田村ゆかりインタビュー with サクマリョウ×川島亮祐|イメージ覆す実験作?「Altoemion」ができるまで

今年4月にフルアルバム「かくれんぼ。」を発表した田村ゆかりから、早くも新作が届けられた。しかも11月、12月と2カ月連続でEPをリリースするという。その第1弾「Altoemion」は、田村のアルバム作品に数多くの楽曲を提供しているサクマリョウ(作編曲)、川島亮祐(作詞)の2人とともに作り上げた楽曲のみを収めた作品。12月リリースの第2弾「You Are The World!」はRAM RIDERとタッグを組んだ作品となる。近年の田村作品においてキーマンと呼べる2組それぞれのコラボレーション作品とあって、王国民(田村ゆかりファンの呼称)の期待値も上がっているだろう。

この特集では、EP第1弾「Altoemion」を深掘り。田村、サクマ、川島の3名に集まってもらい、「“田村ゆかり”のイメージを壊すつもりで作った」という実験的とも言える全6曲がどのようにして生まれたのか、その制作過程を詳しく聞いた。

取材・文 / 臼杵成晃

完全に趣味ですね、私の。

──最近の田村さんのインタビューではサクマさんと川島さんの楽曲についてディープに言及する場面が多かったのですが、今回はついにご本人にも登場いただきました。音楽ナタリー10回目の田村さんインタビューにして初のゲストです。

サクマリョウ わあ、光栄です。

川島亮祐 ありがとうございます。

田村ゆかり こちらこそありがとうございます。私は音楽面で話せること何もないですから!

サクマ あははは。普段、曲についてのやりとりはメールですし、やりとりをする相手もゆかりさん本人ではなくディレクターさんなので、曲について面と向かって話すのはこれがほとんど初めてなんですよ。ちょっと緊張しますが……。

田村 お任せします!

──田村さんの2カ月連続EPリリース、そしてその第1弾がサクマさんと川島さんの楽曲のみを収めた6曲入りEP「Altoemion」、第2弾がRAM RIDERさんプロデュースの4曲入りEP「You Are The World!」ということで。最近の田村ゆかり作品におけるキーマン2組にフォーカスした連作と言えますね。

田村 はい。この形でリリースされることになったのは、もともと「ライブを意識しない作品を1枚作ってみよう」と考えたのがきっかけで。フルアルバムを作るときは、それほど意識していなくても、どうしたってライブで歌うことを考えてしまうんですよ。

──アルバムをリリースしたらそれを携えてツアーへ、という流れがありますからね。

田村 そうなんですよ。ほかにも1枚の中で全体のバランスを考えて「お客さんの好みとしてこういう曲もあったほうがいいかな」とか。そういうことを一切考えず、自分が好きだなと思う音楽だけをやってみたらどうなるのかな?と思ったんです。「Altoemion」のほうは特に、ライブのことは視野に入れずに自由な発想で作ってほしいとお伝えしてから曲をお願いしました。完全に趣味ですね、私の。

田村ゆかり「Altoemion」ジャケット

田村ゆかり「Altoemion」ジャケット

──(笑)。趣味を全開でやるうえで、組みたいと思ったのがお二人だったと。

田村 こちらが投げたものが、どストレートに返ってくるお二人というか。思ってもない角度からど真ん中に来るという。

川島 ……(サクマのほうを向いて)よかったなあ。

サクマ うれしいっすね(笑)。

「3人でバンドを組んだ」という気持ちで

──2021年4月発売のアルバム「あいことば。」がサクマさんと川島さんの初参加作品で、このときは3曲。続いて今年4月発売のアルバムでは4曲を提供していて、今作はEPまるまるで全6曲と、割合がじわじわ増えてるんですよね。

田村 ホントだ(笑)。

──合計13曲と、すでにフルアルバム1枚分ほどの楽曲でご一緒されていることになります。こんな関係性になることは想定していました?

川島 してないです(笑)。当然してないよね?

サクマ うん。

──お二人は現在活動休止中のバンド・NoisyCellで2007年から活動されていますが、もともと作家志向があったんですか?

サクマ はい。バンドでいろんな曲を作っているうちにノンジャンルでいろいろ作れるようになっていったので、このスキルを生かしたいと知人の紹介などで少しずつコンペの話をもらって……というのが作家としてのスタートでした。

──NoisyCell自体いろんなアプローチを持ったバンドなので、今作と並べて聴いてもそれほど乖離がない印象です。

サクマ そう言ってもらえるのはうれしいですね。実は、今作を作るにあたって僕は「3人でバンドを組んだ」という気持ちで取り組んでいるんですよ。そういう発想でいくと自分も自由な発想で作れるようになるし。コンペなどの作家仕事では出せないアーティスティックな気持ちが多少なりとも溜まってたのかなと思いますけど……ディレクターの方から先ほどゆかりさんがおっしゃったような「ライブのことは考えずに自由な発想で」という話をいただいたその場で、2曲分の構想がバーッと浮かんだんですよ。

田村 えー、すごい。

サクマ 湧き上がるものをどんどん形にしていったら、あっという間に曲ができました。

田村 ホント、めっちゃくちゃ早いんですよ。どんどん曲が届く(笑)。

川島 特に早かったよね、今回は。話をもらった次の日レベルの。

サクマ 2日でまず2曲。

──サクマさんと川島さんは楽曲提供の際も基本的に2人そろって、作家チームのような形で行っていますが、それは作家活動を始めるときから決めていたのでしょうか。自然とそういう形になった?

サクマ 自然とですね。亮祐はバンドではボーカルだから仮歌も録れるし、2人1組で動くほうがフットワークも軽くてちょうどいいなと。

オーダーは「実験音楽」「幻想的なアンビエント」

──お二人が「あいことば。」で初提供した「ケセラセラ」「花火」「Tremolo Mellow」の3曲は、アルバム終盤に固めて配置されていました。これについて田村さんはインタビューで「バラバラにするのがもったいないなと思っちゃった」「私のお楽しみゾーン」とおっしゃっていて(参照:田村ゆかり「あいことば。」インタビュー)。

サクマ 読みました、その記事。

川島 あれ、うれしかったな……。

田村 あはははは。

──「すごく好みのクリエイターさんに出会っちゃった」ともおっしゃっていて。ベタ褒めでしたね。そもそもお二人は、田村ゆかりさんという人にどういう印象を持っていました?

川島 僕はアニメが好きなので、もう単純に「すごい声優さんだ」という認識で、ファンに近い感覚でしたね。だからコンペで採用されたときはものすごく驚きました。

──ご本人のキャラクターを把握されていたのなら、曲も書きやすいですよね。

川島 いや、書きにくいですよ……。

サクマ (笑)。

川島 すごい声優さんという印象があるから、もう恐れ多いというか。揺るぎない世界観を持っている人に、どういう歌詞を書けばいいのか……とドキドキしながら書きました。

──でもそれが大ハマりだった。

田村 私の名前を知ってる方って、どうしてもパブリックな“ゆかりん”のイメージで書いてこられるので、私からしたら「ちょっと違うんだけどな……」と感じることもあるんですよ。ちょっと電波ソングっぽい感じだったりとか。でも亮祐さんの歌詞も、リョウさんの曲も全然そんな感じじゃなくて。

──「あいことば。」に続く「かくれんぼ。」では、田村さんが以前から大事にしているアルバム1曲目にお二人の書いた「Fanfare」が採用されました。さらに「Sunny Spot」「Moonhole」「わすれもの」とバリエーション豊かな計4曲を提供されていて、参加2作目にしてアルバムの中核を担っていた印象です(参照:田村ゆかり「かくれんぼ。」インタビュー)。では今作は……と聴いてみたら、思った以上にやりたい放題で。

田村 やりたい放題(笑)。私のほうからは、具体的にどういう音楽のジャンルかを言葉にできないので、いくつか参考曲を挙げて「こういう曲がやりたいんです」とお願いして、そこからはお二人に自由に作ってもらいました。

──それはEPとして6曲分くらいを想定して?

田村 ホントはもっとやりたいくらいなんですけど(笑)、さすがに多すぎるとお客さんが置いてきぼりすぎるかなと思って、とりあえず6曲は欲しいですと。

──ちなみにサクマさんが先ほど「打ち合わせ後すぐにパッと浮かんだ」とおっしゃっていた2曲は、どれとどれですか?

サクマ 「スーパーノヴァ」と「ワームホール・バスストップ」ですね。最初に「スーパーノヴァ」を作って、次の日に「だったらこういう曲もいけそうだな」と思って作ったのが「ワームホール・バスストップ」です。

──なるほど。「スーパーノヴァ」と1曲目の「金魚」は3拍子、ワルツのテンポですよね。ワルツはいわゆる「ライブで盛り上がる」タイプのリズムではないですし、田村さんが当初想定していた「ライブを意識しない作品」という狙いにおいては象徴的かなと思います。これは田村さんサイドから何か指定があったんですか?

サクマ いえ。ゆかりさんサイドからもらったイメージは、言葉にすると「実験音楽」や「幻想的なアンビエント」ということになるんですけど、そのオーダーを聞いて自然と浮かんだのがワルツでした。

──「実験音楽」の部分で言うと、サクマさんの作風として、非常に緻密でトリッキーな打ち込みが特徴として挙げられるかと思います。そこが今作はこれまでの提供曲と比べるとすごく過剰で、ホントやりたい放題だなと。

サクマ ですよね(笑)。本当に自由に作らせてもらいました。