ナタリー PowerPush - 田村ゆかり
超ラブリーな「ゆかり王国」建国記
「ゆかりんらしさってなんだろう」
──今回のシングルに収められている4曲もそうですけど、サウンド的にはキラキラでポップな楽曲もあれば、ロックやジャズ、ハードなダンストラックなど本当にさまざまですよね。だけどどこか1本筋の通った、ゆるぎない世界観があるという。その「ゆるぎない世界観」はご本人の中でどういうものだと感じてますか?
どうなんですかねー。「ゆかりんらしさってなんだろう」と考えたら、女の子らしさなのかなーと……。あと、私はずっとひとつのテーマしか歌ってなくって。それは「愛」とか「恋」とか、いわゆるラブソングですね。なので、ずっと変わらずにあるものとしたら、そこかなあ。「みんな私に付いてこーい!」とか「がんばれー!」みたいな気持ちは、たまにちょっとメッセージとして入れることはあるけど、あまり私の中にはなくて。自分でもそういう音楽に元気付けられることはもちろんあるけど、どっちかというと女の子の気持ちを歌いたいんですよね。誰かのことを好きになるというのは、どんな人にでも経験があって、共感できるものだと思うんです。
──なるほど。田村さんのすごいところは、そのラブリーな世界を完全に破壊するようなトークがあって(笑)、それが同時に成立しているところですよ。間合いや破壊力など、すべてのエンタメ業界の中でもトップクラスのトークスキルを持っているのが田村さんなんじゃないかと思っていて。
いえいえいえ。
──みんなその傍若無人ぶりも含めての「ゆかり姫」を楽しんでますけど、徹底してガーリーなお姫様でいても成立すると思うんですよね。あえてちゃぶ台を引っくり返すようなこともやっちゃうのは、性分ですか?
なんなんですかねー。ああなっちゃったんですよ。気付いたら(笑)。
──気付いたら(笑)。特に破壊衝動があるわけではなく?
いや、そんなことはないし、お姫様お姫様していたいといつも思ってるんですけどね(笑)。
サウンドプロデューサー太田雅友との出会い
──では、ここからは音楽面について具体的なお話を。まずは田村さんの楽曲をひも解く上で欠かせない存在、サウンドプロデューサー太田雅友さんについて聞かせてください。そもそもの出会いはどのようなきっかけだったんでしょうか。
最初の出会いはデモテープですね。以前は何百曲もあるデモテープの中から自分が歌いたい曲を選んで、というやり方だったんですけど、そんな中で太田さんの曲に出会って。そのあと何度か曲をいただいたんですけど、正式に一緒にやってもらえるようお願いしたのはキングレコードに入ってからですね。三嶋さん(三嶋章夫 / キングレコードのプロデューサーとして田村ゆかり、水樹奈々らを担当)のほうからサウンド面をプロデュースする人としてお願いして。
──最初は顔も知らない、数多くいる作家陣の1人だったと。太田さんの楽曲が特に気になったというのは、何か特徴があったんですか?
メロディラインがすごくきれいで。太田さんはもともとご自身のバンドで歌を歌われていたからか、とても言葉が乗りやすいメロディなんですよ。それって簡単なようで実はすごく難しくて。すごく丁寧にメロディを作ってらっしゃるという印象でした。言葉が乗りやすいので、私が一番やりたかった「言葉を伝える」というところにしっかりこだわることができるんです。
──太田さんが正式にサウンドプロデューサーとして参加されてからは、基本的にほかの作家の楽曲でも太田さんがディレクションを担当しているのでしょうか。
そうですね。ほかの作家さんに曲をお願いするときも、主に太田さんと2人で話し合って決めます。
──先ほども言ったようにジャンルは本当に多岐におよんでるんですけど、どんなサウンドでも丁寧かつハイクオリティだなと思うんですよ。どれが専門分野なのかわからないぐらい。
それはホントに太田さんの才能ですよね。私は全然わからないからアレンジはお任せで、たまーに「デモにあった冒頭のピアノは生かしたい」とかその程度の意見を言うぐらいです。
カップリングへのこだわりはお客さん目線
──あと新作が出るたび毎回すごいなと思うのが、シングルのカップリング曲です。必ず2曲もしくは3曲、タイトル曲とは別に新たな楽曲が入りますよね。シングルって通常はメインの1曲にカップリング1曲、それにカラオケが入っていたりすれば十分だと思うんですけど、必ず3~4曲新しい曲を作って、仕様違いなどではなく1枚に収めるというのは田村さん本人のこだわりなんでしょうか。
はい。私がお客さんとしてほかのアーティストさんのCDを買うときは、やっぱり新曲がたくさん入ってたほうがうれしいので。あと、カラオケはいらないかなーと思っちゃうんですよ(笑)。カラオケを入れずにそのぶん新曲をいっぱい入れたい、というのは前のレーベルの頃から変わらないです。
──その姿勢がうれしいファンは多いと思いますよ。単純に制作は大変そうだなとは思いますけど(笑)。第一線で活躍されている声優さんが並行してこれだけの音楽制作に挑むというのは。
ファンのみなさんのおかげで今こうやって活動できているので、できるうちにやれることやっておきたいなって思います。
──ライブは年々規模が大きくなっていますが、基本的にライブは好きですか?
好きですね。でもライブが楽しいって思えるようになったのは、わりと近年です。最初はずっと「人前で歌を歌うなんて恥ずかしい」と思ってました。今のバンドメンバーになってしばらく経った頃からですね、楽しいと思えてきたのは。お客さんも含めて、みんなで1つのものを作る楽しさが分かってきたんです。
──アリーナクラスの会場だと、ぐるっと取り囲むようにお客さんの視線が注がれている状況ですけど、人見知りの田村さんとしてはその状況は平気なんですか?
変な話、会場が大きいほうがむしろ緊張しないですね。大きすぎてワケわかんないから。逆に小さな会場だと、一番前の方と普通におしゃべりするような距離だったりするんですよ。そうなると「ああ今この人絶対、私の足が震えてるの気付いてんだろうなー」とか気にしちゃって(笑)。
──あー(笑)。
小さくてアットホームな会場だと、お客さんと直接のやりとりができるのが楽しいんですよね。でも、せっかく音楽活動をするなら大きな会場でライブしてみたいって気持ちもあるので、どっちも楽しめたらいいなと思っています。
- ニューシングル「Fantastic future」 / 2013年4月17日発売 / 1300円 / KING RECORDS / KICM-1441
- ニューシングル「Fantastic future」
収録曲
- Fantastic future
- 傷つく宝石
- だって×2ウキウキ
- もうちょっとFall in Love
- 田村ゆかり(たむらゆかり)
- 2月27日生まれ、福岡出身の声優アーティスト。1997年にドラマCD「マクロスジェネレーション」でデビューを果たし、声優および歌手としての活動を始める。いずれも精力的な活動で着実に評価を集め、2008年には声優として3人目となる日本武道館公演を行った。2012年10月には2枚目のベストアルバム「Everlasting Gift」をリリース。2013年4月17日には通算23枚目のシングル「Fantastic future」を発表する。