ナタリー PowerPush - ドレスコーズ

志磨遼平が仲間と挑む 小さなロックバンドの新たな挑戦

マリーズ渋公ライブの打ち上げで「次が最後になる」

──菅さんとは、毛皮のマリーズ時代にも一緒にやったことがありましたよね。

志磨 そうです。去年の4月の渋谷公会堂のときに菅さんに(ドラマーとして)手伝ってもらって。その打ち上げのスタッフとメンバーがいる場で、次のアルバムが最後の作品になると自分が思ってることを話したんですね。これはほかのところで言い忘れたからここで言いますけど、なんでその場で言ったかっていうと、すごくそのコンサートが良かったからなんですよ。ダウナーなときにそういうことは言いたくなかったので、すごくいい日だったからそこで言おうと思ったんです。で、帰り道が菅さんと一緒で、そのタクシーの中で、「さっきはえらいこと言っちゃいましたけど、もし良かったらいつか一緒にバンドをやりましょう」ってことを伝えて。

菅大智(Dr) 帰りのタクシーでいきなりそういうことを言われて(笑)。そのときは、マリーズやりながら、ちょこっと暇があるときにスタジオ入って遊ぼうくらいのことかなって受け止めてたんですけど(笑)。9月にラジオで本当にマリーズの解散の発表があって、そのときは正座をしながらラジオを聴いてて(笑)。で、メールをしてみたら、今度会いましょうということになって。

志磨 そう。やるならすぐにやりましょうよって言って、もうギターは目をつけてるんですよって。同じ頃、丸山くんにはドラムはもういるんですよって確証も得てないのに言ってて(笑)。

──最後に合流されるのが山中さんで。山中さんはQomolangma Tomatoを辞めたあとも、バンド活動をしてたんですよね?

山中治雄(B) そうですね。一応、活動はかなり緩やかながらバンドはやってたんですけど、僕も丸山くんと一緒で、感覚のみでそこまでやっきてたから、一度ちゃんと音楽の勉強をしてみたいなと思って、学校に通ったりしてたんですよ。

ロックンロールはわがままなもの

──志磨さん的には、眠れる才能たちがこんなところに埋まっているという。これは外の世界に引き出さなくてはいけないという使命感があった?

志磨 いや、使命感っちゅうのはおこがましいですね。彼らの才能は怖いものでもあるんですよ。僕なんかが歯が立たない才能で、自分がバンド組みましょうよって言ったのに、僕がおいてけぼりになって、この3人ですごい高みに上っていくことだって全然あり得ることなんです。そこで僕がフェイクやったら一巻の終わりっていう。自分にとって、このメンバーを揃えたっていうのは、自分がこれから音楽を本当にやるのかやらんのかっていうのと同義で。それが今、こうして動き始めたということなんです。

──ロックミュージシャンの中には、ロックンロールとかロックって言葉をよく口にする人としない人がいますよね。で、志磨さんはよく口にする人で。そういう人の中でも、志磨さんの言っているロックンロールって、他の人が言ってるロックンロール原理主義的なものとはかなり違うもので。志磨さんの中だけのロックンロールっていう定義があって、ドレスコーズはまさにそれを鳴らしてるんじゃないかと感じたんですけど。

志磨 まず、ロックンロールっていうのはすごく主観的なものだから、定義としては僕が関わらないものはロックンロールにあらずで(笑)。僕が歩いて、生きて、ごはん食べて、毎日ニコニコ過ごすこと、この全てがロックンロールなんです。僕以外の人がやっている音楽はロックンロールでなく、この「Trash」に入ってる3曲こそがロックンロールであると、僕はここで主観的に定義することができるわけです。

──それは正しいとか正しくないとかではなくて、主観的である以上、絶対的な真実ということですね。

志磨 はい、「絶対そうなの!」っていう。ロックンロールはそういうわがままなものなんです。

このバンドで全てを手に入れようと思ってる

──メンバーの皆さんは、このドレスコーズでどんなことを実現したいと思ってるんでしょうか?

丸山 こういうふうになりたいっていうのは、あんまりなくて。なぜないかって言うと、もう既にこのメンバーで集まってやってることで十分なんですよね。だからあとは目の前に来た何かをじっくり見て、匂いを嗅いで、それを味わっていくことが目的ですね。

山中 僕もそういうのは別にないんですけど……なんだろうなあ……なんか、瞬間的なものにしかあんまり興味がなくて、そういう身の毛がよだつような瞬間が、たまにでもいいんで、このバンドであるといいなあって。

 自分はラーメンが大好きなんですよ。ラーメン屋さんって毎日同じ味で作ってすごいなと思うし、今日は麺の具合が悪いから閉めますみたいな店もあって、そういう頑固なのもいいとは思うんですけど。一方で、毎日違う味でもいいじゃない、たまにパスタがでたっていいじゃないっていう、そういうバンドを目指したいなって思いますね(笑)。

志磨 まあ、ラーメン屋の例えはわかんないけど(笑)、みんなと気持ちは一緒です。僕らはこのバンドで、形のないものも、形のあるものも、全てを手に入れようと思ってるんです。僕、形のあるもの、それこそ盾とかトロフィーとかも欲しいんですよ。ああいうの1回ももらったことなくて。本当に無冠で、帝王でもないから、無冠の帝王でもないっていう(笑)。その一方で、この4人で本当に真剣に練習したあとに、ぽそぽそっと交わした言葉とかから、今の僕らはすごく正しい場所にいるなあって思ったりするんですよね。音楽も素敵ですけど、そこで交わす言葉も素敵で、その両方があるから、すごく意志の疎通が潤滑なんです。どんなにおべんちゃらを言っても演奏が駄目だったら嘘になるし、音楽だけで不安な時はちょっと4人でお茶をすればいいし。だから今、すごい幸せなんですね、毎日が。そういう意味では、目標とか希望みたいなものはもう叶っちゃってるし、これが続けばいいなあって思っていて。その上で、もらえるものは全部くださいっていう感じです。

──例えば、この4人が到達した場所がすごくハイブロウなものになってしまって、みんながついてこられなくなっちゃうんじゃないかっていう心配はありませんか?

志磨 そういうことはね、たまにありますね。それであとから反省したりもするんですけど。ただ、いろんな人がいろんな言葉を使って言おうとするけど、芸術だったり、人間の尊厳だったり、生きる意味やったり、何が本当で何が余計なものかっていうのは、本当は瞬間で嗅ぎとれるものだと思うんですよ。自分は、それを瞬間的に嗅ぎとれる人になりたい。「これは嘘」「これだけが本当」っていうのを、すぐに見分けられる人になりたい。

──本当のものであったら、絶対に聴き手を置き去りにするようなことはないっていうことですよね。そこの見極めができれば、どんなにマニアックでわけのわかんないことやっても、必ず多くの人に響くはずだと。

志磨 そのとおりです。そして、このドレスコーズというバンドの役割というのは、そういうものかもしれないって思います。

1stシングル「Trash」 / 2012年7月11日発売 / 日本コロムビア

CD収録曲
  1. Trash
  2. TANGO,JAJ
  3. パラードの犬
初回限定盤DVD収録内容
  • PV+メイキング
ドレスコーズ

志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施。同年2月に山中が加入し、現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースする。タイトル曲「Trash」は映画「苦役列車」主題歌に起用された。