音楽ナタリー PowerPush - THE PINBALLS
初フルアルバムで「現代の侍」目指す
音楽の中だけでも夢や希望を精一杯提供したい
──個人的にはTHE PINBALLSはサウンドだけではなく、歌詞にも注目してほしいと思っていて。今回のアルバム収録曲はタイトルの付け方含めてどれも個性的で、改めて面白いなと思ったんです。なんかこう、現実的というよりはちょっとファンタジー寄りというか。捉え方によっていろんな解釈ができる歌詞だなと思います。
古川 そうなんですよ。僕が子供の頃、家がすごい貧乏で。小学校5年ぐらいのときに引っ越してるんですけど、そのときに中屋と出会ったんです。隣町に引っ越して転校したんですけど、顔見知りもけっこういたのもあって、恥ずかしくてあんまり学校に行きたくなくて。その頃からよく音楽を聴くようになって、L'Arc-en-Cielのアルバム「True」が超好きだったんです。超聴きまくってたんですけど、そのときに「音楽って超夢があるし、聴いてるとすごくいろんな風景が浮かんでくるし、すごく胸がキュンとするな」と思って。そこで音楽にすごく助けられたんです。
──音楽に勇気をもらったと。
古川 はい。そこから今度はBLANKEY JET CITYやthee michelle gun elephantを知って、「あ、こういうカッコよさもあるんだ」って気付かされて。どのバンドもすごく夢がある曲をやってるなと思ったんですよね。だから僕の作詞のベースには、そういった音楽の影響があるんです。
──ブランキーやミッシェルはなんとなく想像できましたが、ラルクも歌詞のルーツなんですね。すごく納得できました。
古川 僕、例えば歌詞に「少年ジャンプ」というフレーズが出てくる曲がすごく嫌いなんです。わかるんですよ、子供の頃からジャンプを読んで育ってきてるし。だけど僕は絶対にイヤ。ヒリヒリした現実感があってカッコいいと思うけど、絶対にやりたくないんです。僕はそういった現実感を忘れさせるために嘘をつきたいというか……本当はゲスな人間だろうが、音楽の中だけでも夢とか希望とかファンタジーとか、そういった世界を精一杯提供したいんです。不良やチンピラが車に乗って迫ってくるんじゃなくて、モンスターが空から飛んできてほしい。そういう歌詞にすごく惹かれるし、僕自身もそんな歌詞を提供していきたいんです。
刀を持たないアーティストが増えてる気がする
──中屋さんは古川さんの書く歌詞について、どう感じていますか?
中屋 僕は音楽っていうよりもギターが好きで。だからといってインストばかり聴いてるわけじゃないんですけど、「歌詞がいいな」「この言葉のチョイスは素晴らしいな」と思うアーティストはあまりいなくて。そんな中で、古川はその数少ない1人かなと。
古川 どうしたの、急に?
中屋 ふふふ(笑)。
古川 うれしいですね。じゃあ、その数少ないアーティストにはほかに誰がいるの?
中屋 ベンジーかな。
古川 なるほど、そこは一緒だ。あと僕は甲本ヒロトさんもすげえいいと思う。
──確かに今挙がったような人たちって、古川さん言うところの「歌詞に夢がある」アーティストだと思うんです。それこそヒロトさんなんてTHE BLUE HEARTS時代から現在のザ・クロマニヨンズまで、世界観がブレてませんし。
古川 僕、本当に浅井健一さんのただの信者なんでアレですけど、歌詞のすごさにおいてはヒロトさんががたぶん一番すごいと思っていて。ヒロトさんみたいな歌詞を書きたいんですけど、今回の作品でそこに肉薄できてるのは「まぬけなドンキー」なんじゃないかと勝手に思ってるんです。いや、それでも足元には及ばないか(笑)。ヒロトさんってときにファンタジーの世界に連れていってくれて、ときには破壊力のある言葉を投げ込んでくる。そういう意味では本物の詩人、唯一無二の存在なのかなと。で、浅井さんはまた別のところで言葉の切れ味やすごみを持っているのかなと思ってるんです。やっぱああいう歌詞を書けるようになりたいですよね。
──The Birthdayのチバユウスケさんもそのラインに入るかもしれないですね。
古川 確かに。でも先輩たちにはそういった人がけっこういるのに、最近は刀を持たないアーティストが増えてる気がするんですよ。
──刀、ですか?
古川 はい。最近はマシンガンを連発したり核爆弾を爆発させたりする手法が増えていて、侍みたいに刀1本で勝負する人が減ったなと。
──さっきの食事の例えで言うと、マシンガンや核爆弾がラーメン二郎の全部乗せで、刀が1杯のかけそば?
古川 まさしく。僕は侍になりたいし、切れ味の鋭い刀を手に入れたいんです。さっきも言ったように「まぬけなドンキー」って曲の歌詞はかなり切れ味鋭い気がするけど、まだちょっと鈍らなんですよね。「冬のハンター」もかなりいい感じだと思うけど、まだまだ全然切れ味が悪いし。今後はもっとこの刀を磨いていって、さらに切れ味鋭い刀を持った侍になりたいと思ってます。
自分たちが本物かどうかを証明していかなくちゃいけない
──さて、前作「ONE EYED WILLY」と今作「THE PINBALLS」を経て、THE PINBALLSにはさらに前進していくための材料がそろったと思うんです。あとはこの新作を持って、どう攻め続けるかですよね。
古川 そうですね。ここからはいかに自分たちが本物かどうかを証明していかなくちゃいけないわけですし。やっぱりライブでどれだけちゃんとできるかですね。
──実際、これまでにないタイプの曲も増えましたし、ライブはさらに広がりを持つんじゃないでしょうか。
古川 なんか面白そうなことができそうだと思ってます。インスト曲ではもっとみんなに踊ってもらったり、逆に僕がもうちょっと面白い動きをしてみたり。ただね、いかんせんカッコ付けてるバンドなので、あんまり砕けすぎてしまってもねえ。そこのさじ加減は難しいんですよ。でも最終的には言葉や演奏に説得力があって、楽しく過ごせたら最高ですよね。
収録曲
- カルタゴ滅ぶべし
- FREAKS' SHOW
- 冬のハンター
- way of 春風
- (baby I'm sorry) what you want
- 農園の婚礼
- 真夏のシューメイカー
- プリンキピア
- 漁船の唄
- fall of the magic kingdom
- 樫の木島の夜の唄
- まぬけなドンキー
THE PINBALLS "DONKEY KNOWS WHAT IS LOVE" TOUR
- 2014年9月20日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2014年9月21日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
- 2014年9月22日(月)愛知県 池下CLUB UPSET
- 2014年9月25日(木)東京都 下北沢GARDEN
- 2014年9月27日(土)福岡県 kokura FUSE
- 2014年9月28日(日)大分県 club SPOT
- 2014年10月13日(月・祝)大阪府 ミナミ地区(「MINAMI WHEEL 2014」への出演)
- 2014年10月18日(土)東京都 下北沢Daisy Bar(アウトストアイベント)
- 2014年11月23日(日)山梨県 KAZOO HALL
- 2014年12月6日(土)長野県 ALECX
THE PINBALLS "DONKEY KNOWS WHAT IS LOVE" ONE-MAN TOUR
- 2014年12月12日(金)愛知県 SAKAE R.A.D
- 2014年12月13日(土)大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
- 2014年12月20日(土)東京都 新代田FEVER
THE PINBALLS(ピンボールズ)
2006年に古川貴之(Vo)、中屋智裕(G)、森下拓貴(B)、石原天(Dr)の4人で結成されたガレージロックバンド。2010年、タワーレコード初のアーティスト発掘オーディション「Knockin' on TOWER's Door」にて、応募総数1006組の中から見事1位に輝く。2011年にはシングル「アンテナ」、ミニアルバム「ten bear(s)」を発表。その後も「TREASURE」「MUSIC CITY TENJIN」「MINAMI WHEEL」「SUMMER SONIC」など数々のフェスやイベントに出演し、知名度を高めていく。2013年11月、3rdミニアルバム「ONE EYED WILLY」を発売。翌2014年9月には初のフルアルバム「THE PINBALLS」をリリースする。