Tani Yuukiはなぜ歌い続けるのか、その答えが「HOMETOWN」にある (2/2)

実家に帰って実感「これが大人になっていくことなのかな」

──「がらくた」に関してはどうですか?

「がらくた」は、このEPの中で今の僕に一番近い曲かなと思います。学校という場所も社会の縮図だとは思うんですけど、社会に出ると、もともといた場所よりもいろんな世界があって、いろんな人がいる分、考え方もそれぞれある。それゆえ自分の大事にしたいものがないがしろになってしまう……そんな葛藤を歌っています。この曲のテーマは「僕は何ゆえ歌い続けるのか、走り続けるのか」で、「kotodama」(2024年1月配信)で歌ったことにも通じる部分があるんです。今はTani Yuukiとしてのアーティスト活動自体が僕だけのものではなくなっている実感があって。僕の作る楽曲は誰かにとっての希望の光だったり、何かのはけ口だったり、生活の一部だったりするかもしれない。冒頭で「勝手に動く心臓はきっと、薪をくべる人々の純情」と歌っていますけど、これは聴いてくれる人、支えてくれる人が薪をくべる人だという。今の自分に近い曲ではあるんですけど、他者に向けての曲にもなったので、すごくいい仕上がりだなと思っています。

──「自分はどこにいるんだろう」という葛藤がモチーフになっている。

「がらくた」はEPの中で僕の一番暗い部分を凝縮している曲だと思っていて。「I'm home」と「がらくた」が表裏一体みたいな感じで、「I'm home」が光なら「がらくた」は影。ちなみに、この2曲にはどちらも電車の要素を入れているんですよ。「I'm home」では1番の終わりに発車の音が入っていたりする。というのも、僕は“ホーム”に帰るとき、電車に乗るんですね。だから電車のモチーフも入れたかった。

──「がらくた」には「誰かの夢をのせ、今日も走るレールの上」という歌詞もあります。

敷いてもらったレールの上を走っていると感じる瞬間もあるんです。それが悪いこととは言い切れないんですけどね。一方で「I'm home」では「段ボールに閉じたいつかの不満こじ開けては」と歌っていて、駅から旅立って新しい街に出ていくときをイメージしています。

──「I'm home」はどういうイメージで書いていった曲なんでしょう?

まず「ホームってなんだろうな」というところから考え始めて。そもそも僕にとってのホームって、たぶん母なんだろうなと。「笑い話」で言っている「あなた」と「I'm home」の“あなた”というのは、どちらも僕にとって母なんですよ。ただ毎年、年始に実家に帰省するときに「帰って来られてうれしい」という気持ちはもちろんあるんですけど、ちょっと居心地悪いな、窮屈だなと思うこともあって。やっぱり自分が今暮らしている家に戻ってくると安心する。実家を出たときは逆だったのに、時間の経過で変わっていくものもある。これが大人になっていくことなのかなと思いました。

──実家よりもむしろ今自分がいる場所がホームだという感覚もあった。

実家だけがホームだと思っていたんですけど、上京したことで変わった気がします。「I'm home」の歌詞に「あたりまえが非日常に 新しい場所が日常に変わっていく」と書いたように、新しく自分が住み始めた場所が日常になって、むしろ実家に帰るタイミングのときにプチ旅行のような感覚がある。ちょっと寂しいような気持ちもあるけど、大人になるというのはそういうことなのかもしれないなって。どっちもホームではあるんですけど、より安心できるところが移り変わっていく、その時間経過みたいなことが言いたかったんですよね。

旅立ちのEPでもある

──Taniさんはこの作品を自身の経験や家族への思いを表現したパーソナルなものとして作ったと思うんですけど、聴く側にとっては、自分のことを重ねられる、まとまりのある4曲だなと思っていて。すごくざっくりと言うと“新生活”を描いていると思うんですよ。

ああ、なるほど。しっくりきますね。

──上京して働き始めたり、新しい学校に入ったりするときに感じるものって、かつての自分への思いだったり、新しいところに足を踏み入れたがゆえの戸惑いだったり、家族への感謝だったり、生活の変化だったりする。新しい日常に飛び込んだ人の気持ちがいろんな角度から切り取られている4曲のEP、と言うこともできるのかなと感じました。

確かにそうですね。

──そういう意味では、「HOMETOWN」という名前だけれども、旅立ちのEPでもあるなという感じがしました。

そうですね。自立したあとの僕がその当時を振り返るような意味合いもあって。それに至るまでの歩みを描くからこそ、旅立ちというテーマも見えてくるのかなと思いました。

──「新たな旅路を照らす1st EP」というキャッチコピーもありますが、Taniさん自身の新たな旅路というものに関しては、どういう思いがありますか?

なんのために歌うのかがわからない状態で挑んだ「kotodama」ツアーで歌う理由を見つけることができた。それが明確になったうえで、この「HOMETOWN」というEPでは実際に成長した自分が表現できたと思うんです。野望も探しつつ、歌う目的は見失わず、僕の新しい旅路が始まった。そういう意味でも、旅立ちのEPであるというのは、すごくしっくりくる例えだなと思いました。

ライブでガツンと盛り上がれるヒット曲を

──ところで、Taniさんの代表曲「W/X/Y」(2021年5月配信リリース)が、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」のCMソングとして、スウィングジャズの名曲「In The Mood」とのマッシュアップで使用されていますが、これについてはどんなふうに感じましたか?

すごく面白いなと思いました。「W/X/Y」はマイナーキーなので、お話を聞いたときには、「本当にビールのCMに合うのかな?」と感じたんですけど、「W/X/Y」をメジャーキーに直すと、こんなにフワッとポップになるんだなと思って。この楽曲の新しい可能性を見出してもらって、すごくありがたいです。しかも「In the Mood」という名曲と掛け合わせてもらえたのもうれしいですし、リリースから時間が経ってもCMソングに選んでもらえるくらい人の記憶に残っていることもうれしいです。僕としてはこの曲をライブで歌っているとき、楽曲が日々進化しているという感覚があって。

──というと?

ライブを重ねるごとにアレンジが変わっていって、今は最後のサビのところでお客さんに歌ってもらう流れになっているんです。僕の出した楽曲の中で、この曲が一番、いろんな人に聴いてもらえて、誰かの日常に溶け込んだ曲だと思うんです。それによって、より僕だけの曲じゃなくなった感覚が強いというか。

──ライブつながりでツアーについても聞かせてください。6月からはホールツアー「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」が始まります。

インタビューの最初に言ったように、僕のライブに来たお客さんが「ただいま」と言いたくなるような温かさがあるというか、僕の視点でいくと、自分にとって第2、第3のホームタウン──僕が「ただいま」と言ったら「おかえり」と言ってもらえるような場所を作るツアーにしたいです。ホームタウンというタイトルの通り、来てくれた人がそれぞれのホームを思い出すようなライブにしたいですね。文字通りアットホームなライブツアーになったらいいなと思っています。

──ツアーを重ねるごとに、自分1人だけじゃなくお客さんと一緒にライブを作っている実感も増している?

そうですね。お客さんにとても支えられているなと思います。「W/X/Y」の最後だって、お客さんが歌ってくれないと成立しないアレンジですし、信頼して預けられる部分が出てきたような気がしていて。一緒にライブを作っているという感覚は回を増すごとに強くなっている気がしています。

──最後にもう1つ聞かせてください。Taniさんは野望を探しているということですが、それを踏まえて、今成し遂げたいことはありますか?

今はアップテンポのヒット曲が欲しいなって思っていて。ライブでガツンと盛り上がれるアッパーなヒット曲を生み出すことが、作家Tani Yuukiとしての夢であり、野望の1つですね。あとはイベントやフェスで札幌ドームとか幕張メッセとか大きな会場で歌わせてもらう機会が増えているので、自分1人の力でそういった会場を埋められるようになりたいなという気持ちは日に日に増している。それは強く思いますね。

ライブ情報

ナタリー×AOI Pro. presents “Tani Yuuki × Chevon”

  • 2024年5月10日(金)東京都 Spotify O-EAST
    <出演者>
    Tani Yuuki / Chevon

Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"

  • 2024年6月1日(土)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2024年6月7日(金)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2024年6月9日(日)福島県 けんしん郡山文化センター
  • 2024年6月14日(金)福岡県 福岡サンパレス
  • 2024年6月16日(日)熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
  • 2024年6月21日(金)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2024年6月30日(日)京都府 ロームシアター京都
  • 2024年7月11日(木)広島県 上野学園ホール
  • 2024年7月13日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2024年7月15日(月・祝)石川県 本多の森 北電ホール
  • 2024年7月20日(土)愛知県 名古屋国際会議場センチュリーホール
  • 2024年7月28日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2024年8月4日(日)香川県 サンポートホール高松
  • 2024年8月31日(土)沖縄県 沖縄コンベンションセンター
  • 2024年9月23日(月・祝)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール

プロフィール

Tani Yuuki(タニユウキ)

1998年生まれ、神奈川県茅ヶ崎出身のシンガーソングライター。配信シングル「Myra」「W/X/Y」がティーンを中心に支持され大ヒット。その優しく切ない歌声と、恋愛に思い悩む日常を描いた歌詞がSNSで人気を集めている。2021年12月に初のアルバム「Memories」を配信リリースし、2022年4月にはタワーレコード限定でCD盤を発表。最新作は2024年5月リリースの1st EP「HOMETOWN」。6月から9月にかけてホールツアー「Tani Yuuki Hall Tour 2024 "HOMETOWN"」を行う。