ホロライブ×DECO*27=holo*27レビュー|クリエイティブの可能性を拡張、アルバム2作品の魅力を紐解く

ホロライブとDECO*27の新規音楽プロジェクトholo*27はどのようにして生まれたのだろう。

2022年12月1日、holo*27の始動がTwitterでアナウンスされると、喜びと期待に満ちた多数のコメントがSNSにあふれた。この組み合わせが、なぜここまで多くのリスナーを惹きつけるのか? 本稿ではホロライブとDECO*27が築き上げてきた関係を振り返り、3月15日にリリースされたアルバム2作品「holo*27 Originals Vol.1」「holo*27 Covers Vol.1」の魅力をレビューで紐解く。

文 / 柴那典

ホロライブとDECO*27の関係構築

holo*27とは数多の人気VTuberを輩出するホロライブとDECO*27がタッグを組んだ新たな音楽プロジェクトだ。2022年12月1日に始動し、2023年3月15日にアルバム「holo*27 Originals Vol.1」「holo*27 Covers Vol.1」の2作品がリリースされた。

DECO*27がホロライブタレントたちを総合プロデュースするというholo*27のプロジェクトはどのように生まれたのか。オリジナル楽曲10曲を収録した「holo*27 Originals Vol.1」、DECO*27の楽曲10曲のカバーを収録した「holo*27 Covers Vol.1」という2枚のアルバムは、どんな作品になっているのか。その文脈を音楽的な考察から紐解いていきたい。

ボーカロイドプロデューサーとして長きにわたってシーンの最前線で活躍してきたDECO*27。その代表曲の数々は“歌ってみた”の定番曲としても人気を博してきた。ホロライブタレントたちとDECO*27との音楽的な接点という意味では、まずはこうしたカバーがきっかけになったはずだ。ときのそらの「乙女解剖」、兎田ぺこらの「シンデレラ」、紫咲シオンの「ヴァンパイア」など、数々のDECO*27楽曲のカバーが動画サイトに投稿されている。

こうしたつながりもあり、2021年からDECO*27がホロライブタレントのオリジナル楽曲を手がけるようになる。最初に書き下ろしたのは2021年9月発表の角巻わため「RAINBOW」。DECO*27はその後も、湊あくあ「きらきら」などの作詞作曲を手がけ、クリエイターとしてVTuberの音楽活動により深く関わるようになっていく。

2022年には、DECO*27はMori Calliope×Gawr Gura「Q」や、Mori Calliope×星街すいせい「CapSule」といったコラボ曲にも携わっている。「CapSule」はMori Calliopeが2022年7月にリリースした1st EP「SHINIGAMI NOTE」の収録曲。これらの曲では、日本語詞をDECO*27、英語詞をMori Calliopeが手がける形での共作も実現した。

2022年はMori Calliopeがメジャーデビューし、星街すいせいとサウンドプロデューサーTAKU INOUEによるユニットMidnight Grand Orchestraもメジャーデビューを果たすなど、ホロライブタレントたちのアーティスト活動が広がり、その歌声の表現力が音楽シーンの中でも評価を高めていった1年だ。この年、DECO*27はほかにも、博衣こより「WAO!!」、さくらみこ「ベイビーダンス」、猫又おかゆ「あっかんべ」、白銀ノエル「はっぴー」など数々の楽曲を提供している。

holo*27は、こうして深まっていったDECO*27とホロライブとの関係性の延長線上にあるプロジェクトと位置付けることができる。

バラエティ豊かな音楽的方向性、DECO*27の挑戦

3月15日にリリースされた2枚のアルバムにおいては、まずは新規書き下ろしのオリジナル曲を収録した「holo*27 Originals Vol.1」が、非常に興味深い内容になっている。全10曲がすべて異なる音楽的方向性を持った1枚に仕上がっているのである。

「holo*27 Originals Vol.1」収録曲および参加タレント ©︎2016 COVER Corp. ©︎DECO*27 ©︎VIA/TOY'S FACTORY

「holo*27 Originals Vol.1」収録曲および参加タレント ©︎2016 COVER Corp. ©︎DECO*27 ©︎VIA/TOY'S FACTORY

オープニングを飾る楽曲は紫咲シオン×ラプラス・ダークネス「リップシンク」。ドラムンベースのビートに乗せて2人が迫力たっぷりのラップを披露するインパクト大のナンバーだ。挑発的なトーンと切迫感が混ざり合うリリックも、2人の掛け合いの歌で駆け抜けるサビも、かなりの高揚感をもたらしてくれる。

2曲目の「Sweet Appetite」はGawr Gura x Hakos Baelzによるエレクトロナンバー。「ホロライブEnglish」のメンバーとして英語圏で人気の高い2人のコラボ曲だけあって、全編英語詞の楽曲となっている。アレンジはTAKU INOUEが担当。キュートなメロディと攻撃的なEDMサウンドが聴きどころだ。

天音かなた「ヒル」はDECO*27らしい高速ビートのロックナンバー。巧みなギタープレイとパワフルなバンドアンサンブルに乗せて、畳みかけるような歌が響く。自意識の葛藤や劣等感をつづったリリックも印象的だ。

アルバムの中でも異色な聴き心地を持つのが、沙花叉クロヱ「P.E.T.」だ。軽快なエレクトロポップからダークなダブステップまで1曲の中でくるくると表情を変えるサウンドに乗せ、タイトル通り「ペットとしての関係」をモチーフにした不穏な歌詞を歌う。さまざまな声色を使い分ける歌声が不穏さを掻き立てる。

百鬼あやめ「ビビビ」は、アップテンポでカラフルなポップチューン。元気いっぱいのかわいらしさを前面に押し出した、アイドルポップにも通じるような1曲だ。

さくらみこ x 兎田ぺこら「モッシュレース」は、2人のキュートな歌声の魅力を前面に押し出したエネルギッシュな1曲。パンキッシュなギターサウンドを生かしたストレートなロックナンバーに、この2人らしい闘争心に満ちたリリックが歌われる。

アルバム中盤にはライブでのフィジカルな盛り上がりを生むような楽曲が並んでいるが、風真いろは「夢嵐」もその1つ。ラテンパーカッションをちりばめたビートが速いBPMで駆け抜ける。タオルを回す風景が似合いそうな、夏のダンスナンバーだ。

DECO*27にとっての新境地と言えそうなのが、雪花ラミィ×鷹嶺ルイ「Baby Don't Stop」。ビッグバンドジャズを思わせる洒脱なフレーズを随所に盛り込んだナンバーだ。2人のボーカルも大人な色気を漂わせる。

猫又おかゆ「エンドロール」も鮮烈だ。アコースティックギターのエモーショナルなフレーズと打ち込みのビートに乗せて巧みなラップを聞かせる1曲。疾走感あふれるギターロックに転じていく後半の展開も面白い。

そしてアルバムのラストを飾る星街すいせい「プラネタリウム」は、星街すいせいの歌声の魅力をストレートに引き出すような1曲になっている。アカペラを軸にしたアレンジ、壮大なメロディで、スケール感の大きなロマンチシズムを感じさせる。

こうした全10曲のバラエティ豊かな内容は、DECO*27がホロライブタレントたちの個性を引き出すための挑戦の結実だろう。そういう意味でも、双方にとって意義のあるコラボレーションになったと言える。

キャラクター性にドンピシャのカバー

一方、「holo*27 Covers Vol.1」は、DECO*27の楽曲10曲をホロライブタレントが新たにカバーした内容。こちらの聴きどころは、楽曲とボーカリストとのマッチングにある。その筆頭が“魔界の天才ヴァンパイア”夜空メルと癒月ちょこが歌う「ヴァンパイア」だろう。大神ミオ×博衣こよりの「アニマル」、姫森ルーナの「シンデレラ」、Kureiji Ollieの「ゾンビ」など、ホロライブタレントのキャラクター性にドンピシャのテーマの楽曲を歌ったカバーが並ぶ。

「holo*27 Covers Vol.1」収録曲および参加タレント ©︎2016 COVER Corp. ©︎DECO*27 ©︎VIA/TOY'S FACTORY

「holo*27 Covers Vol.1」収録曲および参加タレント ©︎2016 COVER Corp. ©︎DECO*27 ©︎VIA/TOY'S FACTORY

国境を超えたラインナップも特徴的で、「乙女解剖」を歌うMoona Hoshinovaと「モザイクロール(Reloaded)」を歌うAirani Iofifteenは「ホロライブインドネシア」所属。Takanashi Kiara×Nanashi Mumei「ゴーストルール」、Mori Calliope「ヒバナ(Reloaded)」と、「ホロライブEnglish」のメンバーも日本語で歌っている。

アルバム終盤は、不知火フレアが中毒性の高いメロディを伸びやかな歌声で歌う「妄想感傷代償連盟」、ときのそらが透明感あるボーカルを響かせる「愛言葉Ⅳ」と、ストレートなカバーが並ぶ。「乙女解剖」や「ヴァンパイア」などDECO*27の楽曲の歌詞のフレーズをちりばめ「こんな歌歌ったんだって 君が輝けるように」と締めくくる「愛言葉Ⅳ」はラストにぴったりだ。

アルバム2枚の全20曲を聴いて感じるのは、ホロライブタレントたちにとってだけでなく、DECO*27にとっても、holo*27が自身のクリエイティブの可能性を拡張するようなプロジェクトになっているということ。それぞれのタイトルに「Vol.1」とあるということは、この先も継続して作品を制作していく予定があるのだろう。プロジェクトの先行きにも期待したい。

イベント情報

hololive 4th fes. Our Bright Parade Supported By Bushiroad

2023年3月18日(土)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール
<出演者>
hololive stage DAY1
ときのそら / ロボ子さん / AZKi / さくらみこ / 夜空メル / 赤井はあと / 癒月ちょこ / 大空スバル / 不知火フレア / 白銀ノエル / 角巻わため / 姫森ルーナ / 尾丸ポルカ / ラプラス・ダークネス / 鷹嶺ルイ / 博衣こより / 沙花叉クロヱ / 風真いろは / アユンダ・リス / アイラニ・イオフィフティーン / クレイジー・オリー / 小鳥遊キアラ / 一伊那尓栖 / ワトソン・アメリア / 七詩ムメイ


2023年3月19日(日)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール
<出演者>
hololive stage DAY2
星街すいせい / アキ・ローゼンタール / 白上フブキ / 夏色まつり / 湊あくあ / 紫咲シオン / 百鬼あやめ / 大神ミオ / 猫又おかゆ / 戌神ころね / 兎田ぺこら / 宝鐘マリン / 天音かなた / 常闇トワ / 雪花ラミィ / 桃鈴ねね / 獅白ぼたん / ムーナ・ホシノヴァ / アーニャ・メルフィッサ / パヴォリア・レイネ / 森カリオペ / がうる・ぐら / IRyS / セレス・ファウナ / オーロ・クロニー / ハコス・ベールズ

holo*27 stage
ときのそら / さくらみこ / 星街すいせい / 夜空メル / 紫咲シオン / 百鬼あやめ / 癒月ちょこ / 大神ミオ / 猫又おかゆ / 兎田ぺこら / 不知火フレア / 天音かなた / 姫森ルーナ / 雪花ラミィ / ラプラス・ダークネス / 鷹嶺ルイ / 博衣こより / 沙花叉クロヱ / 風真いろは / ムーナ・ホシノヴァ / アイラニ・イオフィフティーン / クレイジー・オリー / 森カリオペ / 小鳥遊キアラ / がうる・ぐら / 七詩ムメイ / ハコス・ベールズ

プロフィール

DECO*27(デコニーナ)

アーティストでありながら他ミュージシャンのさまざまな楽曲の作詞、作曲を手がけるプロデューサー。ロックやエレクロニックをベースにジャンルレスなミクスチャーサウンドとポップでキャッチーなメロディ、さらに“愛”や“恋”といった万人が持つ感情を表現した独特な言葉遊びが10~20代の支持を得ている。2008年10月にVOCALOIDを使用した作品を動画共有サイトに投稿開始。これまで公開されたDECO*27の楽曲の関連動画を含む総再生回数は10億を超える。またHey! Say! JUMP、まふまふ、Ado、浦島坂田船、すとぷり、江口拓也、柴咲コウといったアーティスト、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」やMILGRAM -ミルグラム-の楽曲プロデュースと並行して、活動の原点であるVOCALOID楽曲を発表し続け、5人組ユニット・mzsrzの音楽プロデューサーも務める。2022年12月にホロライブとの新規音楽プロジェクト「holo*27」を始動させ、翌年3月にアルバム2作「holo*27 Originals Vol.1」「holo*27 Covers Vol.1」をリリースした。