ナタリー PowerPush - 曽我部恵一
簡単には感動させたくない
曽我部恵一がニューアルバム「超越的漫画」をリリースした。ソロ名義では約2年半ぶりとなるこの作品で、曽我部は自身の思いや日常生活を赤裸々に描き出している。ある種、身も蓋もないほどストレートなこの問題作はどのようにして作られたのか。じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 佐藤類
脚色せずに自分を出せた
──これはちょっとした問題作ですよね。「なにげない日常を歌にしました」みたいなことを言う人はよくいるけど、ここまでやってる作品は初めてです。
リアルでしょ(笑)。
──すごくリアルに「自分自身をそのまま出した」という印象を受けました。
うん、まさにそんな感じだと思う。自分を出せた。なんでもない日常を歌おうとしてもさ、まあ普通は脚色しちゃうじゃない。で、脚色の果てに最初のものとは関係ないものになってたりとか。そういうことをせずに出せたなって。
──だからある意味“歌っぽく”なくて日記に近い。
うん、最初はまさに日記みたいな感じで曲を作って録りためていこうかなってところから始まったの。人に聴かせるとかレコードにして売るとか、そういう前提で歌を作るのがちょっと面倒くさくなってきて。だからスタッフにも聴かせないし、身内にも聴かせないし、ただ自分の記録として歌を作って録ってた。
──それはいつから?
今年の始めくらいから。それが発展してこのアルバムになった。曲をずっと録りためてるうちに、こういうものこそ出すべきなんじゃないかって思うようになって。
自分がカレーライスを作ってる風景を歌う
──そもそも誰にも聴かせない前提で歌を作っていたというのが面白いですよね。仕事で音楽を作ってるプロのアーティストなのに。
実はその前段階っていうのがあって、最初はほんとの日記を書いてたんだよね。ブログとかTwitterとかやめて、自分の思ったことを素直に書きとめる練習をしようと思って。
──それはノートに?
そうそう。そのへんで売ってる100均みたいなノートにペンで書く。誰にも見せない日記。そしたらそれが、なんかいいんだよ。内面が出てるっていうか、素直っていうか。で、その延長線上で、自分が作る音もこういうもんであってほしいなってすごく思った。そこからかな。
──日記を書くような気持ちで曲を作り始めた。
うん、そしたらどんどん歌ができて。例えばカレーライスの歌とか。
──この「そかべさんちのカレーライス」という歌は、曽我部さんが夜中に台所でカレーを作ってるっていうだけの話ですよね。
うん(笑)。だからこれが外向きのコミュニケーションとして成立してるのかどうかは俺もわかんない。自分がカレーライスを作ってる風景を歌うっていう、そういうのは悪くない気がするんだけどね、俺は。
──確かにこのアルバムは、世間とのコミュニケーションを求めてないですよね。歌うことで誰かに何かを伝えようとか、そういうものではない。
そうだね。「自分のことを歌うんだ」っていうそれだけ。世界に何かを伝えたいとか、わかってほしいとか、そういうことじゃない。それよりも自分のことを自分の言葉で自分の声で歌うのが一番カッコいいっていう気持ちがある。うん。時代とかそういうの関係なく。
収録曲
- ひとり
- すずめ
- リスボン
- うみちゃん、でかけようよ
- あべさんちへ行こう
- もうきみのこと
- そかべさんちのカレーライス
- 6月の歌
- マーシャル
- バカばっかり
曽我部恵一(そかべけいいち)
1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。