山田将司松田晋二インタビュー

自然とライブを意識して曲作りするように

──お二人は日本武道館公演を振り返ってみていかがですか?

松田晋二(Dr) 結成10年目のときにやった武道館公演よりもバンドとお客さんの信頼関係がさらに分厚くなっていて、浮き足だっていない感じはありました。お客さんが本当に楽しんでいる感じが俺たちにも伝わってきて。あと個人的には20周年の終着点というよりは、21年目が始まる幕開けのようなライブになったらいいなという思いもありましたね。

山田将司(Vo) 20周年イヤーは本当に怒涛の内容だったので、そのすべてを出してやろうという思いでしたね。もちろんライブにかける思いはどの公演も一緒なんですけど、いろいろ戦ってきたこととか、もがいている姿もしっかり見てもらわないといけないなとは思っていて。いい顔だけできないというか。マツが言ったように俺もお客さんを信頼しているし、お客さんも行き切ってる俺たちを求めてたところもあると思うし。全部見てもらいたいと思って、本当に全部を出し尽くしたライブでしたね。

左から山田将司(Vo)、松田晋二(Dr)。

──今回のアルバムで山田さんは「鎖」「ペトリコール」の作詞作曲、「果てなき冒険者」の作曲を手がけていますが、「鎖」はライブでみんなを引っ張っていくような、フロントマンとしての山田さんが色濃く反映されたような曲だと思いました。

山田 そうですね。栄純から「疾走感のある、ライブの十八番のような立ち位置の曲を作ってくれ」と言われて。曲を作るときにライブを意識したり、お客さんを意識したりして作るのは当たり前になってきた感じはありますね。「鎖」みたいなアップテンポの曲の場合はなおさら歌詞はお客さんに向けて、そして自分の思いも込めて。無理やり打ち解け合うんじゃなくて、自分が自分を縛り付けている鎖と、自分とお客さんを縛り付ける鎖とどっちも描きたくて。

──自分が自分を縛り付けている鎖というのは?

山田 欲望が強すぎてうまくいかないことがあったりとか、思いが強すぎるゆえに自分で自分の首を絞めつけたりしちゃう感じですね。

4人が平等にアルバムに向かえる

──一方で「ペトリコール」は全然雰囲気が違いますね。

山田 この曲はTHE BACK HORNにしか出せない“怪しい童謡感”ということで作りましたね。

──リズムをスネアとタムで構築していて、なんとも言えない浮遊感があって。

山田将司(Vo)

山田 Aメロではあんまりどっしりさせず、最後に開けたいなという気持ちがあったので。地に足が付いてない感じが滑稽かつ怪しさを出してくれるなと思ったので、そういうふうにデモの段階で作って、マツにお願いしましたね。

──「ペトリコール」というのは雨が降ったときに地面から湧き起こる匂いを意味する言葉なんですね。それで雨や風の音がサンプリングされていて。

山田 いいですよね。雨が降ったときの匂い。

──去年リリースした「ALL INDIES THE BACK HORN」に収録されている「雨乞い」でもいろいろサンプリングしていたので、そのあたりと通ずる雰囲気もありつつ。そういう曲も違和感なくアルバムに入れられるようになったのが今のTHE BACK HORNの幅の広さなのかなと思いました。

松田 今までのTHE BACK HORNの振り幅って、アルバムが完成に近づいた最終段階で「今回はこういう感じか」とわかることが多かったんですよ。曲を1曲ずつ作って積み上げていくやり方だと、これは「今回のアルバムには合わない」「これは合う」みたいな感じで煮詰まって時間がかかることもあって。今回は栄純が最初から骨格となる9曲をバランスよくみんなに振っていたので、そういう意味ではスムーズでしたね。もちろん、栄純が最初に用意した9曲も、絶対それにしてくれということではなく。

──余白部分が残されている。

松田 そうですね。ライブ映えする曲でも8ビートじゃない曲が生まれる可能性もあるし、“怪しい童謡”でももっと激しい曲になる可能性もあるし。大枠の核はみんなで共有できていたので、それが多少激しいほうに振れたり静かなほうに振れたりしてもTHE BACK HORNの音楽の魅力は損なわれずにアルバムに着地できるイメージだったのかなと思いますね。

山田 4人がこれだけ平等に1枚のアルバムに向かえるのがTHE BACK HORNの持ち味だと思うし、それをわかったうえでの栄純の曲調の提案だったと思うんですよね。将司だったらこういう曲、光舟だったらスラップのこういう曲、というように役割分担はうまくその人に合わせてくれたんだと思います。

青春映画をイメージ

──松田さんは「ソーダ水の泡沫」「太陽の花」「果てなき冒険者」「アンコールを君と」の作詞を手がけていますね。「ソーダ水の泡沫」は、過去の情景を想起させるようなセンチメンタルな歌詞が印象的でした。

松田晋二(Dr)

松田 この曲を聴いた瞬間に、幼い頃の記憶が蘇ってきたんです。「俺たちずっと友達だよな」と友達同士で言っていて、そう思ってるけど心のどこかでは「そんなことないはず」という不安が渦巻いている、10代の複雑な心みたいなものを思い出して。そんな切なさや儚さを淡々とした平熱の温度の中でどうやって表現していけるかなと意識しながら書きました。あと青春映画っぽさも感じるような曲になったらいいなと想像していたら、街を抜け出して行くのもいいなとか、芝生でよく朝まで寝転んでいろいろしゃべっていたなとか浮かんできて。

──この温度感の歌詞、曲のテイスト、山田さんの歌い方が一体となって胸をグッとつかまれます。

松田 過剰なTHE BACK HORNというのも魅力としてあるけど、あんまり大げさなことは起きず、淡々としているのも近年のTHE BACK HORNのよさでもあるかもしれないですね。

山田 青春時代のキラキラしているようだけど、心の中でいろんな感情が渦巻いてる感じをこの温度感で歌えるのは、この歳になってからじゃないとできない気はしますね。