ナタリー PowerPush - 竹内まりや

クリス松村と紐解く「Mariya's Songbook」

アイドルの名曲「待ちぼうけ」

竹内 (堀)ちえみちゃんの「待ちぼうけ」もひさしぶりに聴いたら、明るくて真っすぐな声をしていて、なかなか希少価値のある歌だなと思いました。……いやー、携帯電話のある今じゃあり得ない歌詞ですよね。これも立派なネタソングのひとつですね。

クリス 待ちぼうけと思ってたら“ディズニー・ウォッチ”が2時間早く進んでたっていうオチですね(笑)。

竹内 アナログの時代でも、自分の時計が2時間も進んでたらわかりますって。自分で書いてて「このオチはないだろ」と思ってるんだけど(笑)、まあ、これも歌の中の話ですから。

クリス でも私はこれはアイドルの名曲だと思うんです。やっぱり恋する気持ちっていうのはこのぐらいドラマにしていただかないと。

竹内 ははは、マジですか(笑)。

クリス いや、ほんと。じゃないと面白くない。今、アイドルと称してる人たちが歌うものってどこか現実味を帯びた歌詞で、ワクワク感とか少女の秘めた思いっていうのが描かれていないように思うんですよ。私からすると「だからアイドルじゃない」っていう発想になって。

竹内 ここまで振り切ってないから(笑)。

クリス 振り切ってますからね、これは!

竹内 もう、ほんとにね(笑)。でも、私、楽曲としては全然嫌いじゃないんですよ、この曲。あの頃のちえみちゃんのイメージにすごく合ってると思うし。ただ、今の人が聴いたらツッコミどころ満載な感じはあるでしょうね。

クリス松村

クリス やっぱりまりやさんって動物的な勘がお有りだと思うんです。今のちえみさんはまったく違うイメージですけど(笑)、そのときのちえみさんはもう助けてあげたいぐらいのカワイイ少女だったんで、この歌を歌って正解なんですよ。

竹内 かわいかったですよね。そういえば、最近雑誌で見たんですが、ちえみちゃんが私の作品の中で好きなものを選ぶアンケートの答えが、なんと「人生の扉」だったんですよ。あのちえみちゃんが「人生の扉」を選ぶ時代が来たんだなあ…って(笑)。

クリス 来てますねえー。

竹内 “ディズニー・ウォッチ”からの、「人生の扉」。すごい。

クリス いやいや、彼女今7人の子持ちですよ。“ディズニー・ウォッチ”から7人の子持ち。

岡田有希子の“哀しい予感”

クリス プロジェクトみたいになってたのは岡田有希子さんだけですか? デビューから連続して手がけられましたよね。

竹内 そうですね。有希子ちゃんの場合は最初から「3作ぐらい続けてやりましょう」って決まっていたように思います。

クリス 「ファースト・デイト」「リトル プリンセス」「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」と、3作どういうふうに描こうと?

竹内まりや

竹内 ちえみちゃんのディレクターだったポニーキャニオンの渡辺有三さんという方から、1984年にサンミュージックの新人をデビュー曲からやってほしいという依頼が来たので、メジャーコードとマイナーコードの曲を取り混ぜて4曲ぐらい書いて出したんです。テーマはすべて“ティーンエイジ・ラブ”。その中から「ファースト・デイト」がデビュー曲になり、「リトル プリンセス」が2ndに決まって。「-Dreaming Girl- 恋、はじめまして」は、もう少しあとになってから書き下ろしました。ユッコちゃんは河合奈保子ちゃんに憧れていて、ずっとアイドルになることを夢見ていたらしいんです。すごくがんばり屋さんで、オーディションを受けて見事に勝ち残ったんですよね。愛らしくて笑顔のとてもかわいい女の子でした。レコーディングスタジオで会うと、いつもニコニコほほえんでましたよ。でも、「哀しい予感」っていう6枚目のシングルを書いた直後のライブを観に行った楽屋で、それこそ“哀しい予感”じゃないけれど、ひさしぶりに会ったユッコちゃんから、デビューの頃のあの笑顔が消えてたのがすごく心配になったんです。言葉少なに「じゃあ、がんばってね」と声をかけて帰ったのが結局最後になってしまって……。彼女が突然いなくなったのは本当に残念でした。

クリス あれはね、なんていうんでしょうね。「哀しい予感」のタイトルとジャケットがまたなんとも言えない……。

竹内 そうなんです。あのジャケットが遺影になったのも切なかった。

クリス 結局ああいうことになっちゃったからっていうことで、岡田有希子さんのファンにとっても複雑な曲だと思います。実は以前ポニーキャニオンでリクエスト大会っていうのがあったんだけど、ベスト20に入らなかったんですよね。シングルなのに。

竹内 ああ、やっぱり。悲しいんですよね。

クリス それは曲云々じゃなくて。だから今回収録するのを悩んで外したとのことですけど、わかります。

「駅」デモテープにあった幻のフレーズ

クリス ここまでは若くてかわいらしいアイドルにピッタリな曲が多いんですけど、「駅」とかはまた違いますよね。

竹内 「駅」は確かに違いますね。頼まれたときから、明菜ちゃんには濡れた哀愁メロディの曲を絶対書きたいと勝手に思っていて。そのマイナーメロディの雰囲気に合わせて、昔の恋人を駅で偶然見かけてすれ違う……というストーリーを彼女の写真を見ながら組み立てていきましたね。歌詞自体は当時の私が歌ってもそんなに違和感のないものだったと思いますけど、マイナーコードであれだけベタな歌謡曲メロディを書いたことはなかったんで、それ自体が面白かった。

クリス 明菜さんだから浮かんだ曲。

左からクリス松村、竹内まりや。

竹内 本当にそうなんですよ。明菜ちゃんの持ってる佇まいやイメージがそういう発想をくれたと思ってます。自分で歌う曲じゃないからこそ、ああいう哀愁メロディにしたわけですから。明菜ちゃんという素材があってこその曲だったと思いますよ。 あ、そうそう! 掘り起こした自分のデモテープを何十年かぶりに聴いてみたら、2番の「私だけ愛してたことも」っていう歌詞を「私を愛してたことも」って歌ってるんですよね。

クリス へえー。

竹内 「私を愛してた」だとリズムが間延びするから「私だけ」にしたわけです。あそこは、私だけ”が”愛してたのか、私だけ”を”愛してくれてたのかどっちなんだって、よくリスナーの皆さんの間でも語られていますが、私だけ”を”が正解なんです。デモでそう歌ってたことをすっかり忘れていたので、これは我ながら面白い発見でした。

クリス それから実は、みつきさんって存じ上げなくて今回初めて聴いたんですけど、この人とってもいいですね。

竹内 いいでしょう? 今ちょうど、朝ドラの「ごちそうさん」に希子役で出演中ですけど、彼女はもともと「高畑充希」という名前での女優活動がメインなんですね。ミュージカル「ピーターパン」の主役なんかもやっていましたが、コブクロの小渕(健太郎)くんのプロデュースで以前CDを出していて、歌手活動をするときの名前が「みつき」ということなんです。ボーカリストとしてすごく好きな若手のひとりです。

クリス あ、そうなんですね。

竹内 とても力を持ってるいい声だと私は思います。みつきちゃんの歌は達郎も高く評価してましたよ。

クリス 入り込めるんですよね。なんかわからないけど……この歌に。みつきさんの声がまりやさんの曲を生かしてるなあと思いました。

コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」/ 2013年12月4日発売 / Warner Music Japan
コンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」
初回限定盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11618~9
通常盤 [CD2枚組] / 2940円 / WPCL-11666~7
DISC 1:Mariya's Songbook
  1. みんなのハッピーバースデイ(芦田愛菜)
  2. リンダ(アン・ルイス)
  3. ファースト・デイト(岡田有希子)
  4. けんかをやめて(河合奈保子)
  5. 駅(中森明菜)
  6. 色・ホワイトブレンド(中山美穂)
  7. Miracle Love(牧瀬里穂)
  8. 待ちぼうけ(堀ちえみ)
  9. 元気を出して(薬師丸ひろ子)
  10. MajiでKoiする5秒前(広末涼子)
  11. みんなひとり(松たか子)
  12. いのちの歌(茉奈佳奈)
  13. 特別な恋人(松田聖子)
  14. 夏のモンタージュ(みつき)
  15. Subject:さようなら(松浦亜弥)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
  1. ときめきの季節(シーズン)(中山美穂シングルカップリング提供曲)
  2. ミック・ジャガーに微笑みを(中森明菜アルバム提供曲)
DISC 2:Mania's Songbook
  1. 涙のデイト(KINYA)
  2. リトル プリンセス(岡田有希子)
  3. Invitation(河合奈保子)
  4. Hey! Baby(森下恵理)
  5. とまどい(広末涼子)
  6. OH NO, OH YES!(中森明菜)
  7. Sweet Rain(桑名将大)
  8. Dreaming Girl~恋、はじめまして(岡田有希子)
  9. 55ページの悲しみ(増田けい子)
  10. 夏のイントロ(福永恵規)
  11. リユニオン(松たか子)
  12. 終楽章(薬師丸ひろ子)
  13. 声だけ聞かせて(松田聖子)
  14. Guilty(鈴木雅之)
  15. 月夜のタンゴ(森光子)
[Bonus Track(Mariya's Demo)]※初回限定盤のみ
  1. 夏のイントロ(福永恵規シングル提供曲)
  2. MajiでKoiする5秒前(広末涼子シングル提供曲)
竹内まりや(たけうちまりや)

1978年、シングル「戻っておいで・私の時間」でデビュー。「SEPTEMBER」「不思議なピーチパイ」など次々とヒットを飛ばす。山下達郎と結婚後は作詞家、作曲家として「元気を出して」「駅」など多くの作品を他の歌手に提供する傍ら、1984年に自らもシンガーソングライターとして活動復帰し、1987年に発表した「REQUEST」以降すべてのオリジナルアルバムがミリオンセールスを記録している。また、1994年発表のベストアルバム「Impressions」は350万枚以上の記録的な大ヒットとなり、日本ゴールドディスク大賞ポップス部門(邦楽・女性)でグランプリアルバム賞を受賞。ベスト盤ブームの先駆けとなった。2007年、6年ぶりとなるアルバム「Denim」を発表。2008年にはデビュー30周年を記念した自身初のコンプリートベストアルバム「Expressions」をリリースし、オリコン週間ランキングでは3週連続1位を獲得。2010年12月には10年ぶりのライブ「souvenir again」を日本武道館と大阪城ホールで行った。その後もコンスタントに作品を発表。2013年12月、デビュー35周年記念企画として、他アーティストへの提供楽曲を集めたコンピレーションアルバム「Mariya's Songbook」をリリースした。

クリス松村(くりすまつむら)

外交官の長男としてオランダの政治都市ハーグで誕生。5歳のとき受験のため帰国し、学習院初等科に入学後イギリスへ。帰国後日本に在住するも、学生時代にアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、フランス、オーストリア、ポルトガル、エジプト、ギリシャなどの海外各都市を回る。大学卒業後、広告代理店に勤めるも激太り。3カ月で30kgのダイエットに成功。インストラクターへ転身する。現在はタレントとして活躍する傍ら、邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じてCDの音楽解説も。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚を所有し、現在も収集中。