音楽ナタリー PowerPush - T.M.Revolution
難産アルバム「天」と現在進行形ツアーの真意
バラバラのパーツをまとめる難しさ
──今回のアルバム制作にあたって掲げたコンセプトはどういうものでしたか?
アルバムを作るときには、最初にコンセプトやテーマを決めて、その中で曲を揃えていくという作り方が本来のやり方だと思うんですよ。
──はい。
でもT.M.Revolutionの場合は、依頼を受けて楽曲を作ることも多くて、シングルとして既発の曲がこの4年間の中でかなり溜まっていた。それらの曲を収めながら、1つのパッケージとしてどういうふうにまとめあげていくかっていうことを考えましたね。だからこそ伝統的な作り方というか、コース料理としてのあり方を意識して。
──既存曲の隙間を埋めていくイメージ?
ですね。シングルでは1品1品その時期に採れたいいもの、自分の中で「これだ」と思えるものを作っていく。アルバムはそのパーツをもとにしてコース料理を組み立てていく。
──じゃあコンセプトありきで作ったアルバムではないわけですね。
7枚目の「SEVENTH HEAVEN」(2004年3月リリース)とか次の「vertical infinity」(2005年1月リリース)ぐらいまでは、ギリギリまだアルバムのコンセプトを考えたりしてたんです。「vertical infinity」なんかは特にいろいろ意欲的に作っていたつもりですし。
──そのスタンスが変わってきた?
たぶん自分の立ち位置の変化みたいなものもあったと思うんですよね。
──というと?
アニメやゲームの楽曲を作る機会が増えてきたっていうことです。そもそも自分がそういう存在になるなんて、この仕事を始めたときにはこれっぽっちも考えてなかったんですよ。でもオーダーを受けて、作品とのシナジーも考えながら作った楽曲が増えていくと、いざ自分のアルバムを作るっていうときにめちゃくちゃ悩むことになるんです。
──なるほど。
作った時期も用途もバラバラの、まったく違うパーツをドサッとテーブルに並べられて「じゃあこれで1台作ってください」って言われて。「えっ、これ使って何を作ればいいの?」みたいな感じになる。
──飛行機の部品でクルマを作るみたいなことですね(笑)。例えば前作「CLOUD NINE」(2011年4月リリース)は6年ぶりのアルバムでしたが、リリース間隔が空くほど、シングル曲も溜まっていくわけですよね。
そうなんですよ。だから正直「CLOUD NINE」のときはけっこうお手上げだった(笑)。「これでいいのかな?」って思いながら完成させたところはあるんです。「やっぱりアルバムってこうだよね」みたいな自分の感覚とのバランスがなかなかとれなくて。
──難しいものですね。
それもあって、今回の「天」はすごく慎重に作ったし、だから4年かかったっていうのはあります。結果、発売日は延期させてもらったんですけど、やっぱりあそこであきらめなくてよかった。「いや、もう納期決まってるし、とりあえずこれでいいじゃない」っていうふうにせずに、妥協せず貫くことができてよかったなって思ってます。
──どういうところに気を配りましたか?
やっぱりアルバムとしての物語を組んでいくってことですよね。1曲1曲、全力で作ったシングルですから、曲ごとにスリリングな展開や、心奪われるシーンはたくさんある。でも隣り合わせに並んだときにはハレーションも起きるんです。そこで普遍的な部分を探したり、伝えたかったことをきちんと拾っていったりというのは考えましたね。
濃厚なライブアレンジの理由
──現在行われているツアーでもその差は顕著ですが、T.M.Revolutionはスタジオ音源とライブでアレンジが大きく違いますよね。
音源とライブを別モノとして考えてるところはありますね。
──そこがT.M.Revolutionのユニークな点だと思うんです。ライブを通して曲がだんだん育ち、アレンジが変化していくというのは他のアーティストでもあることですが、T.M.Revolutionの場合は両者が最初から別のものとして作られている。
確かに今やってるツアーは、当初スタッフの間からも「これはちょっと危険じゃないか」という声もありまして。
──危険というのは?
やっぱりね、アルバムが出てればまだしも、アルバム自体出てないのに、そこに入ってる新曲をアレンジしてやっているわけで、これはもうめちゃくちゃだと。聴いたことない曲がアレンジされていたらもうわけわかんないよ、っていう(笑)。
──でも西川さんの意志のもとにそうしているわけですよね。
そうですね。なんていうか、依頼を受けて作る楽曲は特にそうなんですけど、音源ではT.M.Revolutionのイメージをある程度踏襲したものを求められるところがあるんです。その結果、例えば四つ打ちの曲が多くなったりする。もちろんどの曲も1曲入魂で全力で作ってますし、依頼してくださる方のリクエストがいい効果を生むことも多いんですけど、ライブでお客さんの前でやるときには変化が欲しくなったりもして。
──その結果、生演奏で映えるライブ用のアレンジが生まれる?
なんていうのかな、カウンターごしに目の前で食わせるラーメンとカップ麺の違いというか。どっちがいいとかじゃないんです。自分のイメージを守りながらたくさんの方に届けられるカップ麺のよさもある。実際、今海外のファンの皆さんにT.M.Revolutionの音楽をきちんと届けようと思うなら、それぞれの地域に根付いたカップ麺の味をもっと研究しなきゃいけないと思うし。T.M.Revolutionの軸になっているメロディのセンスとか、これまでの哲学を踏襲する部分はもちろん大事にしていきたいんです。
──なるほど。
その一方で、ライブではもっと濃厚に。例えば今のツアーだと、J-POPとフュージョンとラウドロックを混ぜて、鍋で煮込んで、アツアツのまま流し込む、みたいなことをやってるわけで。
──大好物です(笑)。
その音源の持っているポテンシャルをもっと引き出して、目の前にいるお客さんに直接届けていきたいんですよね。自分の中ではライブっていうものがやっぱりすごく大きくて。アルバムを作るときにもお客さんとの対話みたいなことを常に考えてるし、そこはこだわり続けてきたところだと思います。
──じゃあ音源とライブの乖離は必然的なものであると。
うん、そこは無理やり埋めていくところでもないかなあ、みたいな。いずれにせよ頑として自分がいいと思うものしか店には置かないし出さない。そういう姿勢はこれからも大切にしていくつもりです。
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- 10thアルバム「天」2015年5月13日発売 / EPICレコードジャパン
- 初回限定盤A [CD+DVD] 4000円 / ESCL-4410~1 / Amazon.co.jp
- 初回限定盤B [CD+DVD] 4000円 / ESCL-4412~3 / Amazon.co.jp
- 通常盤 [CD] 3200円 / ESCL-4414 / Amazon.co.jp
CD収録曲
- The ether
- DOUBLE-DEAL
- AMAKAZE -天風-
- 突キ破レル-Time to SMASH !
- Thread of fate
- HEAVEN ONLY KNOWS ~Get the Power~
- Summer Blizzard
- Salvage
- Dream Crusader
- Phantom Pain
- CRIMSON AIR
- Count ZERO
- FLAGS
- The party must go on
- The edge of Heaven & Revolution
- 突キ破レル-Time to SMASH !(Re:boot) ※通常盤のみ収録
- Thread of fate(Re:boot) ※通常盤のみ収録
初回限定盤A DVD収録内容
「イナズマロック フェス 2014」ダイジェスト
- HIGH PRESSURE
- HOT LIMIT
- last resort
- Count ZERO
- WHITE BREATH
- Phantom Pain
- Preserved Roses
- 革命デュアリズム
- Back Lot of INAZUMA ROCK FES. 2014
初回限定盤B DVD収録内容
「T.M.R. LIVE REVOLUTION'14 in Taipei」ダイジェスト+撮り下ろしインタビュー
- SCENE1
- SCENE2
- SCENE3
- SCENE4
- SCENE5
- SCENE6
T.M.Revolution(ティーエムレボリューション)
1970年滋賀県生まれの西川貴教によるプロジェクト。1996年5月にシングル「独裁-monopolize-」でメジャーデビュー。キャッチーな楽曲と激しいライブパフォーマンスで人気を集め、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」などのヒット曲を連発する。2008年には「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年から滋賀県初となる大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を連続開催。その他、舞台やミュージカルなど幅広い分野にて精力的な活動を展開している。2013年には水樹奈々とのコラボシングル「Preserved Roses」「革命デュアリズム」を発表。2015年5月に通算10枚目となるオリジナルアルバム「天」をリリース。