サニーデイ・サービス単独公演WOWOW放送記念|曽我部恵一が語る自身のバンド観、スカート澤部渡とのインタビューも

サニーデイ・サービスが3月4日に東京のチームスマイル・豊洲PITで開催したワンマンライブ「サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている presented by WOWOW MUSIC // POOL」の模様が、3月27日(日)15:30よりWOWOWライブとWOWOWオンデマンドで放送および配信される。

「春の風が吹いている」は、WOWOWによる音楽コミュニティ「WOWOW MUSIC // POOL」とのコラボレーションで開催されたイベント。この公演でサニーデイは新旧の楽曲23曲を披露し、バンドの歴史を凝縮したような濃密なライブを繰り広げた(参照:サニーデイ・サービスが初期の定番曲から最新ナンバーまで23曲を奏でた春の夜)。この公演の放送に向けて、音楽ナタリーはサニーデイ・サービスのフロントマンである曽我部恵一(Vo, G)にインタビュー。ライブにまつわる話はもちろん、コロナ禍以降の音楽活動や、曽我部が持つバンド観について語ってもらった。

またWOWOW MUSIC // POOLのYouTubeチャンネルでは、曽我部と澤部渡(スカート)がサニーデイの歴史を振り返る全4回の番組「WOWOW MUSIC // POOL VIDEO」の#1、#2を公開中。本特集の後半では、収録を終えたばかりの2人へのインタビューを掲載する。

取材・文 / 石井佑来撮影 / 前田立

曽我部恵一インタビュー

すべてを歌にするのが自分の存在意義

──曽我部さんはコロナ禍になってからもコンスタントに楽曲をリリースされている印象がありますが、楽曲制作に対するモチベーションは変わらないですか?

コロナ禍になってから最初の頃は、さすがにモチベーションは落ちましたね。2020年の春にカレー屋さん(東京・下北沢「カレーの店・八月」)を始めたんですけど、当初はただただカレー屋の仕事が忙しくて(笑)。もともとアルバイトさんにやってもらう予定だったことを全部僕ら社員でやっていたら、朝からカレーを作って、帰ったら寝るだけという生活になっちゃったんですよ。その頃はもう「曲作りって何?」という感じで(笑)。その時期が、一番モチベーションが下がってたかな。

──その後創作に対する意欲が持ち直したのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

持ち直したのも曲ができたからですね。2020年5月に「Sometime In Tokyo City」という15分くらいある曲をリリースしたんですけど、その曲ができたことで「音楽は自分を救ってくれるんだな」と改めて思えたんです。やっぱり自分を助けてくれるのは音楽だけなんだって。それからまた自分の気持ちが音楽に向き直した感覚はありました。

──曽我部さんは、常に自分の身の回りで起きたことを音楽としてアウトプットし続けているのがすごいなと思います。

だってそれしかできないですから。ほかに何を歌えばいいのかわからないんですよ(笑)。そのときの自分のことを歌うのが、自分にとっての音楽だから。それはたぶんジョン・レノンにとってもニール・ヤングにとってもそうだっただろうし。ほかに歌えることがないから、今の自分を歌うことしかできないんです。

──つい先日、ロシアがウクライナへの侵攻を始めた翌日に、ウクライナについて歌った楽曲をリリースされたのも印象的でした(参照:曽我部恵一、ウクライナについて歌った新曲「Beginners」を発表)。

最初は僕もこんな曲を作るつもりはなかったんです。戦争が始まったというニュースを見たときに、みんなと同じように「大変なことになったな」という気持ちと怒りと悲しみと......いろんな感情が渦巻いて。最初は「こんなの歌にもならないわ」と思っていました。でも「ウクライナってどれくらいの時間で行けるんだろう」とふと思って、Googleマップで調べたんですよ。そうしたら「徒歩で88日」と出てきて。徒歩で言うなよって思ったりもしたんだけど(笑)。でも「そうか88日歩いたら着いちゃうのか」と思って。自転車だったら50日とかかもしれないし、飛行機だったらもっと早い。ということを考えたときに、これは別の世界で起きていることではなくて、実際に自分たちが行ける場所で起きていることなんだって、初めて実感したんです。だったらその感覚を歌として残しておくことは大切なんじゃないかと思って。「戦争反対!」なんていうのは当たり前の話で、そうではなくて「戦争が起きているという事実に自分がどう向き合っているのか」を歌にしたかった。ウクライナとの距離感は人によってバラバラだと思うけど、自分にとっては“徒歩で88日”というのがリアリティだったので、そこから曲を作ってみようと思ったんです。

──これまでも「ギター」や「戦争反対音頭」、曽我部恵一BANDでリリースした「永い夜」など、戦争について歌った曲がいくつかありました。

そのあたりの曲もそうなんだけど、僕は「自分が思ったことはすべて歌う」という姿勢をずっと持っていたいと思っていて。「こういうことが起きて、自分はこう感じたけれど、歌になりそうにないからスルーしよう」というやり方が正しいのか、今回改めて自問自答したんです。歌になりそうなことは歌って、歌にならなさそうなことは歌わない、そういうやり方が果たして正しいのだろうかって。そもそも歌にならないことなんて本当は何ひとつないはずなんですよ。であれば、このこともちゃんと歌にしないとダメだなと。つまらないことも面白いことも、大事なことも些細なことも、なんでも歌にすることができる。それが自分の仕事であり存在意義であるはずだから。「スーパーに買い物に行ったらおかずが安くてうれしい」とか、そういうことだって歌になるし、それで全然いいわけですよ。

──戦争について歌うことと、スーパーでの買い物について歌うことは、曽我部さんの中ではあくまで同じラインにあるんですね。

そうそう。まったく同じです。歌を作る人や文章を書く人の大半が、何をテーマにするべきかプライオリティを付けるじゃないですか。「こういうことは重要で、こういうことは些末で」って。でも本当は優先順位なんて存在しない。全部が自分にとって大事なんです。そういうふうに、優劣を付けずにすべてを歌にしようと思って作ったのが「Beginners」ですね。

曽我部恵一

曽我部恵一

コロナ禍におけるライブの変化

──世の中がコロナ禍になって以降、ライブというものの在り方にも変化は感じていますか?

僕らはどんな状況でも思い切りやるだけなので、正直そこまで変わらないんですけど、お客さんの見方などは変わらざるを得ないですよね。豊洲PIT公演も皆さん座ったままで、声も出さないというのを守ってくれて。僕は座って観るのが好きだからそういう形もありだと思うんですけど、声を出して一体感を感じるのが好きな人もたくさんいると思うので、そういう楽しみ方が抑えられてしまうのは心苦しいです。

──豊洲PIT公演は、着席かつ声を出せないという状況でしたが、お客さんの熱気や興奮はありありと伝わってきました。

もちろん声を出して騒いでも、ひと言もしゃべらなくても、音楽の伝わり方自体は変わらないですからね。僕らのライブはどちらかというと「みんなで騒ごう」というタイプではないし、ほかのバンドと比べたらそこまで大きな変化はないのかもしれないです。

曽我部恵一

曽我部恵一

──以前インタビューで「ライブができない状況で曲を作ることに虚しさを感じる」というようなことをおっしゃっていましたが、ライブができないのはやはり曲作りにも大きく影響しますか?

ライブができない状況で曲を作っても聴かせる相手がいないですからね。もちろんインターネットで発表することはできるけど、目の前で聴かせることが自分にとってはすごく大切で。「それができないなら曲を作る意味なんてないんじゃないか」と思っている期間はありました。

──2020年にはサニーデイもツアーの延期などがありましたしね。

うん、でもそれはしょうがないよね。自分たちだけじゃなくてみんなそうだし。でもみんななんだかんだ持ちこたえることができて、よかったですよ。今は形を変えつつもライブをできるようになったので、もうひたすら楽しもうと思っています。

今年のライブはこの1本だけかもしれない

──そんな中行われた豊洲PIT公演ですが、ライブを終えた率直な感想はいかがでしたか?

とにかく来てくださった人たちに「ありがとう」という気持ちでいっぱいです。正直、今は人が集まるところにあまり行きたくないと思うんですけど、ああやってたくさんの人が集まってくれて。もちろん行かないという選択をした人もいて、それはそれで正しいと思いますし。だから僕らはもう思いっきりやるしかなかったです。今のところツアーをやる予定もないし、次いつライブができるか全然わからないので「今年のライブはこの1本だけかもしれない」という気持ちで臨みました。お客さんに「もうサニーデイのライブは当分観なくていいか」と思ってもらおうと(笑)。そのためには出し惜しみをせずに、できることを思いっきりやるしかないなって。

「サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている presented by WOWOW MUSIC // POOL」の様子。(撮影:石垣星児)

「サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている presented by WOWOW MUSIC // POOL」の様子。(撮影:石垣星児)

「サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている presented by WOWOW MUSIC // POOL」の様子。(撮影:石垣星児)

「サニーデイ・サービス コンサート 2022・春の風が吹いている presented by WOWOW MUSIC // POOL」の様子。(撮影:石垣星児)

──MCで「今日はやりたい曲を全部やりきりました」とおっしゃっていましたが、そういう思いから来ていたものだったんですね。

そうですね。セットリストはわりと感覚で選んでるんですけど、古い曲も新しい曲もまんべんなくやろうというのはいつも意識していて。僕らがデビューしたときからずっと聴いてくれているお客さんもいれば、僕らの子供ぐらいの年齢の人もいるので、古い曲も新しい曲もどっちもやって、「サニーデイ・サービスというバンドはずっと変わらずにいい曲をやっているんだ」と思ってもらいたいんです。中には僕らがデビューした頃には生まれていなかったような人もいて、そういう人たちの前で「御機嫌いかが?」をやったりするわけでしょう? 変な気分ですよ(笑)。でもステージでやると当時の気持ちに戻るんですよね、不思議なもので。

──初期のナンバーをライブでやるときは、どの曲もそういった感覚になるんですか?

そういう曲を選んでいるというのはあるかもしれない。飽きちゃったり慣れちゃったりしている曲は、自然とセットリストに入ってこなくなるというか。やっぱり、いつでも新鮮に歌える曲をライブでやりたくて、無意識のうちにそういうセットリストにしているんだと思います。