音楽ナタリー PowerPush - THE PINBALLS
初フルアルバムで「現代の侍」目指す
1曲目から順番に1年12カ月を表現
──先ほど古川さんが「アナログ盤で言うところのA面、B面を意識した」と言いましたが、アルバムの構成は以前よりもかなり気を遣った?
古川 かなり考えてました。実は今回は全12曲入りなんですけど、1曲目から順番に1年12カ月を表していて。
──曲タイトルや歌詞を読んで、なんとなく四季を感じさせるなとは思っていたんですが、アルバム全体を通して1年を表現していたんですね。
古川 そうなんです。4枚目のアルバムで12曲入りっていうところから、「四季」「12カ月」という1年の流れが思い浮かんだんですよね。1曲目「カルタゴ滅ぶべし」で1月が始まって、2曲目「FREAKS' SHOW」で2月……で、4曲目「way of 春風」で春が来る。そこからだんだん暖かくなってきて、6月に結婚式があって(6曲目「農園の婚礼」)農民たちがはしゃぐ、みたいな。
──じゃあ曲自体はそこを意識して書いたんでしょうか?
古川 再録曲が3曲あるのでそこに関しては「この曲はこの月かな」というふうに割り当てていきましたけど、ほかの新曲に関しては歌詞のどこかに季節の言葉を入れようって考えながら作ったものです。
──曲調もそれぞれの季節に適応しているというか。4曲目「way of 春風」の軽やかさはまさに春というイメージですし、アルバム中盤は夏ならではの弾けた印象もあります。そのへんも意識した?
古川 しました、はい。例えば冬が終わる3月(3曲目「冬のハンター」)以降、少しずつ希望が見えてくる構成は意識したので、そのへんは各曲に出てるんじゃないかと。「way of 春風」なんてきれいなメロディであったかい感じがありつつ、どこか切なさを感じさせて4月のイメージにピッタリだと思いますし。
「ラーメン二郎の全部乗せ」より「1杯のかけそば」
──サウンド面はどうですか? 前作には「泥臭いLOW」という裏テーマがありましたが、今作にはそういうテーマは?
中屋 あんまり作りすぎず、っていうことかな。今回レコーディングの時間がけっこうあったんですけど、録る前にいろいろ音を出して考えてもあんまりいいイメージにならなくて。だったらそんなに作り込まなくていいのかなっていう気がして、自然に出てくる音やフレーズに身を任せてみました。
──曲のバラエティが以前よりも広がったことに対して、難しさは特になかったですか?
中屋 そんなには……いつもそうなんですけど、最初に思ったことを極力優先させてるんです。あとあと「やっぱこうだな」とか「こっちのほうがいいな」とか思っても、最終的には最初に感じたことが正しいように思えて。なので今回も直感に任せた部分が多いぶん、そこまで難しさはなかったです。
──そうなんですね。あと収録曲のほとんどが2、3分台ですよね。中には「樫の木島の夜の唄」みたいに6分以上ある曲もありますが、曲の長さには意識的ですか?
古川 意識してるわけではないですけれども、やっぱり自分が好きだった60年代の音楽がそうであったように、短いものに近付いてるのかなとは思います。できあがってみるとだいたい同じような分数になるんですよ。聴き返して「短っ!」と思うんですけど(笑)。
──その感覚って4分前後の楽曲が中心のJ-POPシーンとは異なるものですよね。CDが主流となった今ではアルバムに15、6曲収録されて70分を超える作品も少なくない中、THE PINBALLSは12曲で40分ちょっとという昔ながらの作品を作っている。この事実が面白いなと思いました。
古川 無意識だったんですけどね。うちのメンバーはスッキリしてるものが好きっていうところが全員共通していて、短い曲を好むのもそういうところに通じてるんだと思うんです。例えばきらびやかな宮殿で流れてる音楽より、あばら屋とか空き家とか廃墟とか、そういう場所にピッタリな音楽が好きなんだろうなって。どこか空虚さがあってガラーンとしていて、何かが欠けてるものに魅力感じちゃうというか……食事で言えば「ラーメン二郎の全部乗せ」より「1杯のかけそば」に魅力を感じるみたいな(笑)。
──わかります、言わんとしてることは(笑)。豪華で全部そろってるものよりも、シンプルで素材のよさを生かしたものがいいと。
古川 そうですそうです! もしかしたらそれがタイム感とか曲調とかにも出てるのかもしれないという気はします。
もう一度この音楽が求められる時代が来ると信じてる
──料理で言うところの素材やダシで勝負できるのが、THE PINBALLSの強みだと確かに思います。
古川 というか、それしかできないもんなあ。頑固親父が「チャーシューなんか入れねえ!」とか「うちは素うどんだ!」とか言うみたいな(笑)。でも自分たちはそこを突き詰めていかなきゃなとは思っていて。だって今はすごいじゃないですか、皆さん。例えば女の子のメンバーがいるバンドなんてすごいきらびやかだし、音楽的にも新しいことをやってるし。それって……また料理に戻っちゃいますけど(笑)、油そばとかつけ麺とか、いろいろ面白いことやってると思うんですよ。そういうのを食べるのは好きなんですけど、自分たちがもともと好きで目指さなきゃいけないのは、そこではないなと。なるべくなら素うどんを出すような頑固親父になりたいですよね。
──その観点でいくと……実際若い世代に多いみたいですけど、味の強い食事を続けた結果、味覚障害に陥ることもあると思うんです。それって音楽に対しても同じことが言えるかもしれないなという気がしていて。
古川 ああ、そういう感じもしますよね。ていうか、今の若者ってすごくフレーバーが強い食事を好む感じがしませんか? 音楽も同じで、すごく刺激が強いものが好まれるというか。もちろんそれはいいと思うし、流行ってる音楽を否定するわけじゃないですよ。今流行ってる音楽もいいものだと思うし。でもそういう傾向は確かに感じます。そんな中で、自分たちみたいなバンドが今の若い人たちに求められているのかなとも思っていて。なんとなくですけど……もう一度、THE PINBALLSがやってるような音楽が求められる時代が来ると信じてるんです。ていうか絶対来ると思います、僕は。だって一番カッコいいと思いますもん、どう考えても。だけどその求められる存在は別に自分たちじゃなくてもいいんですよね、はっきり言って。
──いやいや、そんなこと言わないでください。
古川 もちろんこれからも続けますよ、この音楽が大好きですし。でもバンドをやるのが楽しいからずっとやりたいとはいえ、その時代の主流になりたいとはそんなに考えてなくて。そりゃ売れて音楽で食っていけたら一番いいですけど、でもなんだかんだ言って這いつくばって立ち向かっていくのってやっぱり楽しいんですよ。
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収録曲
- カルタゴ滅ぶべし
- FREAKS' SHOW
- 冬のハンター
- way of 春風
- (baby I'm sorry) what you want
- 農園の婚礼
- 真夏のシューメイカー
- プリンキピア
- 漁船の唄
- fall of the magic kingdom
- 樫の木島の夜の唄
- まぬけなドンキー
THE PINBALLS "DONKEY KNOWS WHAT IS LOVE" TOUR
- 2014年9月20日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
- 2014年9月21日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
- 2014年9月22日(月)愛知県 池下CLUB UPSET
- 2014年9月25日(木)東京都 下北沢GARDEN
- 2014年9月27日(土)福岡県 kokura FUSE
- 2014年9月28日(日)大分県 club SPOT
- 2014年10月13日(月・祝)大阪府 ミナミ地区(「MINAMI WHEEL 2014」への出演)
- 2014年10月18日(土)東京都 下北沢Daisy Bar(アウトストアイベント)
- 2014年11月23日(日)山梨県 KAZOO HALL
- 2014年12月6日(土)長野県 ALECX
THE PINBALLS "DONKEY KNOWS WHAT IS LOVE" ONE-MAN TOUR
- 2014年12月12日(金)愛知県 SAKAE R.A.D
- 2014年12月13日(土)大阪府 LIVE SQUARE 2nd LINE
- 2014年12月20日(土)東京都 新代田FEVER
THE PINBALLS(ピンボールズ)
2006年に古川貴之(Vo)、中屋智裕(G)、森下拓貴(B)、石原天(Dr)の4人で結成されたガレージロックバンド。2010年、タワーレコード初のアーティスト発掘オーディション「Knockin' on TOWER's Door」にて、応募総数1006組の中から見事1位に輝く。2011年にはシングル「アンテナ」、ミニアルバム「ten bear(s)」を発表。その後も「TREASURE」「MUSIC CITY TENJIN」「MINAMI WHEEL」「SUMMER SONIC」など数々のフェスやイベントに出演し、知名度を高めていく。2013年11月、3rdミニアルバム「ONE EYED WILLY」を発売。翌2014年9月には初のフルアルバム「THE PINBALLS」をリリースする。