DTMを初導入した「WINDOW」

──その意味で「WINDOW」はデビュー前からずっと変わらないバンドのエモーショナルな部分と、10年間のメジャー活動で培った経験値が、いいバランスで結実した作品とも言えそうですね。

又吉　だと思います。やってることは20歳から変わらないけれど、レコーディングのスキルは10年分蓄積してきたし。例えば録りたい音色があるときも、わりと最短距離でたどりつけるようになってきた。

柳下　ちなみに「WINDOW」では、スペアザで初めてDTMを導入したんですよ。今頃かって話なんだけど（笑）。それによって曲と向き合える時間は確実に長くなりました。今まではメンバーが顔をつきあわせないとできなかったけれど、録った音源を共有して、各自のパソコンで何回もリピートしイメージを膨らませる作業ができたので。

──それは10年目にして初のトライアルだったんですね。

柳下　はい。もちろんセッションでしか作れない部分が大きいので、そこは絶対なくならないんだけど。その一方で、DTMでギターのソロフレーズを考えたりして……。スタジオに入る前の作り込みも、かなり細かくできるようになりましたね。

宮原　スタジオ代も節約できたしね（笑）。そうやってセッションとDTMのいいとこ取りができるのが、最近の若いバンドに負けないためのポイントなんだよ、きっと。

芹澤　僕たち、音楽で自分たちの人間性を表現することはできると思うんですね。ポップな音楽が好きとか、かわいい女の子にモテたいとか、そういった煩悩も含めて（笑）。でも、その先に進むためには、もっと緻密に作品と向き合う努力がいると思う。それこそDTMを用い、音符1つひとつや波形と向き合うくらいの緻密さで。それが前作より高いレベルでできたのも、今回の「WINDOW」の特長じゃないですかね。

“10年選手のおっさんバンド”

──熱量を感じさせる音楽を作るには、実は緻密さが重要だということですね。ちなみに皆さん、今作のアルバム収録曲で、それぞれお気に入りのナンバーを挙げるとすると？

宮原　そうだなあ……。僕は2曲目の「I'LL BE BACK」。ちょっとゆったりめのテンポが、いかにも“10年選手のおっさんバンド”の雰囲気を醸し出していて（笑）。今のスペアザ感が凝縮された曲だと思います。しかも後半は俺たちが好きな、怒濤の三連符ループだし。

──3つの音符をひたすら繰り返しながら、どんどん高揚していく。スペアザ得意の展開ですね。ライブで聴くと気持ちよさそう。

宮原　「これをやったら過去の模倣と思われるんじゃないか」とか、ほとんど気にしないんですよ。実際やってみてカッコ悪ければ採用しないし。逆にカッコよければ、コード進行も同じでいいと思ってます。このループは俺たちの十八番だと思ってやってるので、ぜひ聴いてほしいっす（笑）。

柳下　これ、MVも必見です。4人でちょっとしたコスプレを試してますので（笑）。で、僕のお気に入りは、6曲目「SPE TRAIN」かな。従来のスペアザにはなかった感覚というか、ストレートアヘッドなロックっぽい感じが気に入ってます。以前アメリカにmoe.というジャムバンドがいて……。

芹澤　今もいるよ。やってる、やってる。

柳下　そうか。僕の中ではあれに近いイメージもあったかな。キラッとした音色で、疾走感があって。30代のオヤジだったら普通恥ずかしくてやらないことを、あえてさわやかに演奏してるのがいいのかなと。

又吉　僕はその次に入っている「Good Luck」。スカっぽいリズムの、シンプルな曲ですが、4人の絡み方が絶妙で。聴いてて本当に飽きません。曲全体でリラックスした雰囲気も出せたし、10年間みんなでやってきて、本当に気持ちいい曲が作れたなと。

──かっちりしたリズムの上で、ギターと鍵盤が自由に会話しているような雰囲気も素敵ですね。“聞き役”と“話し役”が自然に変わっていく感じで。ちなみにこの曲もMVがありますが、メンバー4人がサッカーのユニフォームを着て地元の商店街を練り歩くという（笑）。

又吉　はははは（笑）。あのMV、もともとは作る予定なかったんです。急きょ決まったので、一番サクッと撮れる場所を探して。

芹澤　僕は、8曲目の「Backstreet」。ちょっとヒップホップっぽいニュアンスを出せたのが気に入ってます。曲を作ってた際、自分の中ではイメージがあって……。「ラップグループのトラックメーカーが自分のサイドプロジェクトで出した12inchシングルの2曲目に収録されてるような曲」みたいな感じにしたかった（笑）。

──込み入った設定ですね（笑）。つまりBeastie Boysにおけるマニー・マークのような？

芹澤　もう完全にそれです（笑）。あの雰囲気ってやっぱりおしゃれだよなと。そういう感じでリフを考えて、4人でワッとセッションして。どんどん進化させていった曲。こういう曲、最近のスペアザにはなかった気がするので、アルバムに入れられたのはうれしいですね。