竹原ピストル|揺らぐことがなかった歌うたいとしての信念

コロナ禍においても、配信という形でがむしゃらにライブを行い、並行して俳優としても新たな役柄に挑戦するなど精力的に活動を続けている竹原ピストル。そんな彼にとって2年ぶりとなるオリジナルアルバム「STILL GOING ON」がリリースされた。

ほぼギターの弾き語りのみで構成された本作には、ドラマ「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」のエンディングテーマ「今宵もかろうじて歌い切る」の“撮影現場ver.”、自身が出演した映画「永い言い訳」からインスパイアされた「たった二種類の金魚鉢」、散歩をきっかけに生まれた「御幸橋」など、それぞれさまざまなエピソードから生まれた12曲を収録。歌うたいとしての竹原の真骨頂を感じられる作品となっている。

刻一刻と変わる世情の中、ライフワークとも言える“ドサ回り”ができない状況でさぞ竹原は苦悩しているのでは、と思いながら向かった取材現場。しかし、彼は以前と変わらぬ笑顔で、配信ライブで得た充実感、「STILL GOING ON」の制作で得たものを快活に語ってくれた。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / 吉場正和

そのときの状況でできることは全部やってきた

──前作「It's My Life」以来2年ぶりの取材ですが、あれからずいぶん世の中の状況も変わりました。竹原さんも2019年9月にスタートして2020年4月まで予定されていた「全国弾き語りツアー 2019-2020 It's My Life」の昨年3月以降の公演が中止になりましたが、今回のコロナ禍をどういう風に受け止めてらっしゃるんでしょうか。

コロナ禍もなんだかんだ長いので、その時期その時期でいろいろ思いながらやっているとは思うんです。ただ、ありがたいことに自分の周りにいる歌うたいの仲間たち、お世話になっているライブハウスのスタッフさんには「だったらこういうことやればいいんじゃないか? これなら安全に楽しんでもらえるんじゃないか?」と前向きに考える人しかいなくて。そうした発想をすぐ実行する面々に引っ張ってもらったり、仲間に入れてもらったりしたので、恵まれていたなと思います。無観客配信ライブをカウントしたらライブの本数は例年と結局あまり変わらなかったし、やってみたらやってみたで無観客なりのよさもあるし。だから「ライブやりてえなあ」とモヤモヤすることもなく、その状況に応じてできることは全部やってきたなという思いがあります。

──やりたいことができた2年間だったと。

はい、できてましたね。最初に無観客配信ライブをやるときはやっぱりすごく緊張したんです。「自分の気持ちが満たされなかったらどうしよう」って。こればかりは実際やってみないとわからないじゃないですか。でも、いざやってみたら今までと遜色ない充実感もあったし、ここはこうすればよかったという悔しさを抱くこともできたので、安心していつも通り楽しく配信ライブをガンガンやりまくってました。

──ミュージシャンの中には無観客配信ライブに戸惑っていることを明かす方もいらっしゃいますが、竹原さんはすごくポジティブですね。

もちろん早くコロナ禍が収束してほしいし、ツアーが中止になって残念という気持ちはあるんですけど、自分としてはそのときそのときでできることをやってきた感じです。なんていうか……これまでは「売れてのし上がってやる」という思いが強かった自分ですけど、コロナ禍で配信ライブをやり始めてからはそういう気持ちがスッと薄れて「今現在竹原ピストルを応援してくれてる人たちをちょっとでも楽しませたい。恩返しじゃないけど、いつもありがとう」という意識にシフトしていった感じはありますね。

意図せず弾き語りアルバムに

──そうした思いから届けられた今回のアルバム「STILL GOING ON」は、ほぼギター1本の弾き語りですね。しかも「ギターの弦のゲージが変わったのかな?」と思うくらい力強い音でした。

それは自分でもちょっと感じました。「アコギ弾き語りの一発録りならこの人しかいない」と思って昔から一緒に作っているエンジニアの方に録ってもらったんですけど、自分はいつも通り弾いてるつもりなので、エンジニアさんの技術とこれまでのコンビネーションのおかげです。ここまで自分のイメージ通りな、エグいぐらいのアコギの音の存在感を出せる人がいてくれて本当にありがたいなと思います。

──今作はどういう思いで作られたんでしょうか。

竹原ピストル

最初は弾き語りメインのアルバムにしようという考えは全然なかったんです。これまでずっと、曲ができたら弾き語りでデモを作ってチームの皆さんに提出して「この曲にベースとドラム入れましょう」とか、頭の中で鳴った音を整理しながらアレンジを完成させてレコーディングしてきたので、今回も同じ流れでやろうと。自分はあまり変化を求めるタイプの人間じゃないので。それでいつも通り提出用に弾き語り一発で全部録ってみたら、曲順も含めて「これでいいんじゃないか?」と思っちゃったんです。まとまりもいいし、「このままでいけるような気がするんですよね」とチームのみんなに話したら「わかる、そうだね」って。そこにあとからちょっとだけギターの音とかを足して完成させたアルバムなんです。新曲できたらすぐライブでやって、ある程度の時期が来たらアルバムにして、というのをずっと続けて1年に1枚アルバムを出してきて。インディーズ盤を含めるとこれがちょうど10枚目のアルバムになるんですけれども、2年の間隔が空いたのはほかでもなくコロナの影響で、レコーディングは遅れましたが早い段階で曲自体はそろっていたんです。

──この中で一番古い楽曲はどれですか?

記憶が正しければ、「たった二種類の金魚鉢」です。この歌は5年前に出させていただいた西川美和監督の「永い言い訳」(2016年公開)という映画の台本を読んで、そこから連想ゲームみたいに書いた曲なので。

──「お魚はいいね 水の中では涙を気づかれずにすむだろう お魚はかなしいね 水の中では涙に気づいてもらえないだろう」というフレーズは、涙を流したくても流せない状況の人にグッとくる楽曲です。

ギュッと内側にこもったような歌ですけど、僕もすごく好きで気に入ってます。

「やっぱり俺は歌うたいだな」

──この2年の間にもドラマや映画に出演されていますが、俳優活動は楽曲制作に影響はありましたか?

どうでしょうね? 自覚してる分にはない気がするんですけれども、絶対なんらかの作用をおよぼしているとは思います。自分にとって芝居はとんでもないエネルギーを要するものなので、いっぱいいっぱいになってるうちに終わっちゃって、ほかのことをグダグダ考えずに済んだ部分もあります。だから去年は配信ライブもやりまくって、芝居もやって、いい意味であっという間に過ぎていった1年でした。

──中でも今年1月から3月に放送された「直ちゃんは小学三年生」は度肝を抜かれました(参照:竹原ピストルが泣き虫の小学3年生に)。竹原さんの自然な演技に視聴者の皆さんも驚かれてました。

いやー、最高に楽しかったです。マネージャーが「小学3年生の役なんですけど」と話を持ってきて、なんだそりゃ、面白そうだねって(笑)。ただ、監督とお会いして、どういうことをしようとしてるのか聞くまではいまいち全体像がつかめなかったですね。お芝居の仕事は数を重ねれば重ねていくほど、自信なくなっていきます。音楽と同じ“表現”ですからジャンルで分けるのも本当はそんなに好きではないけど、役者さんのお芝居を間近で見ると、とんでもない人がたくさんいらっしゃいますから。「やっぱり俺は歌うたいだな」と思い知らされますね。

竹原ピストル

──「今宵もかろうじて歌い切る」はテレビ東京系ドラマ「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」エンディングテーマでした。今回のアルバムでは撮影現場でのライブバージョンが収録されていますね。

今年頭に配信されたテイクもすごく気に入ってるんですけど、目の前に聴いてくださっている人がいると、また違うなと。皆さんからの拍手の音も入っていて臨場感あるし、喜んでいるくれる人がいるかなと思って入れた感じです。

竹原ピストル

──「バイプレイヤーズ」は今年映画(「バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら」)にもなりましたが、これだけ長く1つの作品に関わられてどのように思われましたか?

ドラマ3作でエンディングを担当させてもらっていますが、2作目、3作目になってくると「またこの現場に帰ってくることができたな」と厚かましくも思うようになりましたね。1作目の「Forever Young」、2作目の「ゴミ箱から、ブルース」の頃はあんなことをやってたなって。定点観測じゃないですけれども、作品を重ねるごとにちょっとずつ自分自身の状況を確認することもできて。最初はひたすら緊張感しかなかったんですけど、また出演者の方にお会いできたと懐かしんだり、大杉漣さんがいないのは寂しいなと感傷的な気持ちになったり。緊張感以外も感じられるようになった3作目でした。出演者の皆さんもすごく優しいし。この「バイプレイヤーズ」3作目の最終話で僕、ちょっとだけ役者として出させていただいたんです。その撮影が去年の年末だったから、がむしゃらだった1年の最後に“がんばったで賞”をもらったような気持ちでした。「今年はお前がんばったから、これにも出させてやるよ」って勝手に自分の頭ん中で勲章もらった感じで、うれしかったです。