THE PINBALLS|今日が終わって美しい明日へ

THE PINBALLSがフルアルバム「時の肋骨」を完成させた。

作品ごとにテーマを設ける彼らが今作で掲げたテーマは「時間の流れ」。全12曲で、夜から次の日の夜までの24時間を表現しているという。音楽ナタリーでは今回、24時間を描くことで伝えたかった思いについて、メンバー4人に話を聞いた。

取材・文 / 小林千絵 撮影 / 映美

24時間を12曲で表現

──THE PINBALLSは作品ごとにテーマを設けています。今作「時の肋骨」のテーマを教えてください。

古川貴之(Vo) 前回のフルアルバム「THE PINBALLS」(2014年9月発売)のときは収録曲12曲で、1年を表現したんです(参照:THE PINBALLS「THE PINBALLS」インタビュー)。そのとき「自分たちがやりたかったのはこれだ」と思えたので、今回も前作みたいな作品作りがしたいなと思って。前回の流れを汲んで今作も12曲入りだとしたら12曲で何が表現できるかと考えていたんです。そしたら時計の文字盤が思い浮かびまして、そこから12曲で24時間を表現しようと思いつきました。人間って1日のうちに死んだり生まれたりするんじゃないかということを描きたいなと。前作が1年を表現した作品だったので、今作ではそのさらに細部を見ていった感じです。

──朝からでなく、夜から始まるのはどうしてですか?

古川貴之(Vo)

古川 僕たちのバンドのイメージは夜だなと思って。今までいろんな夜の曲を書いてきたのですが、その中から怪しい夜で始まって、優しい夜で終わるというのが一番俺らっぽいなと思ったんですよね。自分の中でもイメージが湧きやすかったし。

──アルバムタイトルの「時の肋骨」はどういう意味で付けたんですか?

古川 24時間を表現してるアルバムなので、「24」とか「12」とかナンバリングできるといいなと思って、いろいろ考えてたんです。12曲入りということで、数字について調べていくと人間の肋骨も片側12本ということがわかって。

──おお。

古川 不思議な一致だなと思って、そこから「時の肋骨」というタイトルを思いつきました。しかも銀河と脳細胞の構造が似てるとか、そういう話もよく聞くじゃないですか。だから神秘的でいいなと。

──なるほど。今年4月に発売されたシングル「Primal Three」の曲は1曲も入っておらず、12曲すべて新曲ですが、曲作りとしては「夜」「深夜」「明け方」「昼」「夕方」といった時間帯を12曲に割り振って、それぞれに合う曲を作っていったんですか?

古川 そうですね。もともとあったストック曲から歌詞を変えたり、「朝の曲が必要だ」という考えから作ったり。あと、細部と全体が似てることを自己相似って言うらしいんですけど、それを意識しながら作っていきました。

──ものすごく細部まで考えて作られたアルバムなんですね。

古川 “めちゃくちゃ考える”っていうことが僕の愛情表現なんですよ。ファンの方に対して「あなたたちのことがすごい好きです」って言えばいいだけのところを「あなたたちのためにいっぱい考えたんで、それだけ好きですよ」っていう。めんどくさいやつですよね(笑)。

森下拓貴(B) 怖い!(笑) 俺たちはそれを演奏してたのか(笑)。

古川 ふふふ。怖いっしょ?(笑)。全体的に左右対称にもなっていて。例えば6曲目と7曲目は対になってるんです。歌詞カードのデザインも左右対称になってるので、そこもぜひ見てもらいたいです。

夜から暁へ

──ではここからは収録曲についてお伺いします。時間の流れに沿って作られているということなので、収録曲順に聞いていきますね。まずは1曲目「アダムの肋骨」。

古川 さっきも話した通り、怪しい夜から始めようと思っていたので、夜中の怖い感じをダークに表現してみました。アルバムの始まりだし、夜の始まりでもあるので「これから楽しいことが始まる」という期待感も入れつつ、危険な匂いがする曲にしました。

──今作の中で一番THE PINBALLSらしい曲ですよね。

中屋智裕(G)

中屋智裕(G) 自分がファンだったらCDを買って1曲目がそんなによくなかったらそのあとあんまりその作品自体聴かなくなるので、1曲目はあんまりイメージを裏切りすぎないようにしたいなと思って。「1曲目にこういう曲があったらいいな」と思える曲になりました。

──タイトルの「アダムの肋骨」は、“イブがアダムの肋骨から生まれた”という聖書のエピソードにちなんで?

古川 諸星大二郎さんのマンガに「アダムの肋骨」というタイトルがあって、そこから取りました。イブ……女性のことをあえて「アダムの肋骨」と表現したそのタイトルがカッコいいなと昔から思ってまして。イブはアダムの肋骨から生まれた、だから人間は何かしらが欠けてるものだ、とかそういう考えも好きなので、歌詞はそこからインスピレーションを受けて書きました。

──続く2曲目「水兵と黒い犬」はかなりテンポの速い楽曲で。

古川 真夜中の時間帯を表す曲だったので、悪夢っぽい曲にしようと思って作りました。歌詞には特に意味はなく。

──タイトルや歌詞に出てくる「水兵と黒い犬」というのは?

古川 そこにも本当に意味がなくて。

──口なじみのよさを考えて、言葉をあてはめていった感じですか?

古川 そうです。僕はボブ・ディランの歌詞が好きで。例えば「When The Ship Comes In」って歌詞の意味とか全然わかんないんですけど、そういう右脳的な言葉使いが好きなんですよね。小説家だとJ・D・サリンジャーは、弟の髪の赤さを「今俺がゴルフボールを打つ瞬間にパッと振り返ったらそいつがちゃんと見守っててくれるだろうなって思った。そのぐらいあいつの髪の毛は赤かった」と表現してるんです。俺はそういう表現ができるミュージシャンでありたい。「水兵と黒い犬」はそういう歌詞にできたと思います。

──「水兵と黒い犬」という組み合わせから、それぞれいろんな風景や状況を想像できますしね。

古川 そうだと思います。なんとなく不吉なものとか怪しげなものとか、そういうものを感じる言葉なんじゃないかな。

──3曲目は「夜明け」という意味の単語「DAWN」がタイトルに付けられています。

古川 はい、「暁」です。僕、てっきり暁って空がオレンジっぽくなってきた時間帯だと思ってたんですけど、調べると暁はまだ夜が明ける前のことで。

石原天(Dr)

──古川さんはその暁の時間帯にどういうことを考えるんですか?

古川 不安なのかな……夜明け前が一番人間にとってしんどい時間なんじゃないかなと。「死にたい」とか思うこともあるし。

石原天(Dr) あー、なんかわかる。

古川 あとちょっとで夜が明けるのはわかってるんですけど、寒いし暗いし、日によっては「また1日が始まるのか……」っていう憂鬱な気持ちもあるじゃないですか。一番センチメンタルな時間な気がします。

次のページ »
新しい朝が始まる