THE PINBALLS|NAKEDからのDress up、大胆アレンジに挑んで見つけた「ストイックであり続ける理由」

M.3「毒蛇のロックンロール」

──「毒蛇のロックンロール」はバイオリンとギターの激しい掛け合いが加わりましたが、これはセッション形式で録音したんでしょうか?

中屋 うちら4人の楽器を先に録って、バイオリンは最後に入れてもらったんです。

──別々だったんですね。

中屋 バイオリンの方には「気にせずやってください」とお願いしました。

森下 「毒蛇のロックンロール」はみんな新しくアレンジしてみたかった曲なので、比較的早い段階で完成イメージを共有できたんです。

──ドラムのパターンもシャッフルを交えたものになっていて、これまでの演奏スタイルとは大きく異なる印象を受けました。

石原天(Dr)

石原 このパターンは中屋が打ち込みで用意してくれて。頭の中で叩き方を整理できたので、だいぶやりやすかったです。

──石原さんはほかの楽曲も、中屋さんが用意してくれたサンプルを参考にすることが多いんでしょうか。

石原 けっこう多いです。あとはどんな音を鳴らそうとしているか、みんなから事前に教えてもらうこともあります。ある程度想像できたほうがやりやすいので。

──一方で古川さんのボーカルは原曲に近い、パワフルな歌唱法を選んでいましたね。

古川 実はこの曲、どんな歌い方にするか一番悩んだんです。おっしゃる通り原曲に近い感じにしたかったんですけど、最近は強く張るだけが激しい歌い方じゃないという感覚もあって……強い音を出そうとするとき、逆に力を抜く感覚もあります。だけど原曲の自分の無茶な歌い方も好きなので、最初は原曲よりも無茶苦茶に力んで歌ってみたんですが、やっぱりそれよりも演奏と一体化するようなイメージで歌った方がうまくいきました。

──古川さんは昨年夏に喉の手術をされたので(参照:THE PINBALLS、古川貴之の喉の不調でライブ活動一時休止)、やはり歌い方も変わるのかな……と思ったんです。でも、喉を痛める前とまったく引けを取らないぐらい力強さが残っていて。

古川 よかった……。心配だったので、そう聴こえたのならめっちゃうれしいです。

M.4「沈んだ塔」

──「沈んだ塔」は冒頭にアコギのソロパートが追加されたほか、全体的にR&B風の、グルーヴの効いたアレンジが施されています。

古川 「Dress up」収録曲の中ではかなり変化した1曲ですね。

中屋 まず原曲からテンポを半分に抑えて、ギターフレーズももっとアコースティックな感じに変えました。このテンポなら原曲と同じフレーズでもハマるんですけど。

──このアコギの演奏はすべて中屋さん?

古川 僕は難しくて弾けなかったです……。

中屋 アコギを弾く機会が今まで全然なくて。ほかの曲でもアコギはかなりのテイク数を録りましたが、「沈んだ塔」が一番時間がかかったかもしれないです。

M.5「way of 春風」

──原曲はアップテンポでさわやかなムードの「way of 春風」ですが、今回のアレンジではシンセが入り、ノスタルジックな雰囲気が強くなりました。

古川 最初はグランドピアノとボーカルだけで録音したら素敵だったんですよ。「絶対コレだ!」と思ったんですけど……ほかのみんなから「いいテイクだけどロックバンドとしてはどうなんだろう?」と言われたんです。僕はそのテイクが間違いなく素晴らしいと確信していましたが、結局バンド編成でもできる時間もあるし、そちらでもやってみよう、ということになったんです。そうやって新たに録ったテイクがすごくよくて、最終的にバンド編成で演奏したほうを採用しました。やり直してホントによかったです(笑)。ぜいたくな時間の使い方でしたけど、2パターン試したうえで特にいいテイクを選べたので幸せでしたね。こんなふうに曲を完成させることってあんまりなくて。

森下拓貴(B)

森下 僕個人もやってみたいアイデアをすべて試せたので、その点はいい経験になりました。やっぱりアコースティックだと歪ませないほうがいいし、ベース本来の音を聴いて気付いたこともあったし。悩む時間も多かったんですけど、自分のプレイを見つめ直して、うまく昇華することができたと思います。

──具体的にどんな部分で悩んでしまったんでしょうか?

森下 新曲を作るときは「THE PINBALLSが演奏するんだったらコレが正解でしょ」みたいな感じで、ある程度完成イメージができあがっているんですけど、今回はすでに完成している曲を作り直すことになったので、これまでとは異なるスタイルを見つけないといけなかったんです。そこで悩んじゃいましたね。自分のスタイルを全否定する瞬間は何回もありました。

──森下さんにとってはかなりのチャレンジになったわけですね。石原さんはどうでした?

石原 そこまでは意識しなかったかな。でも「way of 春風」は正直ビビりながらレコーディングしたんです。その場で演奏の仕方をいろいろ試したんですけど、みんなが変わっていくから僕も変わらないといけない、みたいな気持ちになっていて。

古川 空気読みながらやってたよね。

石原 ちゃんと最適なものを出せるように、手探りながらもやり切りました。

──技術うんぬんじゃなく、空気を読んだら音が変わったというのもすごいですね……。

古川 彼、いいやつなんで。

M.6「DUSK」

──「Dress up」は大胆にアレンジしている曲が多いですが、「DUSK」は比較的原曲に近い感じでした。強いて言えばツリーチャイムが追加されている程度で。

古川 あの音が入るだけでもかなり雰囲気が変わりますよね。「DUSK」はほぼ原曲に近い演奏になった代わりに、ミックスでいろいろディスカッションしました。僕の中で「絶対にこれがいい!」という完成イメージがあったんですけど、それを突き詰めていくとロック色が強くなって、原曲とほぼ同じになってしまったんです。「これだと作り直す意味がないね」みたいに話し合って、この形に落ち着きました。個々の音を極端にいじってみたり、原音に近い形に留めたり、いろいろ実験できて面白かったです。

──逆にアレンジを大幅に変えた曲が多いからこそ、オリジナルに忠実な「DUSK」が際立つところもありますよね。

古川 はい。原曲の空気感を強く残している曲になったと思います。