ナタリー PowerPush - 曽我部恵一

簡単には感動させたくない

1人で好き勝手にやるだけ

──こうして話を聞いていて改めて思いますが、このアルバムは現在の音楽シーンではかなり異端に位置する作品ですよね。

曽我部恵一

ハードコアだよね。

──そうですね(笑)。

でもハードコアでいいと思うんだよ、俺ぐらいは。「このおっさんハードコアだな」でいい気がする(笑)。たぶんテクニックを使って人を喜ばせようと思ったら、それはプロだからできるじゃん。でもそれやってちゃダメだなって思って。“俺が俺らしく”いることが、“誰かが誰からしく”いるための力になるんだよ。

──聴いた人が曽我部さんの姿に勇気付けられる?

「君は君らしくいればいいんだ」って俺が歌ったところでその人はよくわかんないでしょ。俺が勝手なことを自分の責任で、1人でやってるってことだけが誰かの「あ、俺も好き勝手やろう」っていう気持ちにつながっていくと思う。それしかないと思う。

──他人に向けて「自分の踊り方で踊れ」って言う人は、その人自身が自分の踊りを踊ってなきゃならない。

だからレコーディングのときよく見に行ったよ。三軒茶屋のFUJIYAMAってレコード屋にでっかい看板があるんだけど、江戸アケミさん(じゃがたら)の言葉(「やっぱ自分の踊り方でおどればいいんだよ」)が書いてあって、それを見て力をもらったりしてた。

曽我部恵一BANDは当分やらない

──このアルバムを聴いていると、曽我部恵一BANDの今後はどうなるんだろう、というのも気になるんですが。

曽我部恵一

ソカバンは当分やらないかな。たぶんね。

──確かに曽我部さんが今向かっている方向とソカバンのスタイルは、ちょっと温度が違いますよね。

うん、今の自分がやりたいことを考えたとき、4人のバンドでやる意味が薄れてきちゃったっていうのはあるよね。時にはパーカッションがほしいし、時にはキーボードとギターだけでもいいし。

──強いメッセージを伝えたり愛や希望を歌うときには、4人編成のロックバンドという装置はすごく効果的だと思うんですが……。

そうだね。バンドの音に乗っけたときに最大の力を持つようなメッセージっていうのはあるよね。ただ「トーキョー・コーリング」とか「満員電車は走る」とか、自分の作る曲がパーソナルなところにどんどん行きはじめて、ツアーでも「もうちょっと静かにやろうよ」とか「もうちょっとゆっくり」とかって注文が俺も増えていって。初期の歌をガーンってやるときとかはなんの問題もないんだけど、最近は「これ果たしてバンドでやってる意味あるのかな」って疑問がどんどんみんなの中で増えてきちゃった。

──なるほど。

あとは1人でもう一回ちゃんとやらなきゃなって気持ちがある。1人でギター持って人前で歌ってみる。その力を確かめたいなっていうのがあって。でもまあまたバンドをやる可能性もあるけどね。別に活動休止とか解散とかじゃないから。

10年かけて好きになるアルバム

──最後に改めて伺いますが、今回のアルバムはコンセプトに沿って試しに1枚作ってみましたということじゃなく、今の曽我部さん自身がこういう場所にたどり着いたという理解でいいんですよね?

曽我部恵一

うん、初めて自分がちゃんと出せたって思うね。「あ、やっと自分のこと言えたな、歌えたな」みたいな。

──聴き手は戸惑いそうですけどね。

戸惑ってほしいんだよね。なんか10年くらいかけてすごく好きになるアルバムってあるでしょ。RCサクセションの「シングルマン」っていうアルバムは名曲がいっぱい入っててもちろん好きなんだけど、今はそれよりも「楽しい夕に」が一番好きで。本当に裸の清志郎がそこにいる感じがするのね。こっち向いてくれない少年みたいなのがそこにいる気がする。それが本当に好き。Nirvanaの「Nevermind」ってアルバムも10年くらいかけて好きになった。最初はよくわかんなかったの。「こいつそっぽ向いててコミュニケーション取れないわ」って感じのアルバムだったんだよ。でもずっと聴いてるうちになんか好きになってて。このアルバムもそういうものなのかも。ひょっとしたら。

──前回のインタビュー(参照:曽我部恵一「曽我部恵一 BEST 2001-2013」「サニーデイ・サービス BEST 1995-2000」インタビュー)のときに「歴史に残るような名曲じゃなくても自分から出てきたものはどんどん出していきたい」みたいなことを言ってましたよね。今回話を聞いてすごく腑に落ちた気がします。

うん、だから次はもう間隔空けずにシングル出そうと思ってて。次は「汚染水」っていうタイトルで、自分でもよくわかんない曲なんだけど、でもできちゃったから出そうかなって。いっぱい出したいですね。

──このアルバムがリスナーにどう受け止められるのか気になりますね。

俺自身、これを出すのはさすがにどうかなと思ってたからね、最初は。

──やっぱり(笑)。

これいいところないなーなんて思いながら作ってたよ(笑)。でも岡本太郎とかも「芸術はいやったらしいもんだ」「みんなが『こんなんでいいの?』って思うものこそがいいもんなんだ」みたいなことを言ってて。そっか、そうだよなと思ってさ。

──「こんなんでいいの?」って思われてもいい?

うん、だから俺もこれについては「自信満々、どうだー」みたいな感じではなくてね、「大丈夫かな、こんなん出しちゃって」みたいな気持ちなわけ。でも自分を削って作ったものだから、自分の身にひりひりくる。それが心地いいんだよね。

曽我部恵一
ニューアルバム「超越的漫画」/ 2013年11月1日発売 / 2500円 / ROSE RECORDS / ROSE-160
収録曲
  1. ひとり
  2. すずめ
  3. リスボン
  4. うみちゃん、でかけようよ
  5. あべさんちへ行こう
  6. もうきみのこと
  7. そかべさんちのカレーライス
  8. 6月の歌
  9. マーシャル
  10. バカばっかり
曽我部恵一(そかべけいいち)

1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。