ナタリー PowerPush - ドレスコーズ

志磨遼平が仲間と挑む 小さなロックバンドの新たな挑戦

志磨遼平(ex. 毛皮のマリーズ)率いる4人組ロックバンド、ドレスコーズがついに本格始動を果たし、7月11日に1stシングル「Trash」をリリースする。ナタリーではこれを受けて、バンドメンバー4人にインタビューを行い、いまだ謎に包まれたバンドの全貌に迫った。

取材・文 / 宇野維正

ちっぽけな若者たちが世界を変える

──今作の資料の「1stシングル発表によせて」という文章の中で、志磨さんは「私が挑戦すべきことはすでに決まってました。また同じように小さなロックンロール・バンドを結成すること。そしてその幸せを、バンド全員で、丹念に味わうこと」と書かれてますよね。

志磨遼平(Vo) そうですね。いつも長々と解説のようなものを書いてしまうんですよ(笑)。

──毛皮のマリーズの解散発表があったとき、志磨さんがソロになる可能性が頭をよぎった人もいただろうし、名前の知られたプレイヤーを集めてスーパーバンドみたいなユニットを立ち上げる可能性を考えた人もいたと思います。でも、この「小さなロックンロール・バンド」という言葉に、志磨さんの思いが込められているんだろうなって。

志磨 くだけた言い方をするなら、ポッと出たロックンロールバンドが一番カッコいいと思うんですよ。やっぱりロックンロールのテーマっていうか、テーゼっていうのは、弱きが強きをくじくみたいなところにあるじゃないですか。ちっぽけな若者たちが、ロックンロールバンドを組むことによって、ものすごく大きな力やマジックを持って、世界を変えてしまうっていう。自分はそこにドラマを感じるから。とは言え、このバンドは僕にとっては間違いなくスーパーバンドなんですけどね。本当にすごいバンドになるか、それとも何も噛み合わないか、そのどっちかしかないだろうなって思っていて。結果、こうして作品が完成したということは、目論見が大成功したということです。

──毛皮のマリーズの終わりの頃に、「ロックバンドのサウンド自体が聴けなくなった」みたいなことを言ってましたよね。その流れから普通に考えると、ソロになるという選択肢もあったんじゃないかと思うんですけど。

志磨 これを言葉にするのはとても難しいんですけど……僕はものすごくコンプレックスや憧れが強い男だから、いつか本物になりたいという気持ちがあるんですよ。そこで、自分の欲望みたいなものを全て具現化するためには、自分1人じゃなくてバンドを組むことが必要で。まさに毛皮のマリーズはそのためのバンドで、僕個人の欲望みたいなものを、残りの3人が具現化するためのバンドだった。何かわからないけれど何かになってみたい若者3人に、僕の言うことを全部聞いてくれたら何かになれるかもしれないと説いて、契約したようなものだったんですよ。

──志磨さんは(ブルースの有名な伝説で言うところの)クロスロードに立つ悪魔のポジションだったわけですね?

志磨 そうそうそう。だから、そのあとにソロをやったとしたら、それは僕にとっては毛皮のマリーズの継続ということにしかならなかったと思います。でも、やっぱり僕には、いつか本物になりたい、いつか本物のミュージシャンが集まったグループの一員になりたい、っていうコンプレックスや憧れがずっとあって。だから、このドレスコーズというバンドは僕にとって、自分が本物やって思う人たちの一員にがんばればなれるかもしれないっていうチャレンジなんです。この人たちと横に並べるのか、僕にはその資格や素養があるのかっていう、それを試したかった。

志磨に誘われなければ今もバンドはやってない

──メンバーの皆さんとの、それぞれの出会いについて訊いていきたいんですけど。丸山さんとの再会がこのバンドの1つのキーになってると聞いたんですが。

志磨 昔、別のバンドでツアーを一緒に回ったことがあるんですよ。僕は23くらいで、彼はまだ19とかで。なんか、一目でそれとわかる才能ってあるじゃないですか。まさにそういう人だったんですよ。自分のバンドのメンバーじゃないから、半分冷やかしみたいに、「あいつはなんやろうね?」って(笑)。今日はこんなことしでかして、明日は全然違うギターを弾いて、毎日一緒にいるとわかるんですけど、普通の人のひらめきだったりスキルでは絶対到達できない地点みたいなところに、その頃から立ってた。

──でもここ数年、丸山さんはバンド活動をしてなかったんですよね?

丸山康太(G) ちょっと疲れちゃってっていうのもあって……。たまにセッションに誘われたときに、ちょっと弾いて、みたいな。

──今作「Trash」に収録された3曲を聴いただけでも、丸山さんのギターのバックグラウンドにあるものの底知れなさっていうのは伝わってくるんですけど、一体どこで培われてきたんでしょうか?

丸山 最初は全部フィーリングでやってたんですけど、それに行き詰まっちゃったところがあったんですね。で、一度基礎からやり直そうって思ってギター教室に通って。バンドはやりたいけど、それと並行してギターの修行みたいなことをするのは違うなと思って。

──ストイックですね。

丸山 そういうギター弾きの在り方に憧れてるところがあって。もし声をかけてくれたのが志磨くんじゃなかったら、きっと今もバンドはやってないですね。マリーズと一緒にツアー回ってたときから、話が合うし、一緒にやりたいなと思ってたけど、この人にはマリーズという世界があるからって。メジャーに行ったときは、ちょっと寂しかった。遠く行っちゃったなあ……って。

──じゃあ、昔から相思相愛だったわけですね。

志磨 言葉の少ない人だから、ツアー中の車中とかで、ぽつりぽつりと話すようになったんですけど。若いときって時間がすごくあるから、本を読んだり音楽を聴いたりして、それが変な自分のプライドみたいなものになったりとかして、ややこしいじゃないですか(笑)。だから、こんなに自分と似た趣味っていうか、感性や美意識を共有できる人がいるんだってことに驚いて。

1stシングル「Trash」 / 2012年7月11日発売 / 日本コロムビア

CD収録曲
  1. Trash
  2. TANGO,JAJ
  3. パラードの犬
初回限定盤DVD収録内容
  • PV+メイキング
ドレスコーズ

志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースする。タイトル曲「Trash」は映画「苦役列車」主題歌に起用された。