斎藤宏介(Vo, G)と須藤優(B)によるバンド、XIIXが初のEP作品「Border=Border」を発表。そして2人は本作のリリースタイミングでバンド名表記を“TenTwenty”に変更した。
彼らが新作音源をリリースするのは2023年7月に発表した3rdアルバム「XIIX」以来。その間も2人は精力的なライブ活動や新曲の制作を通じ、バンドとして表現したいこと、すべきことを模索してきた。満を持して発表された今回のEPには、2024年に行われたライブツアーのタイトルにもなった「Border=Border」や「So Many Stars」、テレビアニメ「マジック・メイカー ~異世界魔法の作り方~」のオープニング主題歌「煌めき」、新曲「それがいいな」「きみは幽霊」と、表記を変更しギアチェンジした現在の彼らのモードを表現する、充実した楽曲ばかりが収められている。
新作のリリースを前に、音楽ナタリーでは斎藤と須藤にインタビューを実施。前作リリース以降に2人が考えてきたこと、表記変更に至った経緯、収録曲それぞれにまつわるエピソードなどを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / 梁瀬玉実
“準備期間”を経てギアチェンジ
──バンドの表記をXIIXからTenTwentyに変え、初のEP「Border=Border」をリリース。2人の活動が新たなモードに入っているのは間違いないと思います。昨年は新曲のリリースはありませんでしたが、TenTwentyにとってどんな1年でしたか?
斎藤宏介(Vo, G) “準備期間”という感じですね。もともと「3枚のアルバムでXIIXをスタートさせる」という目標から活動が始まって。それが終わって次に向かうときに、2人の中で明確な答えを1つ出して、ちゃんと提示できるようにしたかったので。
──なるほど。順を追ってお聞きしたいのですが、「White White」「USELESS」「XIIX」と、アルバム3枚を発表しての達成感はどうでした?
斎藤 すごくありましたね、自分としては。やっぱり僕らの形態って不思議で、1stアルバムに2人で初めて作った曲が入ったりしてるんですよ。バンドがメジャーデビューするときは、インディーズやアマチュア時代のベストみたいな1stアルバムを出すことが多いじゃないですか。僕らはゼロから、「XIIXって何?」というのを誰も知らないところから始まったんですよ。その過程を作品に残して楽しんでもらうことにももちろん意味があるし、妥協せず作れた達成感もありました。
須藤優(B) 最初は手探りでやってた部分もありましたからね。ジャンルを固定せず、好奇心の赴くままに作って。自分たちが作れる音楽や、リスナーの人たちが求めるものがちょっとわかってきて、次のモードに移っていった感じだと思います。2024年はライブモードだとか制作モードというわけではなく、同じようにひたすら曲を作ってましたね。その時点で「Border=Border」はできてたんですけど、以前よりも曲作りに求める精度が上がっているから、B面っぽい曲はとりあえず置いておいたり。
斎藤 ライブも大きかったですね。去年はツアーを2本やったんですけど、そのために新曲を作ってツアータイトルにして。それが「Border=Border」と「So Many Stars」だったんですよ。ライブで感じたこと、感動したことが2人の中で指針になったし、自分たちに与えた影響は大きかったです。曲が生き生きしてくるし、攻めの姿勢、突っ走っていく姿勢は決して独りよがりではなくて、いろんな人を巻き込んでいけるなと。
須藤 ライブで先出しするのっていいんですよね。簡単に音楽が聴ける時代だからこそ、新曲を演奏することで一緒に空間を体感できるのも楽しいし、このスタイルは続けていきたくて。「Border=Border」と「So Many Stars」を軸にしてアルバムにしようかという話もあったんですけど、それだけのボリュームにするには時間がかかるし、2025年のできるだけ早くに出したいと思って、EPになりました。大変ですからね、アルバムを作るのは(笑)。
斎藤 そうだね(笑)。アルバムとなると、チーム全体の気合いみたいなものも必要なんですよ。EPという形はめちゃくちゃいいなと思ってます。
──バンドとして主体的に動けるというか。5曲ともハッキリした個性があるし、全曲の魅力が伝わりやすいというメリットもあると思います。現代的な戦略とも言えますね。
須藤 確かに。リリースの頻度を上げていかないと再生数も伸びづらいですからね。たくさんの人に聴いてほしいという思いはもちろんあるし、しっかり歯車を回していきたいです。バンドの表記を変えたのもそうですけど、ギアを一段上げて。
──XIIXからTenTwentyになると、かなり印象が違いますからね。
斎藤 そうですね。もう読み間違いされずに済みそう(笑)。
須藤 これなら大丈夫でしょ(笑)。XIIXという表記も気に入ってたんですけど“Ten”と“X”が結び付きづらいなって。
──新しいアクションということでは、北山宏光さんへの楽曲提供(「JOKER」「赤い夜に」「in the Moonlight」)もありました。
斎藤 あれはちょっと特別で、もともと個人的な付き合いがあったんですよ。北山くんとは年齢も一緒なんですけど、彼がグループを抜けてソロになったときに、やりたかった音楽を後押ししたいところもあって。ただ、僕1人で作るよりも、すってぃ(須藤)の力を借りたほうがいいものができるから、TenTwentyとして制作したという流れですね。北山くんが出演した東京ドームのライブ(2024年3月開催の「to HEROes~TOBE 1st Super Live~」)に2人で行かせてもらったんですけど、北山くんがバイクに乗りながら「JOKER」を歌ってくれて。絶対に自分からは出てこない発想のパフォーマンスだったし、めちゃくちゃ感動しました。
──自分たちで作った楽曲がド派手なエンタメにつながる場面を目撃した、と。いい経験ですよね。
斎藤 そうですね。自分たちの曲に期待してもらえるのはうれしいし、それによって自分自身への気付きもあるし、いいところも見えてくるので。
須藤 僕はわりとプロデューサー目線というか、一歩引いて全体を見ようとする癖があって。歌う人が違えば作り方も変わってくるし、それがまたTenTwentyに戻ってくる、いい循環になっていると思います。もっともっと曲を作りたいですね。ワーカホリックというか、働き盛りなんで(笑)。
「Border=Border」は表記変更に向けて生まれた“インパクトがあって速い曲”
──では、EP「Border=Border」の収録曲について聞かせてください。1曲目の「Border=Border」のアグレッシブなトラックは、どんな発想から出てきたんでしょう?
須藤 3rdアルバムを作り終わって、自分のモード的に「速い曲を作りたい」と思って。1回ぶっ壊したい、みたいな気持ちでトラックを作ったんですけど、その時期の曲はBPM200くらいの曲ばっかりだったんですよ。派手な曲をやりたいという思いも強かったんでしょうね。
斎藤 トラックが送られてきたときは「来た来た来た、待ってました!」という感じでした(笑)。3rdアルバムを作り終えたあとだったし、このトラックにこれからのTenTwentyの可能性を感じまして。その感覚を大事にしながら、真面目になりすぎないようにガチッとハメたいなと思って、気合いを入れて作りました。
須藤 表記変更もするし、インパクトのある曲を作りたかったんですよね。作っているときから、叫びながら歌っているイメージがあって。それだけ伝えて、あとは宏介に任せました。
──新たな衝動や意思表示を感じさせる歌詞、ボーカルだなと。
斎藤 あ、よかった。TenTwentyを始めて、あまり好きではない作詞をするようになって(笑)。書いてるうちにだんだん好きになってきたんですけど、「自分の書きたいことってなんだろう?」と改めて考えたんですよね。そこで1つたどり着いたのは「自分は自分」という考え方で。それは自分が音楽人生をかけて体現したいことでもあるんです。自分の表現を自分なりに突き詰めていくことの最強さに改めて気付いたし、今後もその気持ちは揺るがないと思うので、明確な形にしておきたくて。そのメッセージを込めるんだったら、この曲(「Border=Border」)だなと思ったんです。
──「僕は僕でしかないから つまりどこへでも行ける」「君は君でいて欲しいよ」というフレーズはまさにそうですね。
斎藤 「1人1人で生きていこう」ではなく、かといって「みんなで1つになろう」でもない。1人ひとりに自分という形があるんだったら、その境界線をなくすのではなくて、境界線同士をくっつけることによってつながれるという考え方ですね。接する部分があるんだったら、それぞれの形のまま一緒にいられる。それは僕自身が音楽に求めていることでもあるので。
──斎藤さんにしか書けない歌詞ですよね、本当に。作詞へのモチベーションは上がっているんですか?
斎藤 そうですね。以前はシャーペンを握ったまま4時間くらい動かないこともありましたけど(笑)、だいぶ楽しくなってきました。カッコつけるのをやめたというか、自分をさらけ出せるようになってきたのかなと。
須藤 メッセージ性と、言葉で遊んでいる感覚が混ざっているし、それが宏介の歌唱力と表現力でしっかり昇華されていて。オンリーワンだし、面白い歌詞を書くなと思ってますね。
斎藤 よかった(笑)。すってぃのトラックの影響も大きいんですよ。いかにも歌を大事にしてますという雰囲気だったら違ったと思うんですけど、これだけ突っ走ったトラックだと一緒に転がっていける。気持ちとしては“作詞:TenTwenty”なんですよね。
須藤 いいこと言うね。
──メロディを須藤さんから指定することもあるんですか?
須藤 あまりないですね。考えてないことはないんだけど、それを先に提示すると一緒に作る意味がなくなりそうで。何が起きるかわからないのがセッションの醍醐味だし、そこは大事にしてます。
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「同じことをやっても面白くないよね」