TAKU INOUE「群像劇みたいなEPにしたかった」、新作で“FUTARI”の関係にフォーカス (2/3)

大人の恋愛と、プラトニックな恋愛をつなぐ曲

──3曲目「FUTARI」は、インタールード的なインスト曲ですね。

「トラフ」のデモができて、ようやく曲の順番を考え始めたときに、前半2曲と後半2曲をつなぐ曲が欲しくなったんですよ。感覚的なものなんですけど、前半2曲はありていに言えば大人の恋愛で、後半2曲はプラトニックな恋愛という印象があって。もともと群像劇みたいなEPにしたかったという思惑もあり、つなぎの1曲を入れることでよりEPとしてのまとまりが出るんじゃないかなと。

──「FUTARI」の雰囲気、かなり好きです。ポストロックあるいはマスロックをやろうとして途中でやめた、みたいな。

まさにマスロックをやろうと思って作りました(笑)。もともとtoeとか大好きだったので。

──Tortoiseとか。

そうそうそう。

TAKU INOUE

──「FUTARI」は1分7秒しかないので「もうちょっと聴かせて」と思ってしまうのですが、つなぎの曲であると同時に4曲目「ピクセル(feat. なるみや)」のイントロとしても機能していると考えると、この食い足りなさがちょうどいいんでしょうね。

確かにこのネタでもっと引っ張れたんですけど、自分としては、おっしゃる通り「ピクセル」のイントロというイメージもあって。ここからいい感じに「ピクセル」に持っていくには、尺はそんなに長く取るべきじゃない。「ピクセル」でもちょっとポストロック的なギターが鳴っているので、そこになじませる意図もあったし、BPMも「ピクセル」に合わせて作っています。

──INOUEさんのトラックの特徴だと思うのですが、ドラムの音が、打ち込みなのに粗くて生々しいですよね。「3時12分」や「The Aliens EP」(「ALIENS EP」収録曲)もそうでした。

はいはい。お気に入りの、生のジャズドラムのサンプルがあって、それをめちゃくちゃ細かく切り刻んで、いいタイミングで鳴るように並べています。生ドラムを録ってもよかったんですけど、自分の思い通りになりづらいというか。自分の頭の中で鳴っているフレーズと寸分違わぬものにしたいと思ったら、自分でプログラミングするしかないんですよね。

“くっつける”とか“混ぜる”って、人生のテーマかもしれない

──「FUTARI」からスムーズにつながる「ピクセル」も、ある種のミクスチャーですよね。今おっしゃったようにギターはポストロック的ですが、トラックはハイパーポップで。

そうなんです。ただ、この曲はロックの頭で作ったわけじゃなくて、最近のハイパーポップとかを聴いていると、こういうギターの使い方をしている曲がけっこうあるんですよ。だから「これ、俺もやりてえな」と思ったのがきっかけではあります。ちょっと歪んだやかましいビートに、クリーンなギターを乗せるような形で。

──「ライツオフ」のところで「人力の楽器演奏が重要な要素になっている」というお話がありましたが、今回は5曲すべてINOUEさんがギターを弾いていますね。

ギター、かなり増えましたね。単純に、2022年に星街すいせいさんと始めたMidnight Grand Orchestraや、anoちゃんのサポートバンドでギターを手に取る機会が増えたのも影響していると思います。昔は「ギターなんかいらないよ」「歪んだギターなんか最悪」という感じだったんですけど、最近はギターを弾くのが楽しいですね。

──音色も特徴的だと思います。

うん。普通っぽくない音色というか、変な質感にしたい気持ちは「ピクセル」に限らずあります。

TAKU INOUE

──INOUEさんの音楽は、ツッコミどころがあるのがいいと思っていて。

ああー、うれしいです。

──ちゃんとした音楽って、「ちゃんとしてますね」という感想しか出てこなくて。それよりも「え? なんで?」みたいな引っかかりがあるほうが、個人的には面白みを感じます。

The Chemical Brothersとかもそうですよね。「この音、なんでこんなにデカいの?」「この展開、これで終わり?」みたいなのがめちゃくちゃある。ああいうのが僕も大好きだし、さらっと聞き流されるような曲にはしたくないとは常に思っています。ギリギリJ-POPと言い張れるぐらいの線引きはしつつ、変なことはしたい。「ピクセル」だったら、中盤で謎にロックっぽいパートを突っ込んでいるんですけど、そこも気に入っていますね。

──そういうアイデアは、どこから?

直感としか言いようがないですね。「ピクセル」のときは急にロキノン系っぽい感じが欲しくなって。

──「トラフ」のジャージークラブも?

はい。完全に感覚頼りだし、逆に言えば勝算もなくて。だいたい「とりあえずやってみるか」から始まるんです。もちろん自分の好きなジャンル限定ではあるんですけど。

──感覚頼りで形になるというのは、けっこうすごいことなのでは?

もしかしたら、それが自分の長所なのかも。長年の経験からか、最近はわりとなんでもくっつけられる自信が持てるようになっているんですよ。例えば誰かに「これとこれをくっつけて?」とお題を出してもらったり、くじ引きでくっつけるジャンルを決めたり、そういうことを今度やってみようかなと思っちゃうぐらいには。

──面白そう。

もともとミクスチャーロック育ちだというのもありますけど、“くっつける”とか“混ぜる”って、人生のテーマかもしれないです。J-POPだとm-floが1つのモデルケースというか、彼らもいろんなジャンルを混ぜているし、しかも曲の中に「なんで?」というパートもけっこう出てくるので、かなり影響を受けていると思いますね。まあ飽きっぽい性格なので、1つのジャンルでやっていくのが向いていないだけという説もありますが、今後もこんな感じでやっていくんだろうなという予感はしています。