium」の作詞をお願いした渡辺翔くんもよく井口さんに曲と詞を書いているので、そんな彼に「僕と翔くんが考える井口裕香像を曲にしてみたい」と提案して。2人で「井口さんてどんな人だろう?」と議論した結果、百合の花がテーマになりました。だからある意味で僕と翔くんからのラブレターみたいな曲になっているというか……我ながらキモい作り方だなと思うんですけど(笑)。

──お二人の井口さん像を否定するわけではありませんが、僕は井口さんにはもう少し元気なイメージを抱いていました。

確かに、彼女の歌やラジオを聴いても元気さはすごく感じますよね。でも、例えば休日は何をしているのか聞いたら「ジムに行って犬と戯れて洗車してドライブして終わりです」と答えていたし、そこまではっちゃけたパーティピープルではないのかなって。だからサウンドにしても、彼女のインスタのストーリーズにはわりとイケイケなビッグルーム系のEDMが貼られていたりするんですけど、僕としてはトロピカルハウスに入るか入らないかぐらいのラインを狙いたくて。まあ、それも「お前の妄想だろ?」と言われればそれまでなんですけどね(笑)。

──次の曲「『Antheia』feat. 竹達彩奈」も、楽曲のテンションとしては「Lilium」と近い、穏やかなシンセポップですね。

ただコンセプト的には井口さんとは逆で、僕は竹達さんのキャラボイスが好きだったので「その声をください」みたいな気持ちでオファーしました。でも、このアルバムの中でいきなりキャラソン的な曲を作るのもちょっと違うので、作詞のLINDENさんに「彼女を庭園とか花畑の妖精に見立てたら……みたいなテーマでいきたいんだけど」という話をして。

──曲名のAntheia(アンテイア)とは「ギリシア神話に登場する花と花冠の女神」だそうですね。

そのアイデアはLINDENさんが出してくれました。昔、僕もLINDENさんもギリシャ神話から何かモチーフを持ってきて曲を作るという仕事をしていたんですよ。なので今言ったテーマに対してLINDENさんが「こういうテイストでしょ?」と返してくれて、僕も「そう、それ」みたいな。

──アレンジ面では、シンセベースが淡々とルート音を刻んでいくのがtokuさんっぽいなと。

わりと多いですよね(笑)。そういう意味では自分のスタイルに則ったアレンジができたと思っていますし、この曲もずっと同じコード進行なんですよ。別に手を抜いているわけじゃないんですけど、例えばガルニデの「起死回生」(2020年11月発売の4thアルバム)でも同じコード進行で展開することで逆にメロディを引き立たせられないか、循環コードでぐるぐる回る中で歌が羽ばたいていけないかみたいなトライアルをしていたので、その流れにある曲とも言えますね。


2022年5月31日更新