ナタリー PowerPush - the HIATUS
細美武士の歌いたいメロディ
昨年7月にリリースした「Horse Riding EP」で2011年発表の前作アルバム「A World Of Pandemonium」以降の新たな1歩を踏み出したthe HIATUS。彼らは「Horse Riding EP」リリース後の濃密なレコーディング期間を経て、約2年4カ月ぶりとなるニューアルバム「Keeper Of The Flame」をここに完成させた。エモーショナルなメロディと際立ったグルーヴ、シンセサイザーを生かしたエレクトロニックなアレンジメントが新たな地平を切り開く全11曲の音楽世界について、細美武士(Vo, G)は何を語るのか。
取材・文 / 小野田雄
いい旅だったと思う
──前作「Horse Riding EP」のリリースが昨年7月でした。その後のツアーや夏フェス出演などを経て、9月からアルバムの制作が始まったそうですね。「Horse Riding EP」のリリース以降何か変化はありましたか?
そうですね。「Horse Riding EP」のレコーディングでアルバム制作の予算をほとんど使ってしまったので(笑)、今回は今までみたいにバンドで集まってスタジオで曲作りができませんでした。だからアルバム用に書き足した8曲のうち5曲を俺が、3曲を柏倉隆史(Dr)が作って、それをバンドに持っていくような形で制作したんです。
──つまり今回の作品は、以前のアルバムとは制作プロセスから異なっていたと。ちなみにどの曲が細美さんで、どの曲が柏倉さんが作った曲なんでしょうか?
「Sunset Off The Coastline」「Interlude」「Roller Coaster Ride Memories」の3曲は隆史が原型を作って、アレンジに関しても彼がイニシアチブを取ってます。3曲ともメロディは俺に作らせてくれました。ちなみに「Interlude」はもともと隆史が「Roller Coaster Ride Memories」の前に1分くらいのインタールードを付けていたんですけど、「分かれてたほうが親切だよね」って話になって、2つのトラックに分けてできたものです。
──曲作りのプロセスの変化は、細美さんにどんな変化をもたらしたんでしょう?
2ndアルバム「ANOMALY」制作の後半くらいから、1人では曲を書けなくなっていたんですね。だからそれ以降はメンバーと一緒にスタジオに入って曲を作ってたんですけど。それで今回に関しては、予算の都合上そうするしかなかったとは言え、ひさしぶりに1人で曲を作ってみたら「あ、また曲が書けるようになってる!」って思って。その手応えは自分にとってすごい喜びでしたね。
──曲を作っているうちにエンジンが温まっていった感じですか?
うーん、そんな感じではなかったです。もちろん作曲し続けていたら、まだまだいい曲はできたかもしれないけど。でも曲を作るところまではよくても、そこからの作業にまたずいぶんと時間がかかるからね。
──具体的にはどういう作業に時間がかるのでしょう?
自分で作った曲のデモをバンドに持っていって、それをメンバー全員の演奏に置き換えていくんだけど、作業としてはアンサンブルを組み立ててから、また1回持ち帰って構成を完成させて、それから本チャンのレコーディングをやるっていう流れです。今年に入ってからは作業できる日数が限られていたので、プリプロと同時にレコーディングもしていきました。“アレンジが終わったらレコーディングも終わってる”って作り方でしたね。でも振り返ってみると、今回のアルバムの制作はいい旅だったと思うな。時間との闘いもあって大変だったけど、アルバムが完成したときの空気はすごくよかったから。
やりたいことをかなり形にできた
──本作はサウンドがエレクトロニックな方向に向かっているのが大きな特徴ですが、それは細美さんがパソコンを使って1人で曲作りしたことが影響しているんでしょうか?
プログラミングで曲を作ったからっていうよりは、俺が最近聴いてる音楽の影響のほうが大きいと思います。ドローンミュージックやグローファイだったり、ポストチルウェーブみたいな音響系を聴いているんですけど、ここ数年のインディーズシーンではほんとに面白い音楽がたくさん出てきてる。 去年はTeen Dazeっていうカナダのアーティストが特に気に入ってよく聴いてました。曲作りにしても音選びにしても、自然とそういう音楽の影響が出てるのかなって思います。
──ただドローンやグローファイというのは抽象性が高い音楽じゃないですか。歌っていて気持ちいいメロディを生み出そうと試行錯誤している細美さんの中で、“メロディ”という明確な音楽要素とアレンジの抽象性はどのように共存させているんですか?
リスナーとして聴いてるぶんには歌モノじゃなくても全然いいんだけど、でも自分の作品となると、やっぱり俺はボーカルだからね。自分の歌いたいメロディを作りたいっていうのが最初にくるんです。でも今回はメロディだけじゃなくて、アンサンブルにも明確なビジョンがあったので、アレンジの方向性がある程度わかるようなデモを作って、メンバーに提示しました。特に方向性にこだわってないときは「みんなに好きにアレンジしてほしい」ってすべてを委ねられるんだけど、今作はけっこう最初からはっきりとしたイメージがあった曲が多いです。
──アレンジの方向性がある程度わかるデモですか。
例えば“わかりやすく踊れるシンセベースを入れておく”とかなんだけど、あんまりがっちり作り込みすぎるとそれぞれのメンバーの発想にフタをしてしまうので、そのさじ加減も考えました。その結果なのかはわからないけど、今回のアルバムはやりたいことをかなり形にできました。いろんなアイデアを試せたし、ほかのバンドでは聴けないような音の組み合わせもあるし。
──そういったアイデアを具現化するにあたって、今回の作品は細美さんのコンピュータによるプロダクションの精度が飛躍的に上がっていることも大きいのかな、と。
そこはまだまだこれからですね。ソフトシンセは新しいおもちゃっていうか、新しい楽器の1つとして面白いなと思ってるし、自分の出したい音、聴きたい音を作ることができるのは最高に気持ちいいけど、まだ時間がものすごくかかる。今は趣味みたいになってるから、今後もずっとやっていくんじゃないかなと思います。
- ニューアルバム「Keeper Of The Flame」 / 2014年3月26日発売 / 2520円 / EMI RECORDS / UPCH-20338
- 「Keeper Of The Flame」
収録曲
- Thirst
- Something Ever After
- Unhurt
- Horse Riding
- Sunset Off The Coastline
- Interlude
- Roller Coaster Ride Memories
- Tales Of Sorrow Street
- Waiting For The Sun
- Don't Follow The Crowd
- Burn To Shine
the HIATUS(はいえいたす)
現在活動休止中のELLEGARDENのフロントマン・細美武士を中心に結成され、ウエノコウジ(B)、柏倉隆史(Dr)、masasucks(G)、伊澤一葉(Key)らが参加するバンド。2009年4月にパンクロックフェス「PUNKSPRING 09」で初ライブを披露し、同年5月に1stアルバム「Trash We'd Love」をリリースした。その後もオルタナティブ、アートロック、エレクトロニカへ傾倒しつつジャンル不問の新しい音楽を追究。2011年11月に3rdアルバム「A World Of Pandemonium」が発売される。そして2012年9月にレーベルをNAYUTAWAVE RECORDS(現EMI RECORDS)へ移籍し、「A World Of Pandemonium」にストリングスとホーンアレンジを加えたスタジオセッションドキュメンタリーDVD / Blu-ray「The Afterglow - A World Of Pandemonium -」を発表し話題を集めた。同年11月からは、総勢17人編成で全国を回る初のホールツアー「The Afterglow Tour 2012」を開催。この東京公演の映像を収めたライブDVD / Blu-ray「The Afterglow Tour 2012」と、ライブ音源を収めた同名のライブアルバムを5月に同時発売した。7月には約1年8カ月ぶりの新作CD「Horse Riding EP」をリリースし、2014年3月に約2年4カ月ぶりのフルアルバム「Keeper Of The Flame」を発表した。