田村ゆかり、精力的すぎる音楽活動の真意「自分ではこれがハイペースだとも感じていないんですよ」

昨年末に2作のEPを連続してリリースした田村ゆかりが、早くも新作「I love it♡」を完成させた。

「I love it♡」は8曲入りのミニアルバムで、6月に始まる全国ツアー「田村ゆかり LOVE ♡ LIVE 2024 *Honey bunny*」で大活躍しそうな明るくポップなナンバーが多く収録されている。EPの2作品も含めると、わずか半年ほどで新曲は一気に18曲追加。昨年は過去最大本数となる合計28公演のツアーを完遂し、今年のツアーも合計22公演と、近年の田村は精力的すぎるほどに音楽活動を展開している。ミニアルバムの制作を終えツアーを控える彼女に、その真意を聞いた。

インタビューから数日後、かつて所属したキングレコードが主催する音楽フェス「KING SUPER LIVE 2024」に出演した田村は、王国民(田村ゆかりファンの呼称)の盛大なコールを受けながらのソロパフォーマンスで観客を圧倒するのみならず、堀江由衣との伝説のユニット・やまとなでしこのステージではいにしえのファンを涙させた(参照:「キンスパ2024」レアなコラボや懐かしの楽曲に沸いた初日は「いにしえのオタクの魂が浄化される夜」)。注目度が高まる中でリリースされる新作およびツアーに向けての手引きとして本稿を楽しんでほしい。

取材・文 / 臼杵成晃

EP×2から半年でミニアルバムを出した理由

──昨年11月、12月と2枚のEPをリリースされてから半年ほどでもう新作、というハイペースぶりにまず驚きました。ミニアルバムと言いながら8曲も入っているし。

もう何アルバムと言っていいのかわからないですよね(笑)。

──結果この半年で合計18曲を発表したことになります。6月に始まるツアーの前に新作を、ということだと思いますが、それにしてもすごいペースですよね? 楽曲制作に対するモチベーションが高まっているのでしょうか。

いえ、どちらかと言うと去年のEPがイレギュラーで、なんとなくあの時期にリリースすることになったんですよ。本来はミニアルバムじゃなくフルアルバムを作る予定があって……もう少し早いタイミングで出す予定だったんですが、私が作業前に体調を崩してしまって。1カ月くらい声が出なくなっちゃったので、一旦「アルバムを作るのはやめましょう」という判断をしたんです。でも、そう決めた3日後くらいから調子が戻りそうな気がしたので「やっぱ治りそうだからレコーディングやりましょう」と言ったんですけど、スタッフからは「えーっ!?」「もうフルアルバムは間に合わないよ」って言われちゃって。スリーブの印刷とかがスケジュール的に間に合わなかったらしくて、ここからフルアルバムを作るのは無理だからと予定をいろいろ変更することになったんです。

──本来はツアーに合わせてフルアルバムを作る予定だったと。

はい。EPも本当はもう少し前に出す予定だったんですけど、そういう事情が重なってしまって。モチベーションが高まって一気に作ったわけではないです。

──なるほど。ミニアルバムに収録されている8曲は総合的に明るくてキャッチーなものが多く、具体的に言うと短調の楽曲は「Paradoxx.」1曲のみですよね。フルアルバムであればもっと落ち着いたトーンのバラードや暗く重ための曲などを加えてトータルバランスを取っていたと思うし、ミニアルバムのコンセプトとして明るい曲でまとめたのかな?と想像していたのですが。

フルアルバムの制作をやめた段階で、すでに4曲はプリプロまで進行していたんですよ。で、ミニアルバムにするとして、5月にリリースするのにここから何曲くらいなら間に合うかな?と聞いたら「2、3曲じゃないですか」と言われたんですけど「いや、8曲入りがいい」と伝えて。

──それはどういうこだわりなんですか?

いや、なんとなくなんですけど(笑)。それであと4曲。EPも出してるし、新曲のないツアーにしてもいいかなと思ったんですけど、ツアーは全部で22公演あるし、何度か足を運ぶお客さんからしたら、新曲とともに思い出も増えるじゃないですか。なのでどうしても新曲を増やしたくなっちゃって。それで、8曲しかないんだったら暗い曲はもういらないかなと思ったんです。EPの中に怖い曲はあるし。

──(笑)。

でもまあ暗い曲はいいかなと思いつつ、どうしても1曲は入れたくなっちゃって。

──「I love it♡」というミニアルバムのタイトルからすでに陰りを感じないですよね。

フルアルバムのタイトルが「あいことば。」「かくれんぼ。」ときたので、また5文字で丸がくるだろうとお客さんは思っていたかもしれないけど、そもそもアルバムではないし、つながりがあるわけでもなかったので。違う流れだとはっきりさせたくて英語のタイトルがいいかな?と思ったのと、ツアーのタイトルが「LOVE ♡ LIVE 2024 *Honey bunny*」に決まっていたので、「Honey bunny=愛しい人」に近いワードがないかなと探しました。

ツアーに向けて作られた“明るい曲”

──これがフルアルバムだったら、タイトルや楽曲のテイストも変わっていた?

どうなんだろう。どっちにしても今、暗い曲はどうかなあというのがあって。呪いの歌みたいなのはもしかしたら1、2曲あったかもしれませんけど……。

──呪いの歌(笑)。

まだ発表していない、強い呪いの曲がストックで1曲あったんですけど、そのへんは今は出さなくていいかなと思っていて。結果として比較的明るめになったのかなあと思います。

──それは最近の心境の変化ですか? 2021年以降はツアーの公演数がグッと増えていて、昨年のツアーは過去最長の26会場28公演でした。ライブで歌ううえで明るい曲が欲しい、と感じたのであれば、それはライブを通して何かフィードバックするものがあったのかなと思いますが。

うーん、どうなんだろうなあ。特に明るい曲がしっくりきたということもないし、バラードや暗い曲がもともと好きというのもあるし。ただ、暗い曲はもういっぱいあるからいいかなーみたいな(笑)。バランスとして明るい曲を増やしたいという思いはなんとなくありました。制作は主にコンペなので、タイミング的にハマる呪いの歌があればやっていたかもしれませんけど、なかなか今の気分にちょうどいい曲がなくて。今回はフルアルバム用に明るい曲をお願いしていたタイミングだったので、暗い曲のデモが特に少なかったというのもあります。

田村ゆかり

──コンペではおおまかに「こういうイメージの楽曲を」と募集をかけるのかと思いますが、「明るい曲」でオーダーするときはどういう発注をかけるんですか?

底抜けに明るいだけの曲は歌いたくなくて……明るいんだけどちょっとキュンとする、ホロッとくるような曲が好みなので、そのあたりはお伝えしています。

──メジャーコードに対するメジャーセブンスみたいな、ほんのり差し色的な憂いが入っているのは、田村さんの「明るい曲」の特徴かもしれないですね。メロディにせよ歌詞にせよ。

ただ、私はそれを言葉で表現できないんですよ。私がイメージしているものって……例えば「空はすごく晴れているけど、見上げるとちょっと泣きたくなっちゃう」みたいな明るさで。そのイメージって人それぞれじゃないですか。

“園田待機列”が……

──ではここから「I love it♡」の収録曲について詳しく聞かせてください。1曲目の「Poppin' Magic」はまさに先ほどのお話にあったような、明るいメロディやアレンジの中にいろんな差し色が効いたポップソングですね。Magic=魔法もポップスにおける伝統的な王道のテーマで、ポップスとしての強度がある楽曲だなと感じました。オープニングにもぴったりですし、シンプルに「いい曲だな」と。

ありがとうございます。ツアーを想定して用意した作品なので、どうしてもお出迎えの曲みたいなものを考えてしまうんですよ。だから歌詞はもう、ホントにそういう感じになりました(笑)。

──作詞は田村作品ではおなじみの松井五郎さんですね。

毎回アルバムとかを作るたびにお出迎えの曲を作っちゃうから、五郎さんは「またかよ」と困ってるんじゃないかと思いますけど(笑)。

──お出迎えソングのバリエーションが尽きてくる問題(笑)。

締めの「また会おうね」もしょっちゅう頼むから絶対に「またかよ」ってなってそう(笑)。

──そんな中でも都度都度の細かい指定はあるんですよね。

シチュエーションやテーマについては、相変わらず謎のポエムみたいな文章を送ってお伝えしています。

──「Magic」というテーマもそのポエムの中に含まれていた?

魔法は入れてたかなあ。でも素人が考える魔法とプロが書く魔法では全然違いますから。(メモを確認して)あ、書いてありますね。「魔法をかけてくれる」というイメージはお伝えしてました。

──作編曲は園田健太郎さんとYo-SKさんです。コンペで集まった曲からどの曲をチョイスするか、メロディやサウンドの指向・傾向については直感で?

直感ですね。中でも園田さんの曲は印象に残るものが多いです。園田さんにはいつも欲張っていっぱい発注しているのに「もっと欲しい」と追加でお願いしたりするから、園田待機列みたいなものができてるんですよ(笑)。

──園田待機列(笑)。

園田さんの曲はいつもいいなと思うんですけど、そのときどきで歌いたい曲が変わるんですね。去年作ってもらっていたけど、今歌うには気分として少し違うし……ともったいぶっていると、ほかのアーティストさんに採用されたりもするので難しいんですけど。

──田村さんはアルバムを作る際、パッケージを開けて最初に耳にする1曲目は特にこだわっているといつも話されていますけど、「Poppin' Magic」は迷いなく1曲目に?

はい。この曲は1曲目か、違う場所だとしたら最後かなって。コーラスで始まる感じがすごくいいなと思ったので、ミックスも「この曲はおそらく1曲目に置くので、頭のコーラスをガン!と上げてください」とお願いしました。

2024年5月31日更新