竹原ピストル|不惑にして“惑えず”歌うたいの覚悟

俺はお客さんに巣食う寄生虫

──「ドサ回り」という言葉にはそれだけの思いが込められていたんですね。

竹原ピストル

要するに自分は歌で食ってるんじゃない、食わしてもらってたっていう認識があって。そのお店だったり、来てくれてるお客さんの財布だったり貴重な時間に巣食う寄生虫みたいなもんだと思ってました。あくまで僕個人の話ですけど。だからこそ全力で血を吸うじゃないですけど、全力でやんなきゃダメだっていうのはすごくあったんです。たかが歌うたい、されど歌うたい。愛憎入り交じる仕事ですね。僕にとってドサ回りというのは。

──歌詞にもその葛藤が見え隠れしています。

ははは!(笑) 「なれの果てまで」ですからね(笑)。いろんなこともあったし、先ほど一期一会とおっしゃいましたけど、まさにそれで。いつも「ほんじゃ!」みたいなスタンスでやってきたつもりではあります。

──でも、これからは一期一会ではない歌い手としての一歩という決意を込めて、「ドサ回り数え歌」を1曲目にしたと。

ええ。1曲目はこれしかないと思ってました。ライブでも自分の登場SEのような、「まずこれをやってから」と思いながらやる曲ですね。

──さきほどのマスターやママさんとの実体験は「ママさんそう言った ~Hokkaido days~」でも詳しく歌われていますね。

これは大学卒業後、野狐禅を組んだばかりのことを思い返して作った歌です。当時は北海道にいたんですけど、内地からプロミュージシャンがどこどこの店に歌いに来るらしいという情報をキャッチするたび、その店に行ってマスターやママさんに「1曲でいいから前座で歌わしてもらえませんか」ってお願いしてたんです。ちっちゃい弾き語り小屋がメインでしたけど、マスターやママさんが僕らのことをすごくかわいがってくださったし、「やってこい! 絶対負けんなよ」みたいな感じで毎回応援されて。

──この曲はヒップホップが好きな人は「おっ!」と思うんじゃないでしょうか。

絶対わかるでしょうね。LL・クール・Jの「Mama Said Knock You Out」と、当時の僕の状況に重なるところがあったので、あの雰囲気をモチーフにさせてもらいました。

BOSSの「ヒップホップのトラックに乗せてやったら面白いと思うよ」

──ヒップホップもお好きなんですか?

自宅ではヒップホップばかり聴いてます。僕、ボクシングやってたんですけど、大学4年の頃チームメイトが練習中のBGMにBUDDHA BRANDをかけて「何これ? めっちゃカッコいいじゃねえか!」と思って。それから「さんピンCAMP」の映像を観て本格的にジャパニーズヒップホップを聴くようになったんです。ラッパーさんをすごくリスペクトしてますから、こんな弾き語りの人間がヒップホップ的に韻踏んだり、ビートに言葉を乗っけてもいいのかと思って、踏み入れちゃいけない聖域みたいな気持ちがあったんですよね。好きだからこそ自分の中で止めちゃってたんですけど、でもやっぱり素直になって「こんなに好きなんだから、ちょっと韻踏んでみてもいいんじゃないか」ぐらいの感じで書いた感はあります(笑)。ここまで韻を踏もうと意識して書いた曲は初めてですね。

──2年前にもCreepy Nuts(R-指定 & DJ 松永)のお二人と意気投合されてましたね。「ヒップホップの楽しさと楽しみ方を教えて下さったお二方」とおっしゃってましたが。

竹原ピストル

彼らのライブがすごくよかったんです。初めてこの手のライブを経験する人にも照準が合わさっているような丁寧な作りで、DJはこういうことをやる人で、フリースタイルってのはこう、それじゃお題あればくださいってその場で出てきた韻を踏んでったり。そのわかりやすさと、思いやりと、お客さんをつかもうという心意気が気持ちよくて、大好きになりました。

──いつかDJ 松永さんのトラックで、竹原さんが歌うところを観てみたいです。

できたら最高ですね。俺、ちょっと考えたことありますよ。去年、THA BLUE HERBと競演させていただいたときに「ママさん~」の歌詞だけできてて、ライブで朗読をしたんです。それをBOSSさんが聴いて「これ、ヒップホップのトラックに乗せてやったら面白いと思うよ」って言ってくださったんです。そのとき松永さんの顔がちょっと浮かびました(笑)。それこそ、いちファンとして恐れ多いんですけど。

──新しい歌詞ができると、まだ曲が付いてなくても朗読で発表するスタイルはどうして生まれたんですか?

一昨年まで年間200本以上ライブをやってましたので、1年のうちに何回も行く土地やお店がどうしても出てくるんです。そうなると、ひょっとしたらお客さんの顔ぶれはそんなに変わらないかもしれない。だからちょっとでも新しい出し物を出してあげたくて、「そういえば先日こういう詞を書きました」って朗読して、「今度お会いするときには曲付けときますね」みたいな感じで。そうしてるうちに口がなじんで、曲がうまいこと浮かんでくることも多いんです。

竹原ピストル「PEACE OUT」
2017年4月5日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
竹原ピストル「PEACE OUT」初回限定盤

初回限定盤 [CD+DVD]
3564円 / VIZL-1115

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竹原ピストル「PEACE OUT」通常盤

通常盤 [CD]
3132円 / VICL-64716

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CD収録曲
  1. ドサ回り数え歌
  2. 虹は待つな 橋をかけろ
  3. 一枝拝借 どこに生けるあてもなく
  4. ママさんそう言った ~Hokkaido days~
  5. ぐるぐる
  6. 一等賞
  7. ため息さかさにくわえて風来坊
  8. 最期の一手 ~聖の青春~
  9. ただ己が影を真似て
  10. 例えばヒロ、お前がそうだったように
  11. Forever Young
  12. 俺たちはまた旅に出た
  13. マスター、ポーグスかけてくれ
初回限定盤DVD 収録曲
  1. オールドルーキー
  2. LIVE IN 和歌山
  3. 午前2時 私は今 自画像に描かれた自画像
  4. じゅうじか
  5. 俺のアディダス ~人としての志~
  6. ちぇっく!
  7. 便器に頭を突っ込んで
  8. ドサ回り数え歌
竹原ピストル(タケハラピストル)
竹原ピストル
1976年生まれ、千葉県出身。大学時代の1995年にボクシング部主将として全日本選手権に出場した経験を持つ。1999年に野狐禅を結成。2003年にデビューし、6枚のシングルと4枚のアルバムをリリースした。2009年に野狐禅を解散後、ソロ活動を開始。年間250~300本のライブ活動をしながらリリースを重ねる。2014年、野狐禅デビュー時に所属していたオフィスオーガスタに復帰し、10月にスピードスターレコーズよりニューアルバム「BEST BOUT」をリリースする。2015年11月にメジャー2作目となるアルバム「youth」を発表。2017年4月にアルバム「PEACE OUT」をリリースした。歌手のほかに俳優としての顔も持つ。映画「永い言い訳」の演技が評価され「第40回日本アカデミー賞」優秀助演男優賞を受賞した。