THE PINBALLS|NAKEDからのDress up、大胆アレンジに挑んで見つけた「ストイックであり続ける理由」

M.7「悪魔は隣のテーブルに」

──「DUSK」に対して、「悪魔は隣のテーブルに」は相当ジャジーなサウンドに振り切っていました。特にサックスは冒頭からソロが入るだけでなく、ほぼ全編にわたって鳴っていて。

古川 このサックスも僕らの楽器を録り終えてから入れてもらったんです。好みが分かれるところだと思うんですが、僕としては「やるんだったら徹底的にいじってみたい」という気持ちがあったし、「えっ!」って驚いてもらえるほうが絶対面白いので。

──確かに聴いてみて「ここまで変わるのか!」という驚きがありました。

古川 AORっぱさもありますよね。ミックスのときはクリストファー・クロスみたいな洗練されまくったミックスも試してみました。それはそれでブッ飛んでてよかったんですけどね。ジャズというよりは都会的なムードとか、アダルトな雰囲気を意識しました。

M.8「アダムの肋骨」

──「Dress up」の後半ではブラス、ストリングスを前面に押し出した楽曲が増え、「アダムの肋骨」ではバイオリンがかなり加えられています。オリジナルは森下さんが黙々と弾き続けるベースラインが印象的でしたが、アレンジ版ではこのフレーズをバイオリンが弾いていたり、ボンゴが入ることでラテンらしさも感じられました。

森下 ベースのアレンジはレコーディング中いろいろ試したんですけど、その流れで肝となるベースのフレーズはどうするか考えたとき、「毒蛇のロックンロール」にも参加してくれたバイオリンの方に何かお願いしようって思い付いたんです。

中屋智裕(G)

──この曲の終盤にもバイオリンとギターの掛け合いがありますが、先ほど「毒蛇のロックンロール」は4人の収録が終わってからバイオリンを加えたとおっしゃってましたよね。中屋さんはある程度音を加えやすいよう、ギターの音数を減らしたりはしましたか?

中屋 意識的に空けたりはしませんでしたね。ギターがもう1本入る場合は帯域が重なってしまうので、ある程度調節しないといけないんですけど、バイオリンはギターよりも高域だからあまりぶつからないんです。そこまで気にしなくて大丈夫でした。

──リリース後に行われるアコースティックライブでは、今回レコーディングに携わったバイオリンやサックスの方も参加するんでしょうか?

古川 そうですね。

──アルバムでは別録りになったセッションがライブではどうなるか、楽しみですね。

古川 すごく緊張します……。セッションで、ロックバンドと演奏するのが楽しいと思ってもらえるようにがんばります。

M.9「劇場支配人のテーマ」

──「劇場支配人のテーマ」は歌詞に“ピアノ弾き”が出てくることもあってピアノの音が加えられますが、このピアノ、かなり激しいプレイですね。

古川 やっぱりピアノは入れたかったんです。「まともなピアノ弾きなんていないし」という歌詞が出てくるから、それがいい意味でプレイヤーへの刺激になってくれたのかな……なんて勝手に解釈しちゃうくらい、激しくて素晴らしいプレイでした。

──古川さんの歌詞は西洋のおとぎ話を彷彿とさせるものが多くありますが、「劇場支配人のテーマ」はまさにその1つだと思うんです。ピアノの音が加えられたことで、より楽曲の世界観にマッチしたムードが生まれています。

古川 ピアノは歴史のある楽器ということもあってか、ムードが出ますね。ピアノの音色の魅力を味わえる曲になったんじゃないかと。

──「劇場支配人のテーマ」はライブでも演奏される機会が多いだけでなく、アニメ「ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン」のEDテーマに使用されたこともあり、バンドの代表曲とも言えます。およそ5年を経て再びレコーディングしてみて、いかがでしたか?

古川 やっぱりライブでよく演奏している曲だから、僕らにとっても思い入れは強いです。3コードの曲なんですけど、自分としては3コードだけで曲を作ろうという意識があって作ったわけではなく、必要な音で作っていきました。それでよくよく振り返ってみたら、最初から最後までほとんどコードとしては3つで完結していたんです。

──なるほど。

古川 でも僕はボイシングが変われば違うコードや違う世界をイメージできると思うし、メロディとの兼ね合いでコードの印象は変わるじゃないですか。スリーコードで曲を作りきるっていうのはやっぱり大切というか、自分の強みかもって思いましたね。実際には3コードしか使っていなくても、自分にはいろんなコードを使っているように聴こえるのはこの曲の魅力なのかな。

M.10「ワンダーソング」

──「ワンダーソング」は「Dress up」の中では一番アコースティック色の強いアレンジが施されています。

古川貴之(Vo)

古川 もともと「ワンダーソング」は僕だけ演奏しようと思っていたんです。「Dress up」のコンセプトが決まったとき、アコースティックスタイルで演奏することを考えて、「何かできることはないかな?」と自分の弾き語り映像をTwitterに投稿していました。やっているうちにどんどん弾き語りが楽しくなってきましたし、やりたいイメージもたくさん湧いてきたので、最初は僕のソロ曲として録音したんですけど、ここでもやはり、「バンドとしてのアルバムだからバンドの音も入れてみたらどうだろう?」って意見が出まして。でもアコギの弾き語りならではのタッチがちゃんと残せたし、バンドが演奏してくれたほうがよりよくなりました。

森下 古川のソロ曲という認識だったから参加しないと思っていたんですけど、スタッフに「どうせならやりたいだろ?」と言われてね(笑)。

──中屋さんもギターで参加されていますが、どうでしたか?

中屋 古川はアコギですけど、自分はエレキで音入れしたのでそこまで大変ではなかったですね。さっき「ギターを重ねると音域が被る」とお話ししたんですけど、エレキとアコギなら案外大丈夫なんです。それにいつも古川と僕のギター2本で演奏しているんで。

──中屋さんと古川さんはギターを一緒に収録するとき、どんなふうにギターの重ね方を話し合うんでしょうか?

古川 僕はあまり臨機応変に変えられないタイプなので、先に録音したものを中屋に聴いてもらって、そこから彼が担当するフレーズを加えてもらいます。どうしても似たようなフレーズになってしまうときは中屋に別の進行を教えてもらったり、リフの担当を交換してもらったりします。

M.11「あなたが眠る惑星」

──そして「Dress up」の最後を飾る「あなたが眠る惑星」ですが、オリジナル版が収められたミニアルバム「PLANET GO ROUND」でもラストとなる曲でしたね。

古川 これはバイオリンを多めにして、ちょっとBPMを速くしました。「絶対原曲より速いほうがいい!」と思ったので、僕の意見を押し切らせてもらいました。

──スピード感のある楽曲が最後に入ると、うまく区切りが付きますよね。

古川 完璧にイメージ通りに作れましたね。ただ完成したあと、「速すぎたかな……」と思う部分もちょっとあって。「way of 春風」や「ワンダーソング」と違って自分の意見を貫いた分、責任も担う部分もあるので。そういう意味でも勉強になりました。

THE PINBALLSがセルフカバーをする意味とは?

──全曲振り返ってみましたが、「Dress up」は単なるアコースティックにとどまらず、ストリングスやブラスも加えられ、新たなサウンドを追求した1作になりました。これまでTHE PINBALLSの楽曲は極力シンプルにサウンドを仕上げ、純粋にメロディやフレーズのよさで勝負してきたバンドだと思っていたんですけど、「Dress up」ではこれまでとは違う新たな一面が楽しめました。

古川 今まではロックのマナーを守り、シンプルなパーツでいかに新しいものを作れるかを追求してきたんです。今回いろいろなアレンジを試してみましたが、その面白さを味わいつつ、改めてシンプルなスタイルを貫く意味を実感できたと思います。そういえば制作中、「SLAM DUNK」でワンマンプレイばかりだった流川楓がパスワークをするようになったエピソードを思い出して。仲間にパスすることで思わぬ効果が出ることもあるし、一方でここぞというときは自分で切り込んでいくことも大事で。そういうバランス感は意識できたし、今後も保ち続けたいですね。

中屋 あとはなかなか一緒に演奏する機会のない楽器の音をじっくり聴くことができたし、音楽理論でもさまざまな違いを知ることができましたね。コード進行やスケールの当て方って演奏する楽器、作曲者によって考え方が大きく違うので、その部分は特に勉強になりました。

森下 タイトルは「Dress up」ですけど、制作中はどちらかというと裸に近い感じだったんです。エフェクターをかけず、何も装飾しない音で制作したから。

──むしろ「NAKED」な感じだった。

古川 実は「NAKED」ってタイトル案もあったんだよね?

森下 そうそう。裸の状態から新たに装飾する……という意味では、「Dress up」というタイトルがすごくしっくりくる作品になりましたね。それに全楽曲オリジナル版からそのまま残されている要素があるので、別の人が演奏するトリビュートでは生み出せない、セルフカバーだからこその魅力も出せたと思います。

──石原さんはいかがでした?

石原 個人的なことになっちゃうんですけど、レコーディング中はパーカッションの方の演奏をずっと見てたんです。

古川 パーカッションのプロが参加していたことについて、石原にとってはいろいろ思うところはあったんだよね。

石原 そう。自分のドラムを入れる必要がなくならないか、けっこう不安で……。

古川 実は制作中、ピンチヒッターとしてそのパーカッションの方にリズムを当ててもらう機会があったんですけど、素晴らしいんですが、もう少しつたなさが欲しくなったりもして……以前は「もっとこうして欲しい」とかテクニカルなものを要求することもあったんですけど、やっぱり僕は石原のドラムが一番なじみますね。そういう意味では「Dress up」の制作を経て、この4人で演奏する意味が見つけられたのかもしれないです。

公演情報

Acoustic session Live "Dress up 2 You"
  • 2020年9月27日(日)兵庫県 クラブ月世界
  • 2020年10月3日(土)神奈川県 MOTION BLUE YOKOHAMA
THE PINBALLS