ナタリー PowerPush - 竹内まりや
クリス松村と紐解く「Mariya's Songbook」
亜弥ちゃんはすごくいい歌手に成長する
クリス 松浦亜弥さんは出会う前からファンだったそうですね。
竹内 はい。デビューした頃はハロプロ的なキャピッとしたイメージだったけど、ときどき歌番組でしっとりした曲を聴くと、成熟した歌を歌う人だなあと思ってたんですよ。その後、2008年に私のソングミュージカル「本気でオンリーユー」の主役をお願いしたことからお付き合いが始まって、彼女のステージを観に行くようになりました。客席のほとんどは男性の親衛隊っぽい人なんだけど、その方たちだけで独占してしまうにはもったいないほどの、ほんとに素晴らしいライブをやってるんですよね。歌にしろMCや客あしらいにしろ、天才的なステージングなんですよ。これはすごいなあと思って。今はちょっとお休みされてますけど、これから30歳、40歳になるにつれて、彼女はものすごくいい歌手に成長するだろうなと楽しみにしています。
クリス 私は松浦さんが出てきたとき「ああ、ひさしぶりにアイドルらしい人が出てきたな」と思いました。ただ、美空ひばりさんのカバーをやったあたりから個人的な気持ちでは「えっ?」って思ってしまって。「Subject:さようなら」を聴いて、まりやさんと早く出会ってればよかったのにってすっごい思いました。まりやさんに早くお任せして、大人に脱皮するためには美空ひばりさんのほうじゃなかったよっていう(笑)。
竹内 うまいが故に、若いのにひばりさんの曲まで歌っちゃうところに行っちゃったけど、本来彼女の魅力はもうちょっと違うとこにあるような気がして。でもまだ20代だし、結婚されてこれからどういうふうに活動をシフトしていくかわからないけど、まだいろいろな可能性があるなと私は思います。
私のアイドルはThe Beatles
クリス 本当にたくさんのアイドルに曲を提供されてますけど、まりやさんご自身は好きなアイドルっていたんですか?
竹内 自分の中でのアイドル? 幼い頃、日本人の歌手の中で一番好きだったのはザ・ピーナッツと弘田三枝子さんだったんですけれど、でもそれはアイドルと呼ぶようなアイコン的なものというより、彼女たちの歌う歌とその声が好きだったんだと思います。だから私にとってのアイドルをひとつ挙げるとすると、やっぱりThe Beatlesになるんでしょうか。
クリス ああ、The Beatles! そうですね。
竹内 いつかジョンに会いたいとか、ポールは普段は何食べてるんだろうとか、そういうミーハー的な意味でも音楽的な意味でも、The Beatlesが一番の関心事でしたから。
クリス まりやさんが、ジョンに会いたいがためにレコード会社に就職したかったというエピソードをお聞きしました。
竹内 レコード会社というより、音楽雑誌の編集者になって外国のアーティストにインタビューするのが夢だったんです。高校で留学したのも、もしジョンに会えたらちゃんと英語が話したいから、という単純な動機だったし。The Beatlesがそこまで生活や夢の中に入ってきてるっていう意味では、例えばジャニーズのファンの子の気持ちに近かったのかもしれないですね。そういう思いで見たのは、私の場合The Beatlesだけです。日本の歌手で好きだった人たちは、その歌唱の魅力と、楽曲として「いい歌を歌ってるな」っていうことだったと思うんですよね。ほとんどが洋楽のカバーソングでしたが。
クリス つまり、まりやさんってご自分の中に“女性アイドル像”が明確にあるわけじゃないんですね。なんか私は、まりやさんの書かれるスクールデイズ歌謡みたいなものはアイドル楽曲にとって新境地だったと思うんですよ。悲恋モノとか、70年代のものとはタイプの違う、ちょっと大人っぽい目線なんですよ。「けんかをやめて」なんかはまさにそうでした。
まりやさんってすごい女子力
クリス それから、この2枚組アルバムを聴いて一番思ったのは、まりやさんってすごい女子力!
竹内 女子力?(笑)
クリス 今はやりの言葉で言ったらですけど。70年代の曲って女子力があまり感じられないんですよ。でもまりやさんの曲は女性主導で考えを吐き出してるっていうか、しっかりと女子目線なんですね。
竹内 それは考えてみたことがなかったですね。まあ自分が女性だから女子の立場のことが書きやすいというのもありますけど……70年代の女性と80年代以降の女性、それほど考え方とか感じ方が違うとは思えないのに、私の表現が違うように見えたんですか?
クリス 70年代の歌謡曲って「死んでもいいですか」みたいなフレーズが平気で使われたり、曲の路線が全部女性は下のほうで、男性が上で。「自分なんか」っていう世界だった気がするんですよ。
竹内 ああ、そういうこと。耐え忍ぶみたいな感じですね。
クリス そうなんです。それが「けんかをやめて」では、女性側からスクールライフを楽しんで事を起こすっていう素晴らしい世界っていうか(笑)。だから今につながる女子力の元祖みたいに思います。
竹内 古風じゃなくて、ちょっと強気な女子が登場するということですね。
クリス それに、書いてるまりやさんが何歳のときだろうと、少女性がちゃんとあるのもすごいですよね。
竹内 たぶん、少女の頃のときめく気持ちとか、初恋とか初めてのデートとか、そういう感覚は誰でも一生変わらずに心の片隅にあると思うんです。それは何歳になっても思い出せるものでしょ。70歳の心情は70歳にならないと歌えないけれども、14歳に戻りなさいって言われたら、膨大な記憶と感覚をたどっていつでも戻れるというか。だから常に引き出しを開ければ少女の気持ちはそこにあるってことじゃないのかな?
クリス はあー。
竹内 自分が通り過ぎた年代にもう1回戻ったり、想像したりすること。それがほかの人に楽曲を書く面白さでもありますから。自分の声で表現するには合わない言葉でも、その人が表現してくれるから書けるっていう楽しさがあるなと、収録曲を見て思いましたね。
職業作曲家じゃないぶん自由度が高かったのかも
竹内 振り返ってみると、聖子ちゃん、明菜ちゃん、中山美穂さん、河合奈保子さん、この4人全員に提供した職業作曲家ってそれほど多くはいないと思うんですよ。あの時代、歌謡界にはある種の作家の住み分けみたいなものがおのずとあったような気がしますし。私は職業作曲家じゃないぶん、どこにでも行ける感じがあって自由に書かせたいただいた。いわゆる職業作曲家だったら、逆にこんなに幅広く書けなかっただろうと思いますね。
クリス 時代をときめく女性に曲が書けるっていう意味で、私が思い浮かぶのは4人なんですよ。松任谷由実さんと中島みゆきさんと尾崎亜美さんとまりやさん。
竹内 光栄です。確かに、皆さん自由に幅広く書いていますよね。私は今回のアルバムでつくづく実感したんですけど、自分がこうして30年以上も音楽活動を続けてこられたのは、作った楽曲をこれだけたくさんの歌い手さんが表現してくださったおかげだということですね。結婚以降は6、7年に1枚アルバムを出す程度で、あまり表に出ずに活動してきましたが、それができたのは、達郎のプロデュース能力が優れていることと並行して、「ここに入っている歌手の皆さんが私の曲を歌ってくださったからだ」って、このCDを聴いて改めて感じました。もう本当にありがたいことです。
クリス これはまりやさんだけじゃなくてユーミンとかにも言えることなんですけど、やっぱりその人が歌ってくれたからあの歌ってすごく生きたと思うんです。まりやさんやユーミン自身の歌唱力とかテクニックとは関係のない世界。
竹内 その歌手の個性に合った歌がピシャっとハマるっていうことですよね。
クリス それを聴いて音楽を知る、作家を知るっていう入り方もありますから。まりやさんのファンの方も、提供されたアイドルソングから入った方はいらっしゃると思います。
竹内 例えば私が昔歌った「September」は知らないけれど、広末涼子ちゃんの「MajiでKoiする5秒前」を聴いて認知したって人もいると。
クリス ええ。私たちは当たり前のようにまりやさんを78年から活躍されてる人って思っているけど、それ以降に生まれた人たちは意図しないところから入ってきたりしているので。だからそういう意味では他人に提供するってすごく重要ですよね。
- コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」/ 2013年12月4日発売 / Warner Music Japan
- コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」
- 初回限定盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11618~9
- 通常盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11666~7
DISC 1:Mariya's Songbook
- みんなのハッピーバースデイ(芦田愛菜)
- リンダ(アン・ルイス)
- ファースト・デイト(岡田有希子)
- けんかをやめて(河合奈保子)
- 駅(中森明菜)
- 色・ホワイトブレンド(中山美穂)
- Miracle Love(牧瀬里穂)
- 待ちぼうけ(堀ちえみ)
- 元気を出して(薬師丸ひろ子)
- MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
- みんなひとり(松たか子)
- いのちの歌(茉奈佳奈)
- 特別な恋人(松田聖子)
- 夏のモンタージュ(みつき)
- Subject:さようなら(松浦亜弥)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
- ときめきの季節(シーズン)(中山美穂シングルカップリング提供曲)
- ミック・ジャガーに微笑みを(中森明菜アルバム提供曲)
DISC 2:Mania's Songbook
- 涙のデイト(KINYA)
- リトル プリンセス(岡田有希子)
- Invitation(河合奈保子)
- Hey! Baby(森下恵理)
- とまどい(広末涼子)
- OH NO, OH YES!(中森明菜)
- Sweet Rain(桑名将大)
- Dreaming Girl~恋、はじめまして(岡田有希子)
- 55ページの悲しみ(増田けい子)
- 夏のイントロ(福永恵規)
- リユニオン(松たか子)
- 終楽章(薬師丸ひろ子)
- 声だけ聞かせて(松田聖子)
- Guilty(鈴木雅之)
- 月夜のタンゴ(森光子)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
- 夏のイントロ(福永恵規シングル提供曲)
- MajiでKoiする5秒前(広末涼子シングル提供曲)
竹内まりや(たけうちまりや)
1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。その後もコンスタントに作品を発表。2013年12月、デビュー35周年記念企画として、他アーティストへの提供楽曲を集めたコンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」をリリースした。
クリス松村(くりすまつむら)
外交官の長男としてオランダの政治都市ハーグで誕生。5歳のとき受験のため帰国し、学習院初等科に入学後イギリスへ。帰国後日本に在住するも、学生時代にアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、フランス、オーストリア、ポルトガル、エジプト、ギリシャなどの海外各都市を回る。大学卒業後、広告代理店に勤めるも激太り。3カ月で30kgのダイエットに成功。インストラクターへ転身する。現在はタレントとして活躍する傍ら、邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じてCDの音楽解説も。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚を所有し、現在も収集中。