ナタリー PowerPush - 曽我部恵一
パンクが教えてくれたこと
曽我部恵一とサニーデイ・サービスのベストアルバムがそれぞれ6月26日にリリースされる。これらのアルバムは代表曲はもちろん、リミックスやライブ音源などのレアトラックも多数収録したファン垂涎の作品。ナタリーではこのタイミングで曽我部恵一に初のロングインタビューを行い、じっくりと話を聞いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 佐藤類
サニーデイはきれいに完結した物語
──サニーデイ・サービスがインディーズで最初のCDを出してからちょうど20年なんですよね。
うん、まあね。なんだかんだで。
──20年経った感慨みたいなものはありますか?
いや、そんなのないよ。昔は歳とったロックの人って珍しかったけど、今は高齢化だから俺らより上もいっぱいいるし、「20年? まだまだだね」って感じなんじゃない? そもそも10年とか20年とか区切ってないからさ。なんかまあ日々やってきて「今ここです」みたいな感じで。
──今回のベストアルバムはどういうきっかけでリリースすることになったんですか?
最初はMIDI(サニーデイ・サービスの当時の所属レーベル)から「ベストを出さないか?」っていう話があったの。まあ前に出したのもう10何年前だし、そのときは解散直後で内容にもほとんどタッチしてなくて。だからこの機会に自分でちゃんとベストっていうものを考えてみようかなって思って作り始めたんだよね。
──今回は貴重な音源もたくさん収められていますね。
デビューライブとか解散ライブの音源は解散してから「あ、こんなのあるんだ」みたいな感じで存在を知って、じゃあそういうのも入れようかなって。
──再結成後のサニーデイの曲を入れなかったのはなぜですか?
今のサニーデイはまだ、再結成してから何を成したっていうことがまったくないんで。ここからもっとやっていって何かになったらそのときに考えるかもしれないけど。2000年までのサニーデイっていうのはきれいに完結した1つの物語としてあるからね。
ずっと無心のままだった
──今の曽我部さんは当時のサニーデイ・サービスを見てどう思います?
うーん、悔しい。
──悔しいというのは?
今の自分があんなに無心に音を鳴らせてるかって考えるとね。甘いところは多いし、粗探しはいくらでもできるの。でもとにかく無心で、それは今の自分にないところで。さすが若さだなっていう感じはある。しかも俺の場合、無心がわりと何年も続いててラッキーだった(笑)。バンドってやっぱり初期衝動が冷めたときに次の人生が始まるわけで、でもサニーデイはずっと無心のままだったからね。キラキラしてたと思う。
──そう思います。
キラキラしてるからこそ、逆に退廃的な歌を歌ったりもするしね。サニーデイは今になってみるとスノードームの中みたいだったなって思う。きれいなおとぎ話の世界っていうかね。あまりにも世間知らずで純粋で、神聖な感じすらする。本当に鳴らしたいその音のほうしか見ていない。たぶんそれがあのバンドの魅力だったんだろうなって思うよね。
──そして純粋だからこそ憤っていたし、解散するしかなかった?
うん、そうだね。
──ソロになってからは視野が広がったんですかね。
平たく言うとそういうことだよね。やっぱり1人の人間としての生活がある。子育てしたり会社やったり、税金収めたりとか。
──だからこそソロの1作目が生活の中から出てきた「ギター」という曲だったわけですよね。
うん。サニーデイでは絶対書けなかった、ありえない世界。サニーデイのときは脚本家みたいな感じで、3人が暮らす世界を舞台にした物語でよかったのかもしれないけど、ソロになったら自分のことを歌うしかないんだよね。おっさんが1人で“ここじゃないどこか”のこととか歌っても仕方ないから。だったら自分がその日感じたことをそのままドキュメントにしていこうって。それは当時すごく強く思ってた。
自分のやり方をバラしてゼロに戻したい
──今回はソロとして初めてのベストアルバムも出るわけですが。
ソロはこのタイミングで1回整理してまとめておきたくて。アナログでしか出てなかったり、YouTubeにしかなかったりっていうものをCDにしておくのもアリかなと。あとは区切りじゃないけど、ソロになってずっとやってきて、自分の歌い方、音楽のやり方みたいなものがわりと定まってきた感じがあるから、それを一度バラしてゼロに戻したいっていうのもあったかな。
──定まってきたというのは?
なんかさ、歌とかもうまくなっちゃって。なんかこうイベントとか出るとさ、例えばこないだの清志郎さんのイベントとかね。「いやー曽我部さんよかったですよ」みたいな、そういう感じになるんだよね。
──いいことじゃないですか(笑)。
でもなんかそういうのも、ちょっと中堅っていうか大御所っていうか、そんな領域に足を突っ込んでるんじゃないかって気がして。このままいったらつまんねえなって思ったりして。そうじゃなくて、もっといつも1stアルバムみたいなのを作りたいんだよね。そのためにはじゃあどうすればいいんだろうって、それでベスト出して1回整理してみて、また新鮮な自分になりたいなって思ったの。
──これまでの作品に不満があってというわけではないんですよね。
うん、去年は「曽我部恵一BAND」と「トーキョー・コーリング」っていう2枚のアルバムを出したんだけど、それとかは自分的にはわりとがんばったと思う。でもなんかそこで自分が培ってきたものを使ってできるところはもうやりきったなって気持ちもあって、「じゃあ次だな」みたいな感じ。バンドだったら解散とか次の形を考えようとかいろいろあるんだと思うんだけど、1人だからね。外から見てもあんまりわかんないと思うけど、自分としては大きな区切りのつもり。
- 曽我部恵一 ベストアルバム「曽我部恵一 BEST 2001-2013」 / 2013年6月26日発売 / 3000円 / ROSE Records / ROSE 155
- 曽我部恵一 ベストアルバム「曽我部恵一 BEST 2001-2013」
DISC 1
- ギター
- 瞬間と永遠
- 恋人たちのロック
- おとなになんかならないで
- 女たち
- キラキラ!
- 抱きしめられたい
- 浜辺
- シモーヌ
- 満員電車は走る
- 魔法のバスに乗って
- 東京 2006 冬
- 春の嵐
- LOVE-SICK
- おかえり
DISC 2
- サマー・シンフォニー Ver.2 feat. PSG
- テレフォン・ラブ Single version
- ほし TRAKS BOYS remix
- ロックンロール TOFUBEATS remix
- 世界のニュース -light of the world!!-
- カフェインの女王(TSUCHIE feat. 曽我部恵一)
- イパネマの娘
- ぼくたちの夏休み
- スウィング時代 DJ YOGURT & KOYAS remix
- White Tipi SUGIURUMN house mission mix
- クリスマスにほしいもの
- トーキョー・コーリング Studio live version
- STARS
- ジムノペディ
- サマー・シンフォニー
- サニーデイ・サービス ベストアルバム「サニーデイ・サービス BEST 1995-2000」/ 2013年6月26日発売 / 3500円 / MIDI / MDCL-1538~39
- サニーデイ・サービス ベストアルバム「サニーデイ・サービス BEST 1995-2000」
DISC 1
- 恋におちたら
- 雨の土曜日
- 恋はいつも
- スロウライダー
- あじさい
- 青春狂走曲
- いつもだれかに
- シルバー・スター
- baby blue
- さよなら!街の恋人たち
- サマー・ソルジャー
- 白い恋人
- 夜のメロディ
- NOW
- 若者たち
DISC 2
- サマー・ソルジャー(2000.12.14 @新宿リキッドルーム 解散ライブ)
- 花咲くころ
- 恋人の部屋
- あの花と太陽と
- 魔法(Carnival mix)
- 真昼のできごと(Unreleased version)
- 96粒の涙(Alt. version)
- 何処へ?
- Somebody's watching you
- ここで逢いましょう
- 成長するってこと
- からっぽの朝のブルース
- 土曜日と日曜日
- 恋におちたら(AG version)
- いつもだれかに(1996.4.24 @渋谷クラブクアトロ 公式デビューライブ)
曽我部恵一(そかべけいいち)
1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在は曽我部恵一BAND、および再結成したサニーデイ・サービスのメンバーとしても活動しており、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。
サニーデイ・サービス
曽我部恵一(Vo, G)、田中貴(B)、丸山晴茂(Dr)からなるロックバンド。1994年にミニアルバム「星空のドライブep」でデビューし、1995年には1stアルバム「若者たち」をリリース。フォーキーなロックサウンドと文学的な世界観が音楽ファンの間で好評を博す。その後も「東京」「愛と笑いの夜」「サニーデイ・サービス」「24時」「MUGEN」など名作を連発。2000年のシングル「魔法」ではSUGIURUMNを共同プロデューサーに迎えるなど新たな挑戦にも積極的だったが、同年12月に解散。その後メンバーはそれぞれの道を歩んでいたが、2008年8月に「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2008 in EZO」で再結成を果たす。2010年4月には、9年ぶりのオリジナルアルバム「本日は晴天なり」をリリースし、多くのリスナーを喜ばせた。