テレビアニメ「ガールズバンドクライ」と連動するリアルバンド・トゲナシトゲアリ初となる東京・日本武道館公演「トゲナシトゲアリ LIVE in 日本武道館 “奏檄の叫”」が明日9月23日に開催される。
テレビアニメ放送後も新作のリリースやライブ活動を重ね、国内外で人気を集めているトゲナシトゲアリ。音楽ナタリーでは日本武道館ライブを控えるトゲナシトゲアリの理名(Vo)、夕莉(G)、朱李(B)にインタビューし、これまでのライブの思い出や成長したポイント、日本武道館への憧れ、公演翌日の9月24日にリリースする11thシングル「薄采ディスプレイ」の聴きどころについて語ってもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
思い出のライブを1つ挙げるなら
──音楽ナタリーでは約1年ぶりのインタビューになります。前回はアルバム「棘ナシ」のリリースタイミングでしたが(参照:トゲナシトゲアリ 2ndアルバム「棘ナシ」リリース記念特集|理名&夕莉インタビュー+全曲レビュー)、その後ライブ活動が一気に活発化しましたよね。率直にどんな1年でしたか?
夕莉(G) テレビアニメ「ガールズバンドクライ」の放送が終わってから1年ほどになるんですが、毎月のようにライブやイベントに出演させていただいて、あっという間の1年でした。気付いたら武道館が目前に迫っている、という感じです(笑)。
理名(Vo) 同じくです。アニメが始まってからは「ガルクラ」のキャストとしてイベントなどに出演させていただく機会も多くて。バンドとキャストという2つの面でのお仕事がたくさんあったので、自分の新たな一面も出せたかなと思います。
朱李(B) 本当に怒濤の1年でした。アニメが始まってから終わるまでもあっという間だったんですが、その後もライブだけでなく新曲リリースもたくさんありましたし、すごく成長できた1年だったと思います。
──特に印象に残っているライブを挙げるとすると?
朱李 私は昨年12月の4thワンマンライブです(参照:トゲナシトゲアリが3000人を熱狂させた豊洲PIT公演、新曲「吹き消した灯火」を初披露)。最近はライブでベースソロを披露する機会が増えたんですが、初めて披露したのがそのときで。あと、自分の誕生日が近かったこともあって、MCでもだいぶ暴れさせていただいたというか……。
夕莉 (笑)。
理名 「本日の主役」ってタスキをかけて出てきてね(笑)。
朱李 かなり浮かれたことを言ったりして。それもあって、すごく印象に残っているライブです。
夕莉 私は昨年9月の2ndワンマンがとても印象に残っています(参照:トゲナシトゲアリ「ガルクラ」聖地・川崎で2ndワンマン、あの感動がよみがえる)。テレビアニメ放送後初のワンマンということもあって、アニメから私たちを知ってくれた方にリアルのトゲトゲをお届けできる最初の機会だったので、「アニメのトゲトゲを応援してくれている方々が私たちの演奏やパフォーマンスにがっかりしないようにがんばらないと」という思いがすごく強かったです。個人的にも、「空の箱」の弾き語りを初披露したライブでもあるので、ものすごく緊張しましたけど、その分レベルアップできたライブだったかなと思います。
理名 もちろんどのライブも最高だったんですが、私が挙げたいのは今年5月にShe is Legendのお二人と対バンさせていただいた「SOUL & CRY」です。鈴木このみさんの歌い方や声の出し方がすごく好きで、以前から憧れの存在なんです。あんなにパワフルな歌声なのにまったく力みを感じなくて、すごくスムーズに歌われるじゃないですか。同じステージに立てたこと自体がすごくうれしかったですし、1人の歌い手としてもいろいろなことを学べた1日でした。
親みたいに見守ってくれる
──お互いに、初期の頃と比べてどんなところに成長を感じますか?
夕莉 理名はステージ上での立ち振る舞いに安心感が出てきたよね。もちろん歌唱面でもすごく成長していると思うんですけど、MCでもみんなを引っ張ってくれる存在です。
朱李 私たちもライブでMCをする機会が増えましたが、理名には到底及ばないというか。ライブ中はホントにお姉さんのように感じるし、すごく背中が大きく見えます。
理名 ありがとうございます(笑)。MCに関しては、以前はすごく苦手意識があったんです。話すべき内容をがんばって覚えようとして、声に出して練習したりもしていて、それでも本番で忘れちゃったりすることもあって。だけど、最近は覚えようとするのをやめたんです。言うべきことを言い忘れたとしても、その場にいるお客さんとのコミュニケーションを楽しむことを優先するようにしたら、自然と肩の力も抜けるようになって。それ以来、MCに対する苦手意識や気負いはだいぶなくなったかなと思っています。
夕莉 MCって本来そういうものだしね。最近の理名は見ていて本当に頼もしいです。
理名 そういう夕莉も、さっき言っていたソロでの弾き語りを見てもすごく成長を感じますし、パフォーマンス面でも桃香(アニメ「ガールズバンドクライ」で夕莉が演じたキャラクター・河原木桃香)の動きを取り入れていたり、見せ方もすごくうまくなっているなと思います。
朱李 ステージでふと横目に夕莉を見たときに「あれ、桃香がいる!」みたいに思ったりすることもあるくらい(笑)。
夕莉 自分の中で「桃香さんがギタリストとしての目標」みたいな感覚は最初の頃からあったので、みんなにそう言ってもらえるのはうれしいです……!
朱李 あと、以前はギターソロも少し自信がなさそうに弾いていたのが、今はすごく堂々としていて。笑顔で演奏している場面が多くなったなと感じます。
理名 昔は苦手だと言っていた曲も、最近は涼しい顔で弾けるようになっていたりしますね。
夕莉 いや、余裕はないです(笑)。ただ、以前は「ちゃんと弾かなきゃ」「間違えちゃいけない」という思いにすごくとらわれていたのが、少し向き合い方が変わってきたところはあります。完璧に弾くことを追求するとしたら、私じゃなくてももっとうまい人がいくらでもいるので……。「私が弾いてこそ意味のあるものを見せたい」と思うようになってからは、「完璧に弾かなきゃ」という呪縛からは少し抜け出せました。
朱李 今は肩の力が抜けて演奏も安定していて、(サムズアップしながら)グッドです。
夕莉 ありがとう(笑)。朱李には、“朱李でなければ出せないもの”がどんどん確立されてきているのを感じます。ルパさん(「ガルクラ」で朱李が演じたキャラクター)っぽいというよりも、“朱李っぽさ”というものがちゃんと備わっているのを横で見ていて感じることが多いです。そこはすごくうらやましいですね。
朱李 でもやっぱり私も夕莉と同じで、最初の頃はすごく演奏が硬かったんです。それがだんだん「ちゃんと演奏しよう」じゃなくて「音を楽しもう」と思うようになって、だいぶいい感じに表現できるようになったかなと思います。技術面でもパフォーマンス面でも、引き出しを増やすことで楽しめるようになってきたのかなと思うので、これからもいろいろなものを吸収して、いっぱい暴れていきたいです。
理名 さっき4thワンマンの話も出ましたが、最近の朱李はMCでも大暴れするようになってきていて(笑)。もともとはそんなにしゃべるのが得意なタイプではなかったと思うんですけど、表に出てしゃべる機会が増えてきたからなのか、ライブで場の雰囲気を作るのがすごく上手になったなって。私もあれぐらい盛り上げられるようになりたい、と思うくらい。
朱李 理名の言う通り、最初は本当にしゃべること自体が苦手だったんです。でもお客さんが温かい方ばかりで、何か変なことを言っても好意的に返してくれるのがうれしくて、だんだん自分を出せるようになってきたんだと思います。「素の部分を出しても大丈夫なんだ」という信頼関係ができたことで、安心してのびのびできるようになったというか。
理名 本当に皆さんのおかげだなと思います。親みたいな感じで成長を見守ってくれる(笑)。
夕莉 温かさがあるよね。
理名 「焦らなくても、ゆっくりでいいんだよ」という思いが普段からすごく伝わってくる。なんて素敵な人たちに応援していただいているんだろう、っていつも思っています。
進み続ける俺を見てくれ
──という中で、現時点で感じている課題などは何かありますか?
理名 いっぱいあります(笑)。私はやっぱり、まずは歌唱面ですね。技術的にはまだまだまったく満足していないです。直さなければいけないところが山ほどあるのが自分でわかっているので、それを1つひとつ得意に変えていけたらいいなと思ってがんばっています。ライブもレコーディングもバンド練習も、「自分がうまくなるための積み重ねの場」と捉えているので、常にそのときできる全力を出して、次につなげていきたい。「進み続ける俺を見てくれ!」という気持ちでやっています(笑)。
夕莉 (笑)。私も技術面はもちろんですが、やっぱり「夕莉といえばこういうプレイをするギタリストだよね」というのを自分の中で見つけていきたいなと思っていて。私たちはアニメ作品と連動するリアルバンドとして活動していますが、“バンドだけを見てもカッコいいと思ってもらえる存在”になれるよう、その中で存在感のあるギタリストになれるよう、もっとパフォーマンスも技術も磨いていきたいです。アニメの劇中曲を演奏するときは桃香を自分に宿すことが多いですし、それは今後も追求していきたいところではありますけど、その一方で“夕莉らしさ”も確立していけたらなと思っています。
朱李 私もやっぱり技術面で、まずは基礎をしっかり固めたい思いが強いです。コードに合わせてどう弾いたらいいかとか、ベースソロで映えるプレイとか、もっと演奏のバリエーションを増やしたいです。かき回しのときも、もっといろいろな動きをできるようになりたいですし……そういう引き出しを増やすことで、ミスをしちゃったときも軌道修正が早くなると思うので。今はミスするとパニックになって(笑)、慌てて譜面通りの演奏に戻っちゃったりするので、もっとアドリブ力を磨いてフリーダムなベーシストになれたらいいなと思います。
──夕莉さんの言った「バンドだけを見てもカッコいいと思ってもらえる存在になりたい」というのは、おそらく皆さん共通の思いなんじゃないかと思います。と同時に、そうなってきている手応えも感じているのでは?
夕莉 そうですね。フェスなどに出演させていただくときは、お客さんの層もアニメファンの方よりも音楽ファンの方が多くなるので、アニメありきではない“曲で勝負”のセットリストで臨むことが多いんです。そういう場に立つ機会をいただいていることで、“いちロックバンド”としての見せ方も少しずつわかってきたかな、という感覚はあります。
朱李 ワンマンライブではアニメに沿った演出で、アニメのトゲトゲに寄り添ったパフォーマンスをすることが多いんですが、フェスなどでは素の自分たちを出す方向になるので、最近はだいぶそれが出せるようになったんじゃないかなと思います。
理名 それはやっぱりテレビアニメ放送が始まる前の1年間、いちロックバンドとしてライブ活動をしていた時期があるからこそだと思います。もしその期間がなかったら、今こんなに自分たちを出せるようにはなっていなかったかもしれない。
──タイミング的にはそろそろアニメきっかけではなく、曲や演奏で好きになるファンも現れ始める頃なんじゃないでしょうか。
理名 どうなんだろう? 実感としては、やっぱりアニメから知ってくださる方が多い印象です。「ガルクラ」の劇場版総集編の公開を控えているタイミングでもありますし。
夕莉 でも「音楽面でファンになってもらえたらうれしい」という思いは、自分たちの心の中には間違いなくあります。だから「そういう人がそろそろ出てくるはず」と言っていただけるのはうれしいですし、自信にもなります。
理名 もちろんアニメで知って好きになってくれるのもすごくうれしいことですし、今の私たちがあるのは「ガルクラ」があってこそなので、感謝の気持ちはまったく変わらないです。
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