Tani Yuukiインタビュー|現在進行形で広がる“多面態”とその核にある歌う覚悟

Tani Yuukiがニューアルバム「多面態」をリリースした。

「輝く!日本レコード大賞」新人賞受賞、代表曲「W/X/Y」のストリーミング総再生数の4億回突破、TikTok総再生数の10億回突破、Billboard JAPANの「2022年 年間Streaming Songs」と「オリコン年間ランキング2022」のストリーミングランキングでの1位獲得など、話題に事欠かない飛躍の2022年を過ごしたTani。彼にとって2作目のアルバムとなる「多面態」は、MAISONdesに提供した「Cheers」や片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)への提供曲「運命」のセルフカバーを含む12曲を収録した、Tani Yuuki=ラブソングのイメージを覆すような1枚だ。

怒涛の日々を送っているであろう本人に話を聞くと、自身の置かれている現状を冷静に見つめる彼の姿が見えてきた。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 梁瀬玉実

考えて考えて、「何も考えたくないです」

──「多面態」は、1stアルバム「Memories」から1年弱でのリリースです(参照:Tani Yuukiの1stアルバム「Memories」が待望のCD化、思い出とともに届けるまっすぐな気持ち)。その間、「もう一度」や「燦々たるや」など何曲も配信リリースしていますし、メディア露出も多かったので、率直にめちゃくちゃ忙しかったんじゃないですか?

ありがたいことにいろいろなことをやらせていただいて。忙しかったですけど、「もう無理!」という気持ちではなかったですね。好きなことをやれていたから、すごく充実してました。シングルでリリースした楽曲たちも今回のアルバムに入ってますし。

Tani Yuuki

──この1年の集大成という感じですね。曲を書くときはスムーズに歌詞が出てくるタイプですか?

締め切りがないと書けないですね。毎回、締め切りに追われて追われて……(笑)。このアルバムも追われながら作ったはずなんですけど、不思議と終わってみたら余裕だった気もする。作詞に一番時間がかかるんですよね。聴いてくれる人がどう解釈するかを考えながら、単語や言い回しを調整するんです。もちろん自分の意図とは違うふうに受け取ってもらっても、それはそれで正解なんですけどね。

──曲を作り始めた頃から、そういった意識はありましたか?

いえ、当時は僕だけで完結してました。自分の中で消化できないものを吐き出すための作業というか。最近なんですよ。ライブを重ねて、いろんな経験をさせてもらううちに聴いてくれる人のことを意識するようになりました。

──Taniさんはネット上での活動からキャリアをスタートさせたので、ライブでリスナーを目の当たりにすることで受ける影響はきっと大きいですよね。

そうですね。最初はどんな人が聴いてくれてるのかわからなかったですし。マスクで表情が見えないとはいえ、熱量は伝わってくるので。歌いたいことが少しずつ変化して、以前は漠然としてたんですけど、今は解像度が高くなったのかなと思います。

──「多面態」というアルバムのタイトルはいつ頃決まったんですか?

先にツアーのタイトルを決めなくちゃいけなくて、それを「多面態」にしたんです。その後、アルバムもこのタイトルでいくことにして収録する曲を決めていったんですが、「多面態」という言葉の通りそれぞれ違うテーマを持った曲が集まりました。今までのTani Yuukiも感じさせつつ、どこか違うというか。ラブソングも少ないですし。ライブへの勢いをつけてくれるような、アップテンポの曲を作りたかったんですよね。すでにライブで披露してた「夢喰」に加えて、あと2曲くらい作る予定だったんですけど全然できなくて。自分の中でテーマを見出すことができなかったんです。

──今の自分にはフィットしなかったんですね。

惰性で作っちゃいそうになったんで、一度全部壊して作り直したら「もうダメだ、何も出てこない。何も考えたくない」というところまでいって。自分の得意なミドルテンポに立ち返って勝負しようと思って完成したのが「何も考えたくないです」という曲です。

──まさにタイトル通りの(笑)。

そうなんです(笑)。今回のアルバムで一番タイムリーな僕が出てるかもしれない。「こういう曲が必要だ」と遠回りして、でもやっぱり「こういう歌が歌いたい」というリアルな仕上がりになりました。並行して表題曲の「多面態」が完成したんですけど、こっちは「こういう歌を届けたい」と思って作った曲なんですよね。

──この2曲はつながってるんですね。「歌う」というテーマに集約されていくという。

最初のワンマンライブ以前の僕だったら失うものも何もなかったんですけど、今は聴いてくれる人がたくさんいて、「勇気付けられた」みたいなコメントをくれるんですよね。こうなるともうあとに退けないというか、勝手に辞めるわけにはいかないなと。

──少なからずリスナーの人生に関与しちゃってるわけですもんね。

そういう意味で、「多面態」は決意が固まった曲かもしれないです。

Tani Yuuki
Tani Yuuki

しんどい平日を乗り越え、子供に戻れる土日へ

──1曲目の「生きる偉人たちよ」は「少年少女 さぁ、大志を抱け」で始まりますし、メッセージを届ける相手をイメージしていることは共通していますね。

1曲目にぴったりハマってくれたんですけど、実はこの曲は学生時代に書いたんです。1stワンマンライブの1曲目でも歌いましたし。自分への応援歌という意味もあったんですけど、歌詞を見直してみると恥ずかしい部分もあって。当時の自分が歌ったらめちゃくちゃ青かったと思うんですよ。

──「お前が少年だろ!」という。

そうそう、「何を偉そうに」って(笑)。今聴いてくれている人たちが当時の僕くらいの世代なので、こういう曲を歌うことに意味があるんじゃないかと思えるようになったんです。経験を積んできたことによって、みんなへのストレートな応援歌として響くんじゃないかなと。

Tani Yuuki

──3曲目の「Life goes on」は最近の曲ですか?

去年「LIVE "LOTUS"」という対バンライブシリーズを主催して、毎回新曲を披露したんです。そのうちの1曲ですね。WurtSさんの「Talking Box」みたいな、ドライブに合いそうな曲を作りたくて(参照:マイベストトラック2022 Vol. 8 シンガーソングライター編)。何か決断しなくちゃいけないことがあったときに、その決断が正しかったのかどうかはわからないじゃないですか。選ばなかったほうの道を見ることはできないから。でもこれからも選択はしていかなくちゃいけないし、それぞれの決断を肯定してあげられるような曲にしたかったんですよね。

──この「Life goes on」にはもちろん前向きな印象もあるんですけど、「何をしようが明日は来てしまう」という感じのあきらめも感じられて、両義的ですよね。とても地に足のついた肯定の仕方だと思います。

そうですね。明るいにも暗いにも振り切れないというか。トラックも含めて、いいところにボールをちゃんと投げられた気がします。

──7曲目の「ワンダーランド」もすごくかわいい曲とミュージックビデオですけど、根底には「生活のままならなさ」が感じられるんですよね。このムードがアルバムの肝なのかなと。

確かに確かに。「王様のブランチ」のテーマソングなので、土曜日のあの時間帯の雰囲気が、曲を作るときの素材の1つだったんですね。父はサラリーマンなんですけど、平日はバリバリ働いて、土曜は疲れ果ててシャツとパンツで寝っ転がってテレビを観ている。しんどい平日を乗り越えて、土日は子供に戻れるみたいなイメージを落とし込んだ曲なんです。だから、コーラスも大人じゃなく子供の声にしたんですよ。

──なるほど、あの子供たちは毎日を戦っている大人でもあると。

土曜のあの時間を彩ることで、次の月曜日へ「いってらっしゃい」と送り出す感じですかね。