水モノ好きなんですよね
──「太陽の花」は、曲を聴いてどういうイメージで歌詞を付けたんでしょう?
松田 最初のデモを聴いたときから、イントロのシンセの音がずっと耳に残っていて。僕はイントロのシンセが聞こえてきた瞬間に、雅さ、艶やかさ、花びらがふわっと散っていくところにグッとくると感じられるような和の心、そういうものを感じたんですね。あとは壮大な宇宙のようなテイスト。そういうイメージと、THE BACK HORNが今まで歌ってきた「一緒に日々を生きていこう」というメッセージがうまく混ざる歌詞になったらいいなと思って書きました。
山田 ほぼ情景描写で成り立ってるのに熱さを感じさせる歌詞が書けるのがすごいと思いました。なおかつ最後の大サビの「君が 君がまだ 辛いなら 何度でもこの手伸ばすから」のところだけ、やっと自分の気持ちが出るのが一番熱い。それまでずっと風景ばかり描写していたのに、いきなり演奏している側の心にフォーカスがバチッと当たって。気持ちを爆発させましたね。
松田 確かにここの歌詞は、どういうシーンを描くかは話し合ったよね。映画で言うとスポットをどういうふうに当てるのか。あとは最初の「命は燃え上がる太陽だ」というフレーズが生まれたときに、これはいい物語の始まりになるなと思いました。そこが最初に見えたときに、この曲の行き先がわかった気がしましたね。
──ミュージックビデオもすごいですよね。花びらの量もすさまじかったし、山田さんは後ろからバシャバシャ水をかけられて。
山田 あれは興奮しましたね。水モノ好きなんですよね。光舟と栄純が激しく動いてくれたので、最初のテイクでずぶ濡れでしたからね、俺。
松田 最初に曲を聴いてイメージした花びらがふわっとスローモーションで舞う感じが、ミュージックビデオではよりライブ感を増したというか。演奏しているみんなの力強さと共に、花びら自体もエネルギーを持って熱く降ってくる感じなんですよね。いいMVだと思います。
そっと寄り添う応援歌
──10曲目の「果てなき冒険者」は山田さんが作曲、松田さんが作詞したロッカバラードです。
山田 ずっとLogic Pro(DAWソフト)の中に原形が保存してあって、すごくいい作品だからいつか出そうと思ってたんですけど、本当はこのアルバムのタイミングで出すつもりじゃなかったんですよ。でも、曲のデモを出し合っているときに、みんなバンバンいい曲を作ってきたんで、「よし、ここで出してやろう」と思い直して。本来この曲調は栄純からの1人3曲の曲調のオファーにはなかったんですけど、たぶんこの王道なロッカバラードだったら絶対いいところにストンと置けるだろうと思って持っていきました。
──ピアノやストリングスも最初から入っていたんですか?
山田 そうですね、最初から両方あって。曽我(淳一)さんに鍵盤のアレンジをしてもらったんですけど、曽我さんのアイデアでイントロの鍵盤をピアノからエレピに変えた瞬間にコード進行との相性がよくなって、アーバンな感じになったんですよ。都会の中で生きていく人たちの絵が浮かぶような。それがマツの上げてきた歌詞とぴったりでしたね。
──松田さんはどういうイメージで?
松田 聴いている人たちが「よし、明日からまたがんばろう」と思える曲っていろいろあると思うんですけど、そっと聴き手に寄り添うような歌詞を書きたいなと思って。心のどこかであきらめ切れない夢や目標がある、でもまだそこにも行けない、そして毎日同じサイクルが繰り返されていく、そういう思いを抱えたまま生きてる人ってたくさんいるのかなと思って書きましたね。
山田 マツが同世代の人を応援したいって言ってたんだよな。
松田 そう、応援できる歌詞を書きたいって。もともと、この曲に限らずアルバムの中でそういう曲を書きたくて模索していたんですけど、たまたまこのオケが将司から出てきたときに、ひょっとしたら応援の仕方が最初にイメージしていたものと違うかもしれないと思って。最初はもうちょっと熱めなのを自分の中で想像してたんですよ。「まだまだ行こうぜ!」みたいな。
山田 最初「鎖」という案もあったんですよ。俺が「鎖」のオケを作ったときにマツがそれを応援歌として歌詞を付けるという話もあったんですけど、「果てなき冒険者」のほうがいいんじゃないかという話になりましたね。グッと引っ張って応援していくより、そっと後ろから支えてあげるような応援の仕方が、マツの水彩画のようなタッチの描き方と合うんじゃないかって。
21年目もまだまだ行くぜ
──ラストを飾る「アンコールを君と」の作詞は松田さんですね。この曲を聴いたとき、山田さんの言葉としてスッと入ってきたので、松田さんが作詞と知ってちょっとびっくりしました。
松田 確かに将司が歌っているイメージはありましたね。ライブで僕らが演奏していて、お客さんがそこにいるイメージをして書いたので。特に「また生きて会おうぜ」という言葉は……。
──山田さんがライブのラストにお客さんと交わす言葉ですもんね。
松田 そうそう。最初から将司にこの言葉を歌詞に使いたいと伝えて。アニバーサリーツアーや武道館を経て、そういうライブの光景が見える曲が最後にわかりやすくあると、アルバムとしてもいい終わり方になるんじゃないかなと思ってみんなに提案させてもらいました。
──THE BACK HORNは「何があっても生きていこうぜ」ということを歌っているバンドだと思うんですけど、バンド自身もお客さんも生きてきたことを確かめ合う場所がライブなのかなと改めて感じました。
山田 まさにそうですね。
──そういうことを、より一層強度が増した形で提示しているのが今回のアルバムなんだなと。
松田 そうですね。この曲は本当に最後の最後にできた曲で、もともと栄純が提案した9曲にはなかったんですよ。楽曲の中から聞こえてきた言葉を吸い上げて歌詞にしたらこういうメッセージになりました。そういう意味で、今回僕が歌詞を多くやらせてもらったというのは、このアルバムがどういう方向に行きたがっているのかを吸い上げる大事な役目も担わせてもらったのかなとも思いますね。
──そう思います。
松田 「THE BACK HORNは21年目もまだまだ行くんだぜ」っていうのを感じてもらえるアルバムにしたかったし、実際そういうアルバムになったんじゃないかな。
──アルバムタイトルの「カルペ・ディエム」はどういうところから付けたんでしょうか?
松田 最初に栄純が「今を掴め」のような熱い言葉がこのアルバムには合うんじゃないかという話をしていて、自分の中でもそこに付随する面白い言葉はないか探していたんですよ。それでいろいろ探していたときにローマ時代のホラティウスという詩人の言葉で「Carpe diem」というものがあって。「その日を掴め」という意味で、「今さえよければそれでいい」みたいにネガティブに捉えられることもあったらしいんですけど、「日々を越えて未来をつかんでいくための今だ」という解釈もあるみたいで。それがTHE BACK HORNが今までずっと歌ってきたテーマ、THE BACK HORNの存在自体とも合致するということでこのタイトルになりました。
──最後に、11月から始まるツアーへの意気込みを聞かせてください。
山田 「また生きて会おうぜ」という気持ちは常に持ちながらライブをやっているし、お客さんを楽しませることは大前提として、それ以上にどう引きつけていくか。21年目を迎えた俺たちが、飽和するまで気持ちを高めてライブをするので、そこで生み出されるものすべてを楽しんでほしいですね。
松田 20周年のアニバーサリーライブでは僕らがみんなに対する感謝の気持ちを伝えたし、みんなが思い思いのTHE BACK HORNを新たに発見してくれた部分もあったと思うんですよね。そこがお互いのことを確かめ合う場所だったとしたら、このツアーはまた新たな出発だと思うので、この「カルペ・ディエム」というアルバムの楽曲を通じてそんな旅立ちの場所になったらいいなと思いますね。