笑顔になれるDeep Purpleカバー
──しかも、その良質な音で聴くDeep Purple「BURN」のインストカバーがカッコよくて。
Washiyama これ、最高ですよね?(笑)
Sawada 僕、「BURN」が一番楽しかったな。もともと高校生のときにメロディックパンクとかのコピーをしていて、パワーコードばかり弾いていたんですよ。この曲では僕がバッキングを弾いているんですけど、ブリッジミュートとかもひさしぶりにできたので、この曲だけは笑顔でレコーディングできたかもしれない(笑)。
Dennis 奇声を上げずに?
Sawada そう(笑)。で、彼らには超絶技巧で暴れてもらって。
Washiyama Dennisはドラム、完コピだしね。
Dennis ドラムは僕が尊敬してやまないイアン・ペイスの癖まで研究して、再現できるようにがんばりました(笑)。
Washiyama この曲に関しては、エンジニアとしてほぼノンエディットで、Dennisのリズムの揺れもそのまま生かしています。
Sawada カバーなのに、なぜか一番前のめりな感じが伝わりますよね(笑)。ベースもえげつないし。
Fukuda そうね(笑)。かつ、ギターソロもアクロバティックだし。
Washiyama まったくちゃんと弾いてないという(笑)。
Sawada めちゃくちゃ笑ったもん。ハーモニクスで弾いているところとか、実際にどうやって弾いてるかわからないものね。
Washiyama 一番の聴きどころは、ベースソロかと思ったらギターソロも鳴っていて……。
Fukuda 左右の音の定位が逆転するという。
Washiyama イヤフォンとかで聴いてもらえばわかりますけど、左右に振られたベースソロとギターソロの定位が途中で入れ替わるんです。
Fukuda これ、ステージパフォーマンスで立ち位置が入れ替わるところを表現しているという(笑)。
Washiyama アホですよね(笑)。
──そこも含めて最高なんですよ。
Washiyama PIZZA OF DEATHというレーベルから出すからこそ、こういうカバーが収録されることになったわけですし。
Sawada そもそも、このカバーを収録するというのもPIZZAからの提案でしたからね。
Washiyama そういう意味でも、「BURN」を今やれるロックバンドはサスフォー以外にいないんじゃないですかね。ちょっと上の世代の人にウケそうな選曲かなと思ったけど、蓋を開けてみたら若い子にも笑って聴いてもらえるんじゃないかな。
Dennis そういう意味では、Deep Purpleド直球世代には受け入れられないかもしれない。「いや、俺の知ってるDeep Purpleはこんなものじゃない!」とか。
Washiyama 「揺れ感が足りない!」とか叩かれるのかな(笑)。
Sawada 今ってサブスクでどの時代の音楽も並列にある時代じゃん。「BURN」で検索したらさ、サスフォーのこれが出てくるのがウケるよね。
Washiyama それも考えた。T.M.スティーヴンスとかMr.Bigとかもカバーしているじゃない。それになんとか肩を並べたいなと思って、もうやれる限りのことをやり尽くしました。もしかしたら、このアルバムで一番気合いが入っているかもしれない。
Sawada オリジナル曲の話題よりも話の尺が長いけど、大丈夫?(笑)
──それだけ楽しかったってことですよね。初めて皆さんにインタビューしたときに音楽ルーツについても伺いましたが、Washiyamaさんはハードロックも通っているわけじゃないですか。それが今回、ここまでストレートに表現されているのが興味深かったです。
Washiyama 相当ストレートに、包み隠さず出してますしね。“「BURN」っぽい曲”じゃなくて「BURN」そのものをやっちゃってるわけですから。
“サスフォーらしさ”全開のインスト盤
──本当にバラエティ豊かな内容に仕上がりましたね。夏フェスを経て、9月末からは新たなツアーも控えています。このアルバム収録曲をライブでどんどん披露していく中で今抱えている課題が解消されたとき、また違ったサスフォーの姿が見えてくるでしょうし、本作はその起爆剤になるアルバムになりそうだなという気がします。
Washiyama 確かにそうですね。サスフォーのことをあまり知らない人も入っていきやすい作品になっていると思いますし、どこを切り取ってもサスフォーらしいと言える自信のあるアルバムができた気がします。
──サスフォーらしいというと、本作はインスト盤が付いた2枚組盤も用意されています。しかもインスト盤はDISC 1と曲順が真逆だという。
Washiyama 実はこのアイデアはPIZZAのスタッフからの提案なんですけど、イカれてますよね(笑)。
Sawada 曲順が逆転しているのが、なんだかパラレルワールド感があって、僕がふと「Parallel The Galaxy」というタイトルを思い付いたんです。「Travel The Galaxy」と韻も踏めているし、説明不要でコンセプトを理解してもらえる感じになってよかったです。
Washiyama このインスト盤もできるだけいい環境で聴いてもらいたいですね。特に歌がない分、楽器に集中できるので。Dennisがよく言ってるけど、彼のドラムは歌ですからね。
Dennis はい、歌です(笑)。
Washiyama もちろん、ほかのメンバーも同じように歌心を持って楽器を演奏しているので。これはエンジニア的な話になっちゃうんですけど、できるだけ録り音のまんま、エディットとかせずに赤裸々で生身のインストを収めていて、なんならミスタッチやミュートできていない音とか、普通に失敗しているテイクもそのまま使っていたりするんです。
Sawada それこそギターなんて、ちゃんと弾けているテイクを録ったうえで「こっちのほうがいいよね」ってことでミスしているほうを採用したり。
Washiyama 勢いのほうが大事というか。ちゃんと弾けていることがカッコいいとは限らないので、人間味のある音になっているんじゃないかな。俺、自慢じゃないですけどほとんどの曲で、バッキングは3テイクぐらいしか録ってなくて。しかも、人間味のあるテイクをできるだけ出せるように、わざとストラップを低くして弾いたりしました。
Dennis 「人間味をわざと出すって、どういうこと?」っていう(笑)。
──普通に弾いてにじみ出るものじゃないんですか?
Washiyama 意識しないと譜面的に見ちゃうところがあって。最近は音楽的に優れている人が増えすぎていて、ちょっとつまらないなと思うんです。だから、今回のレコーディングでは録り直しはほとんどせず、「Shaky」に関しても基本は2テイクぐらいだったしね。
Sawada 録り方が完全にパンクロックのそれだったよね。「細けえことはいいんだよ!」みたいな。
Washiyama だから、ギターとか上モノはあとで編集することなく、ディレイとかエフェクターも最初から全部かけてから録ったし。そういう超古典的な形でサウンドメイキングしていました。
──編集技術が今ほどではなかった時代は、そういう部分でもロックの生々しさが表現されていたと思うんです。だからこそのカッコよさがあったと思うし、それを2022年という時代に体現できているのは非常に興味深いです。
Washiyama もちろん編集してコテコテに作った曲にも美学はあるんですけど、それは俺の考えるロックバンドの美学ではないと思っていて。最近よくYouTubeとかにレッチリの「Can't Stop」からギタートラックだけを抽出した音源が上がってるんですけど、ジョン・フルシアンテのギターだけを聴くと、我々が思っていた以上に「超絶上手!」というわけではないんですよね。
Sawada ノリはバッチリなんだけどね。
Fukuda それはフリーも一緒だよね。
Washiyama チャド・スミスなんて単体で聴くと「マジかよ!?」ってドラムだしね。
Dennis そこはずっと前から見抜いてました(笑)。
Washiyama そういう音源がYouTubeに上がるようになったことで、「昔のバンドマンってすごくもてはやされているけど、あんまりうまくないじゃん」みたいなコメントも多いんですけど、それがバンドとして合体するとカッコいいんですよ。
Sawada だから、俺らもそこを目指しているのかもしれないよね。
Washiyama それがバンドっぽいというか。
──結局、そこで生まれるマジックがバンドのカッコよさでもありますし。
Washiyama ですね。本当にいろんな音源を聴いているんですけど、それこそLed Zeppelinとかマジでわけわかんないですし。
Dennis ジミー・ペイジ、よくあんなカッコいい感出せているなって(笑)。だけどそこに感情が乗っていると、カッコいいと感じるんですよね。フルシアンテもそうだけど。
Washiyama それこそが人間っぽいというか、人間味ですから。
──その人間味が込められた「Travel The Galaxy」というアルバム、いろんな人に届いてほしいですね。
Washiyama 俺もそう思います。
Fukuda だからこそ、皆さんにはインスト盤の付いた2枚組のほうを手に取ってほしいです。
Sawada ギリギリ手に取りやすい値段ですので。
Washiyama インスト音源はカバー動画とか作る人には重宝するんじゃないかな。
Dennis そういう動画、我々もチェックしてますからね!
──「Shaky」の完コピとか、ぜひ挑戦してもらいたいですね。
Washiyama 完璧に弾いてる動画を見つけたら、冷や汗かいちゃうな(笑)。
プロフィール
Suspended 4th(サスペンデッドフォース)
Kazuki Washiyama(G, Vo)、Seiya Sawada(G)、Hiromu Fukuda(B)、Dennis Lwabu(Dr)からなるロックバンド。愛知・名古屋の栄エリアでの路上ライブを中心に活動を開始する。2019年2月に路上ライブでフィールドレコーディングを行ったライブ音源「20190121」を発表し、1000枚以上を販売。7月に初の全国流通盤となる1stミニアルバム「GIANTSTAMP」をPIZZA OF DEATH RECORDSからリリースした。2021年4月にFENDERが世界の次世代アーティストを対象にしたサポートプログラム「Fender NEXT」の日本代表に選抜された。2022年4月に約2年9カ月ぶりのフィジカル作品となる1stシングル「KARMA」を発売し、7月20日に1stフルアルバム「TRAVEL THE GALAXY」をリリースした。
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