ナタリー PowerPush - たむらぱん
「京騒戯画」監督と語らう表現論
わかりやすさとのバランス
──映像のクオリティもめちゃくちゃ高いですよね、「京騒戯画」は。ストーリーや設定、セリフ以前に映像だけでも芸術として成り立ってるというか。
たむらぱん ポスターもカッコいいですよね。あの赤と黒のやつ。アニメのポスターってカラフルなものが多いじゃないですか。そうじゃないところがシブいなって。
松本 あのポスターは田中勤郎さん(EXILE、L'Arc-en-Ciel、スガシカオなどのアートワークを手がけたことで知られるデザイナー)にお願いしたんです。私はandropが好きなんですけど、田中さんは彼らのコンセプトワークも担当されていて。やっていただけることになったときはすごくうれしかったですね。ただたむらさんに曲をもらったときの状態と同じで、田中さんからポスターのデザインを受け取ったときも、自分の心がメチャクチャになってたんです。あのデザインって、黒字に赤の線画だけじゃないですか。しかもキャラが絡まってるので、パッと見たときなんだかわからないんですよね。で、「コレ、わからないかも」と思ってしまって。
たむらぱん あーなるほど。
松本 そんなわけは絶対にないんですけど、そのときの私は怯えていたので……。
──「わかりやすさ」みたいなことと格闘してた時期ですからね。
松本 そう、もっとわかりやすくしなくちゃいけないんじゃないかって。で、田中さんに連絡して「ちょっとわかりづらくないですか? 影とかを付けたほうがいいのかも……」と言ったら、田中さんは淡々と「監督は最初、『この作品は血の話だ』っておっしゃいましたよね」って話し始めたんです。それって要は「君はこういうことを言って、私もそれが大事だと思ったから、こういうデザインにしたんだよ」っていうことだったんですよね。田中さんはとても穏やかな方なのでそんな言葉を使ってないですけど、「今は悩んでるかもしれないけど、君が持っているものを捨てちゃいけない。日和るな!」っていう話をしてくれて、めちゃめちゃシビれたんですよ。
たむらぱん いいなあ、私も言われたい(笑)。でも、ホントに迷ったときって自分ではどうしようもなくなるんですよね。何かのきっかけが必要というか……。私も作品を作ってるとき、「わかりやすいってなんだ?」ということは考えますからね。それを放棄すると独りよがりになるし、かと言って寄り添い過ぎると薄い作品になるような気がして。そこは行ったり来たりしてますね。
松本 そうですよね。「京騒戯画」は、たむらさんに曲をいただいたときと、田中さんに今の話をされたときがすごく大きくて。そのおかげで「迷うのはやめよう」と思えたんですよね。
たむらぱん よかったです(笑)。私も作品作りに入り込んでいくと、わかりやすさと作品性のズレの中に存在している自分がすごくダメだなって感じるんですよ。
松本 私はアーティストとして作品を作っているわけではないので、「最低限、作ったものでお金を稼がなくちゃいけない」という目的もあって。自分だけのものを突き詰めたいのであれば、会社に入ってアニメを作るんじゃなくて、作家のほうにいくという道もあるし。あと私はどちらかと言うと「わかり合えないだろうな」って思ってるんです、基本的に。それを前提にした上で「でも、わかり合えたほうがよくない?」という部分に落とし込みたいと思っていて。わかり合えないのはわかってる。でも、わかり合おうとすることは捨てたくないというか……。
たむらぱん 行為として?
松本 そうですね。だから1人で突き詰めるよりも、人の中にいたいということなんだと思います。
たむらぱん そういう思いが世の中を動かしているところもあると思ってるんですよね、私も。いつも考えているのは「作品の中に隙間を作る」ってことなんです。みんなが入り込めるような隙間を作って、そこでエネルギーが発電されて世の中が回っていくっていう。そういうイメージで作品を作っていけたらいいなって。
松本 人と向き合ったときの「わかんなくてもしょうがない」というある種の諦めみたいなものが、私にとっての“隙間”なのかもしれないですね。だって「わかるよ、わかるよ。だからこっちのこともわかってくれ」みたいになったら、ニッチもサッチもいかないじゃないですか。
「love and pain」は人間をイメージしたアルバム
──やっぱり2人とも、人と人との関係に敏感なんでしょうね。たむらぱんさんのニューアルバム「love and pain」も、テーマは“人間”ということだし。
たむらぱん そう、人間をイメージしたアルバムですね。
──「人間は愛なんだ そして人間は痛みなんだ」(「love and pain」)というフレーズはこのアルバムのなかで到達した、1つの答えなのかも。
たむらぱん 人って、“行ったり来たり”だと思うんですよ。相反するものが伴っているというか、世の中も基本的に対のモノでできてるんじゃないかなって。それをどっちもわかってないと成り立たないんだろうなって、すごく思うんですよね。両方のことをわかってる人のほうが信用できる気がするし……。あとね、このアルバムって、またの名を“神話”っていうんですよ。この話も「深くなりすぎるとわからないからほどほどにしておけ」ってスタッフに言われてるんだけど。
松本 (笑)。
たむらぱん 1曲目の「love and pain」の冒頭にある「十階の階段」という歌詞は、自分の中でモーセの十戒なんですよ。で、アルバムの最後の曲「やってくる」は、崩壊または誕生って位置付けていて。興味のある人はぜひ、そういう部分も感じ取ってほしいなって思いますね。もちろん、純粋に音楽として楽しんでもらうというのが大前提なんですけど。
コラボレーションを経て
──「京騒戯画」の最終回も楽しみです。
たむらぱん ホントですよね。どうなるんだろう?
松本 今、最終回のコンテを描いてるところなんです。東映アニメーションにはベテランの演出の方もいらっしゃるので、相談というか話を聞いてもらうこともあるんですよ。今回は貝澤幸男さんという「ビックリマン」シリーズなどを手がけた方に手伝っていただいているんですが、私が煮詰まってるとサラッと「世の中に間違ってることなんてないからね」なんて言ってくれるんですよね。
たむらぱん さすが! そういうことって、経験が伴ってないと言えないですよね。何もやってないのに精神論みたいな理屈を言われても、説得力がないだろうし。やっぱり経験値が大事なんですよね。
──今回のコラボレーションも、いい経験になったのでは?
たむらぱん そうですね。いろんなやり方がありますけど、情報だけを交換するみたいな感じじゃなくて、こういうふうに作品作りしていきたいなって思うし。そのほうが作り甲斐があるし、作品に対する思い入れも生まれますからね。
松本 「京騒戯画」は自分の思いだけで作ってる部分もありますからね。そういう作品のオープニング曲をたむらさんに作ってもらえたのは、本当に幸運だったと思います。
- ニューアルバム「love and pain」/ 2013年12月18日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3675円 / COZP-822~3
- 通常盤 [CD]2940円 / COCP-38339
CD収録曲
- love and pain
- くそったれ
- music video life
- 第2ステージ
- 手が目が
- ココ(album ver.)
- 近くの愛情
- only lonely road
- こんなにたくさん
- やってくる
初回限定盤DVD収録内容
TAMURAPAN ワンマンライブ全国ツアー 2012.11.30 @Shibuya-AX
- ふれる
- ラフ
- ゼロ
- 十人十色
- ぼくの
- でもない
- new world
- ハイガール
- でんわ
- 知らない
- おしごと
- 直球
- ニューシングル「ココ」/ 2013年10月23日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD2枚組] 1575円 / COCC-16794~5
- 通常盤 [CD]1050円 / COCC-16793
CD収録曲
- ココ
- 自分を
初回限定盤CD収録内容
京騒戯画特典ラジオCD
- オープニング
- 京騒戯画って?
- たむらぱんをむかえて
- エンディング
ライブ情報
インストアライブ
- 2014年1月12日(日)東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
START 15:00 - 2014年1月18日(土)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店6F
START 14:30
※イベント特典:「特典引換券」または「イベント参加券」をお持ちのお客様は、終演後にたむらぱん本人から「love and pain」ポスターをプレゼント!
"love and pain TOUR"
- 2014年2月12日(水)大阪府 大阪BIG CAT
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年2月13日(木)愛知県 名古屋BOTTOM LINE
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年2月21日(金)東京都 Zepp Tokyo
OPEN 18:30 / START 19:30
たむらぱん
作詞・作曲・アレンジはもちろん、アートワークまで手がけるマルチアーティスト・田村歩美のソロプロジェクト。2007年からMyspaceにおいて自ら楽曲プロモーションを開始し、日本初の「Myspace発メジャーデビューアーティスト」として、2008年4月に1stアルバム「ブタベスト」をリリースする。また自身の活動に加えて、松平健の「マツケンカレー」や、アイドルグループのbump.y、私立恵比寿中学などへの楽曲提供、さらにロッテ「Fit's」CM曲の歌唱など、多岐にわたる活動でその才能を発揮している。2013年10月にアニメ「京騒戯画」のオープニングテーマとして書き下ろした「ココ」をリリース。12月には6thアルバム「love and pain」を発売する。
松本理恵(まつもとりえ)
1985年生まれ、アニメーション演出・監督。2006年の「ふたりはプリキュア Splash Star」で演出助手としてデビュー。2010年公開の映画「ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?」ではシリーズ初の女性監督を務める。現在TOKYO MXテレビ / BS朝日テレビおよびニコニコ動画にて放送中のアニメ「京騒戯画」の監督を担当。