腕を壊しておいてよかった
──「演奏面で苦労した」など、特に思い入れのある1曲を挙げてください。
夕莉 私は「黎明を穿つ」です。オーディションは「練習した音源を1曲ずつ提出して、OKが出たら次の課題曲に進む」というやり方で進行したんですけど、「黎明を穿つ」はすごく苦戦して。アルペジオや高速カッティングが難しくて、OKをいただけるまでに半年くらいかかった思い出の曲です(笑)。最近ようやく苦手意識が抜けてきたくらいなので、苦労した曲として一番思い入れがあります。
凪都 私は「名もなき何もかも」なんですけど、これがオーディションで最初にいただいた課題曲だったんですね。私の苦手な速弾きが入っていて、さっそく壁にぶつかった曲です。オーディション自体はその後どんどん次の曲へ進んでいったんですけど、この曲のキーボードソロ部分だけが最後までOKが出なくて、結局1年間、オーディションが終了するまで提出し続けました。それだけ向き合い続けたこともあって、最近のライブで「こんなふうに弾きたいな」と思える余裕が出てきているのがすごくうれしいです。
美怜 なっちゃんと同じく、私も「名もなき何もかも」には特別な思いがあります。この1曲を叩ききるということ自体が当時の自分にとってはすごく難しくて……。あの鬼のようなスネアロールを叩ききるために、体力作りやフォームの見直しから入って、オーディションを通じて自分を成長させてくれた曲というか。この曲に出会っていなかったら今の自分はなかったですし、ドラマーとしてプロになるための一歩目、「基準点」を作ってくれた曲だなと思ってます。
朱李 私はオーディションの中で「気鬱、白濁す」に取り組んでいたとき、腕を壊してしまって……。
美怜 言い方(笑)。腕を痛めちゃったんだよね。
朱李 痛めてしまって。左手の指のポジションが「こんな開き方したことない」というものだったりして、手首に負担がかかって腱鞘炎のような状態になってしまったんです。それで悩まされたんですけど、無理なく弾けるように工夫することで、だいぶフォームが矯正されました。だからそのとき壊しておいてよかったなあって。
理名 「壊しておいてよかった」(笑)。
凪都 あんまり聞かないセリフ(笑)。
朱李 野球選手とかでも、ケガをきっかけにフォームがきれいになってパフォーマンスが上がることがありますよね。それです。
理名 私の思い入れ曲はなんだろうって今ずっと考えてたんですけど……「偽りの理」ですね。トゲトゲの曲にはあまりない、高音を伸びやかに出すメロディがたくさんある曲で、私がずっと苦手だと言い続けている曲なんです(笑)。リリースされた音源はもう1年前とかに録ったので、今の私とは声の出し方も声色も全然違うんですよ。なのでリリースされたときは「ヘタクソだなあ」と思ってたんですけど、今となってはそのときの私にしか歌えなかった歌だなとも感じるので、成長を実感できるという意味でもすごく思い入れの深い曲です。
凪都 確かにそれはめっちゃあるよね。「今だったらこんなもんじゃないぞ」っていう(笑)。
夕莉 あるねえ。
理名 逆に、「そのときにしか出せなかったものを残せる」というのも音源ならではのうれしいところだなと思います。
セットでトゲアリとトゲナシになっております!
──5月22日にアニメ「ガールズバンドクライ」のオープニング主題歌「雑踏、僕らの街」とエンディング主題歌「誰にもなれない私だから」がシングルとして2枚同時リリースされました。
凪都 アニメを通じて私たちのことを知ってくださる方も多いと思うので、そういう方にとっては「雑踏、僕らの街」はトゲトゲの代名詞となる1曲だと思います。“ザ・トゲトゲ曲”という感じですし……ふえーん、ムズい!
夕莉 (笑)。その一方で、アニメ以前から私たちを知ってくださっていた方にとっては「名もなき何もかも」が始まりの曲として代名詞になっているんじゃないかと思うんです。そういう意味では“始まりの曲が2曲ある”ということになるので、これもやっぱりバンドと声優を両方やっているからこそなのかなと思いますね。
理名 確かに確かに。
夕莉 で、なっちゃんも言ったように「雑踏、僕らの街」がこれまたすごく難しい曲なので、もう最初はみんな「弾けないです!」って……。
凪都 言ってたよね(笑)。苦労話だったら何時間でも話せる。
一同 あははは。
美怜 本当に「名もなき何もかも」以来というか、私は「雑踏、僕らの街」に関してはまず曲を覚えるのが大変で。ドラムのアレンジがとにかく複雑なので、次に何をやるのかを記憶するだけでもひと苦労でした。3月の1stワンマンライブ(神奈川・1000 CLUBで行われた「トゲナシトゲアリ 1st ONE-MAN LIVE “薄明の序奏”」)で初披露したんですけど、この曲をやると決まったときは「本当ですか? やるんですか?」って感じでしたね(笑)。
朱李 特に変拍子パートが難しくて。ベースのフレーズというよりは、バンド全体で合わせるのが本当に難しかったです。
美怜 その変拍子の部分もドラムはずっとフィルを叩いているような感じだから、あんまりガイドになってあげられないしね。
朱李 そう、ベースが乱れたら終わりだなって(笑)。そこを極めるのにすごく苦労しましたね。みんなで数をこなしてがんばりました。
理名 この「雑踏、僕らの街」と「誰にもなれない私だから」という2曲は一見正反対ではあるんですけど、どちらも私が演じる仁菜の内面をすごく表している曲なんです。仁菜はすごく芯のある強い意志を持っていて。「雑踏、僕らの街」の歌詞にはそういう仁菜の持つ「激しいトゲの部分」がそのまま書かれていて、「誰にもなれない私だから」はそんな仁菜が密かに思っていることを歌っている。どちらも、「これはもう仁菜の曲だな」って思ってます。
──ということは、「雑踏、僕らの街」が“トゲアリ”で……。
理名 「誰にもなれない私だから」が“トゲナシ”かもしれない(笑)。え、ホントに? そうなのかなあ?
凪都 私はその解釈めっちゃいいと思うけど。
夕莉 言われてみればそうかあって感じ。
理名 じゃあそれで(笑)。アニメのオープニングとエンディングが、セットでトゲアリとトゲナシになっております!
──6月19日には8thシングル「視界の隅 朽ちる音」がリリースされましたが、少し特殊な1曲ですよね。アニメの中では仁菜、桃香、すばるの3人体制で演奏する曲です。
凪都 キーボードがいないっていう(笑)。
理名 「なっちゃん、いる?」みたいな(笑)。ホントにいなかったんだよね。
凪都 ホントにいなかった。音源にはピアノもキーボードも一切入っていないので、逆に「ライブでは鍵盤入りの演奏が聴けるよ」っていう、新たな魅力を出せる曲でもあると思ってます。皆さんにはぜひそれも楽しみのひとつとして、ライブに足を運んでいただきたいですね。
朱李 アニメだとベーシストもまだいない状態だったので、同期を使って演奏する設定だったんですけど、そのわりにはベースの存在感が強い曲だなあと。「ベースのことも考えてくれてる!」ってうれしくなりました(笑)。
理名 ボーカル的には、この曲はトゲトゲ史上一番口が回らないです(笑)。すごく発音しにくい言葉が並んでいて、とにかく噛むんです。レコーディングではパートごとに分けて録れるのでなんとか発音できたんですけど、スタジオでみんなで合わせるときは通して歌いきらないといけないので、何かしら工夫しないと歌詞が聞き取れるように歌えないんです。なので練習のときだけじゃなく、移動時間とかを使って「この部分はどういう発音の仕方をしたら歌いやすく、聞き取りやすくなるだろう?」とずっと研究していました。
トゲトゲの本領を発揮できるのがライブ
──9月13日には、神奈川・CLUB CITTA'での2ndワンマンライブの開催も決定しています。
理名 会場がアニメの舞台でもある川崎ということで、聖地巡礼をしてからライブに足を運んでくださる方もいらっしゃると思うんです。聖地でどうしたら最高のライブができるか、今まさに考えている最中です。
夕莉 アニメ放送後としては初のワンマンライブになるので、アニメから私たちを知ってくださった方々に生演奏の衝撃をお届けしたいなと思っています。
凪都 そうだね。トゲナシトゲアリとしてはバンド活動以外にもアフレコだったりリリースイベントだったり、いろんな形で活動してきているんですけど、やっぱり一番本領を発揮できるのはライブだと思っているので。
朱李 私たちの演奏を観に来るというよりは、アニメの関連イベントとして来られるお客さんもわりと多いんじゃないかと思うんです。そういう方々にリアルバンドのよさを思い知ってほしいというか……。
理名・夕莉・美怜・凪都 「思い知ってほしい」(笑)。
朱李 そのためには“音で殴る”くらいの気持ちでがんばらないとなって。ライブを目撃したあと、家に帰ってもトゲトゲのことしか考えられなくなるくらいのライブをしたいです。
美怜 言葉のチョイスがいちいちカッコいい(笑)。
朱李 (笑)。
美怜 私自身が音楽を好きになったきっかけがバンドの生演奏に魅了されたことだったので、自分たちが誰かにとってそのきっかけになれたらうれしいですね。「バンドっていいじゃん!」と思ってもらいたいし、なんなら「自分もバンドやってみたい!」と思ってもらえるような、そんなライブをしたいと思っています。
夕莉 私がギターを始めたきっかけも同じ感じで、軽音楽部で初めて観たギターの生演奏に感動したからなんですよ。だから私の演奏する姿を見て「ギターを始めたい」と思う人が現れてくれたら、そんなにうれしいことはないです。
理名 アニメが始まって以降はファンの方と対面できる機会も減ってきているので、お客さんの「好き」という気持ちを受け取ったり、私たちの「好き」や感謝を直接伝える場としてライブができることがすごく楽しみです。
凪都 ひさしぶりにお客さんと音を通して会話ができるので、もう待ちきれないです! やっぱり、ライブという場でしか生まれない感情ってあるんですよね。ライブでは“バンドとファン”という関係性にとどまらない、もっと密接な時間を一緒に作りあげていきたいです。
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著名人3人が「ガールズバンドクライ」にコメント