竹原ピストル|満ち足りることのない思い抱き、我が道を突き進む

竹原ピストルのニューアルバム「It's My Life」が9月4日にリリースされた。

前作「GOOD LUCK TRACK」をリリースしたのち、2018年末に初の東京・日本武道館公演を行い、今年に入ってからは「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出場するなど新たな挑戦が続いた竹原。一方、「It's My Life」リリースと同時期にライフワークと言える弾き語りツアーもスタートさせるなど、精力的な活動が続いている。

今回、音楽ナタリーでは新作のリリースに併せてインタビューを行い、「FUJI ROCK FESTIVAL」でのエピソード、「It's My Life」にまつわる制作秘話、そして竹原が敬愛していた故・遠藤ミチロウへの思いなどを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 吉場正和

初フジロックでの大誤算

──昨年末の日本武道館公演 (参照:「不覚にもすごい感慨深いです」竹原ピストル、ギター1本と生身で勝負した初武道館)以降も、全国ホールツアー、ライブハウス弾き語りツアー、対バンライブ、夏フェス出演など、相変わらず精力的に歌ってらっしゃいますね。

うん。活動のスタイルは変わらないですし、もはや変えることもできない段階にはなっちゃったのかなと思うんですけれども(笑)。

──1999年に野狐禅結成、2009年にソロ活動がスタートということで、2019年はメモリアルな年だという意識はありましたか?

竹原ピストル

特になかったですけど、解散から10年目を迎えて、10年弱やってきた野狐禅のキャリアをまたいだときは感慨深かったですね。相棒ともメールで「ずっとがむしゃらにやってきたなあ」ってやりとりをして。

──記憶に新しいところで、初登場となった「FUJI ROCK FESTIVAL'19」のステージはライブ配信もされて、たくさんの方がご覧になったと思います。非常に気合いの入った素晴らしいステージでした。

自分のライブを初めて観てくださるお客さんがほとんどだろうと覚悟していたから、勝負ですよね。どうにか楽しんでもらわないことにはっていうバチバチした気分のセットリストだったし、フジロックのステージには特別執着していたので、「とうとう来たな」という思いもあったし。どのライブも全力でやっているから誤解を招いてはいけないと思うんですけれども、このステージのためにここまでやってきたんじゃないかというくらいうれしかったです。オファーが来て、「もちろん受ける」と言った日から「持ち時間1時間か。一番得意な長さではあるけれども、じゃあ最強の1時間のセットリストはなんだ?」とずっとそればっかり考えて。体感時間的に長く感じるところはカットしようとかひたすら微調整して。

──竹原さんが出演されたFIELD OF HEAVENは会場奥のステージにも関わらず、開演前から大勢の方が集まりました。

もう、どこにステージがあるのかわかんないくらい緊張していました(笑)。実践でずっとやってきたセットリストなので本番を迎えるときにはウケようがスベろうが後悔はないなという思いで臨めたからよかったなあと思って。また、お客さんの作用もよかったんですよね。こちらが1ミクロンの狂いもない設計図を磨き上げに磨き上げてバンと出したとしても、やっぱりお客さんの反応でその設計図はいい意味で崩れる。その狙っては出せない綻びがまたよかったなと思って。スタジオで練習するんだったら100回やって100回同じことができると思うんですけれども、やっぱりライブはお客さんありきのものだから、100回やって100回違うわけじゃないですか。そういうのもフジロックのいいところが出たような気がするし。本当にライブが好きで、しかも目標としてたステージだったので、心の中で大きなひと区切りになったなと思いました。

──武道館や単独ライブに対して複数のアーティストが同時刻にライブをやるフェスって、言わばチャレンジャー側ですよね。

ボクシングでいうところの青コーナーですね。お客さんは基本的にどこでやってもすごく優しいんですけど、あの日はMCで「とにかく平静を装ってやってるけど、フジロックに初めて出られて本当にうれしいです」と言ったあとの拍手に祝福のニュアンスがすごく感じられて。どんな思いでこのステージに上がってるか、きちんと伝わっているときの拍手というんですかね。こっちは最悪をイメージするわけですよ。お客さんがまったく聴いちゃいない様子を想定して。それでもなお通用するライブを考えて出していくわけです。だったらそれで成立させるライブは用意してたつもりだったんですけど、そこはうれしい大誤算というか。お客さんもたくさん来てくれたし、あんなに優しかったし、遠くのほうでもじっくり聴いてくれる姿も見えたし。ホント楽しかったです。ここ数年で一番「やってやったぜ!」っていう実感があるステージでした。

「It's My Life」は最高傑作

──夏フェスでも披露された楽曲を収録した今回のアルバムも超自信作ということで。

最高傑作だと思います。今回はタイアップ曲が5曲入っているんですけれども、そのほとんどが期限に合わせて書き下ろして、できた時点でレコーディングした曲たちなんです。そういった意味では、本来の写真を収める意味合いでのアルバムらしいアルバムだなって。そこからアルバムの背骨みたいなものができていって、「だったらこの曲を入れよう」「この曲が合うかも」という感じで曲順を決めていきました。唯一、ACジャパンのCMに使っていただいた「ひまわりさくまであとすこし」だけは大昔に書いた曲です。

──まずは1曲目「おーい!おーい!!」からお聞きします。この曲は映画「泣くな赤鬼」の主題歌ですね。

「泣くな赤鬼」は高校野球の監督と重い病気にかかった元教え子の話なんです。台本も読ませてもらっているので、どんなことが描かれる映画かは前もってわかってましたから、それを歌で邪魔したくない気持ちが強くて。たぶん絆だったり、“あの頃”みたいなことが絶対に描かれるから、わざわざ歌で触れたら映画を台無しにしちゃうなと思って、ほんのちょいかすっているけど通ずるものみたいな書き方をしたんです。この時期の登場人物の気持ちだったらなんとなく身に覚えがある気がするぞ、みたいなところから自分が一番モヤモヤしていた時期を思い返して。同じ野球の話でも弱小チームが甲子園を目指してがんばる、みたいなまっすぐな物語だったら、やっぱり「ホームラン」とか「かっとばせ」とか入れたほうがわかりやすくなるなと思うんですけど、そういった要素がありつつ人と人の話だったりするとやっぱり外すべきだと思うんですよね。邪魔したくないというのがあって。

──高校野球はご覧になられますか?

僕、中学で野球部だったので甲子園はすごく好きだし、ずっとライブをやってきましたから全国の都道府県名はもちろん、町の名前を聞くとだいたい歌いに行ったことがあるんですよね。だから出場校の紹介を聞くだけで街の情景を思い浮かべることができるし、どの町も好きだから「両校どっちもがんばれ!」という気持ちで試合を観られるのは自分の財産かなと思っていて。……全然関係ない話ですけど、スカウトでほかの町の選手を集めてその県の代表として出場している学校にケチつける奴いるじゃないですか? 俺はそうじゃなく、別々の町の子たちが同じチームに集まってその県の代表として戦うことってどんなに素晴らしいことなんだろうと思うんです。そういうふうに考えられるのは、やっぱりいろんな場所を回ったからだなと思いますね。

竹原ピストル

──学校はあくまで枠であって、個々の球児たちが素晴らしい。

と思います。オリンピックもそうですね。みんなにがんばってほしいです。

──「あ。っという間はあるさ」は、住友生命「Vitality」CMソングでもおなじみですが、同じ住友生命のCMソングだった「よー、そこの若いの」(アルバム「youth」収録)の続編を、みたいなリクエストはあったんですか?

けっこう僕は自由にお任せで書かせていただいてる感じですね。ただ、1つのリクエストに対して何本も書けるタイプではないので。最初に直感で思い浮かんだら、それ以外書くのが難しくて。この曲がダメだったらあきらめようと思いながら毎回提出してますね。待たせて迷惑かけてもいけないから締め切りは守るタイプです(笑)。

──この曲はライブでも自然と手拍子が出てくるようなアップテンポの楽しい曲になりましたね。

「よー、そこの若いの」を提出したときは、いくら絵コンテを見せてもらってもどういうニュアンスのCMになるのかわかってなかったんです。完成したのを見てようやく、ああそういうことかと。商品はきっちり説明しつつ、ちょっとすっぽ抜けてクスクスと笑えるような世界観に仕上がっていたじゃないですか? なので今回もきっとそういう感じになるだろうから、明るく楽しい曲がきっと合うと思って作りました。