渋谷すばる「Lov U」インタビュー|ファンに向けた愛、自らに向けられた愛 12曲が表す「まったく新しい今の渋谷すばる」 (2/2)

「渚と台風」が伝える熱いストーリー

──ほかにも、今作は渋谷さんとご縁のあるフジイケンジさんの提供曲「渚と台風」も収録されていますね。

これも偶然の再会と言いますか。ファンの方に対しても、本当に熱いストーリーが伝えられるなと感じましたね。「渚と台風」はグループに提供していただいた「BOY」(2010年リリースのアルバム「8UPPERS」収録曲)と同時期に作っていた曲と聞いて、すごく熱い気持ちになったし、実際に曲を聴かせてもらったときに、もう最高やなって。そのストーリーも含めて伝えられたら、絶対に感動する曲になると思いました。

──フジイさんは「僕の中でこの楽曲はBOYが『飛車』なら渚は『角』のような、ある種、同じ盤の上で対になった曲」とコメントされていますけど、それについてどう思われます?

んー……それについてはわからないです!

──ハハハハ!

僕が作ったわけじゃないから「そうなんだ!」とは思いましたね(笑)。そもそも将棋のルールもいまいちわからないので。

渋谷すばる

──僕が思ったのは「BOY」も「渚と台風」も主人公が悶々としていて、自分を変えたいけど何をしていいのかわからずにいる。そんなフラストレーションの中で、心の叫びを訴えているところが共通しているのかなって。

確かに! どっちの曲にもそれはありますよね。あー、なるほどな! 表現方法が違うというか、そういう意味での対になった曲というのはあるかもしれない。それが同時期に存在していたとしたら、あのときの僕らに「渚と台風」は違ったと思うから、それは納得できますね。わあ、その解釈は面白いですね。

──渋谷さんは悶々としていた時期ってありました?

全然ありましたよ。むしろ、ずっとそうだったかな。若い頃は特に多かった気がしますね。

──それは私生活で? それともお仕事で感じていました?

どっちもあって。すべてに対して悶々としていたし、そういうのって誰もがずっと抱え続けているものじゃないですか。そんな気がしてますけどね。

──前に、ザ・クロマニヨンズの甲本ヒロトさんが若者に向けてメッセージを求められたときに、素晴らしいことを言っていたんですよ。「いろいろ不安だろ? イライラするしな。それな、大人になっても不安だし、50(歳)になってもイライラするから、そのまんまでいいんじゃないですか。物事解決するよりもイライラしたまんまさ、ロックを聴けばいいじゃん」って。

ホントにそうですよ。40歳を超えたら、大人でもっと穏やかになると思ってましたもん。実際はなんにも変わらないからね。めちゃめちゃイライラするし(笑)。確かにその通りですよね。そういうマイナスの感情も大事やと思うしね。

──その悶々とした気持ちとうまく付き合っていくしかないですよね。

そうそう。若い頃はコントロールの方法もわからないから、それがバーッて爆発しちゃう人もいるけど、大人になるにつれていろんな技を覚えていくじゃないですか。でも、根本は変わらないと思いますよ。

まったく歌詞が書けなくなった数年間

──アルバムのラストを飾るのは、渋谷さんの自作曲「First Song」です。渋谷さん自身の心情を吐き出すようなソロ初期の楽曲の印象とは違って、とても開けた曲のように聞こえました。どのようにして楽曲を書かれたのでしょう?

アルバムに向けて自分でも何曲かデモを作っていまして、その中で1曲目に作ったから「First Song」と仮でタイトルを付けていたんです。実は3枚目のアルバムを出して以降の数年間は、まったく歌詞が書けなくなったんです。というか音楽を作る次元じゃなくなった。「独立してやっていくってこんな感じなんかな」と思って、すべてを受け入れていたらどんどん自分が壊れていってしまって。

──それがトイズファクトリーの方と話していたときに流した涙とつながるんですね。

うん、そういうことですね。

──そんな大変な中で、どうやって歌詞を書き上げたんですか?

「First Song」の歌詞を考えている頃は、レコーディングも何曲か進んでいて。「自分以外の人が見た渋谷すばるを曲にしたらこういう感じ」というデモがどんどん上がってきていた。それが自分としては衝撃で。「こういうふうに見えているんだ」「こんな感じでいいのか」とすごく勉強になったんです。そんなところから「あ、歌詞が書けるかも」と思って形にしたので、ファンの方に向けているのは大前提として、自然と外に向いている歌詞になったと思います。

渋谷すばる

──歌詞でお聞きしたいことがあって。「『好きだけど好きじゃない』を抱きしめる自信がなかった」というフレーズは、いつ頃のことを歌われているんですか?

そこが気になりました?

──気になりました。

今回のインタビューでライターの方全員に言われるんですよ。

──やっぱり! 強く印象に残るフレーズですから。

ハハハハ、やった! それは……「好きだけどなんか違うんだよな」と思われていることに自分で気付いてはいるけど、それに寄り添うことができなかったときがあって。

──グループを抜けてソロとして音楽を始めたことで「渋谷さんは好きだけど……」という意見が出てきたことですか?

そうですね。グループ時代から応援してくれて、ソロになってもついてきてくれているファンの方はいるんですけど、僕はバンドに憧れがあったからこういうシンプルでストレートな音楽になって。そしたら「渋谷すばるは好きなんだけどな」みたいな声が出てきた。でも、自分はこのスタイルじゃないと前に進めなかった。そこから今はいろんなことを経て、新しい出会いもあって。そんな状況で書いたのでとてもリアルな歌詞になりました。

“エンタテインメント”が自分の人生

──改めて、今作はどんなアルバムになりましたか?

まったく新しい、今の渋谷すばるの作品ができたと思います。これまでのいろんな出来事を経て、こうして出会えた人たちと作れた1枚。昨日今日だけでは絶対にできなかったことだし、経験と時間があったからやれたこと。ただ、どんなにありがたい出会いやきっかけがあったとしても、自分自身がそれをやろうとか、「いいなあ」と思えなかったり、表現できなかったりしたらリスナーには伝わらないので。独立してからもいろんなことがありましたが、すべてのことに意味があったと思うので、逃げずにやってきてよかったなと思いますね。

渋谷すばる

──次作のビジョンは見えましたか?

はい。今回はトイズファクトリーさんから出すきっかけの1枚目であり、ファンの方に楽しんでいただくことを前提に「Lov U」を作れた。今作を通してスタッフさんや周りの人たちの間で「これを歌えるんだったら、次はこんなのも」という話し合いがどんどん進んでいるので、もっといろんな曲を歌っていくと思います。やってこなかったタイプの楽曲もまだまだあるはずですし、また新しい出会いがあれば、ほかの方とも一緒に制作していくかもしれないですね。

──さらに表現の幅を広げていくわけですね。

はい。今は、自分に変なこだわりとか縛りがないんですよね。そもそも音楽だけにこだわってるわけでもないですし。僕は音楽を含め、子供の頃から“エンタテインメント”の中で生きてきて、それが自分の人生だと思ってる。その世界で残りの人生、どれだけの人に楽しんでもらえるかなという心境ですね。

──渋谷さんが出演されたAmazonオリジナルドラマ「龍が如く ~Beyond the Game~」も10月25日からPrime Videoで配信されますしね。音楽だけにとどまらず、俳優業も視野に入れていると。

もちろんです。なんでもやりたいですね。

──それを聞けてうれしいです。個人的な話ですけど、僕が初めて渋谷さんを知ったのは「あぶない放課後」(1999年にテレビ朝日系列で放送されたドラマ)だったんですよ。「なんて魅力的な人なんだろう」と思って、第1話の初登場シーンもいまだに覚えていて。

ハハハハ! めっちゃ懐かしい。すごいっすね。あのとき僕が17歳とかなので、25年以上前ですよ。

──あと「Lov U」をお聴きしたときに、僕の中で「味園ユニバース」(2015年に公開された渋谷の主演映画)が思い浮かんだんですよ。今回の提供曲しかり、映画で流れる劇中の歌唱シーンしかり、どちらも楽曲をどう解釈して表現をするかが肝だったと思って。

なるほどね。それこそ「龍が如く」の監督も「味園ユニバース」を観てくださっていて。それ以外にも映画のことを言ってくださる方がめっちゃ多いんですよ。「映画を観て、ずっと一緒にお仕事したいと思っていたんです」と言ってくださる映像監督の方もいらっしゃれば、ライブハウスのオーナーさんから言ってもらえることも多くて。もう10年近く前だけど、自分の中ではいろんなきっかけになった作品ですね。「お芝居って楽しいな」という気持ちもそうやし、映画の楽しさとか人と何かを作る楽しさもすごく感じましたね。今年の7月に味園ユニバースでライブをしたんですけど、それも自分の中では大きいものでしたね。

──改めて、ソロ活動5周年を迎えましたが、振り返るとこの5年間はどんな時間でしたか?

いろいろありましたね。学びが多かったです。音楽的なところもそうだし、それ以外の人間的な部分もそう。普通の人が経験することを経験しないまま、ここまできてしまった部分がいくつかあったので、そういうのを経験する時間だったのかなという気がしますね。1stアルバムのときはプレッシャーを感じながらもめっちゃがんばったなとは思うけど、そこからいろんなことがあって、今は何にもないです。楽しくやりたいだけ、ですね。

渋谷すばる

ライブ情報

渋谷すばる LIVE TOUR 2024「Lov U」

  • 2024年11月3日(日・祝)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
  • 2024年11月24日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2024年12月15日(日)上海 SHANGHAI RED ROCK CENTER
  • 2024年12月24日(火)埼玉県 三郷市文化会館
  • 2024年12月25日(水)埼玉県 三郷市文化会館

プロフィール

渋谷すばる(シブタニスバル)

1981年生まれ、大阪府出身。2019年よりソロアーティストとしての活動を開始し、同年10月に1stアルバム「二歳」をリリースした。これまで3枚のアルバムを発表し、全国ツアーをはじめとしたライブも精力的に開催。2022年には「SUMER SONIC」、2023年には「JOIN ALIVE」といった夏フェスにも出演した。2024年8月21日に「人間讃歌」、9月18日に「君らしくね」と新曲2曲を先行配信し、10月16日にアルバム「Lov U」をリリース。11月からは新作を携えてライブツアーを開催する。