TAKURO「The Sound Of Life」インタビュー|ウクライナ侵攻をきっかけに生まれたヒーリングアルバム

TAKUROが約4年ぶりにソロアルバムをリリースする──。その知らせを聞いた際、ギタリストTAKUROの進化を示すジャズやブルースを軸とした「Journey without a map」シリーズの新作が届けられる、そう思っていた。しかし、その予想はニューアルバムの1曲目を耳にした瞬間に見事に裏切られた。

すでに報じられている通り、このたびリリースされたTAKUROの3rdアルバム「The Sound Of Life」は、純度100%のまごうことなきヒーリングアルバムだ(参照:TAKUROが3rdソロアルバムリリース、心を落ち着かせる10曲収録)。雨音や雷鳴、鳥のさえずりなど、自然の音も取り入れたサウンドは聴き手の心を優しく包み込み、癒す力にあふれている。そして、TAKUROは本作に収録されている楽曲のほとんどを手慣れたギターではなく、ピアノと向き合って作ったという。

長らくロックバンドのメインコンポーザーとして数々のヒット曲を生み出し、印象的なギターフレーズも奏でてきたTAKUROが、なぜピアノでヒーリングアルバムを作ったのか。作詞家、そしてギタリストという肩書きを外し、1人のコンポーザーとして新たな境地へと挑んだ彼に話を聞いた。

取材・文 / 中野明子撮影 / Shin Ishikawa(Sketch)

ウクライナ侵攻で感じたやるせない気持ちを癒すために

──2022年はGLAYとしての活動が「GLAY ARENA TOUR 2021-2022 "FREEDOM ONLY"」のツアーファイナルを皮切りに、ファンクラブツアー、2002年9月発表の7thアルバム「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」の再現ツアー、最新シングル「Only One,Only You」のリリースとありましたが、多忙を極める中でいつからソロアルバムの制作に着手したんですか?

2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まったことをきっかけに、1カ月の間に「Only One,Only You」(2022年9月にリリースされたGLAYの60thシングル)を、ロスにいる俺と東京にいるメンバーでやりとりしながら作って。それと並行して、ソロアルバムの曲を4日くらいで書き上げたんです。自分のやるせない気持ちに安らぎを与えるというか、癒すために音楽の力を借りたいという思いがあって。朝起きたら「戦争は終わりました。平和が訪れました」というニュースが聞けないかと願いながら暮らしているけど、そのニュースは何日経っても聞けず……人類が歴史から学ばないことにガッカリしながらも、希望は捨てないように。そういう思いからアルバムの楽曲が生まれました。10曲を作り終えてから1人のミュージシャンとして、大人としてどう行動すればいいかという活力も湧きましたね。

TAKURO

──世界情勢が作品に反映されているという点では、「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」と近しいものを感じました。あのアルバムは9.11事件、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件を受けて作られたものですよね。

確かにそうですね。ファンの人たちからは「Only One,Only You」も「UNITY ROOTS & FAMILY,AWAY」に入っていてもおかしくないと言われました。それにしても9.11から20年経っても人類は同じことを繰り返している。おそらくこの2000年の間、1つも争いがなかった日はないんですよね。

──あらゆる技術はどんどん進歩して、価値観もアップデートされているのに、戦争だけはなくならない。

それが人類の出した答えとも言えるし、平和を望む自分たちのほうに何か重大な見落としもあるのかもしれない。そんな中、ふとナイアガラの滝を頭に思い浮かべた瞬間があって、「時間って意味あるのかな」と考えたんです。

──と言うと?

ナイアガラの滝は50年前も50年後もただただ水が流れていて、たとえ水源が枯渇しても滝自体がそのことに意味を感じることはない。そこになんらかの意味を求めるのは人間だけだと思うんですよ。そういうことを考えながら、時間や人類のいざこざみたいなところから一度自分の身を離して、内なるところから自然に浮かんできたメロディをピアノで引き出そうと思ったんです。俺はピアノを弾くのがそんなに上手ではないので、テクニックを使って作曲することはできない。ただ、ミュージシャンではあるから、この音の次はどんな音が来たら美しいかなと想像することはできる。ピアノに向かって自分が求める音を1つずつ探すことを通して、心を落ち着かせていったんです。

TAKURO
TAKURO

TAKUROの肩書きは作詞家

──ギタリストとしても名を馳せているTAKUROさんが、ご自身のアルバムを全曲ピアノで作られたというのがリスナーにとって一番の驚きだと思うんです。なぜご自身の武器を封印してピアノで作曲を?

自分の中で、音楽制作における順番があるとしたら一番が作詞で、その次に作曲があって、3番目がギターなんです。

──そのことは2003年に刊行された単著「胸懐」でも書かれていましたが、20年近く経ってもその順位は変わっていないんですね。

自分の肩書きはなんだと問われたら、作詞家というのが一番しっくりくる。作曲は特技で、ギター演奏は好きなこと。ギターを軸にしたソロアルバムをTak Matsumotoプロデュースで2枚出しましたが(2016年発表の「Journey without a map」、2019年発表の「Journey without a map Ⅱ」)、どちらもギタリストとしての自分の至らなさを見直すことや、ギターの根本的なスタイルを確認するのが目的だったんです。一方で今回のアルバムは世界情勢に触発された作品ではあるけど、作曲家としての自分のスキルを磨いて表現の幅を広げるためという意図があるんです。

──ソロとGLAYの楽曲を作るうえで違いはありますか?

GLAYの曲であればTERUというボーカリストがいるので、TERUを想定した“当て書き”になるけど、ソロの場合はインストゥルメンタルがメインで歌う人がいないのでそこが一番違いますね。「The Sound Of Life」については、人が歌えなくてもかまわない、ピアノが表現の基本であれば大丈夫という点だけを意識して。ギターで作曲するとなると、どうしても好きなコード進行というのがあるので手癖が出ちゃうけど、ピアノだとそれがない。何よりこのアルバムについてはメロディが飛躍しようが、コードがどんなものだろうがよかった。ヒーリングミュージックだから、強いメロディさえあればよくて、波の音でも鳥の声でも必要であれば入れる……だから従来に比べて曲の構築の仕方としてはいびつでしたね。

TAKURO

──これまでの作曲方法を考えると、かなりのチャレンジですよね。

願いは1つなんです。芸術や文化で争いは止まらないけれど、自分が作った音楽が誰かの背中を押すような、頬を優しくなでるようなものにならないかなという。波や鳥の声、自然にあふれている音で人の心は穏やかになるものだけど、その中にちょっとだけTAKUROのメロディもいさせてくれという思いでした(笑)。

──確かにフィールドレコーディングで録られたであろう多彩な自然の音が、いい効果を生んでいますよね。それゆえに、TAKUROさんの存在が明確に感じられたギターが主役の「Journey without a map」シリーズと比較すると、ご自身の存在をあえて消してらっしゃるようにも感じました。サウンドトラック的な印象も受けましたし。

ソロは俺にとって修行というか鍛錬の場だから。ずっと同じことをしていてもしょうがないし、表現の幅を広げていきたい。あと、そんな作業を何年かに一度はやるのがバンドにいる者としてのマナーじゃないかと。この先、自分が何をGLAYに貢献できるのかということを都度見直さないといけない。そのためには、TERU、HISASHI、JIROの助けが得られない場所に自分を追い込むことが必要なんですよ。

定石を無視して1音1音を探る

──TAKUROさんがソロアルバムをリリースされると耳にしたとき、てっきり「Journey without a map Ⅲ」が出るものだと思っていたんです。

あ、「Journey without a map Ⅲ」の準備は進めてますよ。来年あたりかな? GLAYの次のアルバムを発表したあとに、Tak Matsumotoのスケジュールが取れたら。実は曲はもうあるので、あとはレコーディングするだけ。

──え、もう曲ができてるんですか?

はい。「Journey without a map」シリーズは楽しい音楽学校みたいなものなんですよ。アメリカ発祥のジャズやブルースの作品というフォーマットを決めているので、その中でギタリストとしてどう自由にプレイするかという。「The Sound Of Life」に関しては、“音楽的ではないところ”にどこまで飛び込めるかが目的。例えば日本のポップミュージックならAメロ、Bメロ、サビという展開が定番だし、洋楽はBメロがないことが多い。GLAYはポップスの定石がある中で戦わないといけないけど、このアルバムについてはその意識を取っ払って。

TAKURO

──自由な発想で作っていったと。

40代までは、しっかりしたコード進行とその時代に沿ったBPMを踏まえて、そこに対してどう自分たちの色を付けていこうかと思っていたんです。その中でGLAYは戦ってきたけど、ときどき真逆なところに身を置かないと自分自身を見失ってしまう。なので今回に関しては、定石を無視して1音1音を探るように作っていきました。制作する中で波音の上に印象的なメロディを乗せることで人を十分癒すことができるし、それもまた音楽であると知ることができた。