TenTwenty「Border=Border」インタビュー|初のEPでギアチェンジ、ここから再び走り出す (2/2)

「同じことをやっても面白くないよね」

──2曲目の「煌めき」は、アイリッシュ音楽のテイストを感じさせるポップソング。こういうテイストも新しいですね。

斎藤 テレビアニメ(「マジック・メイカー ~異世界魔法の作り方~」)のタイアップの話をいただいてから制作した曲ですね。

須藤 ファンタジーだったので、ケルトやカントリーっぽい感じが合うかなと。作品自体はそこまでシリアスではなくて、ほんわかした雰囲気もあったから、聴いた人が笑顔になれて、ちょっと背中を押せるような曲がいいなと思ってました。

──ケルト音楽には以前から興味があったんですか?

須藤 好んで聴いてたわけではないんですけど、昔から「ファイナルファンタジー」が大好きで。「チョコボの音楽ってこんな感じだよな」くらいの雰囲気で曲を作りました(笑)。

斎藤 この曲は最初から完成されていて、その印象が変わらないまま形になった感じですね。アニメの世界観にしっかり沿っているし、曲の雰囲気もちょっと柔らかくて。これならちょっと強めの歌でも成り立つな、と。

──「君の声は誰にも似てない煌めき」という歌詞は、「Border=Border」のテーマともつながっている感じがします。

斎藤 「煌めき」の歌詞は、原作のマンガを読んだときに感じたことがもとになっていて。魔法のない世界でゼロから魔法を作るストーリーなんですけど、いろんな努力や友情を描きながら、長い年月をかけて魔法を生み出していくという。これは日頃から感じていることですが、何か素敵なことが起きたときに「魔法みたい」って言うことがあるじゃないですか。でも、そんなひと言で表せるほど簡単なことではなくて。作ってる側からすると、小さいことの積み重ねだったり、日々の歩みの繰り返しの先にようやくつかみ取れる一瞬のきらめきみたいなものだな、と思うんですよね。

──その話、音楽にも置き換えられますね。音楽家が心血と時間を注いで作った楽曲を聴いて、リスナーは魔法みたいだと感じるっていう。

斎藤 そうですね。それも自分が体現したいことなので。

──そして「So Many Stars」。このトラックはドラムンベース直系ですね。

須藤 やっぱり好きですからね(笑)。エイフェックス・ツインみたいなトラックを作りたいというところから始まって、My Bloody Valentineのようなギター、キレイなメロディが乗ったら素敵じゃないかなと。「美メロ、轟音ギター、速い曲でよろしく!」という感じで宏介に渡しました(笑)。

斎藤宏介(Vo, G)

斎藤宏介(Vo, G)

須藤優(B)

須藤優(B)

──その組み合わせも、これまでのTenTwentyにはなかったアイデアかも。

須藤 「同じことをやっても面白くないよね」という考えは2人の中にあって。「これはやってなかったな」というポイントを見つけて刺した感じがありますね。

斎藤 「So Many Stars」は「今までだったら2曲に分けたかも」と思うくらいの要素が収まっていて。ライブで演奏したときも強さを感じました。

須藤 「So Many Stars」のツアーでライブの最後にやったんですけど、作ってるときとイメージが変わったんですよね。感動的な曲だなと感じたし、作品の終わりを見ているような雰囲気もあって。新たな解釈が生まれて気持ちよかったし、素敵な空間を共有できた気がしました。

──歌詞の力も大きいですよね。

斎藤 これも「Border=Border」の話とつながるんですけど、ライブ会場にたくさん人がいても、1人ひとりにちゃんと届くようにすることは意識してますね。自分自身もそういうライブの楽しみ方をしてきたので。

表記変更を経て2人で続けていく思いを描いた「それがいいな」

──「それがいいな」はインディーポップ的なイメージで、シンプルなアレンジの中にTenTwentyらしさがしっかり感じられる曲だと思います。

須藤 EPを作っていく中で「落ち着いた曲が欲しいな」と思って。ピアノと歌だけのバラードもありだな、と迷ったんですけど、もうちょっと淡い曲のほうが合うのかなと。トラック自体はけっこう前に作ったんですよ。2024年の早めだったかな。

斎藤 そうだね。

須藤 「落ち着いた曲があったほうがいいよね」って話したら、宏介が「いいメロディができそうだから、あのトラックにしよう」と提案してきて。

──トラックのイメージに触発されたところも?

斎藤 そうなんですけど、最初は全然違う曲にしようと思ってたんですよ。春のキラキラしたお別れの曲を想定していたんですけど、ちょうどそのタイミングですってぃが「バンドの表記を変えたい」って言い出して(笑)。

須藤 ハハハ。

斎藤 それを聞いて「あ、そっか」と。もちろんどう解釈してもらってもいいんですけど、「2人で続けていく」というメッセージとして受け取ってもらえる歌詞にしたくなったんです。表記を変えるんだから責任説明を果たさなきゃという思いが芽生えたし、そのためにこの人肌なトラックはピッタリだなと。

須藤 ……その話、今初めて聞きました。うれしいですね。

須藤優(B)

須藤優(B)

──そうか、バンドの表記を変えたのは須藤さんの発案だったんですね。

須藤 「そういう案もあるよね」という感じだったんですけどね。さっきも言った通り「ギアを一段上げるために、変えるのはどう?」っていう。そうやってフラッシュアイデアを投げることが多いんですよ、僕は。宏介がそれをしっかり熟考してくれて。

──いいバランスですよね。2人で音楽をやる意義、TenTwentyであることの必然性も高まってるのでは?

須藤 最初よりも濃くなってると思います。信頼関係がしっかりできていて、宏介とだったらいい曲を作れて、1人ではできないものができますからね。「こういうのいいよね」とお互いをどんどん高め合えるし、それってすなわち最高じゃない?と。「音楽の楽しさって、こういうことだよね」という関係ですね。

斎藤 いろんな思いがありますね、そこは。もともと僕はすってぃのファンだったんですけど、TenTwentyとしてカッコいいソングライターであり、ギターボーカルでありたいという気持ちはずっと続いている。あと、自分の感性をすごく信じているんですよ。自分たちの音楽が好きで、すってぃが作る音楽がすげえ評価されなきゃおかしい、という思いが根底にある。それを証明するために活動しているところもありますね。

──感性を信じるというのは、創作の根本だと思います。

斎藤 結局、自分たちが感動している曲しか世に出ていかないですから。それに反応して、共感してくれる人がいたらもっと素晴らしい。そういうことだと思います。

斎藤宏介(Vo, G)

斎藤宏介(Vo, G)

「TenTwentyとしてどう出していくか」をずっと考えている

──EPを締めくくる「きみは幽霊」は、ぶっ飛んでるし、楽しんで作っていることがダイレクトに伝わってくる楽曲だなと。

須藤 そうですね。レッチリ(Red Hot Chili Peppers)みたいな感じで作りたくて。肩肘張らず、楽しくやろうぜ!っていう曲かもしれないですね。

斎藤 すってぃに「好きなようにやって」と言われて、本当に好き勝手にやったら「さすがにやりすぎ」と(笑)。

須藤 (笑)。最初はほぼ全部ラップだったんですよ。その感じも生かしつつ「こういうメロディはどう?」って構成して。できあがったものは当初のデモよりもかなりダンサブルになってますね。

──すごくライブ映えしそうですよね。そして4月には大阪、東京で自主企画ライブ「Eleven Back vol.3」、初夏には全国ツアーが開催されます。活動のペースも上がっていきそうですね。

須藤 バンドの表記を変えて、新しいEPを出して。早めにもう1枚出したいと思っているし、これを機に前のめりに活動していきたいですね。曲のやりとりも常にやってるので。

斎藤 レコーディング中にも「こんな曲ができたんだけど」って弾き語りで歌ってくれたりするんですよ。気持ちとしてはその日のレコーディングに向いているんだけど、もう次の曲が出てきて、心をユサユサされてます(笑)。しかも“常に最新が一番ワクワクする”という状態がずっと続いているんですよ。今朝も1曲やりとりしてたんですけど、それもすごくよくて。

須藤 ずっと音楽をやっているので、常にどこかで影響を受けてるんでしょうね。それを自分の中に落とし込んで、TenTwentyとしてどう出していくか。それをずっと考えている気がします。

──頭の中にTenTwentyのフォルダーがあって、そこにアイデアを入れていく感覚?

須藤 いや、あんまり考えてないですね。本当に直感型というか、思い付いたら形にしているので。頭で考えてたら、逆にできないかもしれない。

──須藤さんはベーシストとしての活動の量と質がハンパないですからね。

斎藤 ライブの打ち上げ会場で有線が流れてると「この曲、弾いてる」っていうのが何曲もあるんですよ(笑)。

──斎藤さんの活動も幅広いですけどね。

斎藤 楽しいですからね。つまらなくなったら考えなきゃいけないかもしれないけど、全然そんなことないので。

須藤 それが一番だよね。

斎藤 もちろん責任はあるし、結果を出さなきゃいけないという意味でプロフェッショナルでありたいと思ってるんですけど、根底は趣味なので。高校時代、早くギターを弾きたくて駅から家まで走って帰っていた頃と変わらないです(笑)。

TenTwenty

TenTwenty

ライブ情報

TenTwenty presents Eleven Back vol.3

  • 2025年4月17日(木)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
    <出演者>
    TenTwenty / iri
  • 2025年4月23日(木)東京都 EX THEATER ROPPONGI
    <出演者>
    TenTwenty / Chilli Beans.

TenTwenty LIVE TOUR 2025「It's Magic!!」

  • 2025年6月14日(土)宮城県 仙台PIT
  • 2025年6月19日(木)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2025年6月25日(水)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2025年7月3日(木)大阪府 なんばHatch
  • 2025年7月11日(金)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
  • 2025年7月13日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2025年7月16日(水)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール
  • 2025年7月17日(木)東京都 恵比寿ザ・ガーデンホール

プロフィール

TenTwenty(テントゥエンティ)

斎藤宏介(Vo, G / UNISON SQUARE GARDEN)と須藤優(B / ex. U&DESIGN)が結成したバンド。2016年、斎藤による自主企画イベント「SK's Session」をきっかけに楽曲制作を開始する。2019年1月より本格的なアルバムレコーディングに入り、2020年1月に初の音源となるアルバム「White White」を発表した。その後も精力的な音源リリースとライブ活動を展開。2025年3月に初のEP「Border=Border」をリリースし、このタイミングでバンド名の表記をXIIXからTenTwentyに変更した。4月に大阪と東京で自主企画「Eleven Back vol.3」を行い、5月より全国ツアー「TenTwenty LIVE TOUR 2025『It's Magic!!』」を開催する。