竹原ピストル|不惑にして“惑えず”歌うたいの覚悟

若くあろうとするな、老けるぞ!

──「Forever Young」はドラマ「バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」エンディングテーマでした。これは何かきっかけがあって作った曲なんでしょうか?

竹原ピストル

去年末に40歳になったんですけど、そのとき「若くあろうとするな、老けるぞ!」って思ったんです。例えば、「何年前ならこういう歌い方ができたのに」とか「あの頃の情熱をもう一度」みたいに過去の自分を引き合いに出しちゃうと、どうしてもしんどくなるし、歌が錆びていくような気がしたんです。だったら、今迎えてる時間の中で新しいもの……満ち満ちた若葉を芽吹かせたほうが絶対いいと思ったんで。あの頃のようにっていうのは不可能だし、何も生まれない気がして。若さに執着しないことが若さなんじゃないかなって思うんです。“若さ”という概念ごとなくなれば無敵だろって。なかなかそうはなれないんですけど。

──そして「俺たちはまた旅に出た」。今作収録曲で最後にできた曲とのことですが、ここには今の竹原さんの伝えたいさまざまな思いが詰まっていますね。プロとアマチュア、親友とライバルの定義についても頷かされました。

具体的な話になるんですけど、次のステップに上がっていこうということで、まずこの3月から僕個人によるお店とのブッキングをやめたんです。完全にスタッフに任せようと。そうなると、昔から親しかった仲間たちと共演するのはひょっとしたら今日が最後かも、と思う日々が続いたんですよね。その彼らと歩んできた道のりを愛しく思いつつ、それぞれの旅が始まるけど「元気でな」という気持ちで書いた曲です。「ちっちゃいドサ回りのシーンで凌ぎを削り合って、お客さんを楽しませようと切磋琢磨してきた俺たちの出し物が、世間でどこまで通用するか見せてやろうぜ!」みたいな。

──聴いている側も背中を押されたような気持ちになる、力強くて優しい歌です。

竹原ピストル

あくまで自分は何か成し遂げたわけではないというのが大前提ですけど、例えば野外の大きなフェスの何千人ものお客さんの前で歌わせていただく機会に恵まれたとき、けっこう視力はいいほうなので「あの店に来てた常連の客だ!」ってわかるんですよ。そういうとき、わざと毎度のように言ってたお約束のMCを入れるようにしてるんです。それを聞いて「また同じ話をしてるよ」ってニヤニヤしてる常連客の表情を見るのがすげえうれしくて。20人入ればいっぱいになる場所でやってたネタで何千人を笑わせた瞬間、「見たか!」っていう妙な満足感があるんです。テレビに出るときは仲間のバンドTとか世話になったお店のTシャツを着ていくとか、そういうことを大事にしていきたいところはすごくあるし、これも1つの恩返しかなと思うんですよね。

──「あしたのジョー」の「この泪橋を逆に渡っていこう」という台詞を彷彿とさせるお話ですね。そういう思いがあると、なおさらこのアルバムは広く届けたいですね。

届けたいですね。昔っからの知人には恩返しのつもり、初めて竹原ピストルを聴く方には「まずこれを聴いてください、これが僕の歌です」と言えるアルバムなので、たくさんの人に聴いてほしいです。さらにここから過去のアルバムをさかのぼったら自分がどれだけブレブレの人間かがわかると思うので、そういうところもちゃんと見抜いてほしいです(笑)。

40歳、不惑にして“惑えず”

──ラストの「マスター、ポーグスかけてくれ」もアイリッシュ民謡風で、心地よい余韻を残してくれます。

ライブのセットリストを考える発想のまま曲順を考えたんですけど、「ドサ回り数え歌」が1曲目としたら「俺たちはまた旅に出た」が俺の中でのエンドロールで、よく映画でエンドロール明けでその後のカットが入るじゃないですか? それがこの歌です。「俺たちはまた旅に出た」で別れたあと、またステージで歌っている僕たちがいる気持ちで最後に入れました。

──今回のアルバムで、歌への思いがより強くなった部分はありますか?

竹原ピストル

うーん……どっちかというと40歳、不惑ですけど、惑わずこの道を突き進むじゃなく“惑えず”なんですよね。もう生き方は変えようがないし、この道を行かざるをえないという潰しの利かなさが身にしみるところもあって。だから、この先もずっと歌うことが決定したと言ってもいいでしょうね。ライブが唯一の生き甲斐ですから。友達とか家族と過ごす楽しさはまた別ですけど。命の底から夢中になれるのはどうしてもライブだけなので。だからそれこそ辞めるなんて考えはなかったですね。年間200~250本なんて相当多いペースだと思うんですけど、歌うことが嫌だと思ったことは一度もないし、かと言って「やった! 今日も歌える」ってワクワクしたこともない。そういう次元じゃないんです。相当な覚悟と決意をもって、人生賭けてステージに上がっているつもりです。

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俺はここから

竹原ピストル「PEACE OUT」
2017年4月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
竹原ピストル「PEACE OUT」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3564円 / VIZL-1115

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竹原ピストル「PEACE OUT」通常盤

通常盤 [CD]
3132円 / VICL-64716

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CD収録曲
  1. ドサ回り数え歌
  2. 虹は待つな 橋をかけろ
  3. 一枝拝借 どこに生けるあてもなく
  4. ママさんそう言った ~Hokkaido days~
  5. ぐるぐる
  6. 一等賞
  7. ため息さかさにくわえて風来坊
  8. 最期の一手 ~聖の青春~
  9. ただ己が影を真似て
  10. 例えばヒロ、お前がそうだったように
  11. Forever Young
  12. 俺たちはまた旅に出た
  13. マスター、ポーグスかけてくれ
初回限定盤DVD 収録曲
  1. オールドルーキー
  2. LIVE IN 和歌山
  3. 午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
  4. じゅうじか
  5. 俺のアディダス ~人としての志~
  6. ちぇっく!
  7. 便器に頭を突っ込んで
  8. ドサ回り数え歌
竹原ピストル(タケハラピストル)
竹原ピストル
1976年生まれ、千葉県出身。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながらリリースを重ねる。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰し、10月にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースする。2015年11月にメジャー2作目となるアルバム「youth」を発表。2017年4月にアルバム「PEACE OUT」をリリースした。歌手のほかに俳優としての顔も持つ。映画「永い言い訳」の演技が評価され「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞した。