アニメ「ガールズバンドクライ」と連動するバンド・トゲナシトゲアリ「キャラクターは仲間でライバル」

TOKYO MXほかで放送されている、リアルバンドと連動したテレビアニメ「ガールズバンドクライ」。そのメイン声優を務めているトゲナシトゲアリは、バンドメンバー兼声優を選ぶ厳しいオーディションを勝ち抜き、アニメ放送前から音源リリースやライブ活動を展開している実力派ガールズバンドだ。

音楽ナタリーでは、トゲナシトゲアリの理名(Vo)、夕莉(G)、美怜(Dr)、凪都(Key)、朱李(B)にインタビュー。「バンドと声優」という二足のわらじを履く苦労や、自身が演じるキャラクターに対する思い、オープニング主題歌「雑踏、僕らの街」をはじめとする高難度の楽曲、そして9月に控えている2ndワンマンライブなどについてじっくり話を聞いた。

後半には、「ガールズバンドクライ」とトゲナシトゲアリの楽曲に対する草野華余子、天津飯大郎(天津)、豊田穂乃花(FM802)からのコメントを掲載する。

取材・文 / ナカニシキュウ撮影 / 星野耕作

お得すぎるオーディション

──トゲナシトゲアリは2021年6月より開催されたオーディション「Girl's Rock Audition」を通じて結成されたということですが、ただのバンドオーディションではなく声優オーディションも兼ねるという、かなり特殊なものだったんですよね。

一同 はい。

トゲナシトゲアリ

トゲナシトゲアリ

──まずは皆さんがそのオーディションに応募しようと思った理由について伺いたいのですが、もともと声優業にも興味があったのでしょうか。

美怜(Dr) 朱李ちゃんが唯一そうだよね。

朱李(B) 私は小さい頃からアニメを観ることが好きだったので、声優業に関わってみたい気持ちも持っていました。バンドにも声優にも挑戦できるオーディションということで、「これは応募するしかない」と思って。

理名(Vo) あとの4人は、SNSを通じて「こういうオーディションがあるんですけど受けてみませんか?」とご連絡いただいた形でした。もともと私たちは全員、SNSなどで“弾いてみた”とか“歌ってみた”動画を上げる活動を個人でしていたんですけど、それを見つけてくれたスタッフさんからお声がけいただいて。

凪都(Key) 受けようと思った理由についてはどうですか?

夕莉(G) なんでなっちゃんが回してるの(笑)。

理名 (笑)。私の場合は、オーディションの内容がどうこうというよりも力試しのような感覚が強かったです。当時は中学3年生で、地元の広島に住んでいたので、「もし合格できたとしても関東で活動するのは難しいかな」と最初は思いました。でも、「こんなふうに声をかけてもらえるチャンスはもう二度とないだろうな」と思って、受けるだけ受けてみることにしました。

理名(Vo)

理名(Vo)

夕莉 私も同じような感じです。“弾いてみた”をきっかけにお声がけいただいた時点で自分のギターを認めてもらえたように思えて、それがすごくうれしくて。声優は未知の世界ではあったんですけど、「一生のうちにこんな挑戦ができる機会はもうないだろうな」と思ったのが決め手になりました。

凪都 私は当時、音楽大学のミュージカルコースに通っていて、お芝居をすることはもともとすごく好きだったんです。それと同時に、高校時代にバンドもやってはいたんですけど、思うように活動を続けられなかった心残りもずっと抱えていて。なので、オーディションのお話をいただいたときは「やりたかったけどできていなかったバンドと、今勉強しているお芝居の両方に本気で取り組めるんだ!」と思いました。お得すぎるなあと(笑)。

理名 「お得すぎる」って(笑)。でもまあ、確かにね。

美怜 私は、SNSでお声がけいただく前に実は酒井和男監督(「ガールズバンドクライ」のシリーズディレクター)と平山理志プロデューサー(「ガールズバンドクライ」のプロデューサー)に一度お会いしているんです。高校2年生のときだったんですけど、監督たちが実際の高校生バンドの練習風景を視察したいということで、知り合いの知り合いの知り合いくらいの紹介で、私が練習していたスタジオに見学にいらしたことがあって。そのときに「実はこういうプロジェクトがあって」というお話は聞いていたんです。ドラムでお仕事をしたい気持ちは当時からあったんですけど、「声優もやるというのはなんか違うかもしれない」とそのときは思っていました(笑)。

凪都 正直だなー(笑)。

美怜 なので、そこではそれだけで終わったんですけど、その後、高校3年生の冬にSNSを通じてagehaspringsのスタッフさんから「オーディションを受けませんか」とお声がけいただいたときに「あ、それ知ってる」って(笑)。「これも何かのご縁かな」と思ったので、声優活動に対しては不安しかなかったんですけど、挑戦してみようと思って受けました。

美怜(Dr)

美怜(Dr)

自分の演じるキャラクターがライバル

──バンド活動と声優業を並行して行うのはものすごく大変だと思うのですが、いかがですか?

凪都 ものすごく大変です!

一同 ねー(笑)。

夕莉 音楽はみんな今までもやっていたんですけど、それをプロフェッショナルのレベルに持っていかなきゃいけない大変さがまずあって。それに加えて未経験の「声優」というものがまた別ベクトルの挑戦としてあり、その両方を同時にがんばるのが最初の頃は特に大変でした。

美怜 最初が一番大変だったかも。お芝居自体やったことないメンバーがほとんどだったから、本当に初歩的なところから……「アニメーションに声を吹き込むというのはどういうことか」というのをちょっとずつ理解していくことから始まって。

朱李 でもやっぱり、「バンドのメンバーが声優もやる」という活動スタイルはとても珍しいと思うので、それが私たちならではの武器になっていると思います。

朱李(B)

朱李(B)

凪都 普通にバンドだけをやっていたら自分からは出てこなかったであろう引き出しがたくさんできた感覚もあります。

夕莉 あるねー! あるある。

凪都 例えば演奏中の動きとか、「お芝居を経験していなければ意識できなかっただろうな」と感じる部分もあるので、ライブではすごく助けられています。ミュージックビデオでのキャラクターの動きを参考にすることもあります。

美怜 逆に、自分の演じているキャラクターをライバルのように感じる部分もあって。「あの子には負けてられん!」みたいな感じでモチベが上がるというか……。

理名 わかるー!

凪都 「負けてられん」は確かにあるね。

美怜 私の演じるすばるちゃんは、私にとってかけがえのない仲間でもあるけど、ドラマーとしてはライバルでもあるんです。

朱李 自分の演じるキャラクターの、自分にはない部分に憧れたり尊敬したりしているところもあって。ルパは私とはかけ離れたタイプの人物ではあるんですけど、人間としてもバンドマンとしても、お互いに高め合っているような感覚がありますね。

夕莉 私が演じている桃香は「ものすごくギターがうまい」という設定なので、なかなか大変で(笑)。それはバンドだけをやっていたら得られなかった感覚だと思うので、私たちならではの向き合い方をさせてもらえていると感じます。

夕莉(G)

夕莉(G)

心をひとつにしないと演奏が成立しない

──バンドの音楽性についてはどう捉えていますか?

夕莉 曲が難しい。

美怜 難易度が鬼。

朱李 だからこそバンドとして成長できている部分もあります。技術的な面もそうですが、難しい曲に一緒に立ち向かうことで仲よくなれるというか(笑)。

一同 確かに!

夕莉 誰が何をやっているのかよく聴いていないと合わせられない、“なんとなく”では絶対に成立しない曲ばかりなので。全員が心をひとつにしないとダメ(笑)。

──皆さん個人としては、もともとこういったテクニカルな演奏を志向していたのでしょうか。

理名 テクニカル志向……どうなんだろう?

美怜 人によるかな。

夕莉 私とか理名ちゃんは“歌ってみた”“弾いてみた”でボカロ曲をやることが多かったので、その当時からテンポが速くて手数の多い曲に親しんではいました。朱李ちゃんもかなり難しい曲を演奏してたよね。

朱李 うん。高校生のときにSuspended 4thの「ストラトキャスター・シーサイド」という楽曲をがんばってコピーしたんですけど、そのときに覚えた奏法がトゲトゲの「極私的極彩色アンサー」という曲にたくさん出てくるんです。「やっておいてよかったな」と思いました(笑)。

理名 私もボカロ曲をよく歌ってはいたんですけど、“歌ってみた”ではテンポやキーを自分の歌いやすい設定に変更できてしまうんですよ。なので、実は苦手な部分を避けてきたタイプではあって(笑)。

凪都 わかる! 私たちは“避けてきたズ”だよね。

理名 そうそう(笑)。

凪都 私は3歳の頃からクラシックピアノを習っていたんですが、今トゲトゲでやっているような速弾きとか高速テンポの曲がすっごく苦手で。コンクールに出るときとかは、なるべくそうじゃない曲を選んでいましたね。「テクニックじゃなくて表現力で勝負します!」みたいな曲を……。今となっては「難しい曲もあのときもっとやっとけば!」とすごく思ってます(笑)。「(フランツ・)リスト先生、毛嫌いしてごめんなさい!」って。

凪都(Key)

凪都(Key)

理名 すごくわかる(笑)。私もピアノを習っていたんですけど、難しい曲は極力避けてましたから。

美怜 私もどっちかというとそっちのタイプですね。もともとギターロックとかバンド系が好きで、高校の部活でドラムを始めた当初はONE OK ROCKやTHE ORAL CIGARETTESのコピーをよくやっていたんです。なので、テンポの速い曲に馴染みはあったんですけど、「テクニックを追求する」というよりはみんなで音を合わせるときのグルーヴ感を重視していたところがあって。

凪都 そんなふうに、もしかしたら一生避け続けていたかもしれない部分に、トゲトゲの活動を通して改めて向き合うことができているのはありがたいです。

理名 トゲトゲ楽曲のおかげで自分の潜在能力を新しく知ることもできているというか。この活動をしてきた1年間ですごく成長できているのを感じますね。

美怜 新しい発見が現在進行形でどんどん増えていってるなあって感じです。