田口トモロヲとは音楽的な感性で通じるところがある
──「アイデン&ティティ」のときは演技初体験だったわけですよね。映画に出るのも当然初めて。今回は十分キャリアを積んで臨んだということで、余裕はありましたか?
余裕はなかったです。ちょっとあるとしたら、ほかの若い役者たちに比べてトモロヲ映画の出演経験があるっていうぐらい。
──田口監督はそもそもどういう監督なんですか?
まずはやりたいようにやってみてくださいって、役者がやりたいことを優先してくれるんですよ。だからカメラの前で臆せず動けるんですよね。監督も音楽をやってきた人なので、音楽的な感性という部分で、けっこう通じるところがあるのかもしれません。
──音楽的な感性って映画にどうやって生かされるんですか?
さっき話したセッションみたいな感じですね。セリフは同じでも、手の動きとか、自然に出るものを生かしてくれる。セリフはもちろんあるけど、動きまでもが決まっているわけじゃないんです。セリフを言ったときに感情が自然に動いて、それで出てくる動きなら台本に書いてないことでもやっていいよっていう感じですね。セリフに対して自然に出てくるものならリアルなんだから、どんどんやってみてくれって。
──それってすごく自然なことのような気がしますけど、そうじゃない監督もいるんですね。
あらかじめ決まっている演技を淡々とやる現場もありますよ。そういうのもそつなくできれば、胸を張って「自分は俳優です」って言えると思うんですけど、僕はできない。いろんな監督のいろんな要望に全部応えられるのがプロの俳優だと思うから。
演技ではどうにもならない部分が役を自分らしくさせる
──今回の映画に出るにあたって、いわゆる役作りみたいなことはどれだけやったんですか。
アナログカメラを買ったぐらいですかね。フィルムの交換とか操作方法を学びたくて。カメラの素人に思われないぐらいにはなっておこうと家で練習しました。
──地引さんにはクランクインの前にお会いになったんですよね。
撮影に入る3カ月くらい前に地引さんのお宅で初めてお会いしました。僕は以前から地引さんの作品に触れてたんで、自分の中に地引さん像があったんですけど、お会いして、「あ、想像通りだな」と。思っていた通りの人でよかったです。
──先日私も地引さんに取材したんです。「原作には、そこで何が起こったかは書いてあるけど、当事者である誰それがどういう人で、どういう気持ちだったか、みたいなところまでは書いていない。映画でそこを膨らませて描いてくれたんだ」ということをおっしゃってました。峯田さんと若葉さんが演じたのは、そういう部分だったんでしょうか?
宮藤さんが台本を書いたんですけど、僕が読む限り内容が3回変わったんですよ。最初は原作寄りだったんですが、稿を改めるたびにセリフ量が増えて、笑いの要素もちょっと入ってきて、それぞれのキャラクターの人間っぽさが増した気がします。今作の成り立ちって、まずトモロヲさんが原作を映画にするために色付けして、宮藤さんの角度から見えた色をそこに重ねていった。さらに僕たち役者がそれを解釈して演技をする。原作へのリスペクトはもちろんありますけど、そんなふうに変化していったから、自分の使いたい色を選んで、自分の感性で表現をしていくのが正解な気がしたんですよね。
──宮藤さんの脚本に峯田さんは何を加えたんですか?
僕の場合、走り方や笑い方に関する演技ができなくて。特に走り方は骨格の問題で、子供の頃から足が悪くて、ちゃんと走れないんです。そういう演技ではどうにもならない部分も含めて、ユーイチという役が自分らしいものになったなと思います。
──田口さんの映画って主人公がよく走りますよね。今作でも峯田さんは都合4回ぐらい走ってる(笑)。
トモロヲさんに走るのは苦手ですって言ってるんですけど、毎回走らされますね(笑)。とにかく必死で走るしかない。
──でもそれはいいんじゃないですか。走りが得意な人が楽々走ってると、主人公の必死な感じや、不器用だけど誠実に懸命にやってる感じが出ない。
そうですよね。友達の役者が試写会で映画を観て「やっぱ峯田が走ってると峯田の映画になるな」って言ってましたね。自分ではわからないんですけどね。必死で走るだけだから。
──要するに役者にとって大事なのは肉体性、身体性ってことですね。
うん。どうしても自分が出てしまうので、それは演じられない部分だと思います。トモロヲさんは僕のことを本当にわかってるので、演技できない部分が出る、走るシーンや笑うシーンをやっぱり増やしたがるんですよね。
──今回の峯田さんの役は道化回し的な役割なんだけど、そこで峯田さんの肉体の存在感が強調されて、物語がよりエモーショナルに動いていく感じがある。その化学反応みたいなものは、若葉さんとのやりとりで生まれた部分が多いってことですね。
だと思います。僕とまったく違って若葉くんはしなやかだし、動きがカッコいいので、対照的な2人だったからこその空気もあったと思う。まったく違うものがぶつかりあって生まれるエネルギーみたいな。
銀杏BOYZの峯田とモモに共通するところ
──改めて若葉さんはどういう役者ですか?
あんまり会ったことないタイプ。触れたら割れそうな薄いガラスのような感じ。撮影から1年が経ち、取材で顔を合わす頻度が増えましたけど、撮影現場で会うときとはまた違う印象があります。でも取材に応じる若葉くんも撮影中の若葉くんも、繊細だとは思います。いわゆるアーティストタイプですね。
──モモの役に合ってる感じがありますか。
合ってると思います。現場に入って、撮影の用意をしてる段階から、ちょっと違う世界に行ってるような。僕、モモヨさんに会ったことないんですけど、きっとモモヨさんもこんな感じだったんだろうなと思いました。リハーサルに入る前、カメラマンがセッティングとかしてる時点からもう、若葉くんはまとっている空気が違う。
──でもライブ直前の峯田さんもそうなんじゃないのかな。ミュージシャンの人は、特にライブの直前とかガラッと雰囲気が変わりますよ。ピリピリしてきて。
(マネージャーに)ライブの30分前とか1時間前の僕ってどんな感じなんですか?
(マネージャー) 緊張感がありますね。スイッチが入ってるというか。空気が変わる。
へえ。僕は20代の頃は本当に人前に出るのが嫌で、ライブの30分前にトイレにこもって「うわー」って泣いてましたよ。自分の中で強制的にシャッターを降ろして、気持ちを切り替えてからステージに行ってた。でもそれがだんだんしんどくなってきて、できればこういう普段の感じのままステージに行ければいいなと思ってますけど、やっぱりちょっと空気は変わってるんだろうな。
──今回この映画に出て、改めて得られたものはありますか?
役者もスタッフも、トモロヲ映画は生半可な気持ちで出れないみたいな思いがあって、みんなの本気度が現場で伝わってきました。「アイデン&ティティ」が好きでこの業界に入ったスタッフもいっぱいいたし、いいものを作ろうという緊張感があって、ものづくりの現場として幸福な2カ月間でしたね。誰よりもトモロヲさんがまっすぐで、現場に“ちゃんとしよう”、“ちゃんとしなくちゃダメ”みたいな空気が生まれるんです。
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本当は人前には出たくないんですよ



