THE PINBALLS|NAKEDからのDress up、大胆アレンジに挑んで見つけた「ストイックであり続ける理由」

The WhoやThe Rolling Stones、THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、BLANKEY JET CITYなどをルーツに掲げ、一貫してストレートなロックンロールサウンドを追求し続けてきたTHE PINBALLS。彼らが9月16日にリリースした初のセルフカバーアルバム「Dress up」は、バンドによるアコースティックアレンジを軸に、新たなTHE PINBALLSサウンドを描いた1作となった。音楽ナタリーではメンバー4人にインタビューを行い、セルフカバーアルバム発表のきっかけやアレンジ版制作時のエピソードについて、各楽曲の解説を交えて話してもらった。

取材・文 / 高橋拓也

11曲もリメイクできるんだろうか……。

──「Dress up」はTHE PINBALLSにとって初のセルフカバーアルバムになります。このタイミングでカバー作を発表しようと思ったのはなぜでしょうか。

古川貴之(Vo) 僕らは毎年必ずオリジナル作品を発表してきたんですけど、メンバー間で「ちょっとルーチンぽくなってきたよね」「何か違うことがやってみたい」という話になったんですね。そこでセルフカバー作品を作ることにしたんですが、そのままカバーするんじゃなく、別の解釈で過去の楽曲を録り直したほうが面白そうだと思ったんです。

森下拓貴(B) 去年アコースティックライブを配信でやったんですけど、周りの反響がけっこうよくて。それで次に出すアルバムの特典とか、何かしらアコースティック編成で録音した曲を発表できたらいいな、って考えていました。

古川 「どこかのタイミングで絶対に作品にしよう」って話したよね。でも当初はアルバム単位では考えてなかったんです。

森下 それで新型コロナウイルスが流行して、活動を自粛せざるを得ない状況になったとき、「この時期だったらチャレンジできる」と思い立ったんです。でも11曲も作ることになったときは「これは完成できるんだろうか……」って不安になっちゃって(笑)。

中屋智裕(G) 過去に録った曲のリアレンジだし、正直すぐ完成するんじゃないかなって思ってたんです。だけど作り始めたらけっこう難しくて。根本的にはやってることはそこまで変わらないんですけど、鳴らしている音はだいぶ違うから。

石原天(Dr) 最初は不安でしたね。こういうテイストで録音したことがなかったし、普段からアコースティック系の音楽を聴いているわけでもないので。

──今回リズム隊のお二人がジャズやR&B風のフレーズを積極的に盛り込んでいて、これまでの作品では聴いたことのなかったスタイルで驚きました。

森下 僕らも石原のドラミングの変わりっぷりにはびっくりしたんですよ(笑)。ジャズとかちゃんと聴いてそうな叩き方になってたよね?

石原 いやいや……。

森下 これまでの作品はストレートなロックサウンドで統一してきただけでなく、制作期間が短いこともあって、力んだ感じで演奏することがほとんどで。今回は制作期間が長く取れたので、リラックスしながら収録できたんです。それも大きいかもしれませんね。リハ中にもレコーダーを回してもらって、本番前にすごくいいテイクが録れたらそのまま採用しました。

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M.1「欠ける月ワンダーランド」

──アルバムの冒頭を飾る「欠ける月ワンダーランド」ですが、オリジナルはブルース調のギターフレーズが特徴的でした。「Dress up」ではピアノとパーカッションが追加され、かなり雰囲気が変わりましたね。

古川 オリジナル版はかなりロック色が強いんですけど、「Dress up」版のサウンドに近いイメージもあったんです。今回はベースがウォーキングしたり、ピアノが入ることに合わせてトリオっぽいアレンジに変えてくれたり、みんなの演奏の新しい魅力が出せてよかったと思います。あと、今までレコーディングって、とにかく強い音を出そうとしてきたじゃん?

石原 確かに。

古川 ロックバンドですからね。「Dress up」もたとえジャズっぽいサウンドでもちゃんと力強い、ロックバンドらしさのある曲にしたくて、あえて荒い歌い方をしようと意識したんです。でも実際レコーディングすると、音に引っ張られた歌い方になっちゃって。それで途中からは無理に変えず、歌いやすいほうに合わせてみたら気持ちよかったんですよね。特に「欠ける月ワンダーランド」では珍しく裏声を使ったけど、弱くなった感じがしなかった。新アレンジならではの魅力を一番引き出せたのがこの曲だったんです。

──それで1曲目に配置されているんですね。この曲で「Dress up」がどんな作品になるか、端的に表されていると感じました。

古川 そうですね。セクシーな雰囲気がありつつパワフルさも抜けてない、ちょうどいいバランスになったかと。

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M.2「299792458」

──「299792458」のオリジナル版はミドルテンポで落ち着いたムードの曲でしたが、新アレンジ版ではサックスが入り渋さが増しました。

古川 全体的な構成はオリジナルとそんなに変えませんでした。メンバー全員原曲が大好きな分、アレンジしすぎないよう気を付けたんです。「リズムもコードもあんまり変えるな!」とか話したよね。

森下 ベースはほかのメンバーが録り終わってからレコーディングしたんですけど、あとで追加する楽器のことを考えて、いくつか音を抜いてます。細かいところではありますけど、全体の調整は少しだけ行いましたね。

中屋 ギターもほかの曲に比べると、細かいフレーズは変えてます。あとはアルバム全体にも言えることなんですけど、エレクトリックギターの音をあまり歪ませないようにしました。その分演奏はかなり難しくて……「歪ませないで弾くって大変だな」って実感しました。