田村ゆかりが自身のレーベル・Cana ariaからの2作目となるシングル「永遠のひとつ」を8月15日にリリースした。
2017年に5pb.Records内の新レーベルとしてCana ariaを立ち上げ、約2年ぶりに音楽活動を再開させた彼女。同年9月には神奈川・横浜アリーナで2年3カ月ぶりのワンマンライブ「20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE2017 *Crescendo ♡ Carol*」を行い、11月にはレーベル第1弾作品となるミニアルバム「Princess ♡ Limited」を発表した。今年2月にはレーベル第1弾シングル「恋は天使のチャイムから」、そして今作とコンスタントにリリースが続き、10月には千葉・幕張メッセ国際展示場1~3ホールでの2DAYSイベント「ゆかりっく Fes '18 in Japan」への参加も決定している。
音楽ナタリー3年4カ月ぶりの登場となる今回のインタビューでは、田村が音楽活動再開に至った経緯や自身の楽曲に対する思い、全4曲が収められた新作「永遠のひとつ」の制作エピソード、そして謎多き独自の音楽フェス「ゆかりっく Fes '18 in Japan」についてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 臼杵成晃
しばらくふわふわしてました
──自主レーベル「Cana aria」を昨年立ち上げるまで、しばらく音楽活動が止まっていた時期がありましたよね。あの時期は「もしかしたらこのまま田村さんの音楽活動はストップしちゃう可能性もあるのかな」と思っていましたが……。
ありましたよ。自分の中で100%の気持ちではないですけど、「もう音楽はやりたくないな」「お客さんの前に出るのは怖いな」と思っていて。やらせたいという周りの意思もあったし、でも自分から進んでやりたいわけではないし……としばらくふわふわしてました。
──その間の田村さんの変化と言えば、めちゃめちゃサッカーを観る人になりましたよね。Twitter(@yukari_tamura)ではサッカーの話題がすごく多くて。もともとそんなに観ていたわけではないですよね?
はい。たまたま福岡の実家に帰ったとき、家族がアビスパ福岡の応援をしていたので、なんとなく興味を持って。初めてお父さんとちゃんとした会話ができるようになったのがサッカーだったんですよ(笑)。そこまで興味を持ってなかったお母さんも、今はアウェイ戦まで応援に行ったりしてます。家族の話題の中心が今はそれなんですよ。
──音楽の活動が止まっているぶん、家族とゆっくり過ごしたり、リラックスする時間ができたと。
今にして思えばですけど、心を休める時期だったのかも。音楽とラジオをやらないと、自分のことを外に発信しなくてよかったので、やっぱりすごく気持ちがラクで。
──毎週ラジオをやるのが当たり前の生活だと、常に自分を切り売りするような感覚に陥りそうですよね。
そうなんです。私は基本、自分のことを話したりするのが好きではないので。声優としてお芝居だけやればいい、という生活が本当にラクで、このまま音楽からはふわっとフェードアウトしてもいいのかなって(笑)。そういう気持ちは本当に強くありました。
──それでも周りの方々の後押しがあって。
後押しと言うより半ば強制的だったんですけど(笑)、「ライブの会場を押さえちゃいますよ?」と言われて……本当にギリギリまで引っ張ったんですが結果ライブをやることになったので、じゃあ曲を作らないと、と思ってミニアルバムを出したんです(参照:田村ゆかり新レーベル発足で2年2カ月ぶり新曲発表、新ラジオ番組スタート)。
──自分用のレーベルまで発足するというのは予想外でした。
レーベルと言っても別に名前だけで、自分で経営したりとかそういうことじゃないんですよ。あくまで5pb.の中の1レーベルですし。ただなんとなく、5pb.Recordsの中の1アーティストとして所属するのはなんか違うなってお互いに思っていたので、田村ゆかりがやりたいことをやるレーベル……やりたいことができているかと言うと謎ですけど(笑)、わかりやすく見せるためにレーベルという形を取ったんです。
自分が理解できないことはやりたくない
──新体制と言えど音楽面もビジュアル面も大きく変化するわけではなく、変わっていない部分に徹底した美学を感じました。
美学だとかは全然考えたことがないのでわからないですが、基本的に「自分が理解できないことはやりたくない」というのはずっとあって。強制的にやらされそうなこともなくはないんですけど、今のところ未然に防げている(笑)。デビューしてすぐの頃はそれこそ大人が用意してくれたものをただ歌っていただけでしたけど、KONAMIからの2作目「Love♡parade」(2002年4月発売のシングル)からは全部自分で曲も選んでいますし、タイアップ上の都合なんかはありながらも、自分が好きなものしかほぼやらずにできていて、それは今も変わってないんです。
──新しいレーベルに変わっても、音楽制作のやり方は変わらずに。
最初は田村ゆかりのパブリックイメージで書いてくれたのか、ちょっと電波ソング的なデモが多かったので「この方向じゃないんです」という説明は時間をかけてしました。たぶん、あまり知らない方だとライブで盛り上がっている部分だけをイメージするから「田村さん、ミニアルバムで6曲作るんなら4曲ぐらいアッパーなものにしないとね」「いやいや、私そんなCD作ったことないですから」みたいな擦り合わせをして。
──芯の部分は変わらない一方、Cana aria第1弾ミニアルバム「Princess ♡ Limited」は初コラボとなる清竜人さんが「14秒後にKISSして♡」と「ゆかりはゆかり♡」の2曲書き下ろしていて、どちらも今までにない破壊力で驚きました。
清さんは私ずっと存じ上げなくて、清 竜人25のときに知ったんです。確か3作目(2015年5月発売のシングル「Mr.PLAY BOY…♡」)のときかな? GigaFile便でダウンロードするときに出ている広告でミュージックビデオが流れるやつあるじゃないですか。あれでたまたまダウンロード待ちのときに観たんです。ボーッと画面見てたら「わっ、何これ!?」って。あの広告、業界人向けにめちゃめちゃいいですよね。
──確かに大容量のデータ転送が必要なクリエイターはすごい見ますよね(笑)。
一夫多妻制というコンセプトは「???」だったんですけど、MVの雰囲気や曲の感じがすごくよくて。そのときは「いつか書いてほしいなあ」ぐらいの気持ちはあったものの、特に機会もなく。そのあとレーベルを立ち上げるうえでいろいろ話しているときに、好きなアーティストを挙げたりしている中で清さんの名前も出したんです。そしたらスタッフさんが「頼めないかなあ」ってすごく気軽に……今のスタッフさん、慎重に石橋を叩くときもあれば「えっ? いきなり突破するの!?」みたいなときもあって(笑)。これはその後者です。いきなりオファーをかけてくださって、結果書いてもらえることになりました。
お客さんと一緒に歳をとっていけたら
──「ゆかりはゆかり♡」は昨年9月のライブ(参照:田村ゆかり2年3カ月ぶりライブ、王国民はピンクの海でデビュー20周年を祝福)でCDリリース前に初披露されました。あの段階ではクレジットは伏せられていましたが、完全に竜人節で。
そうですね。清さんのファンの方は「これは……」と気付いていたみたいで、わりとバレてましたね。
──あのライブでもやはり、王国民(田村ゆかりファンの呼称)が再開を待ち望んでいた、変わらない“ゆかりんワールド”が詰まっていて、感極まるものがありました。デビュー20周年という重みも感じたし、MCの自由奔放ぶりなども含めて「田村ゆかりがステージに帰ってきた!」という感動があって。
ファンの方々はわからないですけど、身近な方々とかお仕事の関係者の方は、ライブが終わったあとの挨拶で「涙が止まりませんでした!」という方が多かったです。親心みたいな感じだと思いますけど、お母さん目線みたいな(笑)。やっぱりみんな「どうなるのかな」と思っていた部分もあったと思うし、ある意味変わらないものを観てホッとしたのかなあ。みんなまさか強制的にやることになったライブだとは思っていないので(笑)。
──MC中、おなかが空いたと言って客席から届けられた物販の人形焼を食べるくだりは「これいつまで続くんだ……」とちょっと心配になりましたけど、そこも含めての“ゆかりんらしさ”と言うか。
自由にやらせてあげたいって思ってくれてたみたいで、誰もタイムキープしてなかったんですよ。普通だったら誰かしら指示をくれるんですけど、野放しにされていて。私も終演後に時計を見て「何この時間!?」って(笑)。
──そういう場面もありながら、新曲もあり、王道曲もありで「すごいものを観せられたな」と圧倒されたんです。
いやいや始めたとは言え、いざやるとなったらもちろん責任もあるし……スタッフさんもみんな「はじめまして」の状態で作るライブだったから、やるのであればちゃんとやりたいという気持ちがすごくあって。お客さんが変わらないものを望むのはわかるんですけど、自分が歳をとっていく中で、十代の子と同じことをやっても意味がないし、自分が今そのときやれること、やりたいことをやって、お客さんと一緒に歳をとっていけたらいいなと私は思うんです。ただ……今でも「辞めてもいいかな」という気持ちはわりとありますね(笑)。好きなことができなくなったらやる意味もないと思うので、誰かに強制されるような状態になったらあっさり辞めると思います。
次のページ »
今の自分に合う曲をもっと増やしていきたい
- 田村ゆかり「永遠のひとつ」
- 2018年8月15日発売 / Cana aria
-
初回限定盤 [CD+DVD]
2160円 / CNRA-0004 -
通常盤 [CD]
1512円 / CNRA-0005
- CD収録曲
-
- 永遠のひとつ
- Closing tears
- ジェラシーのその後で
- SUKI KIRAI
- 初回限定盤DVD収録内容
-
- 永遠のひとつ MusicClip
- MusicClip メイキング映像
- 公演情報
ゆかりっく Fes '18 in Japan -
- 2018年10月6日(土) 千葉県 幕張メッセ国際展示場1~3ホール
- 2018年10月7日(日) 千葉県 幕張メッセ国際展示場1~3ホール
出演者 田村ゆかり / 神楽坂ゆか / 120600mAh -Metal Ampere Hour- / 風の香りと太陽 / スイミィスイミィ / Charlotta Mueller / 田村ゆかり(Voice Actress) / Don't MOVE / and more
- 田村ゆかり(タムラユカリ)
- 2月27日生まれ、福岡出身の声優アーティスト。1997年にCDデビューを果たし、声優および歌手としての活動を始める。いずれも精力的な活動で着実に評価を集め、2008年には声優として3人目となる日本武道館公演を行った。2016年8月にアミュレートへと移籍し、2017年には5pb.Records内の新レーベルとしてCana ariaを設立。同年9月には神奈川・横浜アリーナで2年3カ月ぶりのワンマンライブ「20th Anniversary 田村ゆかり LOVE ♡ LIVE2017 *Crescendo ♡ Carol*」を行い、11月にはCana ariaレーベル第1弾作品となるミニアルバム「Princess ♡ Limited」を発表した。2018年2月にはレーベル第1弾シングル「恋は天使のチャイムから」、続いて8月に第2弾シングル「永遠のひとつ」をリリース。10月には千葉・幕張メッセ国際展示場1~3ホールでの2DAYSイベント「ゆかりっく Fes '18 in Japan」に参加する。