ナタリー PowerPush - 田村ゆかり

超ラブリーな「ゆかり王国」建国記

声優として活躍しながらアーティストとしても高い評価を集める田村ゆかりが、ナタリーに満を持して初登場。音楽活動にスポットを当てたロングインタビューが実現した。

インタビューは幼少時のエピソードから声優&歌手デビューのきっかけ、楽曲制作の重要なパートナーである太田雅友との出会いなど、これまでの流れをたどり「アーティスト田村ゆかり」のヒストリーを追う内容。シングルカップリングへのこだわりやファンとの結びつき、そして最新シングル「Fantastic future」の制作エピソードと、気になる話題にたっぷりと答えてもらった。

取材・文 / 臼杵成晃

引っ込み思案の変身願望

──子供の頃の古い記憶を教えてもらえますか? なんとなく覚えている風景や出来事など。

うーん、なんだろう……。家の周りに木があって、椿が咲いてたのを覚えてます。うちのじゃなくて街で育てている木だったと思うんですけど、その花を獲って蜜をなめたりしてました(笑)。

──田村さんは人見知りだとお聞きしていますが、それは子供の頃から?

はい。でもおとなしかったわけじゃないんですよ。木登りとかもしてました。けっこう大きな木で、大人になってから見たときは「よくこんなのに登れたな」と思いましたけど。

──人見知りではあるものの、わりとアクティブに。

どうだろうなー。アクティブってほどじゃないですね。子供の頃から、今でも引っ込み思案なのは変わらないです。

──でも声優としての活動はもちろん、音楽活動で大勢の前に立ったりという、外に向けて何かを発信する「表現者」の仕事というのは、ある意味引っ込み思案でいることとは真逆の方向ですよね。いったいどういうきっかけで表現する側の道を選んだのでしょうか。

私は本当に引っ込み思案で、友達もそんなに多いほうじゃなくて。学校でもあまり目立たなかったし、先生に褒められるようなところがなかったんですね。そんな中、小学4年生のときに国語の朗読を先生に褒められて、それで「本を読む」ということに自信が持てたんです。それからは自分から手を挙げられるようになりました。そこからお芝居に興味を持って。それが今につながるきっかけですね。もともとは声優というより、お芝居がやりたかったんですよ。もっとちっちゃいときにはアイドルになりたいみたいな夢もあったので、高校生の頃は地元の福岡で受けられるいろいろなオーディションを受けてました。

──お芝居やアイドルというのは、自分を表現するというよりむしろ「別の何かになりたい」という気持ちがあったんでしょうか。

そうですね。とにかく引っ込み思案だったから変身願望が強くて。だからテレビの中でニコニコしているアイドルに憧れているんだと思っていたし、お芝居の楽しさを知ってからは……別に役者じゃなくてもいいなと思ってたんですよ。福岡だったら例えば福岡タワーで案内するお姉さんとか。何かの役を演じるんじゃなくても、言葉で何かを伝えることがしたかったんです。

ラブリーな世界観が「ゆかり王国」の基本

──それが声優への道へとつながったのはどういうきっかけで?

それはホントに偶然ですね。地元でオーディションを受けたりしながら結局は就職をしたんですけど、それでもお芝居をやりたいという気持ちはあって。そんなときに、養成所にタダで入れるというオーディションを見つけたんです(笑)。そこでさらに事務所のオーディションを受けなくちゃいけなかったんですけど、アイウエオ順で探して一番上にあったのが、たまたま声優が多く所属するアーツビジョンで。

──「芸能事務所」欄で一番上にあったところに(笑)。

「アー」だから(笑)。アニメは観てたし、声優というお仕事については把握してましたけど、ラジオをやったり歌を歌ったりという仕事も含まれていることにびっくりしました。

──音楽活動についてはわりと早い段階から?

そもそも最初に受かったのがレコード会社のオーディションで、CDを出すことが前提だったんです。そういうスタートだったから、むしろ最初の頃は歌を歌うほうが多かったです。

──では歌のトレーニングを始めたのも事務所に入ってから?

実は歌のトレーニングって今まで一度もしたことなくて。私は歌をじっくり聴かせるような歌手ではなくて、やっぱり声や表現を聴いてもらう人だと思っていたので、歌を習いに行ってものすごくいい発声になるのはヤだなと思ってたんですよ。ちょっとヘタクソでも味があるほうがいいかなって。今になって「トレーニングしたほうがいいかな……」って思うことはあるんですけど(笑)。

──では自分の中でお手本にした歌手、憧れのアーティストは?

お手本というとおこがましいですけど、ずっと憧れているのは松田聖子さんですね。

──直接的な影響はないまでも、エンタテインメントとしての浮世離れしたステージだったり、ファンタジックな世界観には確かにルーツを感じます。

そうですね。ただ個人的に好きな音楽となると、CoccoさんとかACOさんみたいなちょっと暗い感じだったりするんですけど(笑)。

──CoccoやACOみたいな音楽を自分でやろうとは思わない?

やりたいなと思うことはあるんですけど、ちょっと自分の世界観とは合わないかなって(笑)。アルバムの中に暗ーい曲をたまに入れるぐらいですね。

──いわゆる「ゆかり王国」の世界にはふさわしくないだろうと。

音的な部分ではみんなの大好きなラブリーな世界観が基本にあって、エッセンスとして違う要素を入れたりはするけど、やっぱり歌詞についてはこう、女の情念みたいなものを出しすぎちゃうと合わないと思うんですよ。

ニューシングル「Fantastic future」 / 2013年4月17日発売 / 1300円 / KING RECORDS / KICM-1441
ニューシングル「Fantastic future」
収録曲
  1. Fantastic future
  2. 傷つく宝石
  3. だって×2ウキウキ
  4. もうちょっとFall in Love
田村ゆかり(たむらゆかり)
田村ゆかり
2月27日生まれ、福岡出身の声優アーティスト。1997年にドラマCD「マクロスジェネレーション」でデビューを果たし、声優および歌手としての活動を始める。いずれも精力的な活動で着実に評価を集め、2008年には声優として3人目となる日本武道館公演を行った。2012年10月には2枚目のベストアルバム「Everlasting Gift」をリリース。2013年4月17日には通算23枚目のシングル「Fantastic future」を発表する。