ナタリー PowerPush - the HIATUS

細美武士が語るバンドの現在位置

「A World Of Pandemonium」の曲で自分がまだまだ伸びていける

──通常バンドの活動として、アルバムのツアーが終わったら、ひとつのタームに区切りが付いて、新たな作品へ向かっていくものだと思うんですけど、the HIATUSは11月からアルバムの世界をさらに発展させたホールツアーを行いますよね。これはつまり、4月に終わったツアーでアルバムが完結したわけではなく、もっと広げていきたいという思いがあったと?

インタビュー写真

そうですね。当初はリスナーやスタッフの一部から「音響のいい会場でじっくり聴ける『A World Of Pandemonium』ツアーを観てみたい」っていう声を聞いて、俺たちは無自覚に「あ、それ、確かに面白そうだな」って思ったから、11月のツアーを決めたんです。で、ほかのメンバーはどうかはわからないんですけど、自分の中でよくよく考えてみたら、それは「A World Of Pandemonium」の曲で自分がまだまだ伸びていけると無意識に思っているということでもある。でもそれは裏を返せば、リアルタイムでアルバムの曲を演奏しているときに曲の全てを表現しきれていないのかも、という思いなのかもしれない。それだったら、きっちり片を付けないと、次の作品を作る気にはならないんじゃないかなって。だから、アルバムともう一度向き合った上で、ハードルを上げてやってみようと思いました。

──そのハードルにあたるのが、チェリストでもあるanonymassの徳澤青弦さんがアルバムの楽曲全編にわたって施したホーンとストリングスのアレンジであると。このアイデアはずっと頭にあったものなんですか?

いや、最初はもっとライトな感じでしたね。そもそもの始まりは、2ndアルバムに「Insomnia」っていう曲があるんですけど、その曲で青弦くんにストリングスを入れてもらったんですね。で、「そのうち実際にストリングス入ってもらってやってみたいよね」とか「3rdの『Shimmer』も管弦とやってみたいね」とかっていう話になって、そこから「じゃあアルバムの曲を全部オーケストラ入りでやってみようか」っていう流れです。だって、せっかくいっぱい楽器を置いて、いろんなミュージシャンが参加してくれるんだったら、2曲とはいわずめいっぱい楽しみたいじゃないですか。だから、15人とか16人編成のバンドとしてやっちゃおうぜって。そこから、「だったら、その部分をドキュメント映像として撮っちゃおう」って思ったんです。

──しかも今回、手の内を先に明かすようにホールツアーで披露される15人編成のスタジオライブ映像と、そのアレンジ作業のドキュメンタリー映像が「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」という作品としてツアー前にリリースされます。これは非常に異例なことだと思うんですけど、この映像作品の位置付けというのは?

「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」という作品がthe HIATUSの最新作であって、11月からはそのホールツアーがありますっていうことですかね(笑)。でもよく考えたら、この作品に限らず新作アルバムをこういう形で発表することもできますよね……。まあ、やらないとは思いますけど(笑)。

──はははは(笑)。その説明を聞いて納得しました。しかし、音楽制作について詳しくない人にとって、ストリングスやホーンのアレンジというのは、通常のバンドサウンドにただ上から被せるだけのものだと思うかもしれませんが、本作を観るとそれが全てのパートを見直す緻密な作業だということがよくわかります。

そうですね。ストリングスやホーンのミュージシャンたちのことを、単に客演だとは思ってなくて、ストリングスやホーンも最終的にはバンドの一員だし、パートとしての差異はないんですよね。それは参加する全員の共通認識というか、一緒に演奏するというのは、つまりそういうことなんだと思います。

言語以外でコミュニケーションできるのが楽器の面白いところ

──3rdアルバムの「Souls」にボーカルで参加しているジェイミー・ブレイク(THE RENTALS)が、このライブ映像では4曲歌っていますよね。

どうせみんなでやれるなら、「Souls」はジェイミーと歌いたいと思って、作品への参加をオファーしたんです。今回のライブ映像は約3日間で撮ったんですけど、その間、1曲しか登場しないんだったら、彼女めっちゃ暇じゃないですか(笑)。だから、「やりたいと思った曲はいつでも、どの曲でもいいから参加して」ってお願いして、最終的に4曲に入ってもらいました。

──はははは(笑)。つまり流れの中で決まったことというか、セッション的な発想での参加ということなんですね?

でもミュージシャンって、基本的には「さあ、何やろうか?」っていうところでポンとやったことの積み重ねが作品になるものだと思うんです。やっぱり、言語以外でコミュニケーションできるのが楽器のすごい面白いところで、俺はまだまだひよっこなんですけど、みんな顔も見ずに音だけでしゃべりあったり、一緒に歌ったり、意思疎通ができてて、自分でもたまにそれができるとめちゃくちゃ楽しいですね。

──最後に、今後のthe HIATUSに関してはどのようなビジョンをお持ちですか?

そのときやりたいことを妥協せずにやれる場があるということはミュージシャンにとってすごく幸せなことだと思うんです。だから、今後もメンバーが楽しいことを100%でやっているんじゃないかと思います。来年も再来年もそれは変わらないでしょうね。

DVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」2012年9月12日発売 / NAYUTAWAVE RECORDS

収録曲
  1. Deerhounds
  2. Superblock
  3. The Tower and The Snake
  4. Souls
  5. Bittersweet / Hatching Mayflies
  6. Broccoli
  7. Flyleaf
  8. Shimmer
  9. Snowflakes
  10. On Your Way Home
  11. The Flare
the HIATUS(ざ はいえいたす)

現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、堀江博久(Key)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、一瀬正和(Dr)、伊澤一葉(Key)が参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。(9月12日より同アルバムのiTunes配信がスタート) そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDSへ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表。11月からは初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催する。