テレビアニメ「ガールズバンドクライ」と連動するガールズバンド・トゲナシトゲアリの2ndアルバム「棘ナシ」がリリースされた。
東映アニメーション、agehasprings、ユニバーサル ミュージックによるメディアミックスプロジェクトから生まれたオリジナル作品として、2024年4月から6月まで放送された「ガールズバンドクライ」。それぞれ悩みを抱える5人の少女たちがロックバンドを結成し、世の中の不条理に立ち向かいながら自分たちの居場所を探す姿が描かれた。作品の主軸となるバンド・トゲナシトゲアリのメンバー兼メイン声優を務めたのは、2021年6月から約1年半にわたって開催されたオーディション「Girl's Rock Audition」を勝ち抜いた理名(Vo)、夕莉(G)、美怜(Dr)、凪都(Key)、朱李(B)の5人だ。
バンドとしての実力を高く評価されているトゲナシトゲアリは、「ガールズバンドクライ」放送後もライブ活動を重ねている。音楽ナタリーではメンバーの理名(Vo)と夕莉(G)にインタビューし、「棘ナシ」の推し曲やコピーにオススメの楽曲、ファンも気になっているであろう今後の活動について語ってもらった。さらに、特集の最後には「棘ナシ」の魅力を紐解く全曲レビューを掲載する。
取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 梁瀬玉実
待ってくれている人たちが活動のモチベーション
──テレビアニメ「ガールズバンドクライ」の放送が先日無事終了しましたが、アニメ放送の前後で何か変化はありましたか?
夕莉(G) 放送前と比べると、私たちを知ってくれている方がめちゃくちゃ増えました。アニメがきっかけで曲を知った人がバンドのことも知って、「もう1stワンマン終わってたんだ」と残念がってくれているのを見て、やっぱりアニメの影響力は大きいんだなって感じます。
理名(Vo) 「この曲が好き」とか「ライブ行きたいな」って声が以前よりもたくさん届くようになりました。自分たちを待ってくれている人がこんなにたくさんいるんだと思うと、すごく活動のモチベーションになります。だからバンド練習のときとか、最近は「早く帰りたいな」と思っても……。
夕莉 そんなこと言うなよ(笑)。
理名 今は「もっとお客さんにいい演奏を届けたい」という気持ちが強くなっているので、「帰りたい」と「もっとうまくなりたい」がせめぎ合うようになりました。
夕莉 そこは「うまくなりたい気持ちが勝つようになった」でいいでしょ(笑)。
理名 そうだね(笑)。今はうまくなりたい気持ちが勝ってます!
──そんな皆さんの2ndアルバム「棘ナシ」が完成しました。1stアルバム「棘アリ」とは違い、アニメの主題歌や挿入歌が中心の作品になっていますね(参照:アニメ「ガールズバンドクライ」と連動するバンド・トゲナシトゲアリ「キャラクターは仲間でライバル」)。
夕莉 はい。1stアルバムはテレビアニメ放送前に発表してきた曲をまとめた作品だったので、“リアルな私たちの曲”という意識が強かったんですけど、2ndアルバムは“アニメの中のトゲナシトゲアリの曲”という印象が私の中では大きいです。実際にアニメの中に仁菜(CV:理名)や桃香(CV:夕莉)たちの演奏シーンが存在する楽曲が多いので、演奏中に「桃香はああやって動きながら弾いてたな」と、シーンが脳内によみがえってくるんですよ。そこが、1stアルバムまでの楽曲と一番違うポイントだと思います。これから演奏を重ねていくことで、どんどん“自分たちの曲”にしていくのが楽しみです。
理名 私もパフォーマンス面では仁菜に近付けている意識はあって、特にリズムの取り方は仁菜に影響された部分が大きいです。以前の私は体全体で跳ねるようにリズムを取っていたんですけど、仁菜はわりと足を中心に下半身でリズムを取るんですよね。その影響で、今では私も低い重心でリズムを取るようになりました。なので、公開練習ライブの映像を見返すと「なんか自分じゃないみたいだな」と思ったりします(笑)。
夕莉 アニメのライブシーンに影響されることは私もあります。実際のライブでコーラスをするとき、普通にやるとマイク位置に意識が引っ張られてあまり動けなかったりするんです。なので、アニメの演奏シーンを思い出して「桃香さんはこんな感じで揺れてたな」って取り入れたりしています。
理名 自分の担当キャラクターだけじゃなくて、智ちゃん(CV:凪都)とかルパさん(CV:朱李)、すばるちゃん(CV:美怜)も含めた5人全員の動きを見ちゃいますね。みんなの音の感じ方をちょっとずつ取り入れています。アニメでの描かれ方はすごく参考にさせてもらっています。
1つ超えたらまた次の難関が待ち受けている
──今作に収録されている既発曲のうち、お二人の推し曲をうかがえますか。
夕莉 いろいろあるんですけど、思い入れで言うなら私はやっぱり「空の箱」が一番ですね。桃香と仁菜の出会いのシーンで桃香が歌っている曲なんですけど、初登場が歌唱シーンということですごく緊張したポイントでもあって(笑)。アニメのストーリー的にもすごく重要な1曲になっているので、ライブで演奏していてもアニメのシーンを思い出したりしますし、とても思い入れのある曲です。
理名 なんせ仁菜の人生を変えた曲だからね。
夕莉 そうそう(笑)。しかも、この曲にはいろんなバージョンがあって。今回の「棘ナシ」には仁菜&桃香バージョンとダイダスバージョン(桃香がかつてボーカルとして在籍したバンド・ダイヤモンドダスト「ETERNAL FLAME ~空の箱~」)が収録されているんですけど、それ以外に桃香さんの弾き語りバージョンもあったりする(7thシングル「誰にもなれない私だから」収録曲)ので、それもすごく面白いなって思います。
理名 ダイダスバージョンは純粋なバンドサウンドというより、EDMのような電子音が使われていたり、ギターの音にもDTMっぽい処理がされていたりするんです。トゲの曲にはまず出てこないような音が聞こえてくるのも楽しいですし、曲の構成も違っているんですよ。トゲの「空の箱」はサビから入って1番、2番、間奏、ラスサビっていうふうに展開していくんですけど、ダイダスのほうはまた違う構成になっていて。
夕莉 ギターソロのアプローチもまったく違っていたりするので、聴き比べてみると全然違う曲みたいに楽しめると思います。
──理名さんの推し曲はどれでしょう。
理名 第11話の挿入歌「空白とカタルシス」です。アニメの中では仁菜が初めて作詞した曲ということになっているので、仁菜を演じる私としてはやっぱり贔屓したくなっちゃうというか(笑)。「作詞したんだねー……!」って。
夕莉 親目線みたいな(笑)。
理名 それを抜きにしても、曲調的にもすごく好みで。トゲトゲらしい攻撃的なサウンドですし、ゴリゴリに歪んだベースとボーカルだけで入るイントロも今までになかった感じで、すごく好きなポイントです。めちゃくちゃカッコいい速弾きのギターソロもありますし、魅力的なパートがたくさん詰まった1曲だなと思います。
夕莉 そのギターソロには苦戦しました。速弾きやタッピングは今まで苦手で避けてきた部分だったので、デモをいただいたときは「ああー、ある……!」って(笑)。新しい曲をいただくたびに毎回、難関ポイントが必ずあるんですよ。オーディションの時期も含めてずっとそういう曲に挑戦し続けてきているので、確実にうまくなってはいるんだろうけど、毎回「まだまだ足りないな」って思います。1つ超えたらまた次の難関が待ち受けているというか。
理名 ボーカル的にもそういうのはありますね。私は高音が苦手で……まあ低音も苦手なんですけど(笑)、トゲトゲの曲はわりと高音域で音程が激しく上下するものが多いので、新しい曲をいただくたびに毎回「ウッ……!」ってなります。たぶんこの2人以外もみんなそうで、だから1曲ごとにどんどんバンドとして成長していけているんだと思ってます。
夕莉 あと私、今作の収録曲では「声なき魚」が大好きなんですよ。これはもうとにかく演奏するのが楽しくて……。
理名 夕莉ちゃん、それずっと言ってるよね。
夕莉 うん。特にコーラスで理名ちゃんと掛け合いをするのがすごく楽しいんです。「うるさいんだよ」「うるさいんだよ」のところとか、裏でキレイにハモるコーラスじゃなくて、お互いをぶつけ合うような感覚で歌えるのがすごく楽しくて。ギターソロもすごく勢いがあって弾いていて楽しいですし、ライブで演奏するのが一番好きな曲です。
理名 楽しいで言うと、「運命の華」もそうだよね。楽しいっていうか、トゲトゲには珍しい明るい曲で。
夕莉 そうだね。これまでになかったくらい明るい曲なので、演奏していてすごく楽しいです。とはいえギターは密かに難しいことをやっているので(笑)、気が抜けない曲でもあるんですけど。
理名 歌詞も前向きで、本当にトゲトゲらしからぬ曲ではあるんですけど、アニメのストーリーをずっと追ってきてこの曲にたどり着くことで初めてわかる深さもあって。劇中では再生回数が伸び悩む描写もあったりとか……。
夕莉 「何万回行ったかな」って見ると「103回」っていうね(笑)。
理名 そういうストーリーがあることで、仁菜たちが何を思って「運命の華」を演奏しているのかがすごく伝わるんですよね。だから“明るいけど泣ける曲”っていうのが私の印象としては強いです。朝に聴いたりします。
夕莉 朝にね(笑)。あと「運命の華」の個人的な推しポイントは、理名ちゃんの最後のロングトーンです。
理名 あれ、ちょっと声がブレてるテイクが採用されていて(笑)。実はあのパート、レコーディング中に突然「じゃあ最後にちょっとワーッてやつ入れてみて」と言われて急遽やることになったんです。自分では「うまく出なかったな……」と悔しかったんですけど、「それがカッコいいから」とあえて使うことになって。
夕莉 あそこはすごくライブ感があって、私はグッと来ましたよ。
理名 ならよかったです(笑)。
“棘”がなさすぎて、自分たちの曲だと思わなかった
──「棘ナシ」にはそれらの既発曲に加えて、新曲も2曲収録されています。まず「闇に溶けてく」ですが“これまでありそうでなかった曲”という印象を受けました。
理名 そうですね。「夜!」って感じで。
夕莉 理名ちゃんの高音がめっちゃキレイなんですよ。
理名 ありがとう(笑)。BPM200のめちゃくちゃ速い曲なんですけど、それに対してボーカルはけっこう緩やかな表現を意識しました。言葉数もそれなりに多くて疾走感あふれる曲ではあるんですが、それをそのままバーッとは歌わずに、わざとゆらゆらさせるというか。切なさを交えた歌い方を意識してレコーディングしました。
夕莉 “闇”だからね。
理名 そうそう。「気鬱、白濁す」(2023年8月発売 2ndシングル表題曲)と同じMisty mintさんが作ってくださった曲なので、特有の世界観があるなあと思います。夜明けの疾走感、焦燥感というか……なので、「気鬱、白濁す」にも通ずるようなボーカルのアプローチになりました。
──個人的には、サビのラストで急にウィスパー調になる表現がすごく印象的でした。
理名 そこはポイントです。サビは全体的にガーッと強めに歌ってるんですけど、締めの部分だけ力を抜いて歌っています。
夕莉 ギター的には、わりとアルペジオを多用する曲になっています。今までのトゲトゲ楽曲にもアルペジオはあったんですけど、この曲では特に多めに使われています。しかも同じフレーズを繰り返すんじゃなくて、コードチェンジをしながら弾くアルペジオというのを私はこれまであまりやってこなかったので、そこが私的には難しいポイントでもあり、聴きどころでもあるかなと思います。
──ソロの入りもアルペジオというか、分散和音フレーズになってますもんね。同じ意味ですけど(笑)。
夕莉 そうですね(笑)。アルペジオをフレーズっぽく弾くとメタル感が出るので楽しいです。
──そんな「闇に溶けてく」は曲調的に想定の範囲内という感じもするんですが、もう1曲の「蝶に結いた赤い糸」はアコースティックなミディアムバラードという、トゲトゲ的にはかなりの新境地ですよね。
夕莉 最初にデモを聴いたとき、自分たちの曲だとは思わなかったですから。「これ、私たちのですか? ほかの曲データと間違ってませんか?」みたいな(笑)。本当に“棘”がないっていうか……。
理名 なさすぎるよね。
夕莉 すごくびっくりしました。「棘ナシ」というタイトルを持つアルバムのラストナンバーには本当にふさわしい1曲になっていると思います。
理名 最初の印象は、めちゃくちゃラブソングだなって。「これ絶対、桃香が仁菜に歌わせたくて書いただろ!」みたいな(笑)。トゲトゲとして活動する前の私はずっとボカロ曲ばかりを歌っていたので、ここまで「バラード!」って感じの曲は歌ってこなかったんです。なので、「ゆったりしたテンポの曲を安定して歌うのってこんなに難しいんだ」と痛感しました。
──テクニカルな曲ではないがゆえに、テクニックに頼れない難しさがあるということですよね。
理名 そうそう、そうなんです。逆に難しいっていう。
夕莉 ギターも同じですね。譜面通りに弾くこと自体はそこまで難しくないんですけど、音数が少ないからこそミスが目立つというか。ごまかしが利かない曲ではあります。
──ギターはアコギとエレキがどちらも重要なパートとして入ってますけど、ライブではどちらを弾くんですか?
夕莉 まだ悩み中です(笑)。
理名 夕莉ちゃんがアコギ弾いてるところ見たことない。
夕莉 今までのライブやバンド練習ではエレキしか使ってないからね。今後のライブではアコギも弾くかもしれないです。
──アニメ終盤の仁菜のように、理名さんがギターを持って歌うという選択肢は?
理名 やってみたいけど、指と口が同時に動くのか、別々に動かせるのかという心配があって(笑)。
夕莉 一緒にギター買いに行ったじゃん。私は一緒に弾きたいよ?
理名 ……(夕莉の肩にポンと手を置いて)よし、やるか!
夕莉 あははは、やるか!(笑)
理名 一応ギターは持っていますし、すぐ近くに夕莉ちゃんという先生もいることですし(笑)。いろいろ教えてもらいながら練習して、弾けるようになったら考えたいと思います!
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学祭コピバンにオススメのトゲトゲ曲