MARiA「Moments」インタビュー|ソロ2作目で見せるボーカリストとしての真価

MARiAが2ndソロアルバム「Moments」をリリースした。

GARNiDELiAの一員でありながら、昨年6月の1stソロアルバム「うたものがたり」をリリース以降ソロボーカリストとしての活動も充実させているMARiA。2枚目のソロアルバムとなる「Moments」では、原田夏樹(evening cinema)提供の「Think Over」「Long Distance」、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)が作曲したluzとのデュエット曲「カフェラテのうた feat. luz」など、1stソロアルバムとは異なる作家陣による提供曲でボーカリストとしての表現力に磨きをかけている。音楽ナタリーでは「Moments」の発売に合わせてMARiAにインタビューを行い、“あえてMARiAらしさ”を狙ったという選曲の背景、ソロ活動に対する手応えや思いを聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 塚原孝顕

MARiAにフィットした“キラッと感”

──1stソロアルバム「うたものがたり」は“MARiA節”を封印し、GARNiDELiAではできないことをやった作品でした(参照:MARiA「うたものがたり」インタビュー)。それに対して2ndアルバム「Moments」は、例えばダンスミュージックが軸になっていたり、MARiAさん自身が好きそうな作品ですね。

そうなんです。今回はサウンドプロデュースを清水信之さんにお願いしているんですけど、信之さんが私に似合いそうな作家さんだったり、私の好きそうなサウンドの楽曲を集めてくださって。そのたくさんの候補曲の中から、さらに私が「この曲を歌いたい!」と選んでいるので、より自分の好みが反映されていますね。結果、曲ごとにキャラが変わっていた「うたものがたり」とは違って、「Moments」はいつものMARiAにフィットした、“キラッと感”のある楽曲が多くなったかな。

MARiA

──前作に参加した作家陣の中には、じんさんと草野華余子さんという“お友達枠”がありましたが、今回は?

luzくんと堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)くんがそうかな。luzくんとは3年ぐらい前から「何か一緒にやりたいね」という話はしていて。堀江くんも、以前PENGUIN RESEARCHとレーベルメイトだったし、もともと彼はボカロP出身でもあるから界隈的にも「なんで一緒にやったことなかったんだろう?」というぐらい近いところにはいたんですよ。

──他方で、evening cinemaの原田夏樹さんが2曲提供しているというのが、少し意外でした。

これこそ信之さんが「めっちゃいいバンドがいるんだけど、ちょっと聴いてみて!」と教えてくださって、私も「めっちゃいいですね!」と。そのノリと勢いで楽曲提供をお願いしたところ、快諾してくださいました。

──その原田さんが作詞・作曲・編曲を手がけた1曲目でリード曲の「Think Over」は、いわゆるシティポップですね。

80'sの雰囲気もありつつ今っぽさもある、原田くんらしい手つきだと思いますね。原田くんはもちろん曲もいいんですけど、詞もめっちゃよくて。絶妙にキュートというか……。

──ロマンチックですよね。

「Think Over」は、最初に聴いたアルバム候補曲の中の1つだったんですけど、そのときから「これをリードにしたいな」と思っていて。メロはもちろん、頭サビの「ほんの一瞬を」から自分の気持ちがグッと持っていかれたんですよね。そこから「君といたい」とか「Star Rock」みたいな、日常を切り取ったような、みんなも経験したことがあるであろう瞬間を描いている楽曲が集まったから、その「一瞬」とか「瞬間」みたいなイメージがアルバムタイトルの「Moments」につながったんですよ。だから「Think Over」あっての「Moments」みたいなところが大いにあります。

強く引っ張られた「Think Over」を導入に

──「Think Over」のボーカルに関して、こういうエアリーなハイトーンの出し方って、MARiAさんとしてはかなり珍しくないですか?

そう、かわいくしてみました(笑)。シティポップだし、この曲には例えば1980年代のマドンナとかカイリー・ミノーグみたいなキュートなボーカルがハマるんじゃないかと思ったんですよ。言ってしまえばぶりっ子というか、あざとい色を付けていくようなテンションでレコーディングしたんですけど、自分でも意外なほどすんなり録れたので「私、こっち系もいけるじゃん!」みたいな。

──ハマっていると思います。

ピッチとかに関しても、ガルニデの曲ではめちゃくちゃ正確に、狙った音にバシバシ当てていく感じなんですけど、原田くんの書く曲はふんわり系なので、その音の幅の中で遊ぶというか。絶妙に外していく、計算してもたらせるみたいな、揺らぎのある歌唱にトライしましたね。それは原田くんが書いてくれたもう1曲の「Long Distance」に関してもそうなんです。

──前作にも「コンコース」や「マチルダ」のような、「MARiAさん、そんな歌い方もするんだ?」と驚かされる曲がいくつもありましたが、本作でも1曲目から新鮮なインパクトがありました。

うれしいです。前作で「コンコース」を1曲目かつリード曲にしたのは、私がこの曲に強く引っ張られたからで。別に意図したわけではないんですけど、今回も同じように私が引っ張られた「Think Over」がアルバムの世界観への導入になってくれるんじゃないかなって。「あ、2枚目はこんな感じなんだ?」みたいな。この「Think Over」がめっちゃよかったから、スタッフさんたちと「もう1曲原田くんにお願いできないかな?」「いや、絶対に書いてもらいましょう!」という話になり、「Long Distance」という、これまたおしゃれな曲をいただきました。

──「Think Over」はYMO的なシンセポップでしたが、「Long Distance」はディスコですね。

そうなんです。「Think Over」は打ち込みだったけど、「Long Distance」は生感があって。特に間奏でサックスが入ってくるところとか、痺れます。

──先ほどご自身でもおっしゃっていたように、ボーカルスタイルも「Think Over」と共通していますね。かつ、より軽やかでもあります。

キラッとしつつ、弧を描くような柔らかさを意識しましたね。「Think Over」と同じように、新しいMARiAをお見せできたんじゃないかと思います。前作の「うたものがたり」は幅があまりにも広すぎて、今例に挙げていただいた「マチルダ」みたいな普段は絶対にやらない歌い方を引き出してもらったんですけど、今回も「まだ開けてない引き出しあったんだ?」みたいな。しかも、ポップスの中でも80'sっぽい懐かしさ感じる楽曲の中でそれに気付けたことが面白かったし、歌っていてもすごく楽しかったですね。

MARiA

ガルニデ節とは違うグルーヴを

──曲順が前後しますが、2曲目の「Star Rock」は、MARiAさんが好きなやつですよね。

めっちゃ好きなやつです!

──作詞に鈴木エレカさん、作曲にCarlos K.さんとnana hatoriさん、編曲にCarlos K.さんという布陣の、アッパーなR&Bダンスナンバーで。

「Star Rock」はデモを聴いた瞬間に「これ歌う!」と即決でした。この曲を歌う私が想像できたし、歌い出しから「時が来たのね」と言っているように、私がソロシンガーとしてステージに立って、ディーヴァ感みたいなのを出せたらいいなって。

──この歌詞は、MARiAさんのパブリックイメージにすごく合っていると思いました。「ありのまま Let it shine」とか「もう誰にも止められないわ!」とか、キラキラした生命力にあふれている感じ。

私もそう思います(笑)。だから私が歌ったらハマると思ったし、何よりこういうダンスナンバーは大好物だし大得意なので。

──「Star Rock」はガルニデの楽曲にもありそうといえばありそうですが、やはり違いがありますね。例えば譜割りとか。

そうなんです。こういう譜割りはガルニデではやらないですよね。「Star Rock」は日本語をばっちり聴かせるというよりは、リズムに乗ることを優先して、日本語を英語のように歌う感じ。それがガルニデ節とは違うグルーヴを生んでいるんじゃないかな。レコーディングもノリノリで、踊りながら歌っていましたね。私にしては珍しくラップパートもあるんですけど、気分はK-POPアイドルでした(笑)。

──「Star Rock」の作編曲者であるCarlos K.さんは、5曲目「君といたい」の作詞・作曲・編曲も手がけています。なお作詞はnineさん、作曲・編曲はヒトリエのygarshy(イガラシ)さんとの共作となっていますが、こちらはひたすらにグッドメロディで……。

どストレートなポップスですよね。

──ほんのりニュージャックスウィングの香りもするというか、90年代感もあります。

そうなの。80年代からの90年代みたいな流れになっていますよね。「君といたい」はメロも強いし歌詞もシンプルなので、歌唱法が云々というよりは、迷いなくキラッと眩しい女の子の気持ちを表現しました。

MARiA

──伸び伸びした歌声ですね。そのうえで歌唱法云々の話に持っていきますが、こういう力の抜き具合も、普段のボーカルではあまりなかったのでは?

確かに! 引き算的なボーカルでヌケ感を出すようなことは、意外とやらないかも。いつもはスパーンと、さっきの「Star Rock」にしても押せ押せのパワーボーカルみたいな感じだけど、「君といたい」はサビですらそんなに声を張っていなくて。力みすぎないボーカルというのは、新鮮なポイントかもしれないですね。さわやかでちょっとホッとするような、陽だまりみたいな曲になりました。ちなみに、この「君といたい」は1曲目の「Think Over」とほぼ同時期にいただいていて、どちらも「陰」か「陽」かで言ったら「陽」の曲なので、制作の初期段階から2ndアルバムはキラっとした、ポップな感じになりそうだというのは見えていたんですよ。