toku|女性アーティスト10名の“声”を束ねた多彩な「bouquet」

GARNiDELiAのコンポーザー・tokuが6月16日にソロアルバム「bouquet」をリリースする。

GARNiDELiAとしての活動だけでなく、さまざまなアーティストのプロデュースワークでも活躍するtoku。彼にとって初のソロアルバム「bouquet」には“花”をモチーフにした全10曲が収録されており、ゲストボーカルとして神田沙也加、石原夏織、中島愛、鈴木このみ、atsuko(angela)、井口裕香、竹達彩奈、やなぎなぎ、三森すずこ、一青窈という個性豊かな女性アーティスト10名が参加している。音楽ナタリーではtokuに、各アーティストとの制作エピソードや、今作に込めた思いを聞いた。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 須田卓馬

シンプルな曲で生きる神田沙也加の表現力

──ソロアルバムの構想は以前からあったんですか?

いつか出せたらいいなとは思っていました。音楽家としても自分の名義でアルバムを出すというのはやりたいことの1つだし、GARNiDELiAとは別に自分のやりたい音楽というのを見つめ直す機会にもなるだろうなって。もともと僕は歌モノが大好きなので、まず歌う人がいて、その人に対して「こんな曲を歌ってもらいたい」というスタンスで曲を書いてみたかったんですよ。それがソロで実現できてうれしいです。

──今作には10人のボーカリストが参加していますが、それぞれに“花”をモチーフにした楽曲を1曲ずつ贈り、それらを束ねてアルバムタイトルの「bouquet」すなわち“花束”になるという。

そうです。発端としては、2年ぐらい前に引っ越しをしたんですけど、その近所に花屋がけっこう多くて。通りかかるたびに品揃えが違ったりするのを見て面白い職業だなと思ったし、そこからインスパイアされるものもあったので、ぼんやりと「ソロをやるんだったら花をモチーフにするのもいいかも」とは考えていたんですよ。

──かねてから花が身近にあったんですね。

それ以前から花をいただく機会もあったんですけど、ただ持って帰って花瓶に生けるぐらいしかできなくて。でも、いろんな人がいろんなタイミングで誰かに花を贈っているけれど、そこにはどんな思いが込められているのか、なんでその花を選んだのかを改めて考えてみると、自分が今までいろんなアーティストに「これどうですか?」と楽曲を作ってきた流れと一致するんじゃないかなって。

──そうしてできたアルバムは、1曲目の「『ずるいよ、桜』feat. 神田沙也加」から新鮮でした。ピアノとギター、ストリングスの生音に打ち込みのリズムトラックを噛ませたシンプルなバラードで。

僕も新鮮でした(笑)。わりと単純なコード進行の繰り返しなんですけど、神田さんの表現力があればオケもそんなに化粧しなくていいと思ったし、明快なコード進行の中で彼女の歌が泳いでくれたらいいなと。実は神田さんにはもう1曲お渡しして「どちらか選んでください」というお願いの仕方をしていて、そのもう1曲のほうはコードがけっこう変わる楽曲だったので、こちらを選んでくれて本当によかったです。歌詞のハマりもすごくいいし、しかもお渡しした2曲とも詞を書いてくださったんですよ。本当に才能豊かな方だなと改めて感じましたね。

──特にサビのメロディは「桜」というワードとともにめちゃくちゃ耳に残りますね。

ものすごいフィット感ですよね。それも含めてシンプルな曲の中で生きる歌唱力というものが見えたので1曲目に置きたかったし、それで正解だったなと思います。レコーディングでも、神田さんは「こういう歌い回しはどうですか?」と積極的に提案してくださって、そうしたリアルタイムのやり取りもめちゃくちゃ楽しかったです。

石原夏織は夏生まれだからヒマワリ

──続く「『或るヒマワリ』feat. 石原夏織」「『Acacia』feat. 中島愛」「『青い薔薇』feat. 鈴木このみ」の3曲はいずれもブレイクビーツを用いていますが、個々の楽曲のテイストはまったく違っていて面白いですね。

ガルニデのアルバムでは「このアルバムではこの音色を使っていこう」みたいなことを頭で決めて、それを構築していく感じなんですよ。今回もこのアルバム用のリズムパターンや音色から作り始めたところがあって、その意味では統一感はあると思うんですけど、やっぱり歌う人のキャラがこれだけ違うわけで。例えば石原夏織さんはすごく元気な声なので、しっかりビートがあってポップな曲が合うだろうなと。

──ヒマワリというのも石原さんのイメージに合っていると思います。

石原さんは、夏生まれなので(笑)。

──わりと安直(笑)。

いや、僕は石原さんとは直接お会いしたことがなくて。もちろん彼女の歌声や声優としての演技については知っているんですけど、そういうものを取り払った本人のイメージを掴む手段があまりなかったので、誕生日とかを手がかりに掘り下げていったんですよ。そのイメージをもとに渡辺翔くんに作詞してもらったんですけど、彼は恋愛模様とかを抽象的に表現するのが上手というか、そういうところが僕は好きだったので「恋愛は恋愛なんだけど、あからさまではない感じで」みたいな面倒くさいオーダーをしたら狙い通りの歌詞が返ってきました。

──楽曲としては、ヒマワリだからといって底抜けに陽気なわけではないですよね。

仮にアニメのタイアップ曲として石原さんの曲を書くなら“The アニソン”みたいな振り切り方が求められるかもしれないけど、僕のアルバムにおける“かわいい曲”はこういう感じかなって。もともと自分が好きな2000年代以降の打ち込み音楽の流れを汲みつつ、売れ線を狙うとか先方からの発注に応えるという作り方ではないところで、僕なりのポップさというものが形にできたかなと思います。

やっぱりランカ・リーだ!

──一方、中島愛さんの「Acacia」は、「或るヒマワリ」とは対照的にクールでスケール感のあるEDMですね。

僕がアニソンを仕事にしたいと思ったきっかけの1つが「マクロスF」(2008年放送)なんですけど、この作品で彼女は「ランカ・リー=中島愛」としてデビューしたじゃないですか。当時、彼女のライブを観たりしても「この人って、めちゃくちゃSF感あるな」と思ったし、以降の本人名義の作品やラスマス・フェイバーのアルバムにゲストボーカリストとして参加した楽曲からも同じことを感じていて。なので僕も彼女にはSFチックな楽曲を歌ってもらいたいと前々から考えていたんですよ。

──SF的な要素はガルニデにも感じられますよね。

僕にとってのアニソン制作の起源が「マクロスF」でありランカ・リーなので、そこは近いものがあるかもしれないです。今回の「Acacia」にしても、レコーディングで「僕はランカが大好きなので、『マクロスF』当時のランカ・リーが今歌ったら……みたいなイメージなんです」という話をさせてもらいまして。本当に中島さんはクールなサウンドの中でかわいらしい声で歌えるので「やっぱりランカ・リーだ!」と感動しながら聴いていました。

──「Acacia」はLINDENさんが手がけた歌詞もSF的ですね。例えば1番Aメロの「a dream of electric sheep」という一節はフィリップ・K・ディックのSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(原題は「Do Androids Dream of Electric Sheep?」)から取ったものでしょうし。

そうそう。「Acacia」の歌詞は僕が1コーラスだけ書いて「方向性はこんな感じなんですけど……あとはよろしく!」みたいな感じでLINDENさんにぶん投げまして。LINDENさんもSFチックな歌詞を書くのが得意なので、そこは信頼していました。

──ここまで、神田さんは桜、石原さんはヒマワリ、中島さんはアカシアですが、これらの花はtokuさんが決めたんですか?

神田さんのようにボーカリスト自身が作詞するケースはご本人にお任せしたんですけど、渡辺翔くんとLINDENさんに歌詞を発注した曲に関しては僕発信ですね。例えばアカシアは砂漠に咲く花で、降水がほとんどなくても自生するんですけど、それが宇宙のどこかで孤独に咲く花みたいなイメージに結びついたりして。花言葉辞典を引きながら各曲のテーマを考えたんですけど、それも楽しい作業でしたね。