菅波栄純岡峰光舟インタビュー

21年目のスタートを飾るアルバム

──アルバムの初回限定盤には、2月に行われた日本武道館公演の模様を収録したBlu-rayもしくはDVDが付属します。まず最初に、武道館公演の振り返りから聞かせてください(参照:THE BACK HORN、ファンと共に20周年祝福した3度目の武道館)。

菅波栄純(G) 武道館は20周年企画の集大成のような位置付けのライブだったんですけど、かなり高い完成度で演奏できた自負がありますね。何より、ふとお客さんを見たら泣いている人もいたんですよ。演奏している曲に感情を移入しているというよりは、おそらくいろいろな思い出が頭を巡ってあふれている涙のようにも見えたし、本当に感動的なライブだったと思います。

岡峰光舟(B) 武道館公演は自分たちがやったというより、お客さんとTHE BACK HORNの曲たちにやらせてもらえた感じがありましたね。そもそも20周年を迎えることができるようなバンドじゃなかったですから。昔は最大限未来のことを考えても1年先がやっとだった俺たちがここまで来られたのは本当にありがたいことだし、そのことを噛み締めながらライブしました。

──アルバムを聴いて、武道館公演のテンションが音に表れているようなライブ感を感じました。それだけでなく、新しさを感じられるアルバムでもあって。制作はどういうところからスタートしたんでしょうか?

菅波 まさに制作は武道館公演が終わってから取り掛かったんですけど、武道館まで走り切り、全員が21年目のスタートのアルバムだから気合い入れていこうという気持ちになっていましたね。それで、最初の打ち合わせに俺が企画を持って行ったんですよ。俺と光舟と(山田)将司が1人3曲ずつ曲を書いて、マツ(松田晋二)は俺たち3人が書いた曲のうち1曲ずつに歌詞を付けよう。まずはそれでアルバムのベースとなる9曲を考えようって。

岡峰 栄純からけっこう細かく曲の指定があって。俺の場合だったら“16ビートのベースでグイグイ引っ張っていくスラップの曲”とか。

──スラップの曲と言うと「フューチャーワールド」ですね。

菅波 オーダーにしっかり応えてますよね。これが光舟から上がってきたときにびっくりしました。「おーきた! これこれ」って。

岡峰 違うって言われてもびっくりするわ。これやれって言ったじゃんって(笑)。

──あははは(笑)。この曲、イントロやアウトロにはもちろん、山田さんの平歌の裏でもガンガンにスラップが入っていてびっくりしました。普通ボーカリストが歌っていたらちょっと引いたりすると思うのですが……。

岡峰 俺も最初そう思って歌の裏ではバッキングをやっていたんですけど、そしたら栄純が「いやいや、スラップで飛ばせ」と言ってきて。

菅波 言ったね(笑)。今回まず始めにそれぞれに曲を振り分けたので、1人ずつの作業になっちゃうとバンド感が出ないと思って。だからお互いに途中経過を見せ合って、みんなで意見を出しながら作るようにしたんですよね。

左から菅波栄純(G)、岡峰光舟(B)。

──歌詞に関して言うと、「胡散」(2015年発売のアルバム「運命開花」に収録されている岡峰の作詞曲)と同じ雰囲気というか。現代社会の状況とリンクした歌詞になっていて、そこに岡峰さんらしさがある気がしました。

菅波 そうそう、俺も「胡散」路線だと思った。子供の頃にマンガやアニメで観ていた未来を追い越しちゃってる、みたいな曲なんですよ。俺たち的には大友克洋さんの「AKIRA」だよね。2019年はもう「AKIRA」の舞台になっている年なんで。

岡峰 昔描かれていた空想の中の未来では、もう便利なことがいろいろあって何不自由ない暮らしを送ってるはずなのに、なんでこんなに追い詰められてるんだろうと思って。「俺たちなんか取り残されてる」ということに気付ければという歌詞になりましたね。

菅波 言葉の使い方もユーモアがあって面白いんですよね。「毎日が地獄です」とか。

岡峰 それは栄純の親父リスペクトだよ。

菅波 ははは(笑)。

──どういうことですか?

菅波 うちの親父、もう亡くなってるんですけど「毎日が地獄です」というTシャツを着た写真が遺影なんですよ。そのTシャツは、長野にある地獄谷温泉って観光名所のお土産屋さんで買ったやつで。しかも遺影用の写真は親父が病気してから撮ったんですけど、「けっこうセンスいいよな」という話をだいぶ昔に光舟としていて。それが歌詞に入ってきたときにびっくりしましたね。「出してきたなこいつ」って。歌のメロディと言葉がちゃんとリンクしてるし。

「We Will Rock You」をイメージしたはずが

──アルバムの冒頭を飾る、菅波さん作詞作曲の「心臓が止まるまでは」はTHE BACK HORNの新しい一面を感じました。イントロの金管系のシンセやピアノなど、4人が演奏する以外のさまざまな音色が入っていてカオス感が満載で。それでもちゃんとTHE BACK HORNの音として成立しているという。

菅波 めちゃくちゃうれしいです。そうなんですよ、ギターやベースで曲を組み立てていくのは今までやってきてるし、もちろん無限にできるんですけど、「Running Away」(2018年発売のミニアルバム「情景泥棒」収録)でマリンバをメインの音色として入れたときに、こういう印象の付け方もありだなと思ったんです。この曲もバンド以外の音をインパクトある形で入れたくて。

岡峰 この曲は映画のサントラのイメージで作るって言ってたよね。

菅波 こんなサントラあったらヤバいよね(笑)。でも、俺的にはQueenの映画「ボヘミアン・ラプソディ」で「We Will Rock You」の演奏が始まるシーンを観て、それをやりたくて。

岡峰 それは全然わからなかったわ。途中で手拍子入ってるけど、全然テンポ違うしね。

菅波 「We Will Rock You」をやろうと思って始まったのにあそこにたどり着いちゃったっていう(笑)。そのへんが音楽の面白いところだよね。

岡峰 この曲はたぶん人によって聞こえ方が全然違うと思う。最初のSEみたいに聞こえるところとか、俺は船の汽笛に聞こえたし。薄暗い中を出港しているようなシーンが見えるというか。

菅波 熱い、その解釈熱いね。

菅波栄純(G)

──四字熟語とか、難しそうな言葉を羅列した歌詞も面白いですよね。

菅波 そうなんですよ。四字熟語ってお経みたいな感じになるんですよね。しかも難しい言葉って口の動きが面白いから意外とグルーヴィにもなるとわかって。「罵詈雑言土鍋で 三、四日ほど煮込んで 頭からぶっかけたい クズ野郎」のフレーズができたときは「やった!」と思いましたね。

──山田さんはこの歌詞について何か言ってました?

菅波 正直、通るわけないと思いつつ、会社の上司とかに企画書をスッと提出する感じで出したら、「これはいける。任しておけ」って。「あれ、通った? よかった!」みたいな(笑)。

──ミュージックビデオもサイケ感のある作品になっていますが、撮影のときに印象に残っていることはありますか?

菅波 曼荼羅的な感じですよね。でもこの曲はメンバーはストイックに演奏するだけで、あとの編集がすごいので。撮影で印象に残っているのは「太陽の花」のほうですね。

俺たち“飛沫上げ班”

──「太陽の花」のサビではすごい量の花びらが降ってきますね。

菅波 すさまじい量でしたね。あのMV、俺たちが足で蹴り上げて飛沫を上げているんですよ。俺と光舟が立ち位置的に“飛沫上げ班”みたいになっていて。

岡峰 それで山田が三角形の頂点にいるみたいな。でも山田は後ろからバシャバシャかけられるから「悪意を感じる」と言ってました。

菅波 将司は怒ってるしね。「あとで映像で観たらいい感じになってるから」となだめて。俺と光舟は損な役回りだったよね。足を酷使してつらかったのに。でも最終的に仕上がった映像を観たらカッコよく仕上がっていたのでよかったです。

──「太陽の花」は菅波さん作曲、松田さん作詞ですね。ペンタトニックスケールを使った和メロの雰囲気で、これまでもそういう曲はありますけど、イントロは特に色濃くそのテイストが出ていますね。

岡峰光舟(B)

岡峰 あそこまで華やかなのは初めてかもしれないですね。

菅波 なるほどね。和メロかペンタかって面白くて、境目がわかりづらいんですよ。音色とかアレンジで和メロに聞こえるときもあればペンタに聞こえるときもあって。

岡峰 ただペンタだけだったらハードロック的にも聞こえるしね。

菅波 細かい音符を入れると和メロに聞こえるとか。そのへんはいつも面白いなと思いながらやってるんですけど、「太陽の花」は確かに行き来はありますね。

──あと、この曲は岡峰さんがイントロで弾いているベースが音像を立体的にしているのが印象的でした。

岡峰 まさに。そこは狙ってやりましたね。ハイポジションで、Fメジャーで押さえてAマイナーをタッピングするとああいう浮遊感が生まれるんですよ。浮遊感があるとたぶん奥行きが出るんでしょうね。

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岡峰スタイルの確立